改正民法に対応済
弁済に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 債務者が元本のほか利息および費用を支払うべき場合において、弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに足りないときは、債務者による充当の指定がない限り、これを順次に費用、利息および元本に充当しなければならない。
- 同一の債権者に対して数個の金銭債務を負担する債務者が、弁済として給付した金銭の額が全ての債務を消滅させるのに足りない場合であって、債務者が充当の指定をしないときは、債権者が弁済を受領する時に充当の指定をすることができるが、債務者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
- 金銭債務を負担した債務者が、債権者の承諾を得て金銭の支払に代えて不動産を給付する場合において、代物弁済が成立するためには、債権者に所有権を移転させる旨の意思表示をするだけでは足りず、所有権移転登記がされなければならない。
- 債権者があらかじめ弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をすれば債務不履行責任を免れるが、債権者において契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、口頭の提供をしなくても同責任を免れる。
- 債権者があらかじめ金銭債務の弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができる。
【解説】
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない(民法489条)。
つまり、一部を弁済した場合、「費用」→「利息」→「元本」の順に充てられます。
本肢は「債務者による充当の指定がない限り」が誤りです。
債務者や債権者が一方的に充当の順番を決めることはできません。
当事者間で合意があれば、その合意した順序で充当します。
【具体例】 例えば、AがBに100万円を貸し、その際の費用(例えば、契約書に貼る印紙税等)が1万円、利息が5万円だった。そして、債務者が、100万円しか支払わなかった場合、先に費用1万円に充てられ(充当し)、その後、利息5万円に充てられ、残り94万円が元本に充てられます。つまり、元本6万円が残るということです。
上記事例は、「弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに6万円足りないとき」に当たります。
債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができます。弁済をする者が上記規定による指定をしないときは、弁済を受領する者(債権者)は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができます。ただし、弁済者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
【具体例】 例えば、AがBに対して、「①100万円の貸金債権」と「②50万円の代金債権」を有していたとします。そして、弁済者Bが50万円を弁済する場合、①の貸金債権について弁済するのか、②の代金債権について弁済するのかを指定することができます。もし、債務者Bが指定をしない場合、債権者Aが指定をすることができるのですが、もし、債権者Aが指定して充当した後、直ちに異議を述べた場合は、この異議が優先し、その後、Bが指定した方に充当されます。
お金を借りたらお金で返すのが筋ですが、民法ではお金以外のモノ(例えば不動産)で弁済しても有効としています。これを「代物弁済」と言います。漢字のとおり「代わりに物で弁済する」ということです。
そして、不動産を用いて代物弁済をした場合、「いつ所有権が移転するのか?」「いつ債務が消滅するのか?(いつ代物弁済が成立するか?)」が問題となります。
■いつ所有権が移転するのか? → 原則、当事者間の代物弁済契約の成立した時に、所有権が移転します。
■いつ債務が消滅するのか?(いつ、代物弁済が成立するか?) → 特段の事情のない限り、単に代物弁済契約の意思表示をするだけでは生ぜず、所有権移転登記手続を完了した時に生ずるとしています。
【弁済とは】 弁済は、債務者が弁済を提供して、債権者が受領することで行われます。例えば、お金の貸し借りについて考えれば、債務者が借りたお金を持参して、債権者がそのお金を受領することで弁済が完成します。このように一般的に弁済を完成させるには、「債権者が受領」するという債権者の協力が必要です。このような場合に、弁済の実現に必要な準備をして債権者の協力を求めることを「弁済の提供」といいます。弁済の提供をすることで、債務者は債務不履行の責任(遅延損害金等)を免れることができます。
■そして、弁済の提供は、原則として「現実の提供」が必要です。現実の提供とは、例えば、借りたお金を返す場合、お金を現実に債権者の住所地に持参することです。
ただし、①債権者が事前に受領しないと言っている場合や、②債務の履行につき債権者の行為を要するときは、「口頭の提供」で足ります(民法493条)。
■さらに、判例では、「債権者が契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められる場合には、債務者は口頭の提供をしなくとも債務不履行の責任を免れる」として、口頭の提供すら必要がない場合もあります。
弁済者は、下記1~3の場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができ、供託した時に、その債権は、消滅します(民法494条)。
1.債権者(受領する側)が弁済の受領を拒んだとき
2.債権者が弁済を受領することができないとき
3.弁済者(債務者)が「過失なく債権者が誰か分からない時(債権者を確知できない時)」
よって、本問は「1」に該当するので、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができます。
※ 供託とは、債権者に代わって「国の機関(法務局)」に弁済することを言います。例えば、債権者A、債務者Bで、債権額が100万円とし、Bが供託所に100万円を供託した場合、債権者Aは、法務局から100万円を還付してもらう流れになります。
平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 法令用語 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 判決文の理解 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 学問の自由 | 問34 | 民法:親族 |
| 問5 | 生存権 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 参政権 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 天皇・内閣 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政代執行法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 公法と私法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 無効と取消し | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・社会 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・その他 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・その他 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・社会 |
| 問25 | 行政法の判例 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法の判例 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
