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令和元年・2019|問33|民法

甲建物(以下「甲」という。)を所有するAが不在の間に台風が襲来し、甲の窓ガラスが破損したため、隣りに住むBがこれを取り換えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. BがAから甲の管理を頼まれていた場合であっても、A・B間において特約がない限り、Bは、Aに対して報酬を請求することができない。
  2. BがAから甲の管理を頼まれていなかった場合であっても、Bは、Aに対して窓ガラスを取り換えるために支出した費用を請求することができる。
  3. BがAから甲の管理を頼まれていなかった場合であっても、Bが自己の名において窓ガラスの取換えを業者Cに発注したときは、Bは、Aに対して自己に代わって代金をCに支払うことを請求することができる。
  4. BがAから甲の管理を頼まれていなかった場合においては、BがAの名において窓ガラスの取換えを業者Dに発注したとしても、Aの追認がない限り、Dは、Aに対してその請負契約に基づいて代金の支払を請求することはできない。
  5. BがAから甲の管理を頼まれていた場合であっても、A・B間において特約がなければ、窓ガラスを取り換えるに当たって、Bは、Aに対して事前にその費用の支払を請求することはできない。

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【答え】:5
【解説】

1.BがAから甲の管理を頼まれていた場合であっても、A・B間において特約がない限り、Bは、Aに対して報酬を請求することができない。

1・・・正しい

前提知識

本問は「委任契約」の内容であり。「事務管理」の問題ではありません。

「委任契約」は、頼まれて、ある事務を行うことをいいます。

「事務管理」は、頼まれてないのに他人のためにするある事務を行うことをいいます。

本問

本問は、「管理を頼まれていた」と書いてあるので、「準委任契約(詳細は、選択肢5参照)」の内容です。

委任契約において、受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができません(民法648)。

そして、委任の規定は、法律行為でない事務の委託について準用します(民法656条:準委任)。

本肢の「BがAから甲の管理を頼まれていた場合」とは「法律行為でない事務の委託(準委任)」に当たります。

よって、A・B間において特約がない限り、Bは、Aに対して報酬を請求することができないので、正しいです。

【法律行為とは?】
法律行為とは、権利や義務という効果を発生させる行為を言います。
例えば、土地の売買契約を締結したら、「売主は、土地を引渡す義務・代金をもらう権利」が発生し、「買主は、代金を引渡す義務・土地をもらう権利」が発生します。
【法律行為ではない行為とは?】
法律行為ではない行為は、権利や義務という効果を発生させない行為を言います。
例えば、デートの約束をしたとしても、デートに行く義務は発生しません。
もし、約束の日に、相手が来なかったとしても、再度デートをするよう強制することは出来ませんし、裁判所に訴える事も出来ません。
2.BがAから甲の管理を頼まれていなかった場合であっても、Bは、Aに対して窓ガラスを取り換えるために支出した費用を請求することができる。

2・・・正しい

本肢の場合、「管理を頼まれてない」ので、「事務管理」のルールが適用されます(民法697条)。

そして、事務管理において、管理者Bが本人Aのために有益な債務を負担した場合、
本人Aに対して、支出した費用を請求できます(民法702条

よって、本肢は正しいです。

【費用の償還に伴う利息請求権】

「委任契約」の場合、受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用だけでなく利息も請求することができます。
一方、「事務管理」の場合、有益な費用(有益費・必要費)のみ償還請求でき、利息は請求できません。

3.BがAから甲の管理を頼まれていなかった場合であっても、Bが自己の名において窓ガラスの取換えを業者Cに発注したときは、Bは、Aに対して自己に代わって代金をCに支払うことを請求することができる。

3・・・正しい

本肢の場合、「管理を頼まれてない」ので、「事務管理」のルールが適用されます(民法697条)。

そして、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合、管理者Bは、本人Aに対し、自己(管理者B)に代わって、Cに弁済をすることを請求することができます(民法702条2項、650条2項)。

よって、本肢は正しいです。

【具体例】

隣家の人Aが1ヶ月海外旅行に行っている間に台風が来て、隣家の屋根が飛ばされたとします。
天気予報では大雨が長期間続くことから、あなたBはAから頼まれていないが、工務店Cに屋根の修理を頼みました。
(あなたBを「(事務)管理者」で、Aを「本人」と呼ぶ)この場合、管理者Bは、本人Aのために有益な債務(屋根の修理費用)を負担しています。そして、管理者Bは、本人Aに対し、「自己(管理者B)に代わって、工務店Cに修理費用を支払ってください!」と請求することができます。
※契約上はBC間であっても、この契約は、緊急だからBがAのために契約したものです。そのため、建物の所有者Aに修理費用を請求するよう工務店Cに求めることができます。
4.BがAから甲の管理を頼まれていなかった場合においては、BがAの名において窓ガラスの取換えを業者Dに発注したとしても、Aの追認がない限り、Dは、Aに対してその請負契約に基づいて代金の支払を請求することはできない。

4・・・正しい

判例によると、「事務管理者Bが本人Aの名でした法律行為の効果は、当然には本人Aに及ぶものではない」としています(最判昭36.11.30)。

よって、業者Dは、本人Aに対してその請負契約に基づいて代金の支払を請求することはできないので、本肢は正しいです。

【選択肢3と4の違い】

■3は、「管理者Bが自己の名において窓ガラスの取換えを業者Cに発注したとき」の話です。

つまり、契約では、「BとCとが請負契約をする」という内容になっています。

この場合、管理者Bは、本人Aに対して「私Bに代わって代金を業者Cに支払ってください!」と請求することができます。

■4は、「管理者Bが本人Aの名において窓ガラスの取換えを業者Dに発注したとき」の話です。

つまり、契約では、「AとCとが請負契約をする」という内容になっています。

しかし、管理者Bが勝手に行ったということで、上記契約をしたとしても、Aは支払い義務を負いません。=「契約の効果は、本人Aに及ばない」

よって、業者Dは、本人Aに対してその代金を請求することはできないです。

5.BがAから甲の管理を頼まれていた場合であっても、A・B間において特約がなければ、窓ガラスを取り換えるに当たって、Bは、Aに対して事前にその費用の支払を請求することはできない。

5・・・誤り

本肢の「BがAから甲の管理を頼まれていた場合」とは「法律行為でない事務の委託(準委任)」に当たります。

準委任においても委任同様、費用の前払い請求ができます(民法649条656条)。

よって、AB間で特約がなくても、Bは、Aに対して事前にその費用の支払を請求することはできるので、誤りです。

委任契約と準委任契約の違い

ある事務を、任せる点では同じですが、委任契約の場合、「法律行為に関する事務」を受任者に依頼し、「準委任契約」の場合「法律行為に関すること以外」の事務を受注者に依頼します。
【委任契約の具体例】 土地の売買契約を委任する場合 → 売買契約を締結すること(「意思表示」をすること)で、「引渡し義務や引渡し請求権」「代金支払義務や代金支払請求権」という「効果」が発生するため、売買契約は法律行為です。
【準委任契約の具体例】 不在中に建物の管理を任せる場合 → 管理すること自体、法律行為ではないです。管理すること自体に、何ら意思表示をすることもないからです。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 憲法・議員 問33 民法:債権
問4 法の下の平等 問34 民法:債権
問5 選挙権・選挙制度 問35 民法:親族
問6 教科書検定制度 問36 商法
問7 憲法・その他 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 問題非掲載のため省略 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・政治
問23 地方自治法 問53 一般知識・経済
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

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