改正民法に対応済
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。この場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。
ア DがA、BおよびCに無断で甲土地上に乙建物を建てて甲土地を占有使用している場合、Aは、Dに対し、単独で建物の収去および土地の明渡しならびに土地の占拠により生じた損害全額の賠償を求めることができる。
イ Eが、A、BおよびCが共有する乙建物をAの承諾のもとに賃借して居住し、甲土地を占有使用する場合、BおよびCは、Eに対し当然には乙建物の明渡しを請求することはできない。
ウ Fが賃借権に基づいて甲土地上に乙建物を建てた場合において、A、BおよびCが甲土地の分割協議を行うとするときは、Fに対して分割協議を行う旨を通知しなければならず、通知をしないときは、A、BおよびCの間でなされた分割の合意は、Fに対抗することができない。
エ Aが乙建物を所有し居住している場合において、Aが、BおよびCに対して甲土地の分割請求をしたときは、甲土地をAに単独所有させ、Aが、BおよびCに対して持分に相当する価格の賠償を支払う、いわゆる全面的価額賠償の方法によって分割しなければならない。
オ A、BおよびCが乙建物を共有する場合において、Aが死亡して相続人が存在しないときは、Aの甲土地および乙建物の持分は、BおよびCに帰属する。
- ア・イ
- ア・ウ
- イ・オ
- ウ・エ
- エ・オ
【解説】
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。
ア DがA、BおよびCに無断で甲土地上に乙建物を建てて甲土地を占有使用している場合、Aは、Dに対し、単独で建物の収去および土地の明渡しならびに土地の占拠により生じた損害全額の賠償を求めることができる。
●損害賠償請求 → 共有者は、自己の共有持分の割合に応じて請求できる(他の共有者の分までは請求できない)
■「建物の収去」及び「土地の明渡し」請求について保存行為は、各共有者が単独ですることができます(民法252条)。保存行為とは、共有物の現状を維持する行為を指し、共有の土地に不法占拠者が建物を
無断で建築していた場合、「建物の収去」及び「土地の明渡し」の請求は保存行為に当たります。
よって、「Aは、Dに対し、単独で建物の収去および土地の明渡しを求めることができる」
ので、前半部分は正しいです。
判例では、共有物が不法に占有されたことを理由として、不法占有者に対して損害賠償を求める場合、共有者は、それぞれその共有持分の割合に応じて請求をすべきものであり、その割合を超えて請求をすることは許されないとしています。
つまり、損害賠償請求については、自己の共有持分の割合しか請求できず、他の共有者の分も併せて請求することはできません。
ABCの持分が各1/3で、損害額が全体として90万円であった場合、Aは30万円までしか損害賠償請求できないということです。
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。
イ Eが、A、BおよびCが共有する乙建物をAの承諾のもとに賃借して居住し、甲土地を占有使用する場合、BおよびCは、Eに対し当然には乙建物の明渡しを請求することはできない。
1つのモノ(共有物)を複数の者が共有した場合、各共有者は共有物の全部について、その持分の割合に応じて使用することができます。少し分かりにくいのですが、例えば、ある事務所の1室を、ABCが共有していて、Aの持分が2分の1、 B・Cの持分がそれぞれ4分の1だったと仮定します。この場合、Aは建物全てを使用できます。ただし、持分の割合が2分の1なので、1ヶ月のうち2週間だけ使用できるというイメージです。
では、共有者の一人Aが他の共有者の同意なくEに建物の使用を認めた場合、ただちに、他の共有者BCは、Eに対して明渡請求ができるか?が本問の質問内容です。
【判例】 では、他の共有者BCは、Eに対して明渡請求できないとしています。
【理由】 Eは共有者の一人Aの持分の範囲内であれば、建物を使用することはできるからです。したがって、他の共有者BCはAに対して、当然に明け渡し請求はできません。
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。
ウ Fが賃借権に基づいて甲土地上に乙建物を建てた場合において、A、BおよびCが甲土地の分割協議を行うとするときは、Fに対して分割協議を行う旨を通知しなければならず、通知をしないときは、A、BおよびCの間でなされた分割の合意は、Fに対抗することができない。
【前提知識】 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用(交通費等)で、分割に参加することができます(民法260条1項)。上記参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができません(2項)。そして、分割協議を行うとするときは、債権者に対して分割協議を行う旨を通知する必要はありません。
【本問の内容】 「Fが賃借権に基づいて甲土地上に乙建物を建てた場合」なので、Fは甲土地(共有物)を使用できる権利を持ちます。言い換えると、共有物の使用に関して、Fは債権者で、ABCは債務者です。したがって、Fは共有分割参加することはできます。しかし、ABCは、Fに対して分割協議を行う旨を通知する義務はないので、この点が誤りです。また、通知をしなかったとしても、Fが参加請求をしなければ、ABC間でなされた分割の合意は、Fに対抗することができるので、この点も誤りです。
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。
エ Aが乙建物を所有し居住している場合において、Aが、BおよびCに対して甲土地の分割請求をしたときは、甲土地をAに単独所有させ、Aが、BおよびCに対して持分に相当する価格の賠償を支払う、いわゆる全面的価額賠償の方法によって分割しなければならない。
分割の方法は下記3つありますが、事情に応じて裁判所の裁量で分割方法を選択します。また、当事者の話し合いで決める場合もどの分割方法を選択しても構いません。判例でも、裁判所は、共有者の実質的公平を害しない特段の事情があれば、共有者のうちの1人の単独所有として、他の共有者にその持分の価格を賠償させる方法で分割させることができるとしています。よって、「全面的価額賠償の方法によって分割しなければならない」と義務になっている点は誤りです。あくまでも「全面的価額賠償の方法によって分割することもできる」という任意です。
※ 全面的価額賠償とは、下表の「価額賠償」のことです。
※ 分割請求は、初めは当事者の話し合いで行いますが、それでも解決できない場合は、訴訟により解決します。
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。
オ A、BおよびCが乙建物を共有する場合において、Aが死亡して相続人が存在しないときは、Aの甲土地および乙建物の持分は、BおよびCに帰属する。
オ・・・正しい
●「共有者の一人が持分を放棄」「共有者の一人が相続人なく死亡」 → 他の共有者に帰属
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属します(民法255条)。 よって、本問は正しいです。
■もし相続人がいたらどうなるか?
死亡した共有者の持分は、相続人が相続する
■相続人がおらず、特別縁故者がいた場合どうなるか?
判例では、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、民法958条の3に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされないときに、同法255条により他の共有者に帰属するとしています。つまり、相続人がおらず、特別縁故者がいた場合、特別縁故者に帰属する場合があります。
※ 民法958条の3 一定期間内に相続する権利を主張する者がいないとき、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者という)の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 国民審査 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | プライバシー権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 国会 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 信教の自由 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政裁量 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政事件訴訟法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法改正により削除 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政事件訴訟法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・公文書管理法 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |


