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平成24年・2012|問27|民法総則

改正民法に対応済

権利能力、制限行為能力および意思能力に関する次の記述のうち、民法および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 胎児に対する不法行為に基づく当該胎児の損害賠償請求権については、胎児は既に生まれたものとみなされるので、胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して不法行為の加害者に対し損害賠償請求をすることができる。
  2. 失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされ、権利能力を喪失するため、生存することの証明がなされ失踪の宣告が取り消された場合でも、失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない。
  3. 成年後見人は、正当な事由があるときは、成年被後見人の許諾を得て、その任務を辞することができるが、正当な事由がないときでも、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
  4. 成年被後見人の法律行為について、成年後見人は、これを取り消し、または追認することができるが、成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、後見開始の審判が取り消されない限り、これを取り消し、または追認することはできない。
  5. 後見開始の審判を受ける前の法律行為については、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできないが、その者が当該法律行為の時に意思能力を有しないときは、意思能力の不存在を立証して当該法律行為の無効を主張することができる。

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改正民法に対応済

【答え】:5

【解説】

1.胎児に対する不法行為に基づく当該胎児の損害賠償請求権については、胎児は既に生まれたものとみなされるので、胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して不法行為の加害者に対し損害賠償請求をすることができる。

1・・・妥当ではない

●「胎児」も不法行為に基づく損害賠償請求権を持つ

●母は、生まれる前に、胎児の代理人として、損害賠償請求権を行使できない

「胎児」とは、おなかの中の子どものことです。権利能力は出生(生まれること)によって発生するため(民法3条1項)、出生前の胎児の段階では原則として権利能力はありません。しかし、不法行為に基づく損害賠償請求権については、例外的に、胎児も既に生まれたものとみなして、胎児も取得できるようにしています(721条)。そして、判例では、胎児が生まれることによって、不法行為等の時にさかのぼって「不法行為に基づく損害賠償請求権」を取得すると考え、胎児のときに、母が、胎児の代理人として、損害賠償請求権を行使することはできないとしています。

具体例 胎児を持つ母と父がおり、父が交通事故で亡くなった。母と胎児は加害者に対して損害賠償請求権を持つが、胎児の持つ損害賠償請求権は、胎児が生まれてくるまでは行使できないので、胎児が生まれる前に、母が、胎児の代理人として、損害賠償請求権を行使できません。

出生までは権利能力がないので、胎児に法定代理人は付けられません。よって、「胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して・・・」が妥当ではありません。

2.失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされ、権利能力を喪失するため、生存することの証明がなされ失踪の宣告が取り消された場合でも、失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない。

2・・・妥当ではない

●失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされるが、権利能力は有する

●失踪宣告が取り消されても、取消し前に当事者全員が善意で行われた行為については、取消しの影響を受けない

失踪の宣告後その取消し前になされた「失踪者の行為」についても原則有効です。よって、妥当ではありません。

失踪の宣告を受けた者Aは、死亡したものとみなします(民法31条)。しかし、その者Aは権利能力は喪失しません。つまり、もし、Aがどこかで生きていた場合、Aは、物の売買などの法律行為を行えます。よって、誤りです。そして、失踪者Aが生存することの証明があったときは、家庭裁判所は、本人A又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければなりません。この場合において、失踪の宣告後その取消し前に善意で(どこかで生きていることを知らずに)した行為は有効です(32条) 。よって、本問は「失踪の宣告を受けた者は、権利能力を喪失する」と「失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない」は誤りです。

関連ポイント 判例では、失踪宣告取消し前に行為については、当事者全員が善意でなければならないとしています。

具体例 失踪宣告を受けたAの所有する不動産を、Aの妻Bが相続し、Bが第三者Cに売却した。その後、Aが生存していることが分かり、失踪宣告の取消しがなされた。この場合、BとCがともに善意(失踪宣告が真実でなかったことを知らなかった)であれば、BC間の売買契約には影響しないので、Cは所有権を主張できます。

3.成年後見人は、正当な事由があるときは、成年被後見人の許諾を得て、その任務を辞することができるが、正当な事由がないときでも、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

3・・・妥当ではない

●成年後見人 : 正当な事由が「ある」とき → 家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる

●成年後見人 : 正当な事由が「ない」とき → 任務を辞することができない

後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができます(民法844条)。よって、前半部分は「成年被後見人の許諾を得て」となっているので誤りです。

また、正当な事由がない場合、任務を辞することができません。この点も誤りです。

4.成年被後見人の法律行為について、成年後見人は、これを取り消し、または追認することができるが、成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、後見開始の審判が取り消されない限り、これを取り消し、または追認することはできない。

4・・・妥当ではない

●取消し → 成年後見人・成年被後見人どちらも行える

●追認 → 成年後見人は追認できる / 成年被後見人は、行為能力者になった後であれば追認できる

成年被後見人が行った法律行為について、取消しをする場合、「成年被後見人(制限行為能力者)」も「成年後見人(保護者)」もどちらも行えます(民法120条)。

理由 取消しすることによって、成年被後見人に不利益は生じないから

成年被後見人が行った法律行為の追認について、「成年後見人(保護者)」は行えるが、「成年被後見人(制限行為能力者)」は行えません。成年被後見人が、行為能力者になった後でないと追認はできません(124条2項)。

理由 成年被後見人は、重度の認知症の方等です。取消しできる行為について、追認できるとしてしまったら、本人に不利益が生じる恐れがあるから、追認できないとしています。ただし、行為能力者になった後は、物事の判断能力があるので追認できます。

5.後見開始の審判を受ける前の法律行為については、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできないが、その者が当該法律行為の時に意思能力を有しないときは、意思能力の不存在を立証して当該法律行為の無効を主張することができる。

5・・・妥当

●意思無能力者の行為 → 無効

後見開始の審判を受ける前に、Aが法律行為を行った場合、Aは、制限行為能力者ではないので、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできません。しかし、別の理由を考えることができます。例えば、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効となります(3条)。つまり、Aが当該法律行為の時に意思能力を有しないとき、無効を主張できます。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

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