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平成29年・2017|問20|国家賠償法1条

国家賠償法1条に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 通達は、本来、法規としての性質を有しない行政組織内部の命令にすぎず、その違法性を裁判所が独自に判断できるから、国の担当者が、法律の解釈を誤って通達を定め、この通達に従った取扱いを継続したことは、国家賠償法1条1項の適用上も当然に違法なものと評価される。
  2. 検察官は合理的な嫌疑があれば公訴を提起することが許されるのであるから、検察官が起訴した裁判において最終的に無罪判決が確定したからといって、当該起訴が国家賠償法1条1項の適用上も当然に違法となるわけではない。
  3. 裁判官のなす裁判も国家賠償法1条の定める「公権力の行使」に該当するが、裁判官が行う裁判においては自由心証主義が認められるから、裁判官の行う裁判が国家賠償法1条1項の適用上違法と判断されることはない。
  4. 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)は、国家賠償法1条の定める「公権力の行使」に該当するものではなく、立法の内容が憲法の規定に違反する場合であっても、国会議員の当該立法の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることはない。
  5. 政府が、ある政策目標を実現するためにとるべき具体的な措置についての判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため当該目標を達成できなかった場合には、国家賠償法1条1項の適用上当然に違法の評価を受ける。

>解答と解説はこちら


【答え】:2

【解説】

1.通達は、本来、法規としての性質を有しない行政組織内部の命令にすぎず、その違法性を裁判所が独自に判断できるから、国の担当者が、法律の解釈を誤って通達を定め、この通達に従った取扱いを継続したことは、国家賠償法1条1項の適用上も当然に違法なものと評価される。

1・・・妥当ではない

●法律の解釈を誤って通達 → 職務上通常尽くすべき注意をしていた場合、注意義務違反とはならず、国賠法1条に違反しない

判例(最判平19.11.1)では、「法律の解釈を誤って通達を作成、発出し、その後も一定期間、法律の解釈を誤って作成した通達に従った取扱いを継続したことは、一定の事情においては、公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり、当該担当者には過失がある。」と判示しています。
したがって、「一定の事情においては、公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反」となりますが、一定の事情に該当しない場合(=職務上通常尽くすべき注意をしていた場合)、注意義務違反とはならず(過失はないとして)、国賠法1条に違反しないことになります。よって、「当然に違法」という部分は妥当ではありません。
※ 職務上通常尽くすべき注意をしていた場合とは、きちんと注意を払って仕事をしていた場合といったイメージです。
※ 一定の事情がどのような事情かまでは考えなくても大丈夫です。

■ちなみに問題文の前半部分「通達は、本来、法規としての性質(国民の権利を制限したり、義務を課したりする性質)を有しない行政組織内部の命令にすぎず、その違法性を裁判所が独自に判断できる」は正しいです。

2.検察官は合理的な嫌疑があれば公訴を提起することが許されるのであるから、検察官が起訴した裁判において最終的に無罪判決が確定したからといって、当該起訴が国家賠償法1条1項の適用上も当然に違法となるわけではない。

2・・・妥当

●検察官が起訴した裁判で無罪が確定 → 合理的な理由があって起訴した場合、国賠法1条の適用上違法ではない

判例(最判昭53.10.20)では、「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで、直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。そして、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば違法とはならない」と判示しています。つまり、検察官は合理的な嫌疑(理由)があれば公訴を提起することが許されます。
そして、検察官が起訴した裁判において最終的に無罪判決が確定したとしても、当該起訴について、合理的な嫌疑(理由)があれば、国家賠償法11項の適用上、違法とはなりません
※ 「起訴」とは、刑事事件について検察官が裁判所に訴えを提起することをいう(起訴=公訴を提起すること)
※ 「公訴」とは、上記起訴された刑事裁判のことをいう。起訴と控訴の違いは分からなくても大丈夫です。

3.裁判官のなす裁判も国家賠償法1条の定める「公権力の行使」に該当するが、裁判官が行う裁判においては自由心証主義が認められるから、裁判官の行う裁判が国家賠償法1条1項の適用上違法と判断されることはない。

3・・・妥当ではない

●裁判官は自由な判断が許されるが、違法又は不当な目的をもって裁判をした場合、国賠法1条違反となる

判例(最判昭57.3.12)では、「裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。 」と判示しています。自由心証主義とは、裁判において、事実認定や証拠評価について裁判官の自由な判断に委ねることをいいます。
そして、裁判官が行う裁判においては自由心証主義が認められます。ただし、違法又は不当な目的をもって裁判をすることは許されません
したがって、違法又は不当な目的をもって裁判をした場合は、国家賠償法1条1項の適用上違法と判断されることはあるので誤りです。

4.国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)は、国家賠償法1条の定める「公権力の行使」に該当するものではなく、立法の内容が憲法の規定に違反する場合であっても、国会議員の当該立法の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることはない。

4・・・妥当ではない

●国会議員の立法行為 → 国賠法1条の「公権力の行使」に該当
●憲法違反の法律を意図的に作るといった場合は、例外的に、国賠法1条の適用上違法となる

まず、国会議員の立法行為は「公権力の行使」に該当します。
そして、判例(最判昭60.11.21)では、「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき(ような) 、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」と判示しています。
言い換えると、憲法違反の法律を意図的に作るといった場合は、例外的に、国賠法1条の適用上違法となるということです。
したがって、「立法の内容が憲法の規定に違反する場合であっても、国会議員の当該立法の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることはない」は誤りです。

5.政府が、ある政策目標を実現するためにとるべき具体的な措置についての判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため当該目標を達成できなかった場合には、国家賠償法1条1項の適用上当然に違法の評価を受ける。

5・・・妥当ではない

●政府目標実現のための具体的な措置についての判断が間違っていたり、措置が適切でなかったとしても、国賠法上の損害賠償責任は生じない

判例(最判昭57.7.15)では、「政府が物価の安定等の政策目標を実現するためにとるべき具体的な措置についての判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成できなかったとしても、法律上の義務違反ないし違法行為として、国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものではない」と判示しています。つまり、「当然に違法の評価を受ける」というのは妥当ではありません

具体例 政府が経済政策に失敗して、結果として日本経済が悪化したとしても、法律上の義務違反ないし違法行為として、国家賠償法上の損害賠償責任は生じません。


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

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