改正民法に対応済
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものはどれか。
- 甲建物がAからBに引き渡されていない場合に、A・B間の贈与が書面によってなされたときには、Aは、Bからの引渡請求を拒むことはできない。
- 甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡したときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。
- 甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡した後に同建物についてA名義の保存登記をしたときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することができる。
- A名義の登記がなされた甲建物がBに引き渡されたときには、Aは、Bからの甲建物についての移転登記請求を拒むことはできない。
- 贈与契約のいきさつにおいて、Aの不法性がBの不法性に比してきわめて微弱なものであっても、Aが未登記建物である甲建物をBに引き渡したときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。
改正民法に対応済
【答え】:2
【解説】
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。
1.甲建物がAからBに引き渡されていない場合に、A・B間の贈与が書面によってなされたときには、Aは、Bからの引渡請求を拒むことはできない。
1・・・誤り
●公序良俗に反する行為 → 無効
【具体例】 不利関係を維持するための贈与契約 → 公序良俗に反する行為 → 無効
公の秩序又は善良の風俗(公序良俗)に反する法律行為は、無効です(民法90条)。そして、AB間での不倫関係を維持する目的の贈与契約は、公序良俗に反する法律行為にあたるので、無効です。
※ 「公の秩序又は善良の風俗」は、略して「公序良俗」というのですが、分かりやすく言えば「社会の秩序を守るための常識的な考え方」といったイメージです。
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。
2.甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡したときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。
2・・・正しい
●不法な原因で、「未登記建物」の贈与契約を締結し、引渡した → 引渡しが「給付」にあたる → 引渡しが完了すると、不法原因給付が成立し、返還請求できなくなる
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができません (民法708条本文)。
【具体例】 「殺人依頼の対価として金銭を支払った場合」や、「不倫相手になること条件として家を与えた場合」です。殺人や不倫は、不法(反社会的)な事柄です。これを原因(理由)として、金銭や不動産等を与える場合が不法原因給付です。
そして、不法原因給付は、原則、返還請求できません(708条本文)。
【理由】 「返還請求できる」というルールにすると、不法原因を作った者を保護してしまうことになるからです。殺人依頼した者や、不倫相手を作ろうとした者を保護する必要はないから、原則、「返還請求できない」としています。
【本問と判例】 本問では、 AB間での不倫関係を維持する目的で、AがA所有の甲建(未登記)を贈与する契約を締結しています。そして、判例では、未登記建物の場合、「引渡し」は「給付」に当たるとしています。したがって、Aは不法原因給付を行っているため、返還請求できません。
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。
3.甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡した後に同建物についてA名義の保存登記をしたときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することができる。
3・・・誤り
●不法な原因で、「未登記建物」の贈与契約を締結し、引渡した → 引渡しが「給付」にあたる → 引渡しが完了すると、不法原因給付が成立し、返還請求できなくなる / その後、贈与者が保存登記をしても返還請求できない
問252の解説の通り、不倫関係を維持する目的で、AがA所有の甲建物をBに贈与した場合、不法原因給付に当たります。そして、当該建物が未登記であっても、引渡しが完了することで、「給付」したことになるので、それ以降、Aが保存登記をしたとしても、給付した建物の返還を請求することができません。
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。
4.A名義の登記がなされた甲建物がBに引き渡されたときには、Aは、Bからの甲建物についての移転登記請求を拒むことはできない。
4・・・誤り
●不法な原因で、「既登記建物」の贈与契約を締結した → 「引渡し」だけでは「給付」にあたらない → 「引渡し」+「移転登記」で「給付」したことになる
判例によると、不法原因給付の目的物が、「登記された建物(既登記建物)」の場合、「給付」とみなされるのは、「引渡し」と「移転登記」が完了したときとしています。「引渡し」だけでは「給付」には当たりません。よって、A名義の登記がなされた甲建物がBに引き渡されただけであれば、Aはまだ「給付」を完了していないので、Bからの移転登記請求を拒むことはできます。
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。
5.贈与契約のいきさつにおいて、Aの不法性がBの不法性に比してきわめて微弱なものであっても、Aが未登記建物である甲建物をBに引き渡したときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。
5・・・誤り
●不法原因給付において、「給付者」と「受益者」との不法の度合いを比べて、「給付者」の不法が微弱の場合(=受益者の不法性が著しく大きい場合) → 給付者の返還請求が認められる
不法原因給付のルールは、給付者がその不法原因にみずから積極的に関与した場合、不法原因の張本人を保護する必要性は低いため、返還請求を認めないこととしています。そのため、民法708条では、不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が「受益者についてのみ」に存在したときは、給付者は返還請求できる(民法708条)。としています。
では、給付者(本問では贈与者A)の不法が、受益者Bの不法と比べて微弱だった場合(受益者Bの不法が著しく大きい場合)、どうなるか?
【判例】 判例では、受益者Bの不法の方が著しく大きい場合には、給付者は民法708条ただし書きにより返還請求権を行使できるとしています。よって、AはBからの移転登記請求を拒むことはできます。
平成25年度(2013年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 法の下の平等 | 問33 | 民法 |
| 問4 | 憲法と私法上の行為 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 権力分立 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 国会 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法・精神的自由 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法等 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 法改正のより削除 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・経済 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・社会 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・政治 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
