薬局を営むXは、インターネットを介した医薬品の通信販売を始めたが、法律は一定の種類の医薬品の販売については、薬剤師が対面で情報の提供および薬学的知見に基づく指導を行うことを求めている。そこでXは、この法律の規定が違憲であり、この種の医薬品についてもネットで販売する権利が自らにあることを主張して出訴した。この問題に関する最高裁判所の判決の趣旨として、妥当なものはどれか。
- 憲法22条1項が保障するのは職業選択の自由のみであるが、職業活動の内容や態様に関する自由もまた、この規定の精神に照らして十分尊重に値する。後者に対する制約は、公共の福祉のために必要かつ合理的なものであることを要する。
- 規制の合憲性を判断する際に問題となる種々の考慮要素を比較考量するのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、規制措置の内容や必要性・合理性については、立法府の判断が合理的裁量の範囲にとどまる限り、裁判所はこれを尊重する。
- 本件規制は、専らインターネットを介して販売を行う事業者にとっては職業選択の自由そのものに対する制限を意味するため、許可制の場合と同様にその必要性・合理性が厳格に審査されなければならない。
- 本件規制は、国民の生命および健康に対する危険の防止という消極目的ないし警察目的のための規制措置であり、この場合は積極目的の場合と異なり、基本的人権への制約がより小さい他の手段では立法目的を達成できないことを要する。
- 本件規制は、積極的な社会経済政策の一環として、社会経済の調和的発展を目的に設けられたものであり、この種の規制措置については、裁判所は立法府の政策的、技術的な裁量を尊重することを原則とする。
【答え】:2
【解説】本問題は、下記判例(最判令和3.3.18)の内容です。
憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その同項適合性を一律に論ずることはできず、その適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定は、職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず、職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより、その制限の程度が大きいということもできない。本件各規定による規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度に照らすと、本件各規定による規制に必要性と合理性があるとした判断が、立法府の合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできない。
したがって、本件各規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。
1・・・妥当ではない
判例では「憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障している」と言っています。
つまり、「憲法22条1項が保障するのは職業選択の自由のみであるが、職業活動の内容や態様に関する自由もまた、この規定の精神に照らして十分尊重に値する。」という本肢は妥当ではありません。
また、「後者に対する制約は、公共の福祉のために必要かつ合理的なものであることを要する。」とも言っていません。
「職業の自由に対する規制措置(制約)は、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。」という風に比較考量して判断します。
2・・・妥当
【判例(最大判昭50.4.30、最判令3.3.18)】
この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。
本肢は上記部分の内容なので、妥当です。
3・・・妥当ではない
【判例(最判令3.3.18)】
本件規制とは、「要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける」を指します。
そして、判例では、「本件規制は、職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえない」といっているので、本肢の「件規制は、専らインターネットを介して販売を行う事業者にとっては職業選択の自由そのものに対する制限を意味する」というのは、妥当ではないです。
4・・・妥当ではない
本肢の内容は、薬事法距離制限事件(最大判昭50.4.30)の内容で、
「規制をするためには、基本的人権への制約がより小さい他の手段では立法目的を達成できないことが要件」と言っています。
一方、本問の判例では、
「規制(本件規制)の適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。」
と言っています。
よって、妥当ではないです。
【薬事法距離制限事件(最大判昭50.4.30)の詳細解説】
職業選択の自由、営業の自由といっても、誰でも薬を販売できたり、また、その方法についても自由というわけではないように、「公共の福祉による規制」を受けます。そして、その規制(制限)には、規制目的に応じて、2つの規制があります。
- 消極目的規制
- 危険の除去・安全の保護といった消極目的を主眼とする規制
- 積極目的規制
- 社会政策的に弱者・少数者等を保護するなどの積極目的を主眼とする規制
「積極目的規制」と「消極目的規制」の審査基準を比べると、
「消極目的規制」の方が「厳しい審査基準」となります。
5・・・妥当ではない
本問の内容は、「小売市場距離制限事件(最大判昭47.11.22)の内容です。
よって、妥当ではありません。
「積極的な社会経済政策の一環として、社会経済の調和的発展を目的に設けられたもの」というのが「小売市場の許可規制」です。
「小売市場の許可規制」とは、「小売市場を設置するために、許可が必要」という規制です。
令和4年(2022年)過去問
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
| 問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識 |
| 問27 | 民法 | 問57 | 一般知識 |
| 問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
