インターネット上の検索サービスにおいて、ある人物Xの名前で検索をすると、Xの過去の逮捕歴に関する記事等が表示される。Xは、この検索事業者に対して、検索結果であるURL等の情報の削除を求める訴えを提起した。これに関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、過去の逮捕歴もこれに含まれる。
- 検索結果として提供される情報は、プログラムによって自動的に収集・整理・提供されるものにすぎず、検索結果の提供は、検索事業者自身による表現行為とはいえない。
- 検索事業者による検索結果の提供は、公衆の情報発信や情報の入手を支援するものとして、インターネット上の情報流通の基盤としての役割を果たしている。
- 当該事実を公表されない法的利益と、当該情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量した結果、前者が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対してURL等の情報を当該検索結果から削除することを求めることができる。
- 過去の逮捕歴がプライバシーに含まれるとしても、児童買春のように、児童への性的搾取・虐待として強い社会的非難の対象とされ、罰則で禁止されている行為は、一定の期間の経過後も公共の利害に関する事柄でありうる。
【答え】:2
【解説】
1・・・妥当である
本件は、過去に児童買春により逮捕され罰金刑を受けた人物Aが、インターネット検索サービスの事業者に対し、自身の逮捕歴に関する情報(逮捕事実を掲載するウェブサイトのURLや検索結果の抜粋)を検索結果から削除するよう求めた事案です。
■ 法的論点
本件では、検索結果の削除請求が認められるかどうかが問題となります。最高裁判所は、次のような点について判断しました。
<プライバシー権の保護>
- 最高裁は、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となる」としました。
- 逮捕歴は、他人に知られたくない個人的な情報であり、プライバシーに属する事実といえます。
<検索事業者に対する削除請求の可否>
- 最高裁は、検索事業者が検索結果を提供することでプライバシーの侵害が生じる場合、検索結果の削除が求められることがあり得るとしました。
- ただし、検索結果の削除が認められるかどうかは、個人のプライバシー保護の必要性と情報の公衆への提供による公益性との比較衡量によって判断されるべきとされました。
■ 最高裁の判断基準
最高裁は、検索結果の削除請求が認められるかどうかを判断するにあたり、以下の要素を考慮すべきと述べています。
- 情報の内容:逮捕歴に関する情報が、現在の社会においてどのような意味を持つか。
- 情報の公表目的・意義:公益に資する情報かどうか。
- 検索結果の表示がもたらす影響:対象者の社会生活への影響の程度。
- 情報の経過時間:事件からどれだけの時間が経過しているか。
これらを総合的に考慮した上で、削除請求が認められるかどうかを判断するとされました。
■ 本件における結論
本件では、逮捕歴というプライバシーに関わる事実が含まれているものの、それを検索結果から削除するかどうかは、社会的な影響や公益性とのバランスによって決定されるとされました。したがって、一律に削除請求が認められるわけではなく、具体的な事情に応じて個別に判断されることになります。
■ 結論
「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となる」との考え方は妥当です。しかし、検索結果の削除請求が認められるかどうかは、プライバシー保護の必要性と情報の公益性を比較衡量した上で判断されるため、常に削除が認められるわけではありません。
2・・・妥当でない
■ 法的論点
本件では、検索結果の提供が検索事業者の「表現行為」に該当するかどうかが争点となりました。
<検索結果の提供は単なる自動処理か?>
検索事業者のサービスは、インターネット上の情報をプログラムによって自動的に収集・整理・提供するものであり、情報そのものを人間が編集するわけではありません。
そのため、一見すると、検索事業者自身が主体的に情報を発信しているわけではないようにも思えます。
<検索結果の提供は検索事業者の「表現行為」にあたるか?>
最高裁は、「検索事業者は、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集し、その複製を保存し、索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された条件に応じて検索結果を提供している」と述べました。
この情報の収集・整理・提供はプログラムにより自動的に行われるが、検索事業者の方針に沿った結果が得られるように作成されたプログラムであるため、検索事業者が提供する検索結果には表現行為としての側面があると判断しました。
■ 最高裁の判断
最高裁は、「検索結果の提供は、検索事業者自身による表現行為とはいえない」とする見解を否定しました。つまり、検索結果の提供は単なる自動処理ではなく、検索事業者が情報の提供に関与している以上、一定の表現行為としての性質を持つと判断したのです。
■ 本件における結論
よって、「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為とはいえない」という考え方は妥当ではないとされました。検索事業者は、検索結果の表示について一定の方針を定め、それに基づくアルゴリズムを設計している以上、その提供行為には表現の自由に関する側面があると考えられるのです。
3・・・妥当である
■ 法的論点
本件では、検索事業者による検索結果の提供が、単なる情報提供を超えてインターネット上の情報流通の基盤としての機能を果たしているかが問題となります。
<検索事業者の役割>
- インターネット上には膨大な情報が存在し、それを効率的に整理し、利用者が必要な情報を取得できるようにする機能が求められます。
- 検索エンジンは、単なる情報収集の手段ではなく、人々が必要な情報を見つける手助けをする重要な役割を担っています。
- 最高裁は、「検索事業者による検索結果の提供は、公衆がインターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」と述べています。
<検索エンジンと表現の自由>
- 検索エンジンの存在は、単に検索結果を提示することにとどまらず、情報の流通を促進し、民主主義社会において必要不可欠な役割を担っています。
- そのため、検索結果の削除が過度に認められると、情報へのアクセスが制限され、表現の自由や知る権利が損なわれる可能性があります。
- 最高裁も、このような影響を考慮し、検索結果の削除が認められる場合について慎重に判断する必要があるとしています。
■ 最高裁の判断
最高裁は、検索事業者の役割について以下の点を確認しました。
- 検索エンジンは、単にウェブサイトの情報を自動的に整理しているだけではなく、公衆が情報を発信・取得するための手段を提供するものである。
- そのため、検索事業者の活動は、インターネット上の情報流通にとって重要な基盤となっている。
- したがって、検索結果の削除請求が認められる場合については、プライバシー保護と情報流通の公益性のバランスを慎重に判断すべきである。
■ 本件における結論
最高裁の見解に基づけば、「検索事業者による検索結果の提供は、公衆の情報発信や情報の入手を支援し、インターネット上の情報流通の基盤としての役割を果たしている」とする考え方は妥当であるといえます。
4・・・妥当である
■ 法的論点
本件では、検索事業者が提供する検索結果の削除を求めることができる条件として、「プライバシー保護」と「情報提供の公益性」の比較衡量が重要な要素となります。
<比較衡量の基準>
最高裁は、検索事業者が提供する検索結果の削除請求の可否について、以下の諸要素を比較衡量して判断すべきであると述べています。
- 当該事実の性質および内容
→ 逮捕歴のような個人的な情報は、プライバシーに属する事実として慎重に取り扱う必要があります。 - 当該URL等情報が提供されることによって、その者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲と被る具体的被害の程度
→ 検索結果の提供が、対象者の社会生活や職業にどの程度影響を及ぼすかが考慮されます。 - その者の社会的地位や影響力
→ 公人(政治家や芸能人など)の場合、公益性が認められやすく、削除請求が認められにくい傾向にあります。 - 記事等の目的や意義
→ 報道の自由や社会的関心のある事件に関する情報であるかどうかが考慮されます。 - 記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化
→ 事件の経過時間が長くなり、社会的関心が薄れている場合、削除請求が認められやすくなります。 - 記事等において当該事実を記載する必要性
→ 記事の内容が単なる興味本位のものである場合、削除請求が認められやすくなります。
<削除請求が認められる条件>
最高裁は、上記の諸要素を総合的に比較衡量した結果、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかである場合」には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができると判断しました。
■ 最高裁の判断
本件では、逮捕歴というプライバシーに属する情報が含まれているため、その公表が本人にとって大きな不利益をもたらす可能性があります。
しかし、検索結果の削除が認められるかどうかは、情報の公益性とのバランスを慎重に検討する必要があります。
削除請求が常に認められるわけではなく、各要素を考慮し、プライバシー保護が明らかに優越する場合に限り、削除請求が認められるとされました。
■ 本件における結論
最高裁の見解に基づけば、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかである場合」には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができると判断しました。
5・・・妥当である
■ 法的論点
本件では、逮捕歴がプライバシーに含まれるとしても、児童買春という犯罪が一定期間経過後も公共の利害に関する事項といえるかが問題となります。
<プライバシーの保護対象としての逮捕歴>
- 逮捕歴は、一般的に他人に知られたくない個人的な事実であり、プライバシーに属する事柄とされています。
- そのため、原則として「逮捕歴の公表は個人のプライバシーを侵害しうる」と考えられます。
<児童買春という犯罪の特殊性>
- 児童買春は、児童に対する性的搾取・虐待として社会的に強い非難の対象とされており、罰則をもって禁止されています。
- このような犯罪行為は、単なる個人の過去の経歴というだけではなく、社会全体に関わる問題であり、一定期間経過後も公共の利害に関する事項となりうると考えられます。
<公共の利害と情報提供の意義>
最高裁は、次のように判断しました。
- 逮捕歴がプライバシーに属する事実であることは認めつつも、児童買春という犯罪の性質上、一定期間経過後も公共の利害に関する事柄であるといえる。
- そのため、検索結果の提供を通じてこれを公衆が知ることには一定の意義がある。
<削除請求の可否>
- 事件からの経過時間や本人の社会的立場などを考慮し、プライバシーの保護が情報提供の公益性を上回る場合には削除が認められる可能性があります。
- しかし、本件のように社会的非難が強い犯罪に関する情報は、一定の期間が経過しても公共の利害に関する情報として維持される場合があります。
■ 最高裁の判断
最高裁は、本件に関して次のように判断しました。
- 児童買春の逮捕歴はプライバシーに属する事実であるが、同時に公共の利害に関わる事項である。
- 児童買春は社会的に強く非難される犯罪であり、罰則をもって禁止されていることを考慮すると、情報提供の公益性は依然として高い。
- そのため、削除請求が必ずしも認められるわけではなく、ケースバイケースでの判断が必要とされた。
■ 本件における結論
最高裁の見解に基づけば、「過去の逮捕歴がプライバシーに含まれるとしても、児童買春のように、児童への性的搾取・虐待として強い社会的非難の対象とされ、罰則で禁止されている行為は、一定の期間の経過後も公共の利害に関する事柄でありうる」とする考え方は妥当であるといえます。
令和6年(2024年)過去問
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
| 問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
| 問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
| 問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
| 問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
