狭義の訴えの利益に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 都市計画法に基づく開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によっても失われない。
- 市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない。
- 公文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該公文書が裁判所に書証として提出された場合でも失われない。
- 土地収用法による明渡裁決の取消しを求める利益は、明渡しに関わる代執行の完了によっても失われない。
- 衆議院議員選挙を無効とすることを求める利益は、その後に衆議院が解散され、当該選挙の効力が将来に向かって失われたときでも失われない。
【解説】
●開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によって失われる
【事案】
ブルドーザー等を使って土地を工事(開発行為)する場合、原則、開発許可が必要です。そして、開発許可を受けると、開発行為を行うことができ、その後、工事が完了すると「検査済証の交付」を受けます。これにより土地に関する工事が終了したことになります。その後、工事が完了した土地に建物を建築していくといった流れです。
そして、都市計画法に基づく開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によって失われるか?
【判例】
判例(最判平5.9.10)によると、「開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有する本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないことになるから、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない。」と判示しています。
つまり、開発許可の取消しを求める利益は、開発行為に関する工事の完了によっても失われるので、本問は誤りです。
※ 開発許可が有する本来の効果とは、開発行為をしていいですよ!とGoサインのイメージです。そして、開発行為が終わったら、このGoサインの効果も意味がなくなり、消滅します。
児童・保護者の保育の実施期間がすべて満了 → 保育所を廃止する条例制定に対する取消訴訟について訴えの利益は失う
【事案】
横浜市Yは、自らが設置する保育所のうち4つの保育所を平成16年3月31日かぎりで廃止する旨の条例を制定した。
本件改正条例の施行によって、当該保育所は廃止され、社会福祉法人が当該保育所の運営を引き継いだ。
これに対して保育所で保育を受けていた児童およびその保護者であるXらは、当該改正条例の制定行為は、「自らが選択した保育所において保育を受ける権利」を違法に侵害すると主張して、本件制定行為の取消訴訟を提起した。
児童・保護者の保育の実施期間がすべて満了した場合、訴えの利益は失うか?
【判例】
判例(最判平21.11.26)によると「上告人ら(原告ら:児童と保護者)に係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるから、本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである」
と判示しています。したがって、本問の「市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める利益は、原告らに係る保育の実施期間がすべて満了したとしても失われない」は妥当ではありません。
公文書の非公開決定の取消訴訟で、当該公文書が書証として提出されたとしても、訴えの利益は消滅しない
【事案】
条例に基づき公文書の公開請求をしたが、非公開決定をした。そして、この非公開決定についての取消訴訟の裁判で、当該公文書が、証拠書類として裁判所に提出された場合、取消訴訟の訴えの利益は消滅するか?
【判例】
判例によると「公開請求権者は、本件条例に基づき公文書の公開を請求して、所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し、又は写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきである。
そのため、請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証(証拠書類)として提出されたとしても、当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではない」と判示しています。
つまり、公開請求権者は、訴訟を起こせば、証拠書類として公文書を見ることができますが、訴訟を起こさなくても公文書公開条例に基づいて公文書の公開を請求して、請求した公文書を閲覧したり、公文書のコピーを受け取ることを求める法律上の利益があるということです。したがって、本問の「公文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該公文書が裁判所に書証として提出された場合でも失われない」は妥当です。
●明渡裁決の対象となった土地等について代執行による引渡し等が完了した後 → 明渡裁決に関する取消訴訟の訴えの利益は消滅する
【事案】 土地収用とは、公共事業などのために、起業者(国等)が、私人の土地建物を強制的に買収していくことを言います。
ある土地の所有者Xの土地建物について、土地収用が行われることになり、起業者がXに対して、明渡裁決に基づき、明渡請求をした。しかし、明け渡さないので、代執行により、引渡し(明渡し)等を完了させた。
この場合、明渡裁決に関する取消し訴訟について、Xの訴えの利益は消滅するか?
【判例】 判例(名古屋地判平5.2.25)によると、「明渡裁決は、裁決時における土地等の占有者に対し、裁決で定められた明渡しの期限までに土地等の引渡し又は物件の移転をするという作為義務(明渡す義務)を課すものにすぎず、明渡後における起業者による土地等の占有、使用を受忍する義務をも課しているものではない。そして、いったん土地等の明渡しが完了すれば明渡裁決の効果としての土地等の占有者の作為義務(明渡す義務)はもはや存続していないから、明渡裁決の対象となった土地等について代執行による引渡し等が完了した後は、同裁決の取消しを求める訴えの利益は失われる」
と判示しています。
【判例理解】 明渡裁決は、明渡す義務を発生させる効果があり、明渡てしまったら(代執行が完了したら)、明渡義務は消滅しており、明渡裁決を取り消す意味がありません。そのため、代執行の完了により、訴えの利益は消滅します。よって、本問は誤りです。
●衆議院解散 → 以前行った衆議院議員選挙の無効の訴えの利益は失われる
【事案】 衆議院議員選挙が行われたが一票の格差を理由に選挙の無効を訴えた。
しかし、その後、当該選挙に関する衆議院が解散された場合、上記選挙無効の訴えについて訴えの利益はあるか?
【判例】 判例(最判平17.9.27)によると「衆議院解散によって本件選挙の効力は将来に向かって失われたものと解すべきであるから、衆議院議員選挙の無効の訴えについては、訴えの利益が失われたというべきである」と判示しています。
衆議院が解散してしまったのであれば、その衆議院議員の選挙自体、その後無効になり、衆議院議員の議員としての地位は消滅します。だから、この選挙を訴えて無効判決を得たところで、以前選ばれた衆議院議員の議員としての地位を消滅させる効果しかなく、意味のない訴訟となります。よって、衆議院の解散によって、選挙無効の訴えの利益も消滅します。
したがって、本問は誤りです。
平成26年度(2014年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 幸福追求権など | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 経済的自由 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 投票価値の平等 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 内閣 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政調査 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法等 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 損失補償 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・経済 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・社会 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
