Aが所有する甲土地(以下「甲」という。)につき、Bの所有権の取得時効が完成し、その後、Bがこれを援用した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- Bの時効完成前に、CがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Cに対して、登記なくして時効による所有権取得をもって対抗することができる。
- Bの時効完成後に、DがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Dに対して、Dが背信的悪意者であったと認められる特段の事情があるときでも、登記なくして時効による所有権取得を対抗することはできない。
- Bの時効完成後に、EがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、その後さらにBが甲の占有を取得時効の成立に必要な期間継続したときは、Bは、Eに対し時効を援用すれば、時効による所有権取得をもって登記なくして対抗することができる。
- Bの時効完成後に、FがAから甲につき抵当権の設定を受けてその登記を了した場合、Bは、抵当権設定登記後引き続き甲の占有を取得時効の成立に必要な期間継続したときは、BがFに対し時効を援用すれば、Bが抵当権の存在を容認していたなどの抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、甲を時効取得し、その結果、Fの抵当権は消滅する。
- Bの時効完成後に、GがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Gに対して、登記なくして時効による所有権取得をもって対抗することはできず、その際にBが甲の占有開始時点を任意に選択してその成立を主張することは許されない。
【解説】
1・・・妥当
時効取得者は、登記がなくても、時効完成前の第三者に対し、権利を主張することができます(大判大正7.3.2)。よって、時効取得者Bは、登記がなくても、時効完成前の第三者であるCに対して時効による所有権取得を対抗することができるので、本肢は妥当です。
【質問内容】 時効取得者Bは、取得時効完成前のCに対して、登記なく時効取得をもって対抗することができる。○か×か。
【判例】 判例では、上記具体例について「時効取得者Bは時効完成前の第三者Cに対して、登記がなくても、時効取得を主張できる」としています。
【理由】 始めに、A所有の甲地をBが占有し、その後、①AがCに甲地を売却し、(まだBが占有中)、その後、②Bの時効が完成したという流れです。時系列を図にすると下のようになります。(左から右に時間が流れている)
まず、Cが存在しない場合を考えてみましょう!基本的な取得時効の問題です。
Aは所有権を持っているにも関わらず、占有しているBに対して裁判上の請求等の時効の更新行為を行わず、一定期間が過ぎるとBの時効が完成します。そのことにより、「Bは登記を備えていなくても」、時効取得者Bは、Aに時効取得を主張できます。
次に、Cが出現した場合を考えます。
CはAから甲地を譲り受けた時点から、Bに対して時効の更新行為を行える立場にあります。
つまり、CもAと同様の立場にあると考えることができます。したがって、CもAと同様に時効の更新を行うことができます。
しかし、それを怠って、時効の更新を行わなかった結果、Bの時効が完成したら、Bは「Aに対して主張できていた時効取得」をCに対しても主張できます。つまり、時効完成前に所有者が変わっても、占有者に何ら影響を与えないということです。AもCも同じ立場として、ひとくくりとみなすわけです。
まとめると、Bは時効完成前の第三者Cに対して、登記がなくても、時効取得を主張できます。
2・・・妥当でない
時効取得者と時効完成後の第三者は、二重譲渡の対抗関係となり、時効取得者は、登記を備えなければ「時効完成後の第三者D」に対して、時効取得を対抗することができません(大連判大正14.7.8)。しかし、「時効完成後の第三者D」が背信的悪意者の場合は、例外的に、時効取得者は登記がなくても時効取得を対抗することができます(最判昭和43.8.2)。よって、時効完成後の第三者Dが背信的悪意者であったと認められる特段の事情がある場合、時効取得者Bは、登記がなくても、時効による所有権取得を対抗することができるので、本肢は「登記なくして時効による所有権取得を対抗することはできない」が妥当ではありません。
時効完成後に第三者が現れた場合、「時効取得者A」と「第三者D」は二重譲渡の対抗関係とみなされるので、登記を備えた方が対抗力を持つ
しかし、第三者Dが背信的悪意者の場合は、Dは保護されないので、時効取得者Bは、登記がなくても、Bが勝ちます。
3・・・妥当
時効取得者と時効完成後の第三者は、二重譲渡の対抗関係となり、時効取得者は、登記を備えなければ「時効完成後の第三者E」に対して、時効取得を対抗することができません(大連判大正14.7.8)。ここまでは選択肢2と同じです。しかし、時効取得者が、時効完成後の第三者の登記後に、再度、取得時効の要件を満たしたとき(再度、取得時効の成立に必要な期間継続したとき)は、その第三者Eに対し、登記がなくても、権利を主張することができます(最判昭和36.7.20)。よって、時効取得者Bは、時効完成後の第三者であるEに対し時効を援用すれば、時効による所有権取得を登記なくして、対抗することができるので、妥当です。
【流れ】
- Bが時効完成
- 第三者EがAから甲を取得し、登記(この時点で、Eの勝ち、Bの負け)
- Bが再度、時効完成(Bの勝ち、Eの負け)これは、1と同じ考え方となります。
4・・・妥当
Bの取得時効の完成後、所有権移転登記がされることのないまま、第三者Fが原所有者Aから抵当権の設定を受けて抵当権設定登記をした場合において、不動産の時効取得者である占有者Bが、その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは、占有者Bが抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、占有者Bは、不動産を時効取得し、その結果、Fの抵当権は消滅します(最判平成24.3.16)。よって、Bが、再度、甲を時効取得すれば甲に設定されていたFの抵当権は消滅します。
【流れ】
- Bが時効完成
- 第三者FがAから抵当権を取得し、登記(この時点で、Fの勝ち、Bの負け)
- Bが再度、時効完成(Bの勝ち、Fの負け)
つまり、考え方は選択肢3と同じです。
5・・・妥当
時効の起算点は占有開始時と決まっています。取得時効を援用する者は、その起算点を任意に(事由に)選択することはできません(最判昭和35.7.27)。よって、Bが甲の占有開始時点を任意に選択してその成立を主張することは許されません。起算点を選択すると、時効完成前の第三者になる可能性が出てきて、占有者Bに過度に有利なルールになります。
【具体例】 Bが2000年1月1から悪意で占有した場合、2020年1月1日に時効完成します。もし、2020年3月1日にGがAから甲を買い受けて所有権移転登記をした場合、Gは時効完成後の第三者であり、先に登記をしているので、Gの勝ちです。しかし、Aの占有開始時期を2000年3月2日とした場合、時効完成時期が2020年3月2日となり、Gは、時効完成前の第三者となり、選択肢1の解説のとおり、Bは登記なく、Gに対抗できます。これはだめですよ!というのが本肢の内容です。
令和5年(2023年)過去問
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
| 問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法・多肢選択 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法・多肢選択 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法・多肢選択 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
| 問25 | 行政事件訴訟法 | 問55 | 基礎知識 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識 |
| 問27 | 民法 | 問57 | 基礎知識 |
| 問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |

