https://jukosya.gyosyo.info/?p=2160

平成30年・2018|問27|民法:公序良俗・強行規定等

改正民法に対応済
公序良俗および強行規定等の違反に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 食品の製造販売を業とする者が、有害物質の混入した食品を、食品衛生法に抵触するものであることを知りながら、あえて製造販売し取引を継続していた場合には、当該取引は、公序良俗に反して無効である。
  2. 債権の管理または回収の委託を受けた弁護士が、その手段として訴訟提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は、たとえそれが弁護士法に違反するものであったとしても、司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われた等の事情がない限り、直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。
  3. 組合契約において、組合員はやむを得ない事由があっても任意に脱退することができない旨の約定が存する場合であっても、組合員の脱退に関する民法の規定は強行規定ではないから、かかる約定の効力が否定されるものではない。
  4. 契約が公序に反することを目的とするものであるかどうかは、当該契約が成立した時点における公序に照らして判断すべきである。
  5. 男子の定年年齢を60歳、女子の定年年齢を55歳とする旨の会社の就業規則は、経営上の観点から男女別定年制を設けなければならない合理的理由が認められない場合、公序良俗に反して無効である。

>解答と解説はこちら


改正民法に対応済
【答え】:3

【解説】

1.食品の製造販売を業とする者が、有害物質の混入した食品を、食品衛生法に抵触するものであることを知りながら、あえて製造販売し取引を継続していた場合には、当該取引は、公序良俗に反して無効である。

1・・・妥当

●公序良俗に反する契約 → 無効
●食品衛生法に反することを知りながら,有毒性物質が混入した食品を継続販売 → 公序良俗に反し無効

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効です(民法90条)。

そして、判例では、「アラレ菓子の製造販売業者が、有毒性物質を混入して製造したアラレ菓子の販売を食品衛生法が禁止していることを知りながら、あえてこれを製造のうえ、その販売業者に継続的に売り渡す契約は、民法第90条(公序良俗に反する法律行為)により無効である。 」としました(最判昭39.1.23)。

※ 「公の秩序又は善良の風俗」は、略して「公序良俗」というのですが、分かりやすく言えば「社会の秩序を守るための常識的な考え方」といったイメージです。

2.債権の管理または回収の委託を受けた弁護士が、その手段として訴訟提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は、たとえそれが弁護士法に違反するものであったとしても、司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われた等の事情がない限り、直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。
2・・・妥当

●債権管理・債権回収の委託を受けた弁護士が、当該債権を譲り受ける行為 → 公序良俗に反しない → 債権の譲り受けは有効

判例によると、「債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が、その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は、他人間の法的紛争に介入し、司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど、公序良俗に反するような事情があれば格別、仮にこれが弁護士法28に違反するものであったとしても、直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。」としています。よって、債権管理・債権回収の委託を受けた弁護士が、当該債権を譲り受ける行為は、公序良俗に反しないので、債権譲り受けの契約は有効です。

判例理解

「格別」とは、事情が違うから、別扱いをするという意味です。つまり、「司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど、公序良俗に反するような事情の場合」は、通常の場合とは別扱いをして、公序良俗に反し無効となるということです。つまり、例外的な扱いをするということです。

債権管理・債権回収の委託を受けた弁護士が、当該債権を譲り受ける行為は、原則、有効です。

3.組合契約において、組合員はやむを得ない事由があっても任意に脱退することができない旨の約定が存する場合であっても、組合員の脱退に関する民法の規定は強行規定ではないから、かかる約定の効力が否定されるものではない。
3・・・妥当ではない

●組合契約 : やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨 → 無効

判例(最判平11.2.23)によると、「民法678条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しないものと解するのが相当である。けだし(=なぜならば)、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するものというべき」としています。

つまり、やむを得ない事由があっても脱退できない旨の約定(特約)は、無効です。

判例理解

民法678条には、やむを得ない事由がある場合、組合員の希望により組合を脱退することができると解されていて、これは強行法規(=条文にする特約はできない・無効となる)である。なぜならば、「やむを得ない事由があっても脱退できない旨の約定(特約)」は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するから。

問題文は「効力が否定されるものではない」=「効力は否定されない」=有効となっています。

よって、誤りです。

4.契約が公序に反することを目的とするものであるかどうかは、当該契約が成立した時点における公序に照らして判断すべきである。
4・・・妥当

●公序良俗に反し無効となるかどうか → 法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべき

判例(最判平15.4.18)によると、「法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである」としています。

「公序良俗」とは、 「社会の秩序を守るための常識的な考え方」であり、「契約が成立した時点」と「一定期間後」では、常識的な考え方が変わっていることもあります。そのようなことも踏まえて、公序良俗に反し無効となるかどうかは、「法律行為がされた時点」の公序に照らして判断するとしています。

5.男子の定年年齢を60歳、女子の定年年齢を55歳とする旨の会社の就業規則は、経営上の観点から男女別定年制を設けなければならない合理的理由が認められない場合、公序良俗に反して無効である。
5・・・妥当

●就業規則において、定年年齢について男女間で差をつけること → 合理的な理由が認められない場合、公序良俗に反し無効

判例(最判昭56.3.24)によると、「会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた場合において、会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは、右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である」としています。言い換えると、

  • 合理的な理由があれば、定年年齢を男女間で差をつけても公序良俗に違反しないが
  • 合理的な理由がないのであれば、公序良俗に反し、無効となる

本問は、「合理的理由が認められない場合」なので、公序良俗に反して無効です。

注意点

就業規則全体が無効となるのではなく、「女子の定年年齢を男子より低く定めた部分」のみ無効となる


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。