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平成29年・2017|問32|民法・連帯債務

改正民法に対応済

共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務(以下「本件貸金債務」という。)を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。この事実を前提とする次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 本件貸金債務につき、融資を受けるに際してAが法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に陥っており、錯誤に基づく取消しを主張してこれが認められた場合であっても、これによってBが債務を免れることはない。
  2. 本件貸金債務につき、A・C間の更改により、AがCに対して甲建物を給付する債務に変更した場合、Bは本件貸金債務を免れる。
  3. 本件貸金債務につき、弁済期到来後にAがCに対して弁済の猶予を求め、その後更に期間が経過して、弁済期の到来から起算して時効期間が満了した場合に、Bは、Cに対して消滅時効を援用することはできない。
  4. 本件貸金債務につき、Cから履行を求められたAが、あらかじめ共同の免責を得ることをBに通知することなくCに弁済した。その当時、BはCに対して500万円の金銭債権を有しており、既にその弁済期が到来していた場合、BはAから500万円を求償されたとしても対抗することができる。
  5. 本件貸金債務につき、AがCに弁済した後にBに対してその旨を通知しなかったため、Bは、これを知らずに、Aに対して事前に弁済する旨の通知をして、Cに弁済した。この場合に、Bは、Aの求償を拒み、自己がAに対して500万円を求償することができる。

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改正民法に対応済
【答え】:3

【解説】

1.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、融資を受けるに際してAが法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に陥っており、錯誤に基づく取消しを主張してこれが認められた場合であっても、これによってBが債務を免れることはない。

1・・・妥当
●連帯債務 → 弁済・相殺・混同・更改の4つは絶対効で、それ以外は相対効

●錯誤による取消しは相対効 : 連帯債務者の一人が錯誤による取消しが認められると、その者は債務者から外れ、他の債務者が単独で債務負う

①AがCに対して、錯誤により取消しを主張し、それが認められた場合、②Aの債務はなかったことになります。この場合、Bの債務はどうなるかというと、「錯誤による取消し」は、相対効なので、「錯誤による取消しの効果(=債務がなかったことになる)」は、他の連帯債務者Bにはが生じません。つまり、Bの債務はなかったことにはならず、Bが単独で1000万円の債務を負います。

2.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、A・C間の更改により、AがCに対して甲建物を給付する債務に変更した場合、Bは本件貸金債務を免れる。

2・・・妥当
●連帯債務 → 弁済・相殺・混同・更改の4つは絶対効で、それ以外は相対効

●更改は絶対効 : 連帯債務者の一人との間で更改を行い、旧債務を消滅させると、他の債務者の債務も消滅する

「更改」とは、新しい契約によって、旧契約を消滅させる行為を言います。つまり、今回の事例でいうと、AC間で、新しい契約(AがCに対して甲建物を給付する契約)を締結することで、以前の契約(AがCに対して1000万円を返済する契約)を消滅させることを言います。そして、更改は絶対効です。そのため①更改をすることで、②Aの1000万円の貸金債務は消滅します。その結果、③Bの貸金債務も消滅します。

※ Aの新しい契約( AがCに対して甲建物を給付する契約)のみ残ります。Bの債務はありません。

3.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、弁済期到来後にAがCに対して弁済の猶予を求め、その後更に期間が経過して、弁済期の到来から起算して時効期間が満了した場合に、Bは、Cに対して消滅時効を援用することはできない。

3・・・妥当ではない
●連帯債務 → 弁済・相殺・混同・更改の4つは絶対効で、それ以外は相対効

●弁済の猶予の請求(=債務の承認)は相対効 : 連帯債務者の一人が債務の承認により、時効が更新しても、他の連帯債務者は、時効の更新の効果は生じない

「弁済の猶予を求める」とは、「弁済期限を延長してください!」と主張することで、これは自らの「債務を承認」していることになります。「債務の承認(原因)」をすることで、「時効が更新(効果)」します。そのため①AがCに対して弁済の猶予を求めることにより、②Aの債務の時効が更新します。「債務の承認」は相対効なので、③Bの時効は更新しません。したがって、Bの時効は弁済期の到来から起算して進行し続けるため、時効期間が満了によって、Bは、Cに対して消滅時効を援用することができます(時効期間満了による債務の消滅を主張できる)。

4.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、Cから履行を求められたAが、あらかじめ共同の免責を得ることをBに通知することなくCに弁済した。その当時、BはCに対して500万円の金銭債権を有しており、既にその弁済期が到来していた場合、BはAから500万円を求償されたとしても対抗することができる。

4・・・妥当
●共同の免責を得ることを他の連帯債務者Bに通知することなく、Aが弁済等をした → 他の連帯債務者は債権者に対抗することができる事由(相殺できる権利等)を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってAに対抗することができる

「共同の免責を得る」とは、他の債務者の債務を消滅・減少させたことを言います。具体的には、弁済・相殺・混同・更改をした場合です。この場合、絶対効なので、他の連帯債務者の債務は消滅したり減少したりします。

本問の「Cから履行を求められたAが、あらかじめ共同の免責を得ることをBに通知することなくCに弁済した」とは、AがCに弁済する前に、その旨をBに伝えていなかった場合です。Aは弁済することで、他の連帯債務者Bに対して求償権を持つが、もし、他の連帯債務者Bが反対債権を有していた場合、Bは負担部分(本問の場合500万円)を限度に、Aに対抗することができます。つまり、Bは500万円を限度にAからの求償を拒むことができます(民法443条)。

理解 連帯債務者が弁済等をする場合、他の連帯債務者に通知をするようにして、二重に弁済しないようにしています。

例えば、下図のようにBがCに対して500万円の反対債権を有しており、AがBに通知することなく1000万円を弁済したとします。この場合、AはBに対して500万円を求償できる権利を持ちますが、Bは、通知を受けていないため、求償を拒むことができます。その後、Bが500万円の反対債権で相殺をした場合、債権者Cの立場に立つと、Aから1000万円の弁済を受け、Bから500万円の弁済(相殺)を受けています。つまり、1000万円を貸して、1500万円の弁済を受けることになります。そのため、AはBに対して有していた求償権500万円をCに対して主張し、AはCから500万円を返してもらう流れになります。

5.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、AがCに弁済した後にBに対してその旨を通知しなかったため、Bは、これを知らずに、Aに対して事前に弁済する旨の通知をして、Cに弁済した。この場合に、Bは、Aの求償を拒み、自己がAに対して500万円を求償することができる。

5・・・妥当
●弁済をした連帯債務者Aが、他の連帯債務者Bがあることを知りながら他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が「善意」で弁済等をしたときは、当該他の連帯債務者Bは、弁済等の行為を有効とみなすことができる

具体例  AがCに1000万円を弁済する前に、Bにその旨を通知しなかったため、Bは、これを知らずに、Aに対して事前に弁済する旨の通知をして、Cに1000万円を弁済した。この場合に、何も知らずに二重に弁済してしまったBを保護する必要があります。そのため、Bは、Aからの求償を拒み、Bの1000万円の弁済が有効となるため、BがAに対して500万円を求償することができます。よって、本問は正しいです。

そして、この場合、その後どうなるのか?債権者Cの立場からすると、1000万円の債権に対して、2000万円の弁済を受けているので1000万円余分にもらっています。一方、Aは、1000万円弁済した上に、Bに対して500万円も支払っています。結果として負担部分500万円にも関わらず、1500万円を支払っていることになり、1000万円を余分に支払っています。

よって、CはAに1000万円を返還することになります。


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

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