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平成28年・2016|問32|民法・債権者代位権・詐害行為取消請求

改正民法に対応済

債権者代位権または詐害行為取消権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものはどれか。

  1. 債権者は、債権の弁済期前であっても、債務者の未登記の権利について登記の申請をすることについて、裁判所の許可を得た場合に限って、代位行使することができる。
  2. 債権者は、債務者に属する物権的請求権のような請求権だけでなく、債務者に属する取消権や解除権のような形成権についても代位行使することができる。
  3. 債権者は、債務者に属する権利を、債権者自身の権利として行使するのではなく、債務者の代理人として行使することができる。
  4. 甲不動産がAからB、AからCに二重に譲渡され、Cが先に登記を備えた場合には、AからCへの甲不動産の譲渡によりAが無資力になったときでも、Bは、AからCへの譲渡を詐害行為として取り消すことはできない。
  5. 詐害行為取消権の立証責任に関しては、債務者の悪意と同様に、受益者および転得者側の悪意についても債権者側にある。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:2

【解説】

1.債権者は、債権の弁済期前であっても、債務者の未登記の権利について登記の申請をすることについて、裁判所の許可を得た場合に限って、代位行使することができる。

1・・・誤り

●債権者代位権の要件の一つ : 債権の弁済期が到来していること
ただし、保存行為については、弁済期が到来していなくても行える

●債権者代位権 :裁判外で行える(裁判所の許可は不要

債権者代位権とは、債権者が債務者の代わりに権利行使することを言います。

【具体例】 売主Aが建物を所有しており、未登記だったとします。
この建物を買主BがAから購入した。
この場合、AからBへ所有権移転登記をしないと、Bは対抗要件を備えることができません。

しかし、建物が未登記(保存登記がされていない)の場合、所有権移転登記ができません。

この場合、買主Bは、売主Aに代わって、Aの保存登記を行うことができます。

流れとしては、①A名義の保存登記(これを、Bが、Aの代わりに行う=債権者代位権を行使する)、その後②AからBへの移転登記を行う流れです。

債権者Bは、Aに対して「移転登記請求権」を持っており、これを保全するために、債務者Aの有する「保存登記をする権利」を代わりに行使するということです。

そして、今回の「BがAの代わりに保存登記を行うこと」は、「保存行為」に当たります。そのため、弁済期が到来していなくても行うことができます。また、債権者代位権は裁判所の許可も不要です(裁判外で行える)。

2.債権者は、債務者に属する物権的請求権のような請求権だけでなく、債務者に属する取消権や解除権のような形成権についても代位行使することができる。

2・・・正しい

●債権者代位権 : 物権的請求権だけでなく形成権についてもの代位行使できる

【物権的請求権の具体例】 Aが、BにA所有の建物を賃貸した。当該建物に不法占拠者がいた場合、Aが有する「所有権に基づく妨害排除請求権」を賃借人Bが代わりに行使することができます。この妨害排除請求権は所有権という物権に基づく請求権です。

【形成権の具体例】 形成権とは、権利者の一方的な意思表示によって一定の法律関係を発生させることのできる権利を言います。例えば、取消権や解除権です。CがDに対して100万円を貸していた。Cは「貸金債権」を持つ。Dは、E生命保険会社と保険の契約をしてした。その後、Dが無資力となった場合、Cは「貸金債権」を保全するために、Dの有する保険契約の解除権を行使することができる。(Cは、解約返戻金から100万円を回収する)

3.債権者は、債務者に属する権利を、債権者自身の権利として行使するのではなく、債務者の代理人として行使することができる。

3・・・誤り

●債権者代位権 : 債権者が自己の権利として行使する / 債務者の代理人として行使するのではない

債権者代位権は、債権者の有する権利です。債権者は「債務者の権利」を代わりに行使していますが、これは債務者の代理人という立場で権利行使しているのではなく、債権者の自己の権利として行使しています。よって、本問は誤りです。

4.甲不動産がAからB、AからCに二重に譲渡され、Cが先に登記を備えた場合には、AからCへの甲不動産の譲渡によりAが無資力になったときでも、Bは、AからCへの譲渡を詐害行為として取り消すことはできない。

4・・・誤り

●債務者が処分(譲渡)することにより無資力となった場合には、債権者はその処分行為を詐害行為として取り消すことができる

【問題文の状況】 Aは、BとCの二者に甲不動産を譲渡しています。

そして、Cが先に登記を備えているので、Cは対抗要件を備えます。

一方、Bは購入したため、Aに対して「引渡請求権」を持ちます。

そして、Cへの譲渡(例えば贈与)により、Aが無資力となった。

【前提知識】 詐害行為取消権における被保全債権は、原則、金銭債権でなければなりません。

【判例】 今回は「引渡請求権」なので、金銭債権ではないです。しかし、Aが引渡しができないことにより、損害賠償請求権という金銭債権に代わることから、AからCへの譲渡を詐害行為として、詐害行為取消権を行使できるとしています。

つまり、Bは、AC間の譲渡を詐害行為として譲渡契約を取消すことができます。

5.詐害行為取消権の立証責任に関しては、債務者の悪意と同様に、受益者および転得者側の悪意についても債権者側にある。

5・・・誤り

●詐害行為取消権における、「受益者の善意」は受益者が立証責任を負い、「転得者の悪意」は債権者が立証責任を負う

【前提知識と具体例】

①AはBに100万円を貸した(Aは貸金債権を有している)。その後、弁済期が到来したにも関わらず、BはAに100万円を弁済しなかった。Bは唯一の財産である2000万円の甲地を有していたが、そのまま所有し続けると、Aに差し押さえられてしまうので、②Bは甲地をCに売却した。この状況で、Aを債権者、Bを債務者、Cを受益者と呼びます。

※受益者は、「詐害行為によって利益を受けた者」という言い方もします。

ここで、AがBに100万円を貸したのは、Bが甲地を所有しており、万一返せなくても、この土地を差し押さえて、返してもらおうと期待できたからでしょう。

それにも関わらず、Bが甲地を売却してしまったら、Aは甲地を差し押さえて、100万円を回収するという事ができなくなってしまいます。それではAの利益を害するし、またBは明らかにAを害するためにこのような行為をしているわけなので、Bを保護する必要性は低いです。

※Aは貸金債権を保全したい:回収できるようにしたい→貸金債権を「被保全債権」と呼ぶ

そこで、民法では、債務者BがAを害することを知ってした行為(Cへの売却)について、債権者Aは、取り消すことができるとしています。これが「詐害行為取消権」です。具体的には、③債権者Aが裁判所に、詐害行為取消請求の訴えをし、④訴えが認められれば、取消判決となり、BC間の売買契約は取り消されます。

この「債務者BがAを害することを知ってした行為」を「詐害行為」と言います。

ただし、例外として、詐害行為について受益者Cが知らなかった場合(善意)、債権者Aは詐害行為取消権を行使できません。そして、詐害行為(BC間の売買契約)が取消された場合、受益者Cは、反対給付(Bに支払った代金)の返還を請求することができます。

【判例】

上記受益者(もし、受益者が、さらに別の者に転売していた場合は転得者)が善意か悪意かは、受益者や転得者が立証責任を負います。つまり、受益者・転得者が善意を立証すれば、受益者・転得者が保護されます(Aは取消しできない)。

【理解】

原則として、立証責任は「権利を主張する側」にあります。

①債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
ただし、その行為によって利益を受けた者(受益者)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。(民法424条)

ただし書きの部分から、「受益者が、債権者を害すべき事実を知らなかったときは、詐害行為取消権は行使できない」ということなので、「権利を主張する側」は「受益者」です。
したがって、「受益者が、債権者を害すべき事実を知らなかった」ことは、受益者が立証責任を負います。

一方
②転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき、債権者は、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる(民法424条の5)。

詐害行為取消請求を主張するのは、債権者です。したがって、「転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていた」ことについては、「債権者」が立証責任を負います。

よって、①の受益者に関する部分が誤りです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

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