労働組合の活動に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 組合員の生活向上のために、統一候補を決定し、組合を挙げてその選挙運動を推進することなども労働組合の活動として許されるので、組合の方針に反し対立候補として立候補した組合員を統制違反者として処分することも許される。
- 労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置を促進し、またはこれに反対する活動は、政治活動としての一面をもち、組合員の政治的思想・見解等とも無関係ではないが、労働組合の目的の範囲内の活動とみることができるので、組合員に費用負担などを求めることも許される。
- 国民全体の奉仕者である公務員の争議行為を禁止すること自体は憲法に違反しないが、争議行為をあおる行為の処罰が憲法上許されるのは、違法性が強い争議行為に対し、争議行為に通常随伴しない態様で行われる場合に限られる。
- 公務員の争議行為は禁止されているが、政治的目的のために行われる争議行為は、表現の自由としての側面も有するので、これを規制することは許されない。
- 人事院勧告は公務員の争議行為禁止の代償措置であるから、勧告にしたがった給与改定が行われないような場合には、それに抗議して争議行為を行った公務員に対し懲戒処分を行うことは許されない。
【答え】:2【解説】
1・・・誤り
【事案】
市議会議員選挙に際して、労働組合の組合員の中から統一候補として推選し、その選挙運動を押し進めることにした。
しかし、候補者に選ばれなかった労働組合の組合員Xが、組合の意図に反し、独自の立場で立候補する意思を表明した。
Xに対して、労働組合の統制違反者として処分をすることは違法か?
【判例】
判例によると、「労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内におい て、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。しかし、当該組合員に対し、勧告または説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」と判示しています(最大判昭43.12.4:三井美唄炭鉱労組事件)。
つまり、本肢の「組合の方針に反し対立候補として立候補した組合員を統制違反者として処分することも許される」は誤りです。
正しくは「許されず、違法です。」
2・・・正しい
【事案】
旧国鉄(現在のJR)の労働組合は、脱退した組合員に対して、脱退前の未納の「一般組合費」と「臨時組合費」の支払いを請求した。
【判例】
判例によると、「組合員個人の政治的立場の相違を超えて労働組合本来の目的を達成するための広い意味における経済的活動ないしはこれに付随する活動であるともみられるものであって、このような活動について組合員の協力を要求しても、その政治的自由に対する制約の程度は極めて軽微なものということができる。それゆえ、このような活動については、労働組合の自主的な政策決定を優先させ、組合員の費用負担を含む協力義務を肯定すべきである。」
と判示しています( 最判昭50.11.28:国労広島地本事件)。よって、労働組合の目的の範囲内の活動とみることができる費用については、組合員に費用負担などを求めることも許されます。
3・・・誤り
【事案】
全農林労働組合の役員である被告人らは、警察官職務執行法(警職法)の改正に反対する運動を行っていた。
被告人らは、全農林労働組合の傘下にある各県の本部に対して、勤務時間内の2時間、開催される反対運動に参加するよう促した。この行為が、国家公務員法98条5項の禁止する「違法な葬儀のあおり行為」に該当するとして、あおり行為等の罪によって起訴された。
当該「あおり行為等の罪」の規定は憲法に違反するか?
【判例】
当該「あおり行為等の罪」の規定は憲法に違反しない。
判例によると、「あおり行為等の罪として刑事制裁を科されるのはそのうち違法性の強い争議行為に対するものに限るとし、あるいはまた、あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、国公法上不処罰とされる争議行為自体と同一視し、かかるあおり等の行為自体の違法性の強弱または社会的許容性の有無を論ずることは、いずれも、とうてい是認することができない。」と判示しています(最大判昭48.4.25:全農林警職法事件) 。
つまり、「あおり行為等の罪として刑事制裁を科されるのは、違法性の強い争議行為に対するものに限る・・・ということはとうてい認められない」また、「あおり等の行為自体の違法性の強弱・・・を論ずることも、とうてい認められない」ということから、本肢の「あおる行為の処罰が憲法上許されるのは、違法性が強い争議行為に対し、争議行為に通常随伴しない態様で行われる場合に限られる。」というのは誤りです。
■さらに、同じ判例で、『何人であっても、この禁止を侵す違法な争議行為をあおる等の行為をする者は、「違法な争議行為に対する原動力を与える者として、単なる争議参加者にくらべて社会的責任が重い」のであり、また「争議行為の開始ないしはその遂行の原因を作るものである」から、かかるあおり等の行為者の責任を問い、かつ、違法な争議行為の防遏を図るため、その者に対しとくに処罰の必要性を認めて罰則を設けることは、十分に合理性があるものということができる。』としています。
つまり、あおり行為をした者は罰則(処罰)の対象であり、このような規定も憲法違反ではないとしています。
判例によると
「公務員については、経済目的に出たものであると、はたまた、政治目的に出たものであるとを問わず、国公法上許容された争議行為なるものが存在するとすることは、とうていこれを是認することができない」
と判示しています。
つまり、公務員の争議行為は禁止されているが、政治的目的のために行われる争議行為であったとしても禁止だということです。そのため、「政治的目的のために行われる争議行為を規制することは許されない。」という記述は誤りです。
5・・・誤り
【人事院勧告とは?】
人事院が国に対して「国家公務員の給与その他の勤務条件の改善」に関する勧告を言います。
例えば、「国家公務員の給料を上げてください!(下げてください!)」と勧告することです。
そもそも国家公務員は「労働基本権の制約」があります(争議権:ストライキをする権利は認められていない)。そのため、代償措置として、人事院勧告があります。
【事案】
人事院は国に対して、国家公務員の給与改定に関する人事院勧告がなされたが、政府は財政事情を理由に勧告に従わずに、給与の改定を行わなかった。これに抗議して、全農林労働組合はストライキを行い、農林水産省は、組合役員を停職等の懲戒処分にした。そこで、国家公務員の争議行為を一律・全面的に禁止する国家公務員法の規定が、憲法28条(労働基本権)に違反しないか、等が争われた。
【判例】
判例の要旨によると、「人事院勧告の不実施を契機としてその完全実施等の要求を掲げて行われたストライキに関与したことを理由としてされた農林水産省職員らに対する停職六月ないし三月の各懲戒処分は、右ストライキが当局の事前警告を無視して二度にわたり敢行された大規模なものであり、右職員らが、右ストライキを指令した労働組合の幹部としてその実施に指導的な役割を果たし、過去に停職、減給等の懲戒処分を受けた経歴があるなどの原判示の事実関係の下においては、著しく妥当性を欠き懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。」
としており、人事院勧告は公務員の争議行為禁止の代償措置であるから、勧告にしたがった給与改定が行われないような場合であっても、それに抗議して争議行為を行った公務員に対し懲戒処分を行うことは許されます。
■そもそも公務員による争議行為は違法です。
そのため、これをなくす必要があります!
今回の判例についてもこの考え方に従っています!
人事院勧告に従った給与改定が行われないような場合でも、
それに抗議して争議行為を行った公務員に対し懲戒処分を行うことは許されます。
平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 内閣 | 問33 | 民法・債権 |
| 問4 | 内閣 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 財政 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 法の下の平等 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 社会権 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
