改正民法に対応済
甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 甲土地が乙土地に囲まれて公道に通じていない場合、AがBに対して囲繞地通行権(※)を主張するためには、Aは甲土地の所有権の登記を具備していなければならない。
- 甲土地と乙土地は元々一筆の土地であったが、分筆によって他の土地に囲まれて公道に通じていない甲土地が生じ、これによりAが乙土地に対する無償の囲繞地通行権を有するに至った場合において、その後に乙土地がCに売却されたとしても、Aは当然にCに対してこの通行権を主張することができる。
- AがBとの間の賃貸借契約に基づいて乙土地を通行している場合において、その後に甲土地がCに売却されたときは、これによりCも当然に乙土地を通行することができる。
- Aは、少なくとも20年にわたって、自己のためにする意思をもって、平穏、かつ、公然と乙土地の一部を通行していれば、A自らが通路を開設していなくても、乙土地上に通行地役権を時効取得することができる。
- Aが地役権に基づいて乙土地の一部を継続的に通路として使用している場合において、その後にCが通路の存在を認識しながら、または認識可能であるにもかかわらず認識しないでBから乙土地を承継取得したときは、Cは背信的悪意者にあたるので、Aの地役権設定登記がなされていなくても、AはCに対して通行地役権を主張することができる。
(注)※ 囲繞地通行権とは、民法210条1項に規定されている「他の土地に囲まれて公道に通じていない土地」の通行権のことをいう。
改正民法に対応済【答え】:2
【解説】
甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。
1.甲土地が乙土地に囲まれて公道に通じていない場合、AがBに対して囲繞地通行権(※)を主張するためには、Aは甲土地の所有権の登記を具備していなければならない。
1・・・妥当ではない
●囲繞地通行権 → 袋地の所有者は、所有権の登記不要
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者(A)は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地(乙土地)を通行することができます(民法210条)。
この権利を「囲繞地通行権」と言います。
「囲繞地(いにょうち)」とは、袋地(甲土地)を囲んでいる土地を言います。
【判例】 そして、判例では、袋地の所有権を取得した者Aは
甲地の所有者は所有権取得の登記なくして囲繞地通行権を主張することができる
としています。
【理由】 そもそも囲繞地通行権は、袋地と囲繞地の利用の調整を目的とする規定であり、囲繞地の所有者に一定の範囲の通行受忍義務(通行されることを我慢してもらう義務)を課し、袋地を利用できるようにするルールです。これは、「不動産取引の安全保護をはかるための公示制度」とは関係がない内容なので、登記は不要としています。登記が必要となってくるのは、対抗関係が問題となる場合の話です。
甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。
2.甲土地と乙土地は元々一筆の土地であったが、分筆によって他の土地に囲まれて公道に通じていない甲土地が生じ、これによりAが乙土地に対する無償の囲繞地通行権を有するに至った場合において、その後に乙土地がCに売却されたとしても、Aは当然にCに対してこの通行権を主張することができる。
2・・・妥当
●共有分割によって袋地が生じた場合、囲繞地通行権は、分割後の土地のみ行使できる
●その後、囲繞地の所有者が変わっても同様に、袋地の所有者は囲繞地通行権を行使できる
分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地(分割後の残余地)のみを通行することができます。この場合においては、償金(通行料)を支払う必要はありません(民法213条)。
【具体例】 もともと、上の左の図のように「AとBの共有地」は、道路に接しているので、袋地ではありません。その後、下の右の図のように共有分割をすると、Aの甲土地が袋地になります。土地の分割によって新たに袋地が生じた場合は、当該袋地の所有者は、公道に出るため、もう一方の土地(分割後の残余地)についてのみ無償で通行でき、必要であれば通路を開設することができます。
甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。
3.AがBとの間の賃貸借契約に基づいて乙土地を通行している場合において、その後に甲土地がCに売却されたときは、これによりCも当然に乙土地を通行することができる。
3・・・妥当ではない
●賃借権の譲渡 → 賃貸人の承諾が必要
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は、賃借物を転貸することができません(民法612条)。
そのため、賃借人Aが、賃貸人Bに無断で、甲土地をCに売却した場合、Cは、当然には乙土地を通行できないので、本問は誤りです。
甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。
4.Aは、少なくとも20年にわたって、自己のためにする意思をもって、平穏、かつ、公然と乙土地の一部を通行していれば、A自らが通路を開設していなくても、乙土地上に通行地役権を時効取得することができる。
4・・・妥当ではない
●地役権の時効取得 → 要役地所有者が、承役地に通路を開設することが要件の一つ
通行地役権は、通行の開始当時に通行地役権の存在について、
善意無過失の場合には10年間、悪意または有過失の場合には20年間、
「継続的」に、かつ、外形上認識することができる状態で通行する場合に限り、
時効取得できます(民法283条、162条、163条) 。
【判例】 そして、判例では、『「継続」とは、通路を開設していることを要求するものであり、また、この通路の開設は要役地の所有者によってなされることが必要である』としています。つまり、A自らが通路を開設しないと、通行地役権は時効取得できません。これはそのまま覚えましょう。
甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。
5.Aが地役権に基づいて乙土地の一部を継続的に通路として使用している場合において、その後にCが通路の存在を認識しながら、または認識可能であるにもかかわらず認識しないでBから乙土地を承継取得したときは、Cは背信的悪意者にあたるので、Aの地役権設定登記がなされていなくても、AはCに対して通行地役権を主張することができる。
5・・・妥当ではない
●地役権は物権なので、登記をしなければ第三者に対抗できない
●①通路として使用されている明らか、かつ②承役地の購入者Cが、通路使用について悪意or有過失の場合、第三者に当たらないため、要役地所有者Aは、Cに対抗できる
本問は、「背信的悪意者にあたる」が誤りです。
正しくは、「背信的悪意者にも第三者にもあたらない」です。
【問題文の状況】 地役権が設定された承役地をCがBから譲り受けた。
そして、Cは、 「通路の存在を認識していた(悪意)」または
「認識可能であるにもかかわらず認識しないで(有過失)」譲り受けた。
【判例】 判例では、「上記、登記されていない地役権について、
悪意または有過失のCは、背信的悪意者には当たらない」
また、「通行地役権の承役地(乙土地)が譲渡された場合において、
譲渡の時に、①承役地が要役地所有者Aによって継続的に通路として使用されていることが客観的に明らかであり、かつ、②譲受人がそのことを認識していたか(悪意)又は認識することが可能であった(有過失の)ときは、譲受人Cは、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺(登記がないこと)を主張するについて正当な利益を有する第三者にあたらない」としています。
【分かりやすく言えば】 Cが、地役権自体、設定されていることを知らなくても、①客観的にみて乙土地の一部が通行されていることが明らかで、②通行されている事実について悪意または有過失の場合、「地役権設定登記がないことを主張できる正当な利益を有する第三者」には当たらず、Aは、地役権の登記がなくても、Cに地役権を主張できるということです。
※ もし、Cが第三者にあたるとすれば、Aは地役権の登記がなければ、Cに対抗できない。
平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 内閣 | 問33 | 民法・債権 |
| 問4 | 内閣 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 財政 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 法の下の平等 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 社会権 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |





