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平成25年・2013|問28|民法・時効

改正民法に対応済

不動産の取得時効と登記に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。
  2. 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。
  3. 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができず、このことは、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したとしても、特段の事情がない限り、異ならない。
  4. 不動産の取得時効の完成後、占有者が、その時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して時効を主張するにあたり、起算点を自由に選択して取得時効を援用することは妨げられない。
  5. 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後にその不動産を譲り受けて登記をした者に対して、その譲受人が背信的悪意者であるときには、登記がなくても時効取得をもって対抗することができるが、その譲受人が背信的悪意者であると認められるためには、同人が当該不動産を譲り受けた時点において、少なくとも、その占有者が取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していたことを要する。

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改正民法に対応済

【答え】:1

【解説】

1.不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。

1・・・妥当

●時効期間満了 → 抵当権を設定される → 再度その後、時効期間が満了 → 時効取得し、抵当権消滅

具体例 A所有の土地をBが占有し、時効期間が満了した。その後、Aが第三者Cからお金を借り、Cのために抵当権を設定した。その後もBは占有を続けて、再度時効期間が満了した。

質問内容 上記の場合、特段の事情がない限り、占有者Bはその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。○か×か。

判例 判例では、「上記において、再度時効期間の経過後に取得時効を授用したときは、「上記占有者Bが上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り」、上記占有者が、上記不動産を時効取得する結果、上記抵当権は消滅する。」としています。

【詳細解説】  ①の時効完成では、登記をしないうちに抵当権を設定されているので、占有者Bは抵当権者に「抵当権を消滅させてください!」と主張することはできません。しかし、その後、②再度時効完成した場合、占有者Bは再度時効取得するので、時効取得前の抵当権者に対して「抵当権を消滅させてください!」と主張することができます!

2.不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。

2・・妥当ではない

●時効取得者は、時効完成の第三者に対して、登記がなくても、時効取得を理由に所有権を対抗できる

具体例 A所有の甲地をBが占有していた。Bの取得時効が完成する前に、①Aが甲地を第三者Cに譲渡し、Cが登記を備えた。その後、②Bの取得時効が完成した。

質問内容 時効取得者Bは、取得時効完成前のCに対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。○か×か。

判例 判例では、上記具体例について「時効取得者Bは時効完成前の第三者に対して、登記がなくても、時効取得を主張できとしています。

理由 始めに、A所有の甲地をBが占有し、その後、①AがCに甲地を売却し、(まだBが占有中)、その後、②Bの時効が完成したという流れです。時系列を図にすると下のようになります。(左から右に時間が流れている)

まず、Cが存在しない場合を考えてみましょう!基本的な取得時効の問題です。

Aは所有権を持っているにも関わらず、占有しているBに対して裁判上の請求等の時効の更新行為を行わず、一定期間が過ぎるとBの時効が完成します。そのことにより、は登記を備えていなくても」、時効取得者Bは、Aに時効取得を主張できます。

次に、Cが出現した場合を考えます。

CはAから甲地を譲り受けた時点から、Bに対して時効の更新行為を行える立場にあります。

つまり、CもAと同様の立場にあると考えることができます。したがって、CもAと同様に時効の更新を行うことができます。

しかし、それを怠って、時効の更新を行わなかった結果、Bの時効が完成したら、Bは「Aに対して主張できていた時効取得」をCに対しても主張できます。つまり、時効完成前に所有者が変わっても、占有者に何ら影響を与えないということです。AもCも同じ立場として、ひとくくりとみなすわけです。

まとめると、Bは時効完成前の第三者に対して登記がなくても時効取得を主張できます。

3.不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができず、このことは、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したとしても、特段の事情がない限り、異ならない。

3・・・妥当ではない

①時効完成に第三者が現れた場合、「時効取得者A」と「第三者C」は二重譲渡の対抗関係とみなされるので、登記を備えた方が対抗力を持つ

②そして、第三者が先に登記を備えた後、再度、Aが占有を続けて時効期間が満了すれば、Aは登記なくして時効取得をもってCに対抗できる

具体例 

  • 乙不動産の旧所有者:A
  • 時効完成により乙不動産の所有権を適法に取得した者(=占有者、時効取得者):B
  • 時効完成後に不動産を譲り受けた者(第三者):C(登記済みなので、図に〇をしています)

とします。

前半部分  ①について、Aを基点に「A→C」「A→B」と二重譲渡の対抗関係になっているので登記を備えた方が勝ちます。したがって、本問の前半部分「不動産を時効により取得した占有者Bは、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者Cに対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない」という記述は正しいです。

 後半部分 ②について、もし、上記において、Cが先に登記を備え、Cが対抗要件を備えたとします。その後もBが占有を続け、時効取得に必要な期間を継続した場合(再度、時効完成した場合)、Bは時効取得するため、登記なくしてCに対抗できます。よって、後半部分は誤りです。

4.不動産の取得時効の完成後、占有者が、その時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して時効を主張するにあたり、起算点を自由に選択して取得時効を援用することは妨げられない。

4・・・妥当ではない

●時効取得しようとする者は、時効期間の起算点を任意に選択することはできない

具体例 選択肢2や選択肢3の解説の通り、「時効完成前に第三者が現れた場合、時効取得者は登記なくして第三者に対抗でき」、「時効完成後に第三者が現れた場合は登記をしないと、時効取得者は第三者に対抗できません」。

もし、占有者Bが、1970年にA所有地について占有を開始し、1990年に時効完成するとします。その後、登記を備えず、1995年にAが第三者Cに当該土地を売却し、Cが登記を備えた。この場合、Cは時効完成後の第三者にあたるので、CはBに所有権を主張できます。

質問内容 ここで、占有者Bは、1970年から占有を開始しているのですが、1980年も占有を継続しているので、「1980年を占有開始時」と考えたら、2000年に時効が完成するため、1995年に土地を購入したCは時効完成前の第三者に当たります。このように考えることで、BはCに対して、登記なくして所有権を主張できるか?

判例 判例では、「時効援用をする者は、任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり、遅らせたりすることはできない」としています。つまり、上記のように、占有開始時の時期を好き勝手選択することはできないということです。

よって、本問の「起算点を自由に選択して取得時効を援用することを妨げない」=「起算点を自由に選択して取得時効を援用することができる」というのは誤りです。

5.不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後にその不動産を譲り受けて登記をした者に対して、その譲受人が背信的悪意者であるときには、登記がなくても時効取得をもって対抗することができるが、その譲受人が背信的悪意者であると認められるためには、同人が当該不動産を譲り受けた時点において、少なくとも、その占有者が取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していたことを要する。

5・・・妥当ではない

●時効完成後に不動産を譲り受けた者が背信的悪意者の場合、時効取得者は、登記なくして背信的悪意者に対抗できる

●不動産を譲り受けた者が、取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても、背信的悪意者と認められる場合もある

具体例 

A所有の乙不動産をBが占有し、その後、時効が完成した。
時効完成後、Aが背信的悪意者Cに乙不動産を売却した。

前半部分 上記において、Cが背信的悪意者であるときには、Bは登記がなくても時効取得をもって対抗することができます。よって、前半部分は正しいです。

理由 背信的悪意者は「第三者」として扱わないから。

後半部分 乙不動産の譲受人Cが、背信的悪意者であると認められるためには、Cが当該不動産を譲り受けた時点において、少なくとも、「その占有者Bが取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していた」ことを必要である。○か×かという質問です。この点について判例では、「取得時効が成立しているか否かは、容易に認識・判断することができないことから考えると、成立要件すべてを認識していていなくても、背信的悪意者に該当する場合もある」としています。

つまり、「背信的悪意者と認められるために、少なくとも(最低限)、取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していたことが必要」というのは誤りです。


平成25年度(2013年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 法の下の平等 問33 民法
問4 憲法と私法上の行為 問34 民法:債権
問5 権力分立 問35 民法:親族
問6 国会 問36 商法
問7 憲法・精神的自由 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法等 問44 行政法・40字
問15 法改正のより削除 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・社会
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・政治
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・情報通信
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

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