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平成30年・2018|問28|民法:停止条件

改正民法に対応済

A・B間で締結された契約(以下「本件契約」という。)に附款がある場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア.本件契約に、経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項が定められている場合、効力の喪失時期は当該変動の発生時が原則であるが、A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能である。

イ.本件契約が売買契約であり、買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている場合、この条項はその条件の成就が代金債務者であるBの意思のみに係る随意条件であるから無効である。

ウ.本件契約が和解契約であり、Bは一定の行為をしないこと、もしBが当該禁止行為をした場合にはAに対して違約金を支払う旨の条項が定められている場合、Aが、第三者Cを介してBの当該禁止行為を誘発したときであっても、BはAに対して違約金支払の義務を負う。

エ.本件契約が農地の売買契約であり、所有権移転に必要な行政の許可を得られたときに効力を生じる旨の条項が定められている場合において、売主Aが当該許可を得ることを故意に妨げたときであっても、条件が成就したとみなされることはない。

オ.本件契約が金銭消費貸借契約であり、借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(いわゆる出世払い約款)が定められている場合、この条項は停止条件を定めたものであるから、Bは社会的な成功を収めない限り返済義務を負うものではない。

  1. ア・イ
  2. ア・エ
  3. イ・ウ
  4. ウ・オ
  5. エ・オ

>解答と解説はこちら


改正民法に対応済
【答え】:2(ア・エが妥当)

【解説】

ア.本件契約に、経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項が定められている場合、効力の喪失時期は当該変動の発生時が原則であるが、A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能である。

ア・・・妥当

●停止条件・解除条件 → 条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思表示も有効

「経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項」とは、「解除条件」です。

「経済情勢に一定の変動があったとき」が条件で、この条件が成就した時に「効力が消滅する」ものを解除条件と言います(民法127条2項)。したがって、本問の「効力の喪失時期は当該変動の発生時(経済情勢に一定の変動があったとき)が原則である」は正しいです。そして、条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる合意をしたときは、その合意に従います(3項)。つまり、 A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能です。

具体例 大学生Aが親Bと「大学生の期間中、毎月1万円を贈与(仕送りを)し、万一、大学4年間で就職先が決まらなかったら贈与契約を解除する(仕送りをやめる)」契約をした場合、これは解除条件付きの贈与契約です。

そして、さらにAB間で「大学4年間で就職先が決まらなかったら、契約時にさかのぼって贈与契約の効力を消滅させ、4年分の仕送り分を返還しなければならない」との合意もできるということです。

※ 上記は解除条件ですが、停止条件も同じようにA・Bの合意により、効力の発生時期を契約時に遡らせることも可能です。

イ.本件契約が売買契約であり、買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている場合、この条項はその条件の成就が代金債務者であるBの意思のみに係る随意条件であるから無効である。

イ・・・妥当ではない

●停止条件付法律行為 → その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする
●「買主が品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている停止条件」 → 無効ではない

民法134条では、「停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする」と規定しています。

具体例 CD間の贈与契約で、「Cの気が向いたら、Dに10万円贈与する」という停止条件が付いていたとします。

この場合、Cの気が向くか向かないかで、条件が成就するか否かが決まります。このように債務者Cの意思に依存する条件は、法的な拘束力があるとはいえず、無効となります。

本問 本問の「買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払う」というのが、「債務者の意思のみにかかる停止条件付法律行為」に当たるかが問題となります。この点について、判例(最判昭31.4.6)では、「鉱業権の売買契約において、買主が排水探鉱(石炭等の鉱物の埋蔵量の調査)の結果、品質良好と認めたときは代金を支払い品質不良と認めたときは代金を支払わない旨を約しても、右売買契約は、民法第134条の条件が単に債務者の意思のみにかかる停止条件附法律行為とはいえない。」としています。つまり、「買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている停止条件」も無効ではありません。

ウ.本件契約が和解契約であり、Bは一定の行為をしないこと、もしBが当該禁止行為をした場合にはAに対して違約金を支払う旨の条項が定められている場合、Aが、第三者Cを介してBの当該禁止行為を誘発したときであっても、BはAに対して違約金支払の義務を負う。

ウ・・・妥当ではない

●不正に条件を成就させた → 相手方は、条件は成就しなかったとみなすことができる

民法130条2項には「条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる」と規定されています。この具体例が本問です。

具体例 AB間で争いごとがあり、和解する契約をした。その契約の中に「Bがやってはいけない禁止行為があり、もしその禁止行為をBが行ったら、BはAに違約金を払う」旨の条項があった。

この場合、「禁止行為を行ったならば=停止条件」です。

Aとしては、もしBが禁止行為をすれば違約金をもらえるので、Aが悪だくみをして、Cを利用して、Bが当該禁止行為を行うように仕向けて(誘発して)Bがその禁止行為を行ってしまった。

この場合、Aは「不正にその条件を成就させたとき」にあたるので、相手方Bは、その条件が成就しなかったものとみなすことができます。つまり、Bは違約金を支払う義務はありません。

関連ポイント 上記とは逆の事例で、民法130条1項には「条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる」と規定しています。

具体例 「Aは、Bが行政書士の試験に合格したら甲土地を贈与する」旨の契約をした。

この場合、「Bが行政書士試験に合格したならば=停止条件」です。

そして、契約はしたものの、Aが甲土地をあげたくないことから、Bが行政書士試験に合格しないよう、夜中に電話をかけるなどして、勉強をできないようにすると、「条件の成就を妨げた」とみなすことができます。この場合、Bは試験に合格したものとみなし、Aに土地を引渡すよう請求することができます。

エ.本件契約が農地の売買契約であり、所有権移転に必要な行政の許可を得られたときに効力を生じる旨の条項が定められている場合において、売主Aが当該許可を得ることを故意に妨げたときであっても、条件が成就したとみなされることはない。

エ・・・妥当

●農地法の知事の許可(行政学上の認可) → 条件には当たらない
●農地売買において、農地の売主が故意に知事の許可を得ることを妨げたとしても、条件が成就したとみなすことはできない

前提知識 日本の農業を守るために、農地法では、「農地の売買契約をする場合、原則、知事の許可が必要」「許可のない農地の売買契約は効力が生じない」と定めています。これは、農地の購入者が農業のノウハウを持っているかを審査するためです。

判例 判例(最判昭36.5.26)では、「農地の所有権移転を目的とする法律行為は都道府県知事の許可を受けない以上 法律上の効力を生じないものであり、この場合、知事の許可は右法律行為の効力発生要件であるから、農地の売買契約を締結した当事者が知事の許可を得ることを条件としたとしても、それは法律上当然必要なことを約定したに止まり、売買契約にいわゆる停止条件を附したものということはできない」としています。つまり、知事の許可は法律上当然に必要なことで、条件には当たらないということです。そのため、条件に関するルールは適用されないので、条件の成就を妨げる行為があったとしても、条件が成就したとみなすことはできません。

オ.本件契約が金銭消費貸借契約であり、借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(いわゆる出世払い約款)が定められている場合、この条項は停止条件を定めたものであるから、Bは社会的な成功を収めない限り返済義務を負うものではない。

オ・・・妥当ではない

●出世払い → 「不確定期限」であり、「停止条件」ではない =「条件」ではなく、「期限」にあたる

「金銭消費貸借契約」とは、お金の貸し借りの契約です。そして、

判例(大判大正4.3.24)によると、『借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(=出世払いの約束)は、「条件」に当たらず、「期限」に当たるとしています。厳密には、「不確定期限」であり、出世できないことが明らかになったときは、貸主は借金の返済を請求できる』としています。

■「期限」とは、いつか必ず到来するものに使い、「条件」は、必ず到来するわけではなく、到来するか否か未定であるものに使います。そして、判例では、出世できるかどうかは不確実な事実(条件)ではなく、出世できるかできないかはいずれ確実に決まる事実(期限)であると判断しました。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

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