以下の事案に関する次のア~エの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。 Xは、A川の河川敷の自己の所有地に小屋(以下「本件小屋」という。)を建設して所有している。A川の河川管理者であるB県知事は、河川管理上の支障があるとして、河川法に基づきXに対して本件小屋の除却を命ずる処分(以下「本件処分」という。)をした。しかし、Xは撤去の必要はないとして本件処分を無視していたところ、Xが本件処分の通知書を受け取ってから約8ヵ月が経過した時点で、同知事は、本件小屋の除却のための代執行を行うため、Xに対し、行政代執行法に基づく戒告および通知(以下「本件戒告等」という。)を行った。そこでXは、代執行を阻止するために抗告訴訟を提起することを考えている。
ア.本件戒告等には処分性が認められることから、Xは、本件処分の無効確認訴訟を提起するだけでなく、本件戒告等の取消訴訟をも提起できる。
イ.本件戒告等の取消訴訟において、Xは、本件戒告等の違法性だけでなく、本件処分の違法性も主張できる。
ウ.Xが本件処分の通知書を受け取ってから1年が経過していないことから、Xが本件処分の取消訴訟を提起しても、出訴期間の徒過を理由として却下されることはない。
エ.Xが本件戒告等の取消訴訟を提起したとしても、代執行手続が完了した後には、本件戒告等の効果が消滅したことから、当該訴訟は訴えの利益の欠如を理由に不適法として却下される。
- ア・イ
- ア・エ
- イ・ウ
- イ・エ
- ウ・エ
【解説】

ア・・・妥当
行政代執行法による戒告および代執行令書による通知は、処分性が認められるため、取消訴訟の対象となります(大阪高決昭40.10.5)。そのため、Xは、本件処分の無効確認訴訟を提起するだけでなく、本件戒告等の取消訴訟をも提起できます。
イ・・・妥当でない
戒告の取消訴訟においては、処分の違法性は主張できません。よって、妥当ではありません。そもそも、「戒告・通知」と「除去命令」は独立した別々の処分です。そのため、違法性の承継は、原則として認められないので、Xは、本件戒告等の取消訴訟において、本件処分の違法性を主張することはできません。
【簡潔にいうと】
まず、除去命令(処分)→戒告という順で行われるのですが
戒告の取消訴訟は可能です。
その場合、戒告の違法性を主張すべきであり
除去命令(処分)の違法性は主張できないということです。
これは、違法性の承継は、原則として認められないからです!
【事案:最判平21.12.17】
A社は、マンション建設を計画しており、「条例に基づく安全認定(先行行政行為)」が行われた上で、「建築確認(後行行政行為)」を受けた。
■安全認定のルール
条例の4条1項では、一定面積以上の建築物を建築する場合、一定の幅をもった前面道路に接しなければならないという「接道義務」があった。(例えば、2800㎡の建物を建てる場合、前面道路の幅は8m以上なければならない)
さらに、条例の4条3項では、安全認定を受ければ、1項の接道義務を満たさなくてもよいとされていた(接道義務の免除)
【争点】 建築確認(後行行政行為)の取消訴訟において、安全認定(先行行政行為)の違法を主張することができるか?
【判例】
| そして、・・・安全認定は、建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり、建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。
手続き上の観点からすると、安全認定があっても、これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとする者がその存在(安全認定の存在)を速やかに知ることができるとは限らない。 そうすると、安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。 したがって、安全認定が行われた上で建築確認がされている場合、安全認定が取り消されていなくても、建築確認の取消訴訟において、安全認定に違反があると主張することは許される。 |
【分かりやすく言うと】
安全認定は、申請者以外の人に通知することはなく、建築確認があるまで工事が行われることもないから、安全認定を争おうとする周辺住民は、安全認定の存在を知ることができるとは限らない。
このことから、周辺住民は、安全認定について、その適否を争うための手続的保障が十分与えられていない。
だから、安全認定(先行行政行為)が取り消されていなくても、建築確認(後行行政行為)の取消訴訟において、安全認定(先行行政行為)に違反があると主張することは許される。
ウ・・・妥当でない
取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したときは、提起することができません(行政事件訴訟法14条1項本文)。そして、「処分があったことを知った日」とは、抽象的なしり得べかりし日ではなく、「当事者が書類の交付、口頭の告知、その他の方法により処分の存在を現実に知った日を指すもの」としています(最判平14.10.24)。分かりやすく言うと、「処分があったことを知った日」とは、あいまいな日付ではなく、当事者が書類を受け取ったり、口頭で告知を受けたり、他の方法で処分の存在を実際に知った日を指します。本肢を見ると、通知書を受け取ってから約8か月が経過しているので、「処分(通知)を知ってから6か月」を経過しています。したがって、出訴期間が過ぎているので、出訴期間の徒過(期限の経過)を理由として却下されます。
エ・・・妥当
この問題は「最判昭48.3.6」の判例が参考になります。土地収用に基づく明渡裁決があると、一定期間内に土地を明け渡す義務が発生します。そして、いったん土地の明渡しが完了すれば、明渡裁決の効果として土地の占有者の義務はなくなります。つまり、代執行の完了(明渡し完了)をした後に、上記明渡裁決を取り消しても意味がないので、明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は消滅します(最判昭48.3.6)。本問の事案においても、代執行手続が完了した後は、本件戒告等の効果が消滅するので、取消訴訟は訴えの利益は消滅し、不適法として却下されます。よって、妥当です。
令和5年(2023年)過去問
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
| 問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法・多肢選択 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法・多肢選択 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法・多肢選択 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
| 問25 | 行政事件訴訟法 | 問55 | 基礎知識 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
| 問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
| 問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
