改正民法に対応済
物権的請求権等に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Aが所有する甲土地の上に、Bが権原なく乙建物を建設してこれをCに譲渡した場合、無権原で乙建物を建設することによってAの土地所有権を侵害したのはBであるから、AはBに対してのみ乙建物の取去を求めることができる。
- 第三者が抵当不動産を不法占有することによって同不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求権が認められるが、抵当権は占有を目的とする権利ではないため、抵当権者が占有者に対し直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることは常にできない。
- 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還を請求することはできるが、損害の賠償を請求することはできない。
- 第三者が賃貸不動産を不法占有している場合、賃借人は、その賃借権が対抗要件を具備しているか否かを問わず、その不法占有者に対して、当該不動産に関する賃借権に基づく妨害排除請求を行うことができる。
- Dが所有する丙土地の上に、Eが権原なく丁建物を建設し、自己所有名義で建物保存登記を行った上でこれをFに譲渡したが、建物所有権登記がE名義のままとなっていた場合、Dは登記名義人であるEに対して丁建物の収去を求めることができる。
【解説】
●建物収去・土地の明渡請求できる相手 → 「現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者
原則として、建物収去・土地の明渡請求できる相手は、「現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者」なので、現所有者Cに対して建物収去・土地の明渡請求ができます。
【具体例】 例えば、甲建物の所有者Aが債権者Bからお金を借りて、甲建物に抵当権を設定したとします。
抵当権者Bとしては、万一Aからお金が返ってこなかった時に備えて甲建物に抵当権を設定してもらっているわけです。
ただし、抵当権者は抵当不動産(甲建物)を使用する権利はありません。あくまでも抵当不動産を使用できるのは、所有者であるAです。そして、抵当権者としては、抵当不動産を使用することはできませんが、この抵当不動産(甲建物)の価値が下がってしまったら困ります。
■そして、この甲建物(対象不動産)に第三者Cが不法に占有している場合、このCがたちの悪い不法占有者だと「競売の進行が妨害したり」、「不動産の価値を下げるような行為(建物内のトイレや浴室やキッチンを壊す行為)をする」可能性もあります。こんなことをされたら、競売価格に影響が出て(=不動産の交換価値の実現が妨げられ)、抵当権を設定した意味がなくなってきます。このような場合、抵当権者は、抵当権を使って(抵当権に基づいて)、不法占有者Cに対して「出ていけ!」と主張することができます。これを「妨害排除請求権」といいます。
■また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者Aが、抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者Bは、不法占有者Cに対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができます。よって、本問の「抵当権者が占有者に対し直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることは常にできない」は誤りです。
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その「①物の返還」及び「②損害賠償」を請求することができます(①②のどちらもできる)。
占有回収の訴えは、下記一番下の内容です。
■占有保持の訴え
■占有保全の訴え
■占有回収の訴え
そもそも「賃借権」は「債権」なので、「特定の人(債務者)に対して請求できる権利」しかありません。言い換えると、「物権」のように、第三者に対して権利を主張することはできません。
【具体例】 貸金債権を考えます。AがBにお金を貸した場合、債権者Aは貸金債権を持ちますが、Aは債務者Bに対して「お金を返して!」と主張できますが、全く関係のないCに対して「お金を返して!」と主張することはできません。
一方、「物権」は絶対的な権利なので、誰に対しても主張できます。例えば、「所有権」です。所有権者は対抗要件を備えていれば誰に対しても所有者であることを主張できます。
【不動産賃借権はどうか?】 不動産賃借権は、「賃借権」であるものの、妨害排除請求権等の行使を認め、「物権」としての性質を有します。具体的には、不動産の賃借人は、対抗要件を備えた場合において、「①その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求(妨害排除請求に相当する)」ができ、また「②その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求」ができます(民法第605条の4)。
よって、「賃借権が対抗要件を具備していないと、その不法占有者に対して、賃借権に基づく妨害排除請求を行うことができない」ので、誤りです。
建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対して建物収去・土地明渡しの義務を負う
【状況】
D:丙土地の所有者
E:丙土地上の丁建物の前所有者(保存登記済み)
(土地所有者Dに無断で建物を建築)
F:丙土地地上の丁建物の新所有者(買主)
【質問内容】
Dは、Eに対して、建物収去請求ができる、○か×か?です。
【判例】
判例では、「他人の土地上の建物の所有権を取得した者(E)が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他(F)に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者Dに対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」としています。
つまり、Dは、Eに対して、建物収去・土地の明渡請求ができるので○です。
【関連知識】
原則として、建物収去・土地の明渡し請求できる相手は、「現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者」なので、Dは、Fに対しても建物収去・土地の明渡請求ができます。
平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 人権 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 経済的自由 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 内閣 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 財政 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法の概念 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 無効な行政行為 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 執行罰 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・社会 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法の判例 | 問55 | 一般知識・その他 |
| 問26 | 行政不服審査法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:総則 | 問60 | 著作権の関係上省略 |


