改正民法に対応済
不法行為に基づく損害賠償に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。
ア 使用者Aが、その事業の執行につき行った被用者Bの加害行為について、Cに対して使用者責任に基づき損害賠償金の全額を支払った場合には、AはBに対してその全額を求償することができる。
イ Dの飼育する猛犬がE社製の飼育檻から逃げ出して通行人Fに噛みつき怪我を負わせる事故が生じた場合において、Dが猛犬を相当の注意をもって管理をしたことを証明できなかったとしても、犬が逃げ出した原因がE社製の飼育檻の強度不足にあることを証明したときは、Dは、Fに対する損害賠償の責任を免れることができる。
ウ Gがその所有する庭に植栽した樹木が倒れて通行人Hに怪我を負わせる事故が生じた場合において、GがHに損害を賠償したときは、植栽工事を担当した請負業者Ⅰの作業に瑕疵があったことが明らかな場合には、GはⅠに対して求償することができる。
エ 運送業者Jの従業員Kが業務として運転するトラックとLの運転する自家用車が双方の過失により衝突して、通行人Mを受傷させ損害を与えた場合において、LがMに対して損害の全額を賠償したときは、Lは、Kがその過失割合に応じて負担すべき部分について、Jに対して求償することができる。
オ タクシー会社Nの従業員Oが乗客Pを乗せて移動中に、Qの運転する自家用車と双方の過失により衝突して、Pを受傷させ損害を与えた場合において、NがPに対して損害の全額を賠償したときは、NはOに対して求償することはできるが、Qに求償することはできない。
- ア・イ
- ア・ウ
- イ・ウ
- ウ・エ
- エ・オ
【解説】
ア・・・誤り
使用者Aが被害者Cに損害賠償金を支払った場合(=Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合)、使用者Aは被用者B(加害者)に対して求償することができますが、使用者が被用者に無制限に求償することはできず、判例では、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、使用者Aは被用者Bに対して求償することができるとしています。
※ 「相当と認められる限度」のイメージとしては、使用者Aの管理がしっかりしていないことで不法行為(例えば、過失による事故)が生じた場合は、従業員Bに対して求償できる金額は小さくなり、逆に従業員個人Bの責任が大きい場合は、従業員Bに対して求償できる額は大きくなるといった感じです。
【関連ポイント】
もし、被用者Bが賠償した場合、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、被用者Bは、使用者Aに対して求償することができる(賠償した者が使用者Aであっても被用者Bであっても、考え方は同じということ)
イ・・・誤り
例外として、相当の注意をもってその管理をしたときは責任を免れる
状況としては、「猛犬の飼い主D」「檻の製造業者E」「猛犬に噛まれた被害者F」です。
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、賠償責任を負いません(民法718条)。本問を見ると「Dが猛犬を相当の注意をもって管理をしたことを証明できなかった」となっているので、Dは、Fに対する損害賠償の責任を免れることができません。
飼育檻の強度不足にあることを証明したときでも、飼い主Dが相当の注意をもって管理をしたことを証明できなかったら、Dは損害賠償責任を負います。
ウ・・・正しい
損害の原因が他の者にあれば、賠償した者は、その者に求償できる
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その「工作物の占有者」は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければなりません(民法717条1項)。そして、この1項の規定は、竹木の栽植(植えること)又は支持に瑕疵がある場合についても準用します(2項)。1項2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができます(3項)。
本問を見ると、 G所有の樹木が倒れて通行人Hに損害を負わせています。別に占有者がいる旨の記載はなく、 所有者GがHに損害を賠償しています。さらに、植栽工事を担当した請負業者 I の作業に瑕疵があったということなので、賠償したGは、請負業者 I に求償できます。
エ・・・正しい
判例によると、「被用者Kがその使用者Jの事業の執行につき第三者Lとの共同の不法行為により他人Mに損害を加えた場合において、当該第三者Lが自己Lと被用者Kとの過失割合に従って定められるべき自己Lの負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、当該第三者Lは、被用者Kの負担部分について使用者Jに対し求償することができるものと解するのが相当である」としています(最判昭和63年7月1日)。
ここで、Lが全額賠償をした場合、KとLの過失割合に従って、Lは、KおよびJに求償できます。よって、本問は正しいです。
オ・・・誤り
判例によると、「共同不法行為者たる被用者O及び使用者N、そして他の共同不法行為者Qは、被害者Pに対して、各自、被害者Pが蒙った全損害を賠賞する義務を負うものというべきであり、また、当該債務の弁済をした使用者Nは、他の共同不法行為者Qに対し、他の共同不法行為者Qと被用者Oとの過失の割合にしたがって定められるべき他の共同不法行為者Qの負担部分について求償権を行使することができるものと解する」としています(最判昭41.11.18)。
【具体例】
被害額100万円、OとQの過失割合が3:7だったとします。この場合、OとNの負担部分は30万円、Qの負担部分は70万円です。ここで、使用者Nが100万円を弁済した場合、NはQに対して70万円を求償できます。
平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 国民審査 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | プライバシー権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 国会 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 信教の自由 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政裁量 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政事件訴訟法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法改正により削除 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政事件訴訟法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・公文書管理法 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |




