改正民法に対応済
Aは自己所有の甲機械(以下「甲」という。)をBに賃貸し(以下、これを「本件賃貸借契約」という。)、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。この事実を前提とする次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Bは、本件賃貸借契約において、Aの負担に属するとされる甲の修理費用について直ちに償還請求することができる旨の特約がない限り、契約終了時でなければ、Aに対して償還を求めることはできない。
- CがBに対して甲を返還しようとしたところ、Bから修理代金の提供がなかったため、Cは甲を保管することとした。Cが甲を留置している間は留置権の行使が認められるため、修理代金債権に関する消滅時効は進行しない。
- CはBに対して甲を返還したが、Bが修理代金を支払わない場合、Cは、Bが占有する甲につき、動産保存の先取特権を行使することができる。
- CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができる。
- CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできない。
【解説】
Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。
1.Bは、本件賃貸借契約において、Aの負担に属するとされる甲の修理費用について直ちに償還請求することができる旨の特約がない限り、契約終了時でなければ、Aに対して償還を求めることはできない。
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができます(民法608条)。したがって、Bが支出した甲機械の修理費用は、賃貸人Aに対して、直ちに「立て替えたお金を返してください!」と償還請求できます。
Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。
2.CがBに対して甲を返還しようとしたところ、Bから修理代金の提供がなかったため、Cは甲を保管することとした。Cが甲を留置している間は留置権の行使が認められるため、修理代金債権に関する消滅時効は進行しない。
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げません(民法300条)。つまり、Bが修理代金を払わないことを理由にCが甲機械を留置していたとしても、「Cの有する修理代金債権」の時効は進行し続けます。よって、誤りです。
時効の更新をするためには、裁判上の請求等が必要です。
Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。
3.CはBに対して甲を返還したが、Bが修理代金を支払わない場合、Cは、Bが占有する甲につき、動産保存の先取特権を行使することができる。
先取特権とは、別の債権より優先して、先に弁済を受け取ることができる権利です。そして、先取特権は担保物権の中の一つで、その中でも法定担保物権の一つです(留置権も法定担保物権)。つまり、抵当権などとは異なり、当事者間で設定契約をしなくても、法律上一定の事由があれば当然に発生するものです。
先取特権者は、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有します(民法303条)。本問の場合、「債務者はB」です。そして、甲機械は、債務者Bの財産ではなく、「Aの財産」です。よって、甲機械につき、動産保存の先取特権を行使することができません。
動産の価値を維持するための行為をして債権を得た場合、その動産に付着するのが動産の先取特権です。本問のように、動産を修理した場合、動産の価値を維持するための行為をしています。そのため修理代金をもらっていない場合、その動産に、先取特権が付着します。ただし、要件としては、債務者所有の動産でなければいけません。
Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。
4.CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができる。
本問を見ると、CはBから甲の修理を請け負っています。
つまり、請負契約を締結していることから、Cは甲機械を管理する義務を負います。よって、事務管理は成立しません。
したがって、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができません。よって、誤りです。
事務管理とは、法律上の義務がない(契約がない)のに、他人のためにその事務を処理することを言います。
そして、事務管理にあたり、管理者が、本人のために、有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます。
隣家の人Xが1ヶ月海外旅行に行っている間に台風が来て、隣家の屋根が飛ばされたとします。天気予報では大雨が長期間続くことから、あなたYはXから頼まれていないが、工務店に屋根の修理を頼みました。 この場合、あなたYを「(事務)管理者」で、Xを「本人」と呼びます。
5.CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできない。
不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負います(民法703条)。
本問の事例で、甲機械の所有者Aは、④法律上の原因がなく利益を受けたかが問題となります。今回の場合、「修理費用をBの負担(Aの利益)」とする代わりに、「賃料を減額(Aの損失)」していたのだから、Aは「対価関係なしに利益を受けた」とはいえないとしています。Aは損失を被って、それを「原因」として、利益を受けているので、「利益に法律上の原因があり」、単に利益だけを受けているわけではないので、不当利得は成立しないと判示しています。
よって、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできません。
平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 人権 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 経済的自由 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 内閣 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 財政 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法の概念 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 無効な行政行為 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 執行罰 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・社会 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法の判例 | 問55 | 一般知識・その他 |
| 問26 | 行政不服審査法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:総則 | 問60 | 著作権の関係上省略 |



