国家賠償法に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者の不正な行為によって個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接の目的とするものであるから、不正な行為をした業者に対する行政庁の監督権限の不行使は、被害者との関係においても、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
- 建築基準法に基づく指定を受けた民間の指定確認検査機関による建築確認は、それに関する事務が行政庁の監督下において行われているものではないため、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に当たらない。
- 公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法、または同法を引き継いだ公害健康被害補償法*に基づいて水俣病患者の認定申請をした者が水俣病の認定処分を受けた場合でも、申請処理の遅延により相当の期間内に応答がなかったという事情があれば、当該遅延は、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
- 裁判官がおこなう争訟の裁判については、その裁判の内容に上訴等の訴訟法上の救済方法で是正されるべき瑕疵が存在し、当該裁判官が付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような事情がみられたとしても、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることはない。
- 検察官が公訴を提起した裁判において、無罪の判決が確定したとしても、そのことから直ちに、起訴前の逮捕や勾留とその後の公訴の提起などが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるということにはならない。
(注)* 公害健康被害の補償等に関する法律
【解説】
1・・・妥当ではない
【事案:最判平元.11.24】
宅建業法の免許基準を満たしていない者に対して免許を与えたり、免許の更新をした。その後、当該宅建業者の不正行為により、取引相手が損害を被った場合、当該免許付与・更新の行為は、国家賠償法1条1項の「違法な行為」に該当するか?
【判例】
『免許制度も、究極的には取引関係者の利益の保護に資するものではあるが、免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難い(考えることは難しい)。
したがって、このような損害の救済は「一般の不法行為規範等」に委ねられているというべきであるから、
知事等による免許の付与ないし更新それ自体は、法所定の免許基準に適合しない場合であっても、当該業者との個々の取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるものではない』としています。
つまり、宅建業法の免許基準を満たしていない者に免許を与えたり、免許の更新をした知事の行為は、直ちに違法な行為に該当するとはいえない、ということです。
よって、誤りです。
2・・・妥当ではない
判例(最判平17.6.24)によると、「建築確認を行う民間の指定確認検査機関による建築確認により、相手方に損害を与えてしまった場合、地方公共団体が国家賠償責任を負う」としています。
つまり、建築基準法に基づく指定を受けた民間の指定確認検査機関による建築確認も国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に当たるので、妥当ではないです。
■そもそも、国賠法1条に基づく責任が生ずるための要件は、下記5つです。
- 公権力の行使にあたる公務員の行為であること
- 公務員が「職務を行うについて」行った行為であること
- 公務員に故意または過失があること
- 公務員の行為が違法であること
- 損害が発生したこと
本問は、上記1に関する内容です。
つまり、「公権力の行使とは?」また、関連する「公務員とはだれか?」この辺りは押さえましょう!
3・・・妥当ではない
判例(最判平3.4.26)によると、
「水俣病の認定申請を受けた処分庁には、不当に長期間にわたらないうちに応答処分をすべき条理上の作為義務があり、右の作為義務に違反したというためには、客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分ができなかったことだけでは足りず、①その期間に比して更に長期間にわたり遅延が続き、かつ、②その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要である。そして、①②を満たす場合、国家賠償法1条等に基づく損害賠償請求ができる。」
と判示しています。
つまり、「申請処理の遅延により相当の期間内に応答がなかったという事情があれば、当該遅延は、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける」は妥当ではありません。
【判例理解】
水俣病患者が認定申請をし、この申請を受けた処分庁は、不当に長期間にわたらないうちに応答処分をすべき作為義務がある。
この作為義務違反というためには、下記事情が必要。
客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分ができなかったことだけでは足りず、
①その期間に比べて更に長期間にわたり処分をしない状況が続き、かつ、②その間、処分庁として通常期待される努力を尽くさなかったことが必要である。
①②を満たす場合、国家賠償法1条等に基づく損害賠償請求ができる。
よって、「①申請処理の遅延により相当の期間内に応答がなかったという事情があれば、当該遅延は、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける」は妥当ではありません。
②も満たして、初めて違法評価を受けるからです。
4・・・妥当ではない
判例(最判昭57.3.12)によると、
「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、
右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である」
と判示しています。
つまり、「裁判官が付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような事情がみられた」場合、
国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けます。
5・・・妥当
判例(最判昭53.10.20)では、「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで、直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。そして、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば違法とはならない」と判示しています。
つまり、検察官は合理的な嫌疑(理由)があれば公訴を提起することが許されます。
そして、検察官が起訴した裁判において最終的に無罪判決が確定したとしても、当該起訴について、合理的な嫌疑(理由)があれば、国家賠償法1条1項の適用上、違法とはなりません。
※ 「起訴」とは、刑事事件について検察官が裁判所に訴えを提起することをいう(起訴=公訴を提起すること)
※ 「公訴」とは、上記起訴された刑事裁判のことをいう。起訴と控訴の違いは分からなくても大丈夫です。
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
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| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法:債権 |
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