改正民法に対応済
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合における時効の援用権者に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものの組合せはどれか。
ア Aが甲債権の担保としてC所有の不動産に抵当権を有している場合、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。
イ 甲債権のために保証人となったDは、甲債権が消滅すればAに対して負っている債務を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。
ウ Bの詐害行為によってB所有の不動産を取得したEは、甲債権が消滅すればAによる詐害行為取消権の行使を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
エ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、Aの後順位抵当権者Fは、Aの抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
オ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、同不動産をBから取得したGは、甲債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
- ア・イ
- ア・エ
- イ・オ
- ウ・エ
- ウ・オ
【解説】
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、
ア Aが甲債権の担保としてC所有の不動産に抵当権を有している場合、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。
結論からいうと、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分(競売)を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができます。 「物上保証人は消滅時効を援用できる」とそのまま覚えて大丈夫です。
まず、物上保証人とは、他人の債務のために自分の財産の上に抵当権等を設定した者を言います。
債権者Aが債務者Bに対して1000万円を貸したとします。Bは保証のための不動産を持っていないので、Bの親であるCが所有する土地を担保としました(土地に抵当権を設定)。この場合、Cが物上保証人です。万一、Bが期限までに1000万円を返さない場合、Aは抵当権を実行して(競売にかけて)Cの土地の競売代金からお金を回収することができます。
物上保証人は、保証人と異なり自分で債務を負担しません。
言い換えると、物上保証人は「債務者ではない」です。
つまり、Bがお金を返さないからといって、物上保証人Cは、Aから請求される債務を負いません。
単に土地が競売にかけられて売られてしまうだけです。
もし、この土地が400万円にしかならなくても、物上保証人Cはそれ以上の責任を負うわけではありません。
■時効を援用できる当事者とは、具体的には、「取得時効により権利を取得する者」「消滅時効により義務を免れる者」を指し、さらに、消滅時効では「債務者以外に以下の4者」も含みます。
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、
イ 甲債権のために保証人となったDは、甲債権が消滅すればAに対して負っている債務を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。
選択肢アの通り、保証人は消滅時効を援用できるので、正しいです。これもそのまま覚えてしまって大丈夫です。
時効を援用できる者とは、「時効により直接に利益を受ける者」です。選択肢アの表の1~4は、被担保債権が消滅することで、直接、利益を受ける者です。
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、
ウ Bの詐害行為によってB所有の不動産を取得したEは、甲債権が消滅すればAによる詐害行為取消権の行使を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
結論からいうと、詐害行為取消権を行使する債権者Aの被保全債権が消滅すれば、債権者Aは詐害行為取消権を行使することができなくなり、受益者Eは利益喪失を免れることができる地位にあるといえます。つまり、受益者Eは被保全債権(本問の甲債権)の消滅によって直接利益を受ける者にあたり、この債権について消滅時効を援用することができます。 「詐害行為取消請求における受益者は消滅時効を援用できる」とそのまま覚えて大丈夫です。
詐害行為取消請求について具体例を出して解説します。
①AはBに100万円を貸した(Aは貸金債権を有している)。その後、弁済期が到来したにも関わらず、BはAに100万円を弁済しなかった。Bは唯一の財産である2000万円の甲地を有していたが、そのまま所有し続けると、Aに差し押さえられてしまうので、②Bは甲地をCに売却した。
この状況で、Aを債権者、Bを債務者、Cを受益者と呼びます。
※受益者は、「その行為によって利益を受けた者」という言い方もします。
ここで、AがBに100万円を貸したのは、Bが甲地を所有しており、万一返せなくても、この土地を差し押さえて、返してもらおうと期待できたからでしょう。
それにも関わらず、Bが甲地を売却してしまったら、Aは甲地を差し押さえて、100万円を回収するという事ができなくなってしまいます。それではAの利益を害するし、またBは明らかにAを害するためにこのような行為をしているわけなので、Bを保護する必要性は低いです。
※Aは貸金債権を保全したい:回収できるようにしたい→貸金債権を「被保全債権」と呼ぶ
そこで、民法では、債務者BがAを害することを知ってした行為(Cへの売却)について、債権者Aは、取り消すことができるとしています。これが「詐害行為取消権」です。具体的には、③債権者Aが裁判所に、詐害行為取消請求の訴えをし、④訴えが認められれば、取消判決となり、BC間の売買契約は取り消されます。
この「債務者BがAを害することを知ってした行為」を「詐害行為」と言います。
ただし、例外として、詐害行為について受益者Cが知らなかった場合(善意)、債権者Aは詐害行為取消権を行使できません。
そして、詐害行為(BC間の売買契約)が取消された場合、受益者Cは、反対給付(Bに支払った代金)の返還を請求することができます。
上の事例で考えると、判例では「詐害行為取消権を行使する債権者Aの被保全債権(貸金債権)が消滅すれば、受益者Cは利益喪失を免れることができる地位にあるから、受益者は被保全債権の消滅によって直接利益を受ける者にあたり、この債権について消滅時効を援用することができる」としています。
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、
エ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、Aの後順位抵当権者Fは、Aの抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
結論からいうと、後順位抵当権者は、抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しない(反射的利益にすぎない)ため、甲債権につき消滅時効を援用することができません。「後順位抵当権者は消滅時効を援用できない」とそのまま覚えて大丈夫です。
後順位抵当権者とは、一番抵当権者を基準とした場合の、二番抵当権者です。簡単に言えば、あとから抵当権を設定した者です。
①AはBに1000万円を貸し、B所有の土地に抵当権を設定した。・・・Aが1番抵当権者となる
②その後、FがBに400万円を貸し、同じ土地に抵当権を設定した。・・・Bが2番抵当権者となる
この状況で、競売にかかり、土地が1000万円で競落(落札)された場合、1番抵当権者Aが1000万円の配当を受け、2番抵当権者Fは1円も配当を受けることができません。
もし、1番抵当権者Aの①被担保債権が消滅時効にかかって、①の被担保債権が消滅したと仮定すると、1番抵当権者がいなくなり、Fが1番抵当権者となります。その結果、Fは400万円の配当を受けることができます。
【判例】 しかし、判例では、先順位抵当権者Aの被担保債権(上図の①:甲債権)が時効によって消滅し、その結果として、後順位抵当権者の順位が上がり(Fが2番抵当権者から1番抵当権者に上がり)、配当額が増加するという利益はあるが、この利益は、直接的な利益ではなく、抵当権の順位上昇によってもたらされる反射的(間接的)な利益にすぎないとして、後順位抵当権者は消滅時効を援用できないとしています。
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、
オ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、同不動産をBから取得したGは、甲債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
結論から言えば、「抵当権が設定された不動産」を取得した者Gは、抵当権の被担保債権(甲債権)が消滅することで、抵当権も消滅し、競売にかけられることがなくなるという、直接的な利益を受けるため、消滅時効を援用できます。
AがBに対して、お金を貸し、①B所有の土地に、抵当権者をAとして抵当権を設定した、その後、②抵当権が付着した土地を、GがBから購入した。
もし、Aの被担保債権が消滅時効により消滅したら結果として、抵当権が消滅し、Gは、競売にかけられることがなくなるという直接的な利益を受けるため、Gは、消滅時効を援用できます。
※「被担保債権」とは、抵当権等によって保証されている債権を言います。
平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 国民審査 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | プライバシー権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 国会 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 信教の自由 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政裁量 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政事件訴訟法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法改正により削除 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政事件訴訟法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・公文書管理法 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |





