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令和4年・2022|問21|国家賠償法

国家賠償法2条1項に基づく国家賠償責任に関する次のア~エの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア.営造物の設置または管理の瑕疵には、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合を含むものと解されるが、具体的に道路の設置または管理につきそのような瑕疵があったと判断するにあたっては、当該第三者の被害について、道路管理者において回避可能性があったことが積極的要件とされる。

イ.営造物の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり、当該営造物の設置・管理者が賠償義務を負うかどうかを判断するにあたっては、侵害行為の開始とその後の継続の経過および状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無およびその内容、効果等の事情も含めた諸要素の総合的な考察によりこれを決すべきである。

ウ.道路等の施設の周辺住民からその供用の差止めが求められた場合に差止請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにあたって考慮すべき要素は、周辺住民から損害の賠償が求められた場合に賠償請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにあたって考慮すべき要素とほぼ共通するが、双方の場合の違法性の有無の判断に差異が生じることがあっても不合理とはいえない。

エ.営造物の設置または管理の瑕疵には、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合を含むものと解すべきであるが、国営空港の設置管理は、営造物管理権のみならず、航空行政権の行使としても行われるものであるから、事理の当然として、この法理は、国営空港の設置管理の瑕疵には適用されない。

  1. ア・ウ
  2. ア・エ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. ウ・エ

>解答と解説はこちら


【答え】:3(イ・ウが妥当)

【解説】

ア.営造物の設置または管理の瑕疵には、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合を含むものと解されるが、具体的に道路の設置または管理につきそのような瑕疵があったと判断するにあたっては、当該第三者の被害について、道路管理者において回避可能性があったことが積極的要件とされる。

ア・・・妥当ではない

本肢は前半部分は妥当ですが、後半部分の「道路管理者において回避可能性があったことが積極的要件とされる」が妥当ではありません。
下記判例では、「道路管理者において回避可能性(下記事案の被害を回避できる可能性)があったことが積極的要件とされるものではない」としています。

国家賠償法2条1項

  1. 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、この賠償責任を負う。
  2. 前項の場合において、他に損害の原因について責任を負う者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
【事案】  高速道路を走る自動車から発せられる騒音、排気ガス等が、その周辺住民に生活妨害等の被害をもたらす危険性を生じさせる騒音、排気ガスが出ていて、これが「道路の設置又は管理に瑕疵」があるのではないかと争われた。

【判例:最判平7.7.7】 国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態、すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうのであるが、これには営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含むものであり、・・・・
(中略)
国家賠償法2条1項は、危険責任の法理に基づき被害者の救済を図ることを目的として、国又は公共団体の責任発生の要件につき、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときと規定しているところ、所論の回避可能性があったことが本件道路の設置又は管理に瑕疵を認めるための積極的要件に
なるものではないと解すべきである。

【詳細解説】

まず、国家賠償法2条1項にいう「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、
「営造物が安全ではない状態」、すなわち「他人に危害を及ぼす危険性のある状態」をいう。

これには「利用目的に沿って利用されることとの関連において、その利用者以外の第三者に対して危害を生じる危険性がある場合をも含む。

つまり、高速道路を普通に車が入っていた場合に、利用者(運転手)以外の第三者(周辺住民)に対する危険性も含まれる、ということです。

(中略)

「積極的要件」とは、国や公共団体が予め被害を防止するための措置を講じなければならないといった要件を指します。

そして、国家賠償法2条1項は、被害者の救済を図ることを目的として、国又は公共団体が責任を負う要件について、

「危険性の回避の可能性があったこと」が「本件道路の設置又は管理に瑕疵を認めるための積極的要件に
はならない」と言っています。

つまり、「危険性の回避の可能性があれば、国等は責任を負う」というわけではない、ということです。

道路の設置や管理に瑕疵があったことが明確である場合、回避可能性があったか否かは重要ではないということです。

イ.営造物の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり、当該営造物の設置・管理者が賠償義務を負うかどうかを判断するにあたっては、侵害行為の開始とその後の継続の経過および状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無およびその内容、効果等の事情も含めた諸要素の総合的な考察によりこれを決すべきである。

イ・・・妥当

本肢は、下記判例の内容の通りです。よって、妥当です。

【事案:最大判昭56.12.16】 大阪国際空港(伊丹空港)は、昭和34年から国営空港として、管理・供用されており、周辺住民Xらは、騒音・振動等の被害を被っていた。
そこで、Xらは、国Yに対して民法709条(不法行為による損害賠償責任)または国家賠償法2条に基づく損害賠償責任があるとして、訴えを提起した。【判例:最大判昭56.12.16】 本件空港の供用のような国の行う公共事業が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するにあたっては、上告人の主張するように、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決すべきものである。

【詳細解説】

建造物(空港)の使用が、周辺住民との関係において違法な権利侵害または法的利益侵害となる場合、
この建造物を設置・管理する者が賠償の責任を負うかどうかを判断するためには、「侵害行為の開始」と「その後の継続の過程や状況、防止策をとったかどうか」などの詳細な情報を考慮して総合的に判断すべきであるという意味です。

ウ.道路等の施設の周辺住民からその供用の差止めが求められた場合に差止請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにあたって考慮すべき要素は、周辺住民から損害の賠償が求められた場合に賠償請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにあたって考慮すべき要素とほぼ共通するが、双方の場合の違法性の有無の判断に差異が生じることがあっても不合理とはいえない。

ウ・・・妥当

本肢は、下記判例の内容の通りです。よって、妥当です。

【判例:最判平7.7.7】道路等の施設の周辺住民からその供用の差止めが求められた場合に差止請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにつき考慮すべき要素は、周辺住民から損害の賠償が求められた場合に賠償請求を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにつき考慮すべき要素とほぼ共通するのであるが、施設の供用の差止めと金銭による賠償という請求内容の相違に対応して、違法性の判断において各要素の重要性をどの程度のものとして考慮するかにはおのずから相違があるから、右両場合の違法性の有無の判断に差異が生じることがあっても不合理とはいえない

【分かりやすく言うと】
①道路などの施設の周りの住民から施設の使用を止めるよう要求された場合、その要求が合法であるかどうかを判断する際に考慮すべき要素は、
②周りの住民から賠償を求められた場合に合法性を判断する際に考慮すべき要素と同じであるが、
「①施設の使用の停止」と「②金銭による賠償」という要求内容の違いに応じて、合法性を判断する際に「各要素の重要性をどの程度考慮するか」が異なる。

そのため、2つの場合において、合法性の判断に差異が生じることもあっても不合理とはいえない(仕方ががない)

エ.営造物の設置または管理の瑕疵には、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合を含むものと解すべきであるが、国営空港の設置管理は、営造物管理権のみならず、航空行政権の行使としても行われるものであるから、事理の当然として、この法理は、国営空港の設置管理の瑕疵には適用されない。

エ・・・妥当ではない

本肢は、「国営空港の設置管理は、営造物管理権のみならず、航空行政権の行使としても行われるものであるから、事理の当然として、この法理は、国営空港の設置管理の瑕疵には適用されない。」が妥当ではありません。

下記判例の内容の通り、施設(空港)に危険性がなかった場合でも、限度を超える施設の利用があり、利用者や第三者が損害を受ける危険性があれば、国営空港の設置管理の瑕疵があることとなり、本肢は妥当ではありません。

【判例:最判昭56.12.16】
国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう。そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひとり当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的な欠陥ないし不備によって一般的に右のような危害を生じさせる危険性がある場合のみならず、その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含む

また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者(周辺住民Xら)に対するそれをも含むものと解すべきである。

すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるといえる


令和4年(2022年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識
問20 国家賠償法 問50 一般知識
問21 国家賠償法 問51 一般知識
問22 地方自治法 問52 一般知識
問23 地方自治法 問53 一般知識
問24 地方自治法 問54 一般知識
問25 行政法 問55 一般知識
問26 行政法 問56 一般知識
問27 民法 問57 一般知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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