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平成28年・2016|問21|損失補償

損失補償に関する次の記述のうち、法令および最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 火災の際の消防活動において、消防長等は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときは、消防対象物ないし延焼対象物以外の建築物等を破壊することができるが、当該行為は延焼を防ぐために必要な緊急の措置であるため、損害を受けた者は、消防法による損失補償を請求することができない。
  2. 都市計画法上の用途地域の指定について、土地の利用規制を受けることとなった者は、当該都市計画を定める地方公共団体に対して、通常生ずべき損害の補償を求めることができる旨が同法に規定されているため、利用規制を受けたことによって被った損失の補償を求めることができる。
  3. 都市計画事業のために土地が収用される場合、被収用地に都市計画決定による建築制限が課されていても、被収用者に対して土地収用法によって補償すべき相当な価格とは、被収用地が、建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいう。
  4. 土地収用による損失補償の額を不服として、土地所有者または関係人が訴えを提起する場合には、補償額を決定した裁決を行った収用委員会の所属する都道府県を被告として、裁決の取消しの訴えを提起する必要がある。
  5. 道路管理者である地方公共団体が行った地下横断歩道の新たな設置によって自己の所有する地下埋設ガソリンタンクが消防法の規定違反となり、事業者が当該ガソリンタンクを移転した場合には、事業者は、移転に必要な費用につき道路法による損失補償を求めることができる。

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【答え】:3

【解説】

1.火災の際の消防活動において、消防長等は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときは、消防対象物ないし延焼対象物以外の建築物等を破壊することができるが、当該行為は延焼を防ぐために必要な緊急の措置であるため、損害を受けた者は、消防法による損失補償を請求することができない。
1・・・妥当ではない
●火災の際の消防活動において、消防長等は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときは、消防対象物ないし延焼対象物以外の建築物等を破壊することができるが、損失補償しないといけない判例(最判昭47.5.30)では、「消防対象物および土地以外の消防対象物および土地(近隣の土地建物)について、
消防長等が、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときに、
これを使用し、処分し(破壊し)またはその使用を制限(建物から出て使用しないください!と命令)した場合には、
そのために損害を受けた者からその損失の補償の要求があれば、その損失を補償しなければならないことが明らかである。」
と判示しています。したがって、緊急措置であっても、損失補償を請求できるので、誤りです。

2.都市計画法上の用途地域の指定について、土地の利用規制を受けることとなった者は、当該都市計画を定める地方公共団体に対して、通常生ずべき損害の補償を求めることができる旨が同法に規定されているため、利用規制を受けたことによって被った損失の補償を求めることができる。
2・・・妥当ではない
●用途地域の指定 → 損失補償の請求はできない都市計画で、用途地域が指定されたことで土地の利用が規制された場合、
一定の建物が建てられなくなったとしてもそれによって損失補償を請求することはできません

理解 そもそも、行政行為によって財産上の損失が生じたからといってその全てを補償していたら、国の財政が圧迫されてしまいます。そのため、判例では、下記のように判示しています。

本問の場合、「用途地域が指定」されたのですが、これは、「不特定多数に対する一般的抽象的な制限」であり、個別具体的な制限ではありません。よって、受忍すべき限度を超えていないし、個別的負担もありません。よって、損失補償の対象ではありません。

3.都市計画事業のために土地が収用される場合、被収用地に都市計画決定による建築制限が課されていても、被収用者に対して土地収用法によって補償すべき相当な価格とは、被収用地が、建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいう。
3・・・妥当
●土地収用において補償すべき相当な価格 → 裁決時において有するであろうと認められる価格判例(最判昭48.10.18 )によると
「都市計画事業決定がなされると、都市計画法等に定める建築制限が課せられる。そして、土地収用における損失補償の趣旨からすれば、

被収用者(土地を取られた者)に対し、補償すべき相当な価格とは、
被収用地(取られた土地)が、都市計画事業の決定による建築制限を受けていないとすれば、(権利取得の)裁決時において有するであろうと認められる価格をいうと解すべきである。」
と判示しています。したがって、本問の内容は妥当です。

■裁決時において有するであろうと認められる価格とは?
都市計画の事業決定があってから、実際に土地を買い取る(権利取得の裁決)までには時間がかかります。

その間に、土地の価格が変動することもあるので、損失補償をする場合の基準は、実際に土地を買い取る権利取得の裁決時の価格にしましょう!と判例では言っています。

4.土地収用による損失補償の額を不服として、土地所有者または関係人が訴えを提起する場合には、補償額を決定した裁決を行った収用委員会の所属する都道府県を被告として、裁決の取消しの訴えを提起する必要がある。
4・・・妥当ではない
●土地収用の損失補償額に関する訴訟 → 形式的当事者訴訟 / 起業者が原告または被告になる土地収用の損失補償額の増額を求める訴訟は、形式的当事者訴訟です。

収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければなりません(土地収用法第133条第3項)。
したがって本問は、「都道府県を被告として」という記述が妥当ではありません。正しくは「起業者」です。

「起業者」とは、収用事業の中心的な施行者を言い
都道府県や市町村、大手の土木事業者等があります。

5.道路管理者である地方公共団体が行った地下横断歩道の新たな設置によって自己の所有する地下埋設ガソリンタンクが消防法の規定違反となり、事業者が当該ガソリンタンクを移転した場合には、事業者は、移転に必要な費用につき道路法による損失補償を求めることができる。
5・・・妥当ではない

●ガソリンタンクの移転費用 → 損失補償の対象にはならない

事案

株式会社Yは、国道の交差点付近で、ガソリンスタンドを経営しており、地下にガソリンタンクを設置していた。

その後、国Xが当該交差点に地下道を設置したため、当該ガソリンタンクの位置が消防法等に違反する状態となった。

これにより、Yは、消防局長Aから違反の警告を受けたため、ガソリンタンクの移設工事を行った。

この移設工事費用は損失補償の対象となるか?

判例

判例(最判昭58.2.18)によると、「補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした工作物の移転等に起因する損失に限られる」としています。

つまり、「①道路工事のために除去が必要→②工作物の移転工事」と言う風に道路工事のために直接的に除去が必要な場合は損失補償の対象ですが、

今回の事案では、「①道路工事→②法令違反となる→③移設工事をした」と言う風に、「道路工事のために必要な除去」ではなく、道路工事をした結果生じたことなので損失補償の対象外です。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

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