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平成29年・2017|問10|行政法・執行罰

執行罰に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

  1. 執行罰とは、行政上の義務の不履行について、罰金を科すことにより、義務の履行を促す制度であり、行政上の強制執行の一類型とされる。
  2. 執行罰は、行政上の義務の履行確保のために科されるものであるが、行政機関の申立てにより、非訟事件手続法の定める手続に従って、裁判所の決定によって科される。
  3. 執行罰は、刑罰ではないため、二重処罰の禁止の原則の適用はなく、同一の義務の不履行について、これを複数回にわたり科すことも認められる。
  4. 執行罰については、それを認める一般法は存在せず、これを認める個別の法令の定めが必要であるが、行政代執行法は、執行罰の規定を条例で定めることも明文で許容している。
  5. 執行罰は、多くの法令において、各種の届出義務などの軽微な手続上の義務への違反に科されることとされている。

>解答と解説はこちら


【答え】:3

【解説】

1.執行罰とは、行政上の義務の不履行について、罰金を科すことにより、義務の履行を促す制度であり、行政上の強制執行の一類型とされる。
1・・・妥当ではない

●執行罰とは、行政上の義務の不履行について、「過料」を科すことにより、義務の履行を促す制度

執行罰とは、義務の不履行に対して、過料を課すことを予告し、その予告によって、義務者に心理的圧迫を加えて間接的に義務の履行を強制することを言います。「罰」という漢字が含まれていますが、「罰」ではありません。
もし、義務を履行すれば、過料を取られることはないからです。
ただし、義務を履行しないと、何度も「過料」を科されることがあるので注意が必要です。つまり、「罰金を科す」が妥当ではありません。「過料を科す」であれば妥当です。

執行罰の例 執行罰は「砂防法36条」しかありません。この条文では「砂防法に基づく命令による義務を履行しない場合、国交大臣または知事は、500円以下の過料に処することを予告して履行を命じることができる」と規定しています。

2.執行罰は、行政上の義務の履行確保のために科されるものであるが、行政機関の申立てにより、非訟事件手続法の定める手続に従って、裁判所の決定によって科される。
2・・・妥当ではない

●執行罰 → 行政機関の申立ては不要

執行罰を科すのに、行政機関の申立ては不要です。
執行罰は、行政上の義務の履行確保のために科されるものです。非訟事件手続法には従いません。
一方、「行政上秩序罰」は、形式的で軽微な行政上の義務違反に対して課される過料のことです。

【具体例】 届出義務や登録義務、通知義務に違反した場合

そして、科料は刑罰ですが、過料は刑罰ではありません。そのため、刑事訴訟法にはよりません。

  • 法令に基づく過料は、非訟事件手続法によって裁判所の決定により科します
  • 地方公共団体の条例や規則に違反した場合、地方自治法の定めに基づいて、地方公共団体の長が行政処分として科します

そして、「秩序罰による過料」と「行政刑罰」は、目的や要件が異なるため併科してもよいです。

※非訟事件手続法は、裁判所が、簡便迅速に事実関係を判断して「決定」することにより、物事の処理をする手続きを示したものです。訴訟事件は、事実認定や証人尋問など厳格に細かい手続きにしたがって「判決」という形で争いを処理しますが、非訟事件はそれよりも簡易的な手続きによって行います。例えば、養育費や親権の争いが非訟事件にあたります。
(これは覚えなくても、イメージだけでよいです)

3.執行罰は、刑罰ではないため、二重処罰の禁止の原則の適用はなく、同一の義務の不履行について、これを複数回にわたり科すことも認められる。
3・・・妥当

●執行罰 → 何度も科すことできる(上表参照)

執行罰は、刑罰ではないため、二重処罰の禁止の原則の適用はありません。
したがって、義務を履行しないと、何度も「過料」を科されることがあります。よって、本問は妥当です。

4.執行罰については、それを認める一般法は存在せず、これを認める個別の法令の定めが必要であるが、行政代執行法は、執行罰の規定を条例で定めることも明文で許容している。
4・・・妥当ではない

●行政上の義務の履行確保(①代執行・②執行罰・③直接強制・④行政上の強制徴収)  法律で定めることはできる

行政上の義務の履行確保(①代執行・②執行罰・③直接強制・④行政上の強制徴収)に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律で定めます(行政代執行法1条)。
上記の通り、②執行罰に関する規定は「法律」で定める必要があり「条例」で定めることはできません

5.執行罰は、多くの法令において、各種の届出義務などの軽微な手続上の義務への違反に科されることとされている。
5・・・妥当ではない

●各種の届出義務などの軽微な手続上の義務への違反 → 秩序罰

各種の届出義務などの軽微な手続上の義務への違反に科されるものは「秩序罰」です。
執行罰は、砂防法36条のみです。

砂防法36条
私人においてこの法律もしくはこの法律に基づいて発する命令による義務を怠るときは、国土交通大臣もしくは都道府県知事は一定の期限をしめし、もし期限内に履行しないとき、もしくは、履行が不十分なときは500円以内において指定する過料に処することを予告して、履行を命ずることができる。


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

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