裁判による行政上の義務履行確保について、最高裁判所の判決に照らし、妥当な記述はどれか。
- 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、法令の適用により終局的に解決することができないから、法律上の争訟に該当しない。
- 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、このような訴訟を提起することを認める特別の規定が法律にあれば、適法となりうる。
- 国又は地方公共団体が財産権の主体として国民に対して義務履行を求める訴訟は、終局的には、公益を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものではないから、法律上の争訟には該当しない。
- 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、行政上の義務履行確保の一般法である行政代執行法による代執行が認められる場合に限り、不適法である。
- 国又は地方公共団体が財産権の主体として国民に対して義務履行を求める訴訟は、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるわけではないが、現行法上、こうした訴訟を認める特別の規定があるため、提起することが許されている。
【解説】
本問はすべて「宝塚市パチンコ条例事件」に関する内容です。
1・・・妥当ではない
宝塚市Xの条例に「パチンコ店等の建築物を建築するためには市長の同意を必要とし、この規定に違反して建築しようとする者に対し、市長は建築の中止、原状回復その他必要な措置を講じるよう命じることができる」旨の規定があった。
宝塚市長は、上記規定に違反してパチンコ店を建築しようとするYに対して、その建築工事の中止を命じた。
しかし、Yがこれに従わなかったため、宝塚市Xは、Yに対して、建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。
①法律上の争訟にあたるか?
②この民事訴訟は適法か?不適法か?
【判例】
判例では、下記のように言っています。
そうだとすると、国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきである。
分かりやすくいうと、「裁判の対象は、法律上の争訟である必要がある。法律上の争訟とは、1)当事者間の所有権等の対抗関係や所有権等の存否に関する紛争で、かつ、2)法令を使って最終的に解決できるものです。
そうだとすると、国などが提起した訴訟で、財産権(所有権など)を対象として、所有権を主張するような場合は、法律上の争訟に当たるというべき」ということです。
さらに、続いて、今回の裁判については、下記のように判示しています(判例で示しています)。
分かりやすくいうと、今回の宝塚市Yの裁判は、「行政権(建築工事の続行禁止を求める権利)」を対象として、国民Xに対して、義務履行を求める訴訟です。この訴訟は、「法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的」である。
上記に記載した、「財産権(所有権)などを主張して、自己の権利利益の保護救済を目的」とするものではない。
したがって、法律上の争訟に該当せず、裁判所で裁判するものではないと言っています。
ここで、問題文を見ると、「法律上の争訟に該当しない理由」は「法令の適用により終局的に解決することができないから」と書いてありますが、これは誤りです。今回の宝塚市の訴訟において、 「法律上の争訟に該当しない理由」は「法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的」とするからです。よって、妥当ではありません。
また、問題にはなっていませんが、②法律上の争訟ではないので、今回の宝塚市の訴訟は、不適法です。
●行政権を主体通して、国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟 → 法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許される
判例では、下記のように示しています。
つまり、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、このような訴訟を提起することを認める特別の規定が法律にあれば、適法となる可能性があります。(=原告適格や被告適格、提訴期間の要件を満たせば適用になる)
3.国又は地方公共団体が財産権の主体として国民に対して義務履行を求める訴訟は、終局的には、公益を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものではないから、法律上の争訟には該当しない。
3・・・妥当ではない
判例では「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たる」としています。よって本問は「法律上の争訟に該当しない」となっているので誤りです。
●「行政権」の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟 → 法律に特別の規定がある場合に限り、適法「行政代執行法による代執行が認められる場合に限り、不適法」という記述は妥当ではありません。
正しくは、「法律に特別の規定がない場合、不適法」言い方を変えると、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、「法律に特別の規定がある場合に限り、適法」と言うことです。5.国又は地方公共団体が財産権の主体として国民に対して義務履行を求める訴訟は、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるわけではないが、現行法上、こうした訴訟を認める特別の規定があるため、提起することが許されている。
●財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合 → 法律上の争訟に当たる判例では「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たる」と判示しています。
つまり、本問の「法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるわけではない(=当たり前に裁判所の審判の対象とはならない)」は妥当ではありません。
平成27年度(2015年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 外国人の人権 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 基本的人権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 憲法9条 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 司法の限界 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 財政 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政立法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
