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平成25年・2013|問29|民法

改正民法に対応済

Aが自己所有の事務機器甲(以下、「甲」という。)をBに売却する旨の売買契約(以下、「本件売買契約」という。)が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. Aが甲をすでにBに引き渡しており、さらにBがこれをCに引き渡した場合であっても、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、甲につき先取特権を行使することができる。
  2. Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことができる。
  3. 本件売買契約において所有権留保特約が存在し、AがBから売買代金の支払いを受けていない場合であったとしても、それらのことは、Cが甲の所有権を承継取得することを何ら妨げるものではない。
  4. Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、留置権を行使してこれを拒むことができる。
  5. Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、Bが売買代金を支払わないことを理由にAが本件売買契約を解除(債務不履行解除)したとしても、Aは、Cからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことはできない。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:4

【解説】

Aが自己所有の事務機器甲をBに売却する旨の売買契約が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。

1.Aが甲をすでにBに引き渡しており、さらにBがこれをCに引き渡した場合であっても、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、甲につき先取特権を行使することができる。

1・・・妥当ではない

●先取特権 → 目的物が第三者に引き渡されると行使できなくなる

動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在します(民法321条)。そして、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができません(民法333条)。

具体例  Aが自己所有の事務機器甲をBに売却した。Bが代金を払わない場合、Aの代金債権を担保(保証)するために、事務機器甲に先取特権が付着します。つまり、Aは、先取特権に基づいて、甲を競売にかけて、その代金からお金を回収することができます。しかし、Bが甲を第三者Cに売却し、引き渡しをしてしまうと、Aは先取特権を行使することができなくなります。これは、第三者Cが悪意であっても、同様に先取特権を行使できません。

理由 動産の先取特権は公示方法がないので、動産取引の安全を図るために、第三者に引き渡した場合は、第三者を保護するルールにしています。

Aが自己所有の事務機器甲をBに売却する旨の売買契約が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。

2.Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、同時履行の抗弁権を行使してこれを拒むことができる。

2・・妥当ではない

●同時履行の抗弁権 → 「債権」として扱う → 契約の相手方には主張できるが、契約相手以外の者には主張できない

同時履行の抗弁権は、1つの双務契約から生じた権利であり「債権」として扱います。

■「双務契約」とは、お互いが債務を負担する契約で、例えば、売買契約において、売主は物を引き渡す義務を負い、買主はこれに対し代金支払義務を負うというのも一例です。そして、買主Bが代金を支払わない場合(債務を履行しない場合)、売主Aは、同時履行の抗弁権を主張して、買主に対して物の引き渡しを拒むことができます。そしてこの「同時履行の抗弁権」は「債権」なので、契約の相手方にしか権利を主張できません。買主が別の第三者Cに物を転売して、Aが、第三者Cから、所有権に基づいて引き渡しを求められた場合、Aは同時履行の抗弁権をCに主張することはできません。よって、本問は誤りです。

Aが自己所有の事務機器甲をBに売却する旨の売買契約が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。

3.本件売買契約において所有権留保特約が存在し、AがBから売買代金の支払いを受けていない場合であったとしても、それらのことは、Cが甲の所有権を承継取得することを何ら妨げるものではない。

3・・・妥当ではない

●所有権留保 → 代金が完済されない場合、契約解除をし、所有権に基づいて第三者に返還請求できる

「所有権留保」とは、引き渡しだけ終えて、代金を全額支払ってもらうまで、所有権は移転させないというものです。つまり、買主は代金を全額弁済すれば所有権を移転してもらえます。そして、もし、買主Bが売主Aに代金を支払わない場合、売主は所有権を留保しているので、契約解除をして、「所有権」に基づいて返還請求ができます。「所有権(物権)」に基づいた返還請求なので、第三者Cにも対抗できます。

ここで問題文の「所有権留保が、Cが甲の所有権を承継取得することを何ら妨げるものではない」とは「所有権留保があっても、Cが甲の所有権取得の妨げにもならない」つまり、「Aは、所有権を留保していても、Cに対抗できない」ことを意味します。よって、本問は誤りです。

Aが自己所有の事務機器甲をBに売却する旨の売買契約が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。

4.Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、CがAに対して所有権に基づいてその引渡しを求めたとき、Aは、Bから売買代金の支払いを受けていないときは、留置権を行使してこれを拒むことができる。

4・・・妥当

●留置権 → 物権 → 第三者に対抗できる

他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができます(民法295条:留置権)。そして、「留置権」は、物権なので、第三者にも主張できます。そのため、 甲が、AからB、BからCへと売却され、Aが代金を受領していない場合、Aは、甲(物)を引渡していないとき、留置権を主張して、BだけでなくCにも、甲の引き渡しを拒むことができます。

Aが自己所有の事務機器甲をBに売却する旨の売買契約が締結されたが、BはAに対して売買代金を支払わないうちに甲をCに転売してしまった。

5.Aが甲をまだBに引き渡していない場合において、Bが売買代金を支払わないことを理由にAが本件売買契約を解除(債務不履行解除)したとしても、Aは、Cからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことはできない。

5・・・妥当ではない

●動産の対抗要件=引き渡し 

●契約解除をした場合、原状回復義務を負うが、対抗要件を備えた者の権利を害することはできない 

当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、原状回復義務を負います。ただし、第三者の権利を害することはできません(民法545条)。

具体例  Aが自己所有の事務機器甲をBに売却した。Bが代金を払わないことを理由に契約解除をした。その場合、売主Aは、代金を買主Bに返還する義務を負い、一方、買主Bは、売主Aに事務機器甲を返還する義務を負います。これが545条本文の内容です。ただし書きについて、「第三者の権利」とは、「対抗要件を備えた第三者の権利」という意味で、動産の場合、引渡しを受けることで対抗要件を備えます。つまり、BがCに、事務機器甲を転売して、Cが引き渡しを受けているのであれば、Cは、Aに所有権を主張できるが、Cが引渡しを受けていない場合、Cは対抗要件を備えていないので、Aに所有権を主張できません。本問の場合、Aは甲(目的物)を引渡していないので、Aが所有権を主張できます。よって、AはCからの所有権に基づく甲の引渡請求を拒むことはできます。


平成25年度(2013年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 法の下の平等 問33 民法
問4 憲法と私法上の行為 問34 民法:債権
問5 権力分立 問35 民法:親族
問6 国会 問36 商法
問7 憲法・精神的自由 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法等 問44 行政法・40字
問15 法改正のより削除 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・社会
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・政治
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・情報通信
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

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