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平成24年・2012|問35|相続

改正民法に対応済

Aは2010年10月1日に死亡したが、Aには、Dに対する遺贈以外の遺言はなく、その死亡時に妻B、長男C、長女Dおよび次男Eがいた。この場合についての次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはいくつあるか。

ア Bが2010年10月1日にAの死亡を知った場合において、Bは、その時から3ヶ月以内に単独で限定承認をすることができ、相続人全員で共同してする必要はない。

イ Cの相続権が侵害された場合に、CがAの死亡の時から5年以内に相続回復請求権を行使しないときは、同請求権は、時効によって消滅する。

ウ DがAから遺贈を受けた場合には、Aが死亡の時において有した財産の価額に遺贈の価額を加えたものを相続財産とみなし、Dの法定相続分の中からその遺贈の価額を控除した残額をもってDの相続分とする。

エ Eが、生前Aに対して虐待をし、またはAに重大な侮辱を加えた場合には、Eは、欠格者として相続人となることができない。

オ Aの死亡の時から5年以内にB、C、D、Eの協議により遺産分割がなされない場合には、B、C、D、Eは、全員で家庭裁判所に対し遺産分割を申し立てなければならない。

  1. 一つ
  2. 二つ
  3. 三つ
  4. 四つ
  5. 五つ

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改正民法に対応済

【答え】:5

【解説】

Aは2010年10月1日に死亡したが、Aには、Dに対する遺贈以外の遺言はなく、その死亡時に妻B、長男C、長女Dおよび次男Eがいた。

ア Bが2010年10月1日にAの死亡を知った場合において、Bは、その時から3ヶ月以内に単独で限定承認をすることができ、相続人全員で共同してする必要はない。

ア・・・誤り

●限定承認 → 共同相続人全員でしなければならない

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができます(民法923条)。本問の場合、B・C・D・E全員が限定承認をしないと、限定承認はできません。 Bが単独で限定承認をすることはできないので誤りです。

限定承認とは、プラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を弁済する方法です。例えば、相続財産が、土地建物800万円(プラスの財産)のみ、借金2,000万円(マイナスの財産)だったとします。この場合、債権者に800万円を弁済して、残り1200万円は相続しなくて済みます。

Aは2010年10月1日に死亡したが、Aには、Dに対する遺贈以外の遺言はなく、その死亡時に妻B、長男C、長女Dおよび次男Eがいた。

イ Cの相続権が侵害された場合に、CがAの死亡の時から5年以内に相続回復請求権を行使しないときは、同請求権は、時効によって消滅する。

イ・・・誤り

●相続回復の請求権 → 相続権侵害を知ってから5年経過 or 相続開始から20年経過で消滅する

相続回復の請求権は、①「相続人又はその法定代理人」が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。また、②相続開始の時から20年を経過したときも、消滅します(民法884条)。「死亡の時から」ではなく「相続権の侵害の事実を知った時から」です。

相続回復請求権とは

相続人は、遺産を相続する権利を持っていますが、相続人でない者(親子関係がない者)が相続人(実子)と称して相続財産をもっていかれた場合(侵害された場合)、真の相続人は、その財産を取り戻す権利を持ち、この権利を相続回復請求権といいます。

本肢は「Aの死亡の時から」が誤りです。

正しくは「相続権を侵害された事実を知った時から」です。

Aは2010年10月1日に死亡したが、Aには、Dに対する遺贈以外の遺言はなく、その死亡時に妻B、長男C、長女Dおよび次男Eがいた。

ウ DがAから遺贈を受けた場合には、Aが死亡の時において有した財産の価額に遺贈の価額を加えたものを相続財産とみなし、Dの法定相続分の中からその遺贈の価額を控除した残額をもってDの相続分とする。

ウ・・・誤り

●遺贈 → 遺言で贈与すること → 相続財産の中に、遺贈分の財産はすでに含まれている

相続財産の中に、遺贈分の財産はすでに含まれています

よって、「Aが死亡の時において有した財産の価額に遺贈の価額を加えたものを相続財産とみなし」が誤りです。

「遺贈の価格」は、そもそも「Aが死亡の時において有した財産の価額」の中に含まれています。

本問は「特別受益者の相続分(民法903条)」についての内容です。

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその「贈与」の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分の中からその「遺贈又は贈与」の価額を控除した残額をもってその者の相続分とします(903条)。

分かりやすくいうと 相続人の中に、被相続人から、生前に、遺贈、贈与を受けた人(特別受益者)がいる場合、「生前贈与」については、被相続人が元々もっていた財産として遺産のなかに一度戻して、相続財産の総額と考え、遺贈や贈与を受けた人(特別受益者)は、その相続分から遺贈や贈与額を差し引いた額を相続分とします。

生前贈与の具体例 Xが死亡し、子Yと子Zが相続人であった。相続人YがXから1000万円の生前贈与を受けていて、Xが死亡し、死亡時の財産が3000万円であった場合、相続財産の総額は4000万円として考えます。そして、YとZの相続分が2000万円ずつなので、Zは2000万円を相続し、Yは生前贈与額1000万円を差し引いた1000万円を相続します。

遺贈の具体例 遺贈とは、遺言により贈与することです。Xが死亡し、子Yと子Zが相続人であった。そして、遺言に「現金1000円はYに遺贈する」と書かれていた。その後Xが死亡し、死亡時の財産が3000万円であった場合、相続財産の総額3000円ですなぜなら、遺贈の1000万円はまだYに贈与されていないので、死亡時の財産に含まれているからです。

そして、YとZの相続分が1500万円ずつなので、Zは1500万円を相続し、Yは1500万円から「遺贈の現金1000万円」を差し引いた500万円を別途相続します(結果的に遺贈の1000万円+500万円=1500万円なので、YとZは公平に分けています。)

本問  本問は、「DがAから遺贈を受けた場合」です。そのため、 「Aが死亡の時において有した財産の価額に遺贈の価額を加えたものを相続財産とみなし」が誤りです。Aが死亡した時の有した財産の中に、遺贈分も含まれているからです。

Aは2010年10月1日に死亡したが、Aには、Dに対する遺贈以外の遺言はなく、その死亡時に妻B、長男C、長女Dおよび次男Eがいた。

エ Eが、生前Aに対して虐待をし、またはAに重大な侮辱を加えた場合には、Eは、欠格者として相続人となることができない。

エ・・・誤り

●虐待、重大な侮辱、著しい非行 → 廃除の対象(欠格ではない)

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)が、被相続人に対して①虐待をし、若しくは②これに重大な侮辱を加えたとき、又は③推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法892条)。

よって、 Eが、生前Aに対して虐待をし、またはAに重大な侮辱を加えた場合には、Aは、Eの廃除を家庭裁判所に請求できます。虐待や重大な侮辱が理由で「欠格」にはなりません。

欠格とは 相続に関し、不正な利益を得ようと被相続人や他の相続人に対して悪質な行為(殺人、詐欺、強迫、遺言書の偽造・隠匿)をしたり、しようとした者から、相続人の資格を奪う制度です(891条)。

Aは2010年10月1日に死亡したが、Aには、Dに対する遺贈以外の遺言はなく、その死亡時に妻B、長男C、長女Dおよび次男Eがいた。

オ Aの死亡の時から5年以内にB、C、D、Eの協議により遺産分割がなされない場合には、B、C、D、Eは、全員で家庭裁判所に対し遺産分割を申し立てなければならない。

オ・・・誤り

●民法上、遺産分割の期限はない / 単独で家庭裁判所に分割請求ができる

共同相続人は、原則としていつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる(民法907条1項)。そして、遺産の分割について、共同相続人間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。本問は、「共同相続人全員で家庭裁判所に対し遺産分割を申し立てなければならない」となっているので誤りです。単独で行えます。

参考知識 民法上、遺産分割の期限は定められていませんが、相続税法で、原則、10ヶ月以内に納税するように定められているため、通常、それまでに遺産分割協議を終わらせることが多いです。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

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