改正民法に対応済
Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件売買契約」という。)が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。(民法改正により複数回答可)
- AはBの強迫によって本件売買契約を締結したが、その後もBに対する畏怖の状態が続いたので取消しの意思表示をしないまま10年が経過した。このような場合であっても、AはBの強迫を理由として本件売買契約を取り消すことができる。
- AがBの詐欺を理由として本件売買契約を取り消したが、甲土地はすでにCに転売されていた。この場合において、CがAに対して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺につき知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなく、また、対抗要件を備えていなければならない。
- AがDの強迫によって本件売買契約を締結した場合、この事実をBが知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなかったときは、AはDの強迫を理由として本件売買契約を取り消すことができない。
- AがEの詐欺によって本件売買契約を締結した場合、この事実をBが知っていたとき、または知らなかったことにつき過失があったときは、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消すことができる。
- Aは未成年者であったが、その旨をBに告げずに本件売買契約を締結した場合、制限行為能力者であることの黙秘は詐術にあたるため、Aは未成年者であることを理由として本件売買契約を取り消すことはできない。
【解説】
Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約が締結された。
1.AはBの強迫によって本件売買契約を締結したが、その後もBに対する畏怖の状態が続いたので取消しの意思表示をしないまま10年が経過した。このような場合であっても、AはBの強迫を理由として本件売買契約を取り消すことができる。
1・・・妥当
●取消権 → ①追認することができるときから5年、または、②行為の時から20年経過で、消滅する
「追認をすることができる時」= 取消しの原因となっていた状況が消滅した時を指す
畏怖が続いている状態 → 追認をすることができる時は到来していない
取消権は、①「追認をすることができる時」から5年間行使しないときは、時効によって消滅します。また、②行為の時から20年を経過したときも、同様に取消権は消滅します。 そして、「追認をすることができる時」とは、 取消しの原因となっていた状況が消滅した時を指します。そのため、畏怖の状態(強迫されてる状態)が続いている場合、 「追認をすることができる時」には至っていないので、時間はスタートしません。よって、畏怖の状態が続き、取消しの意思表示をしないまま10年が経過しても、取消権は消滅しないので、誤りです。
ちなみに、契約を締結してから20年を経過すると、②を理由に取消権は消滅します。
Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約が締結された。
2.AがBの詐欺を理由として本件売買契約を取り消したが、甲土地はすでにCに転売されていた。この場合において、CがAに対して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺につき知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなく、また、対抗要件を備えていなければならない。
2・・・妥当ではない
●「詐欺」と「取消し前の第三者」との関係 → 第三者が善意無過失であれば保護される
【状況理解】 本問は時系列が重要です。「AがBの詐欺を理由としてAB間の売買契約を取り消したが、甲土地はすでにCに転売されていた」ということは、「②転売がなされた後に、③取消しをした」という流れです。
つまり、第三者Cは取消し前に現れているので、「取消し前の第三者」です。詐欺の場合、取消し前の第三者は善意無過失であれば保護され、善意無過失でなければ、保護されません(民法96条2項)。
本問は、第三者Cが善意無過失なので、それだけで保護され、登記の有無は関係ありません。
よって、「また、対抗要件(登記)を備えていなければならない。」が誤りです。CがAに対して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺につき善意無過失であれば足ります。
【関連ポイント】 詐欺取消し後に、第三者が現れた場合、どのように処理するか?
結論は、詐欺取消し後に第三者が現れた場合、二重譲渡の対抗関係と同じ考え方をして、登記を備えた者が保護されます。
右図の①~③が時間の流れですが、「②契約の取消し」の後に
「③BはCに売却」しているので、Cは取消し後の第三者です。
この場合、「②契約の取り消し」により、所有権がBからAに戻り(復帰し)、
一方、③売却により所有権がBからCに移転します。
つまり、土地の所有権をめぐって、AとCが争うわけです。
この場合、Bを基点とする二重譲渡の対抗関係と考えることができるので、登記の先後により優劣が決まります(先に登記を備えたほうが勝つ)。二重譲渡の関係では、善意・悪意は関係ありません。また、過失の有無も関係ありません。
Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約が締結された。
3.AがDの強迫によって本件売買契約を締結した場合、この事実をBが知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなかったときは、AはDの強迫を理由として本件売買契約を取り消すことができない。
3・・・妥当ではない
●第三者の強迫による意思表示は、相手方の善意・悪意に関係なく、強迫を受けた者は取り消すことができる
Aは第三者Dからの強迫により、売買契約を締結しています。
詐欺の場合は、相手方が善意無過失の場合、相手方が保護されました。それは、だまされた本人に落ち度があるからです。
一方、強迫の場合、強迫を受けた者Aは、どうすることもできず、落ち度がないため、相手方の善意・悪意関係なく、強迫を受けたAを保護するとしています。よって、Aは、AB間の契約を取り消すことができます。
Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約が締結された。
4.AがEの詐欺によって本件売買契約を締結した場合、この事実をBが知っていたとき、または知らなかったことにつき過失があったときは、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消すことができる。
4・・・妥当
第三者Eから詐欺を受けた場合、相手方Bが善意無過失のとき、詐欺を受けた者Aは取り消すことができない
相手方Bが善意無過失でないとき(悪意または有過失のとき)、詐欺を受けた者Aは取消しできる
第三者Eから詐欺を受けた場合、相手方Bが「詐欺の事実について」
善意無過失の場合(過失なく知らない場合)、相手方Bが保護され、AはAB間の契約を取消すことができません。
一方、Eの詐欺について、相手方Bが知っている場合(悪意)や、知らなくても過失があった場合(有過失)は、Bを保護するより、だまされたAを保護する方が妥当(Aの方がかわいそう)なので、Aを保護します(AはAB間の契約の取消しを主張できる)。ここで、本問を見ると「Bが知っていたとき、または知らなかったことにつき過失があったとき」となっているので、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消すことができます。
Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約が締結された。
5.Aは未成年者であったが、その旨をBに告げずに本件売買契約を締結した場合、制限行為能力者であることの黙秘は詐術にあたるため、Aは未成年者であることを理由として本件売買契約を取り消すことはできない。
5・・・妥当ではない
●制限行為能力者が詐術を用いて契約した → 取り消すことができる行為であっても、取り消すことができなくなる
●制限行為能力者である旨を告げなかっただけ → 詐術に当たらない
【詐術の基礎知識】 未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人すべてにおいて言えることで、制限行為能力者が、詐術を用いて(相手をだまして)契約した場合は、制限行為能力者は保護されず、あとで、取り消すことはできません。(例外的に取消しできない)
制限行為能力者であっても、「自分は行為能力者だ!」「保護者の同意を得たよ」等と、相手方をだました場合、その意思表示は取り消すことができないということです!
【本問の内容】 本問では、「未成年者である旨を相手方Bに告げずに本件売買契約を締結した」場合です。このように「制限行為能力者である旨を告げなかったこと」が詐術に当たるかが問題となります。
この点について、判例では、黙秘をしていただけでは詐術には当たらず、①黙秘をし、かつ、②他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときに詐術に当たるとしています。つまり、①黙秘+②他の言動がなければ、詐術には当たらないということです。よって、Aは未成年者であることを理由として本件売買契約を取り消すことはできます。
平成26年度(2014年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 幸福追求権など | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 経済的自由 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 投票価値の平等 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 内閣 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政調査 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法等 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 損失補償 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・経済 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・社会 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |





