改正民法に対応済
代物弁済(担保目的の代物弁済契約によるものは除く。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が所有する土地を譲渡した場合、土地所有権の移転の効果は、原則として代物弁済契約の意思表示によって生じる。
- 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が所有する土地を譲渡した場合、債務消滅の効果は、原則として移転登記の完了時に生じる。
- 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が占有する時計を引き渡した場合、当該時計が他人から借りた時計であったとしても、債権者が、善意、無過失で、平穏に、かつ、公然と占有を開始したときには、時計の所有権を取得できる。
- 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が所有する時計を引き渡した場合、その時計に契約内容に適合しない瑕疵があるときでも、債権者は、債務者に対し契約不適合責任を追及することはできない。
- 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて手形または小切手を交付した場合、これによって債務消滅の効果が生じるので、それらの不渡りがあっても、債権者は、債務者に対し損害賠償を請求することはできない。
【解説】
1・・・妥当
●代物弁済による債務消滅の効果 → 所有権移転登記手続を完了した時に生ずる
お金を借りたらお金で返すのが筋ですが、民法ではお金以外のモノ(例えば不動産)で弁済しても有効としています。これを「代物弁済」と言います。漢字のとおり「代わりに物で弁済する」ということです。
そして、不動産を用いて代物弁済をした場合、「いつ所有権が移転するのか?」「いつ債務が消滅するのか?(いつ代物弁済が成立するか?)」が問題となります。
■いつ所有権が移転するのか? → 原則、当事者間の代物弁済契約の成立した時に、所有権が移転します。よって、本問は正しいです。
■いつ債務が消滅するのか?(いつ、代物弁済が成立するか?) → 特段の事情のない限り、単に代物弁済契約の意思表示をするだけでは生ぜず、所有権移転登記手続を完了した時に生ずるとしています。
【参考知識】
「所有権の移転」については、「物権変動」なので「物権」に関する内容です。
一方、「代物弁済による債務消滅」は「債権債務」の話なので「債権」に関する内容です。
つまり、「物権」と「債権」を分けて考えることが重要です。
2・・・妥当
●代物弁済による所有権移転の効果 → 代物弁済契約の成立時に生ずる
●代物弁済による債務消滅の効果 → 所有権移転登記手続を完了した時に生ずる(本問)
選択肢1の類題です。
■いつ債務が消滅するのか?(いつ、代物弁済が成立するか?) → 特段の事情のない限り、単に代物弁済契約の意思表示をするだけでは生ぜず、所有権移転登記手続を完了した時に生ずるとしています。
よって、本問は正しいです。
3・・・妥当
●即時取得の要件の一つ : 代物弁済契約も「取引行為」にあたる
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得します(「即時取得」という)(民法192条)。つまり、即時取得の成立要件をまとめると下表のとおりで、この要件をすべて満たすと、動産を占有した者は、その動産の所有権を取得します。「要件1」について、対象は時計なので動産です。「要件2」について、債務者(前主)は、時計の所有者ではなく他人から借りているだけです。つまり、代物弁済するについて無権利者です。「要件3」について、判例では、代物弁済も取引行為に当たるとしています。「要件4」について、債権者は、占有を開始しています。「要件5」について、債権者は、平穏・公然・善意・無過失です。よって、すべての要件を満たしているので、債権者は、即時に時計の所有権を取得します。
即時取得の要件
4・・・妥当ではない
●代物弁済も契約なので、契約不適合責任が適用される
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、代物弁済の債権者は、「①追完請求」「②代金減額請求」「③損害賠償請求や④契約解除」ができます(民法559、562~564条)。
よって、債権者は、債務者に対し、責任を追及することはできないというのは誤りです。責任追及の内容は①~④です。
5・・・妥当
●手形・小切手の交付 = 代物弁済による債務消滅の効果が生ずる
判例によると、「弁済(支払い)に代えて、手形や小切手を交付した場合、代物弁済したことになる」としており、これによって、債権債務の効力が生じます。したがって、それらの不渡りがあっても(小切手を銀行に持っていってお金をもらえなかったとしても)、債権者は、債務者に対し損害賠償を請求することはできません。
平成27年度(2015年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 外国人の人権 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 基本的人権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 憲法9条 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 司法の限界 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 財政 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政立法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
