抗告訴訟の対象に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 都市計画法に基づいて、公共施設の管理者である行政機関等が行う開発行為への同意は、これが不同意であった場合には、開発行為を行おうとする者は後続の開発許可申請を行うことができなくなるため、開発を行おうとする者の権利ないし法的地位に影響を及ぼすものとして、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する。
- 都市計画区域内において用途地域を指定する決定は、地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課すものではあるが、その効果は、新たにそのような制約を課する法令が制定された場合と同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なものにすぎず、当該地域内の個人の具体的な権利を侵害するものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない。
- 市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定により、事業施行地区内の宅地所有者等は、所有権等に対する規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるため、当該計画の決定は、その法的地位に直接的な影響を及ぼし、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する。
- 地方公共団体が営む水道事業に係る条例所定の水道料金を改定する条例の制定行為は、同条例が上記水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、同条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない。
- 特定の保育所の廃止のみを内容とする条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができ、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する。
1・・・妥当ではない
都市計画法に基づいて、公共施設の管理者である行政機関等が行う開発行為への同意は、これが不同意であった場合、開発行為を行おうとする者は後続の開発許可申請を行うことができなくなったとしても、開発を行おうとする者の権利ないし法的地位に影響を及ぼすものと言えないので、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しません。
よって、本肢は妥当ではありません。
・・・
右のような定めは、開発行為が、開発区域内に存する道路、下水道等の公共施設に影響を与えることはもとより、開発区域の周辺の公共施設についても、変更、廃止などが必要となるような影響を与えることが
少なくないことにかんがみ 事前に 、 開発行為による影響を受けるこれらの公共施設の管理者の同意を得ることを開発許可申請の要件とすることによって、開発行為の円滑な施行と公共施設の適正な管理の実現を図ったものと解される。
・・・
そして 国若しくは地方公共団体又はその機関 (以下「行政機関等」という )が公共施設の管理権限を有する場合には、行政機関等が法32条の同意を求める相手方となり、行政機関等が右の同意を拒否する行為は 、公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為ということができる。この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、これは、法が前記のような要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。したがって、開発行為を行おうとする者が、右の同意を得ることができず、開発行為を行うことができなくなったとしても、その権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない。
・・・
そうしてみると、公共施設の管理者である行政機関等が法32条所定の同意を拒否する行為は、抗告訴訟の対象となる処分には当たらない。
【理解ポイント】
分かりやすく言うと、「同意拒否」にって、開発行為を適法に行えない(不許可処分)となるが、この「同意拒否」が「直接」開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。
つまり、「同意拒否 → 開発許可の要件として同意が必要 → 結果として、同意拒否により、不許可処分」ということなので、「同意拒否」と「不許可処分」は、間接的なつながりに過ぎないから、「同意」自体には処分性はない、ということです。
2・・・妥当
本肢は下記の通り、妥当な記述です!
■用途地域とは、住居、商業、工業など市街地の大枠として、各地域をどのような地域にしていくのかを定めるものです。例えば、その中の一つに「工業地域」があります。工業地域に指定されると、病院や大学などの建設ができなくなるという一定の建築制限が発生します。
【事案】
ある地域について、「工業地域」が指定された。この工業地域の指定が、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?(=処分性を有するか?)
【判例:最判昭57.4.22】 都市計画区域内において工業地域を指定する決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、一定の制限がかかってきます。しかし、この効果(制限)は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。(個別具体的な処分とは言えないので、処分性を有しない)
よって、用途地域の指定は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」ではありません。
【ポイント】
個別具体的な権利侵害の場合に「処分性を有する」とし、一般的抽象的な(たくさんの人に対する)権利侵害の場合は「処分性はない」としています。
3・・・妥当
下記判例の通り、本肢は妥当です。
ただ、判例が長いので、順を追って、確認してみてください!
一回読んだだけでは、理解するのは難しい思います。
「しかし」という接続詞があるので、「しかし」以降の文章は、「しかし」以前の文章の逆を言っていることが分かり、かつ、「しかし」以降が、裁判官が言いたいことです!
【判例:最判平20.9.10】 事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。
そして、土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。
そうすると、施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない。
また、換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができる。
しかし、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。
それゆえ(=だから)、換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。
そうすると(=そのように考えると)、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
以上によれば、市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。
したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。(処分性を有する)
4・・・妥当
下記判例の通り、本肢は妥当です。
【判例:最判平18.7.14】 普通地方公共団体が営む水道事業に係る条例所定の水道料金を改定する条例の制定行為は、同条例が上記水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、同条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないという事情の下では、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
【分かりやすく言うと】
「水道料金に関する条例改正」は、「個別具体的な特定の者に対するものではない」ので「水道料金に関する条例改正」は行政庁の処分その他公権力の行使に当たらない(処分性はない)
ということです。
【基本ポイント:前提知識】
「行政庁の処分その他公権力の行使」とは、結論からいうと、①公権力であること、②個別・具体的な法的地位の変動(特定の者に対して権利義務が生じる)の2つを満たす場合です
この場合、「処分性を有する」こととなります。
5・・・妥当
下記判例の通り、本肢は妥当です。
そのため、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視することができる。
・・・
以上によれば、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。各保育所の廃止のみを内容とする本件改正条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果が生じるから、行政処分に該当する。
【分かりやすく言うと】
保育所廃止によって、「その児童と保護者」という特定の者に対して、保育を受けることに対する期待という法的地位を奪う。だから、「保育所廃止の条例制定行為」は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる(処分性はある)
令和4年(2022年)過去問
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
| 問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識 |
| 問27 | 民法 | 問57 | 一般知識 |
| 問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
