司法権の限界に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし、妥当でないものをすべて選べ。(改題)
- 具体的な権利義務ないしは法律関係に関する紛争であっても、信仰対象の価値または教義に関する判断が前提問題となる場合には、法令の適用による解決には適さず、裁判所の審査は及ばない。
- 大学による単位授与行為(認定)は、純然たる大学内部の問題として大学の自律的判断にゆだねられるべきものであり、一般市民法秩序と直接の関係を有すると認めるにたる特段の事情がない限り、裁判所の審査は及ばない。
- 衆議院の解散は高度の政治性を伴う国家行為であって、その有効無効の判断は法的に不可能であるから、そもそも法律上の争訟の解決という司法権の埒外にあり、裁判所の審査は及ばない。
- 政党の結社としての自律性からすると、政党の党員に対する処分は原則として自律的運営にゆだねるべきであり、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的問題にとどまる限りは、裁判所の審査は及ばない。
- 地方議会議員の出席停止処分は、除名とは異なり議員の権利行使の一時的制約にすぎず、議会の内部規律の問題として自治的措置にゆだねるべきであるから、裁判所の審査は及ばない。
【解説】
判例によると
「信仰対象の価値または教義に関する判断が前提問題となる場合、法令の適用による終局的な解決は不可能である」
として、裁判所の審査は及ばないとしています。
判例では
「大学における授業科目の単位授与(認定)行為は、一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、司法審査の対象にならない。」
と判示しています。
したがって、本肢は妥当です。
衆議院の解散 = 国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為 → 政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている → 裁判所による司法審査は及ばない
判例(最大判昭35.6.8)では、「国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為(=衆議院の解散)は、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にある。
そして、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の判断は、主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている。ここで、衆議院の解散は、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為である。
したがって、裁判所の審査権の外にある(裁判所による司法審査は及ばない)。」と判示しています。
よって、本問は「その有効無効の判断は法的に不可能であるから」という部分が誤りです。
【分かりやすくいうと】
裁判所が有効無効を判断を下すことはできるが、
衆議院の解散は、国家統治の基本に関する高度に政治性のある行為であり、
このような行為は裁判所の審査権の対象外とされます。
その理由は、これらの判断は政府や国会などの政治部門に委ねられるべきであり、最終的には主権者である国民の政治的判断によって決定されるからです。
つまり、裁判所が判断は下すことはできるけど
あえて、このような高度な政治判断には介入しない、ということです。
●政党内部の行為(政党が党員に対してした処分) → 原則:司法審査は及ばない /
例外:一般市民法秩序と直接の関係を有する場合は、司法審査が及ぶ判例(最判昭63.12.20)では、
「政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない。
政党の性質、目的からすると、自由な意思によって政党を結成し、あるいはそれに加入した以上、党員が政党の存立及び組織の秩序維持のために、自己の権利や自由に一定の制約を受けることがあることもまた当然である。
そして、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名処分等の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当である。
したがって、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない。」としています。よって、本問は正しいです。【分かりやすくいうと】
政党は、自主的に組織を運営していき、政党自らの規律をもって管理する自由があります。そのため、政党の党員を処分する行為は、内部的な問題であれば、政党内部の話なので、裁判所は審査しません。
■逆に、例えば、違法な手続きによって、議員Aの議員報酬が減額された場合(懲罰を受けた場合)
その懲罰の適否の問題は、一般市民法秩序と直接の関係を有するといえます。
普通の会社員と同じように、理由もなく給料が下げられた場合と同じように裁判で争えるイメージです。
●地方議会議員に対する出席停止処分 → 議会内部の話ではない → 裁判所の審査は及ぶ
【議会が、地方議会議員を出席停止処分にしたことは、裁判所の審査は及ぶか?】
判例(最大判令2.11.25)によると、「出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない(=議会内部の話ではない)」と判示しています。したがって、「出席停止処分については、裁判所の審査は及ぶ(司法審査の対象となる)」が正しいです。
<なぜ、地方議会の出席停止処分が議会内部の話とはならないのか?>
その理由は、下記の通りです。
議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、議会に参加し、議決に加わるなどして、住民の代表として、住民の意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負う
また、
出席停止の懲罰が科されると、当該議員は議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる
これは、住民にも大きな影響があることから、議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきではない(議会内部の話ではない)としています。
「最大判令2.11.25:地方議会議員出席停止事件」の事案と解説はこちら>>
平成27年度(2015年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 外国人の人権 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 基本的人権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 憲法9条 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 司法の限界 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 財政 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政立法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |

