改正民法に対応済
抵当権の効力に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。
- 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。
- 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。
- 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対して物上代位権を行使することができる。
- 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。
【解説】
1・・・妥当ではない
「付合物」は、別個の物が、くっ付いて1個の物になる物を指し、例えば、「立木」や「取り外しの困難な庭石」は、土地にくっついているので「付合物」です。
「従物」は別の物(主物)とは独立しているが、主物に付属して、主物の利用価値を高めるものです。例えば、「取り外しが簡単な庭石」は土地(主物)に設置して土地の見た目などよくする働きがあり、取り外しが簡単なため「従物」です。
下表の「雨戸・ドア」と「畳やふすま」について説明します。
建物は、雨風をしのぐためのものです。そのために、建物には、屋根や玄関のドア、ガラス戸・雨戸があるわけです。つまり、建物の機能を果たすためのもので建物と一体となっているので、「付合物」です。
一方、「畳やふすま」は建物になくても問題ないものなので、建物(主物)に設置することで建物の利用価値を高めるために備え付けられる物です。そのため、「従物」として扱います。
そして、従物は抵当権設定前に取り付けた従物には抵当権の効力が及びますが、抵当権設定後の従物には抵当権の効力が及びません(判例)。例えば、畳やガソリンスタンド店舗の地下タンク・洗車機です。
【質問内容】
問題文からは、従物を取り付けた時期が、抵当権設定前か後かが分かりませんが、質問内容が「別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない」○か×か?なので、
- 別個に従物について対抗要件を具備しなければ第三者に対して対抗することができない場合は○
- 別個に従物について対抗要件を具備しなくても第三者に対抗できる場合があれば×です。
上記の通り、従物が抵当権設定前に取り付けていた場合、従物について対抗要件を備えていなくても、不動産の抵当権の効力が従物にも及ぶため、第三者に対抗できます。よって、×となります。
2・・・妥当ではない
【具体例】 土地所有者A、土地の賃借人Bという状況で、Bが、銀行Cからお金を借りて、借地上に建物を建築した。そして
Bは、抵当権者Cとして、建物に抵当権を設定した。この場合、抵当権を設定した建物だけでなく、敷地の賃借権にも抵当権の効力は及びます(判例)。
【理由】 建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって一つの財産的価値を形成しているから。
3・・・妥当
【具体例】 土地の売主Aが買主Bに対して「買戻特約付」で売却した。「買戻特約」とは、「売主Aが代金額および契約の費用を買主Bに返還することによって売買契約を解除し、目的物を取り戻すことができる」とする特約を言います。
そして、買主Bは、当該土地を購入するにあたって、銀行Cからお金を借りていた。そして、BはCを抵当権者として、購入した土地に抵当権を設定した。
その後、売主Aが買戻権を行使した場合、つまり、売主Aが買主Bに対して「代金等を返還させてください!そして土地を返してください!」と主張した場合、買主Bは、売主Aに対して、代金を返してもらう権利(買戻代金債権)を有します。
【質問内容】 買戻代金債権につき、抵当権者Cは物上代位権を行使することができる○か×か?です。
「物上代位」とは、簡単に言えば、「権利を差し押さえること(奪い取ること)」です。
判例では、「抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻し権の行使により買主が取得した買戻し債権を差し押さえることができる」 としているので、本問は○です。つまり、抵当権者である銀行Cは、売主AがBに返還する代金を差し押さえて、Bに貸したお金を回収できるということです。
4・・・妥当でない
【具体例】 ①AがBにお金を貸し、Bが建物を建築し、当該建物に抵当権を設定した。その後、建物所有者B(抵当権設定者でもある)が、建物をCに賃貸し、③さらに、CがDに建物を転貸した(又貸しをした)。
ここで、建物所有者(賃貸人B)は「賃料債権(Cから賃料をもらう権利)」を持ち、賃借人Cは「転貸料債権(Dから転貸料をもらう権利)」を持ちます。
【質問内容】 抵当権者Aは、原則、転貸料債権に対し物上代位権を行使することができる(転貸料債権を差押さえできる)○か×かです。
結論からいうと、賃料に対する物上代位について、抵当権設定者Bが取得する賃料に対しては抵当権の効力を及ぼすことができるが、賃借人Cが取得する転貸賃料についてまでは抵当権の効力を及ぼすことはできません(判例)。
Bがお金を返さないからBがCからもらえるべき賃料(賃料債権)を、Aが物上代位することはできるのは予想がつきます。
一方、CがDからもらえる転貸料についてAが物上代位できるとなると、Bの責任に全く関係ないCには酷になります。
したがって、Aは、CのDに対する転貸料債権に当然に物上代位することはできません。
5・・・妥当でない
【具体例】 会社員Aが、銀行Bからお金を借りてマイホームを建築し、マイホームに銀行Bを抵当権者として抵当権を設定した。この場合、利息についても、この抵当権により保証されています。ただし、抵当権により保証されるのは、原則、満期となった最後の2年分です。よって、本問は誤りです。
例外として、他に債権者がいない場合は、利息の全てについて、担保(保証)され、回収できます。
※「満期」とは「競売になった場合の配当日」です。この配当日の2年前から配当日までが「満期となった最後の2年分」です。
つまり、万一Aが期限内にお金を返してくれない場合、原則、銀行Bは抵当権を実行して(Aのマイホームを競売にかけて)、競売の落札代金から、「貸したお金+2年分の利息」を回収することができるということです。
平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 法令用語 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 判決文の理解 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 学問の自由 | 問34 | 民法:親族 |
| 問5 | 生存権 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 参政権 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 天皇・内閣 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政代執行法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 公法と私法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 無効と取消し | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・社会 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・その他 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・その他 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・社会 |
| 問25 | 行政法の判例 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法の判例 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |


