改正民法に対応済
A所有のカメラをBが処分権限なしに占有していたところ、CがBに所有権があると誤信し、かつ、そのように信じたことに過失なくBから同カメラを買い受けた。この場合に関する次のア~エの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものをすべて挙げた組合せはどれか。
ア.CがAのカメラを即時取得するのは、Bの占有に公信力が認められるからであり、その結果、Bがカメラの所有者であったとして扱われるので、Cの所有権はBから承継取得したものである。
イ.Cは、カメラの占有を平穏、公然、善意、無過失で始めたときにカメラの所有権を即時取得するが、その要件としての平穏、公然、善意は推定されるのに対して、無過失は推定されないので、Cは無過失の占有であることを自ら立証しなければならない。
ウ.Bは、Cにカメラを売却し、以後Cのために占有する旨の意思表示をし、引き続きカメラを所持していた場合、Cは、一応即時取得によりカメラの所有権を取得するが、現実の引渡しを受けるまでは、その所有権の取得は確定的ではなく、後に現実の引渡しを受けることによって確定的に所有権を取得する。
エ.Bは、Cにカメラを売却する前にカメラをDに寄託していたが、その後、BがCにカメラを売却するに際し、Dに対して以後Cのためにカメラを占有することを命じ、Cがこれを承諾したときは、たとえDがこれを承諾しなくても、Cは即時取得によりカメラの所有権を取得する。
- ア・イ
- ア・イ・ウ
- ア・ウ・エ
- イ・ウ・エ
- ウ・エ
改正民法に対応済
【答え】:2
【解説】
A所有のカメラをBが処分権限なしに占有していたところ、CがBに所有権があると誤信し、かつ、そのように信じたことに過失なくBから同カメラを買い受けた。
ア.CがAのカメラを即時取得するのは、Bの占有に公信力が認められるからであり、その結果、Bがカメラの所有者であったとして扱われるので、Cの所有権はBから承継取得したものである。
ア・・・妥当ではない
●即時取得は「原始取得」
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、
善意無過失のときは、その動産を即時取得(自分の物に)できます(民法192条)。
即時取得の要件
本問を見ると、上記要件をすべて満たしています。
そのため、Cは「A所有のカメラ」を即時取得します。そして、即時取得は「原始取得」です。「承継取得」ではありません。
A所有のカメラをBが処分権限なしに占有していたところ、CがBに所有権があると誤信し、かつ、そのように信じたことに過失なくBから同カメラを買い受けた。
イ.Cは、カメラの占有を平穏、公然、善意、無過失で始めたときにカメラの所有権を即時取得するが、その要件としての平穏、公然、善意は推定されるのに対して、無過失は推定されないので、Cは無過失の占有であることを自ら立証しなければならない。
イ・・・妥当ではない
●即時取得の要件である「善意・平穏・公然・無過失」は推定される → 占有取得者(譲受人)に立証責任はない
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定します(民法186条)。つまり、占有者は「善意・平穏・公然」について反証がなければ、 「善意・平穏・公然」として扱います。つまり、占有者は積極的に「善意・平穏・公然」であることを立証する必要はありません。
そして、即時取得の場合、要件3より、『「取引行為」により占有を承継したこと』は満たしています。これは、適法に権利を取得していることを意味するので、「無過失であることも推定」されます。よって、結果として、即時取得における占有者は、 「善意・平穏・公然・無過失」はすべて推定されるので、立証しなくてもよいです。
A所有のカメラをBが処分権限なしに占有していたところ、CがBに所有権があると誤信し、かつ、そのように信じたことに過失なくBから同カメラを買い受けた。
ウ.Bは、Cにカメラを売却し、以後Cのために占有する旨の意思表示をし、引き続きカメラを所持していた場合、Cは、一応即時取得によりカメラの所有権を取得するが、現実の引渡しを受けるまでは、その所有権の取得は確定的ではなく、後に現実の引渡しを受けることによって確定的に所有権を取得する。
ウ・・・妥当ではない
●即時取得 → 「占有改定」の方法による取得では要件を満たさない
【占有改定とは】 ある目的物の占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移す場合をいいます。本問の内容でいえば、カメラをBの手元に置いたまま、 Cのために占有する旨の意思表示をすることです。つまり、BはCのために占有しているということです。
【判例】 判例では、「即時取得するためには占有改定では足りない。即時取得するためには、外観上、占有状態が変更する必要がある」としています。つまり、Cが即時取得するには、カメラをCに現実に引き渡す必要があるということです。
【本問】 「Cは、一応即時取得によりカメラの所有権を取得する」が誤りです。
A所有のカメラをBが処分権限なしに占有していたところ、CがBに所有権があると誤信し、かつ、そのように信じたことに過失なくBから同カメラを買い受けた。
エ.Bは、Cにカメラを売却する前にカメラをDに寄託していたが、その後、BがCにカメラを売却するに際し、Dに対して以後Cのためにカメラを占有することを命じ、Cがこれを承諾したときは、たとえDがこれを承諾しなくても、Cは即時取得によりカメラの所有権を取得する。
エ・・・妥当
●指図による占有移転 → 外観上占有が移転している場合、即時取得できる
【寄託とは】 物を預かって、保管してもらうこと(契約)を言います。例えば、「銀行にお金を預けること」「友人に荷物を預けること」です。「預ける側を、寄託者(きたくしゃ)」、「預かる側を、受寄者(じゅきしゃ)」と言います。
【指図による占有移転とは】 占有代理人(直接占有する者)Dによって占有権を有する者(間接占有者)Bが、自己Bの占有を第三者Cへ移転させる場合に、占有代理人Dに対して、以後はその第三者Cのために占有すべき旨を命じることによって(間接)占有を移転させる方法を言います。この場合、第三者Cの承諾は必要ですが、占有代理人Dの承諾は不要です。
【判例】 本問は指図による占有移転の内容ですが、判例では、「指図による占有移転」でも即時取得の要件4の「占有を開始したこと」を満たすとしています。つまり、Cは占有を開始したことになるため、即時取得によりカメラの所有権を取得します。
平成23年度(2011年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 新しい人権 | 問33 | 民法・債権 |
| 問4 | 参政権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 精神的自由 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 国会 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 法改正により削除 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・経済 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |



