改正民法に対応済
譲渡担保に関する次の記述のうち、判例に照らし、誤っているものはどれか。
- 不動産の譲渡担保において、債権者はその実行に際して清算義務を負うが、清算金が支払われる前に目的不動産が債権者から第三者に譲渡された場合、原則として、債務者はもはや残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできず、このことは譲受人が背信的悪意者にあたるときであっても異ならない。
- 集合動産の譲渡担保において、債権者が譲渡担保の設定に際して占有改定の方法により現に存する動産の占有を取得した場合、その対抗要件具備の効力は、その構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産についても及ぶ。
- 集合動産の譲渡担保において、設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をしたときは、当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。
- 集合債権の譲渡担保において、それが有効と認められるためには、契約締結時において、目的債権が特定されていなければならず、かつ、将来における目的債権の発生が確実でなければならない。
- 集合債権の譲渡担保において、当該譲渡につき譲渡人から債務者に対して確定日付のある証書によって通知が行われた場合、その対抗要件具備の効力は、将来において発生する債権についても及ぶ。
改正民法に対応済
【答え】:4
【解説】
1・・・正しい
●譲渡担保 : 債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合、債権者は自由に処分(売却)できる機能も有する
●債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるが、処分された目的物を受け戻すことはできない
【譲渡担保(じょうとたんぽ)とは】
譲渡担保とは、債権者が、「債権担保の目的で所有権をはじめとする財産権」を、債務者等から譲り受け、被担保債権の弁済をもってその権利を返還するというものです。
【具体例】 債権者Aが債務者Bにお金を貸した。その担保(保証)としてB所有の不動産の所有権を「債権者A」に移転(移転登記)させ、債務の弁済が完了した時点で不動産の所有権を債務者Bに戻すというものです。
もし、債務者Bが債務を弁済できないときは、暫定的に債権者に移っていた所有権は、確定的に債権者Aに帰属することになるというものです。抵当権設定では、「競売」にかけて競売代金から弁済を受けるのですが、競売にかけたりする手続きが面倒です。それを避けるために、お金返さなかったら、不動産をそのままもらいますよ!ということです。
そして、譲渡担保は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、自由に処分(売却)できる機能も有します。
【判例】 判例では、「不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者Bが弁済期に債務の弁済をしない場合、債権者Aが、目的物を第三者Cに譲渡したときは、原則として、譲受人Cは目的物の所有権を確定的に取得し、債務者Bは、清算金がある場合に債権者Aに対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできない」としています。つまり、本問は正しいです。譲受人Cが背信的悪意者であろうが関係ありません。
【理由】 債務者Bが弁済期に債務の弁済をしない場合、この時点で、確定的に不動産の所有権は債権者Aに移るので、その後に所有権を譲り受けるCは、背信的悪意者であろうがなかろうが関係ありません。
【清算金とは】 例えば、1000万円お金を貸して、担保にとった動産の合計額が1050万円だったとします。
その場合、50万円多く、債権者がもらうことになるので、「50万円を清算金」として債務者に渡します!
2・・・正しい
●構成部分が変動して新しく構成部分となった動産についても、占有改定により譲渡担保権者は対抗力を取得する
【集合動産の譲渡担保の具体例】 例えば、ビール販売店Aが、Bからお金を借りて、倉庫内にあるアサヒの瓶ビール100本(集合動産)について譲渡担保を設定した場合です。
【占有改定とは】 ある目的物の占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移す場合をいいます。上記事例では、譲渡担保を設定してもらった譲渡担保権者Bが、瓶ビール100本を占有します。しかし、Bが瓶ビール100本を保管するのが困難等の理由により、譲渡担保権設定者A(ビール販売店)のもとに(倉庫に)置いたまま、占有はBに移すということです。
【構成部分の変動する集合動産】とは、「倉庫内にあるアサヒの瓶ビール100本」であり、種類・所在場所及び量の範囲が指定されているので、この100本のビールが一つの集合物です。そして、瓶ビールを一本消費して、新たに同じ種類・量の瓶ビールを入れれば、新しい瓶ビールも集合動産となります。
【判例】 判例では、「構成部分(瓶ビール一部)が変動して、新しく構成部分となった動産(一本消費して新たに追加された瓶ビール)も、占有改定により、譲渡担保権者B(債権者)は対抗力を取得する」としています。
よって、「債権者Bが譲渡担保の設定に際して占有改定の方法により現に存する動産(瓶ビール100本)の占有を取得した場合、対抗要件具備の効力は、その構成部分(瓶ビールの一部)が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産(瓶ビール)についても及ぶ」という記述は正しいです。
3・・・正しい
①譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限がある
②通常の営業の範囲を超える売却処分する権限はもたず、もし、通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、原則、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。例外として、「譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合」、処分の相手方に所有権が移転する
【判例】 構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されている。(つまり、問277の事例で、瓶ビール販売店Aが倉庫内の瓶ビールを販売して、仕入れをすることは予定されている) だから、通常の営業の範囲内でされた処分の相手方(瓶ビールの購入者)は、当該動産(瓶ビール)について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる。
一方、対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者(ビール販売店A)が、通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所(倉庫等)から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。(つまり、瓶ビールが、倉庫から搬出され、集合物から離脱した場合、購入者は、瓶ビールの所有権を取得する。単に瓶ビールの売買契約をしただけで、瓶ビールが倉庫から搬出されていないのであれば、購入者は所有権を取得できない)
【具体例】家具メーカーの在庫を担保とした場合
ある家具メーカーA社は、銀行Bからの融資を受ける際、自社の在庫である大量の家具(椅子やテーブルなど)に譲渡担保を設定しました。つまり、A社の在庫家具は、銀行Bの融資を担保する目的で集合動産として設定され、原則として銀行Bがその集合動産に対する担保権を持つことになります。
<通常の営業の範囲での処分とは>
家具メーカーA社は通常、個々の家具を店舗やオンラインで一般消費者に販売しています。このような通常の営業行為で家具を販売する限り、A社は通常の範囲内で売却しているため、銀行Bの同意がなくても担保権が問題なく認められます。この場合、購入者は家具の所有権を取得できます。
<「通常の営業の範囲」を超える売却処分とは>
しかし、A社が財務的に苦しくなり、全在庫を一括で別の大口業者Cに売却しようとしたとします。この一括売却は通常の営業範囲を超えた特別な処分と見なされます。この場合、家具の一括売却を行うには銀行Bの同意が必要になりますが、それを得ずにA社が勝手に売却した場合、C社は売却された在庫家具の所有権を取得できない可能性があります。
このように、通常の営業範囲内であれば集合動産から離脱したものとして第三者が所有権を取得できますが、通常の営業の範囲を超えた場合、譲渡担保権の効力が優先されます。そのため、「通常の営業の範囲を超える売却処分」の場合には、集合物の離脱と認められず、担保設定者からの譲受人が所有権を取得できないことが生じます。
4・・・誤り
●将来債権でも集合債権の譲渡担保設定を有効に行える
●将来債権の発生の確実性は関係ない
本問は、「目的債権が特定されていなければならず、かつ、将来における目的債権の発生が確実でなければならない」が誤りです。
【集合債権の譲渡担保とは】 債務者Aが有する第三債務者に対する複数の特定された個々の債権を、一個の集合した債権として捉え、これに譲渡担保を設定することです。
【判例】 判例では、『「担保設定する債権」については、契約締結時において、発生していない債権(将来債権)であっても可能で(将来債権も担保設定することができる) 、債権発生の可能性が低かったことは、譲渡担保設定契約の効力を当然に左右するものではない』としています。つまり、債権発生の確実性については、譲渡担保設定契約の効力に関係ないということです。
【具体例】 例えば、新規取引先との売掛金を含む集合債権譲渡担保を考えます。
中小企業A社は銀行Bから融資を受けようとしており、担保として自社の「売掛金債権(物を売って、あとでお金をもらう債権)」を集合債権譲渡担保に設定します。
A社は既存の取引先に加えて、新たに開拓を進めている新規取引先からの売掛金も、将来発生する予定の債権として担保に含める予定です。
A社は、現時点で発生している売掛金債権(既存取引先からの売掛金)に加え、今後、新規取引先との取引で発生が予想される売掛金債権も集合債権として担保に含めました。
銀行Bは、これら将来発生する可能性のある債権も担保として確保することになります。
この時点で、新規取引先との取引が始まるかどうか、また売掛金債権が確実に発生するかは分かりませんが、銀行Bはそれらも含めて担保設定しています。
そして仮に新規取引先からの売掛金債権が思ったように発生しなかったとしても、それによって譲渡担保契約そのものが無効になるわけではありません。担保設定契約は、発生可能性が不確実でも有効とされています。
5.集合債権の譲渡担保において、当該譲渡につき譲渡人から債務者に対して確定日付のある証書によって通知が行われた場合、その対抗要件具備の効力は、将来において発生する債権についても及ぶ。
5・・・正しい
●集合債権の譲渡担保において、「将来債権」についても、債権譲渡の対抗要件を備えることができる
【判例】 判例では、「集合債権の譲渡担保において、将来発生する債権についても、債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法により、対抗要件を備えることができる」としています。
よって、本肢は正しいです。
【具体例】 債権者Aと債務者Bとの間で、「BのCに対する代金債権(既に発生している債権および将来発生する債権)」について譲渡担保設定契約を締結した。この場合、代金債権は、譲渡担保権者Aに移転するので、債権譲渡を似ています。
そのため、「確定日付のある証書による第三者債務者Cの承諾」もしくは「確定日付のある証書による譲渡人Bから第三債務者Cへの通知」により、Aが第三者に対抗要件を備えます(民法467条2項)。
※ 問題文の「債務者」は上記事例の「第三債務者C」を指します。
平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 内閣 | 問33 | 民法・債権 |
| 問4 | 内閣 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 財政 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 法の下の平等 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 社会権 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
