改正民法に対応済
Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(以下、「甲」という。)の屋根が損傷したため修繕を行った。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、強風に煽られて屋根から落下してしまい、受傷した。この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができない。
- Bは、Aから不在中における甲の管理を頼まれていたために修繕を行ったが、屋根から下りる際にBの不注意により足を滑らせて転倒し受傷した。この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができる。
- Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、それがAにとって有益であるときは、Bは、Aに対して報酬を請求することができる。
- Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、工務店を営むCに修繕を請け負わせた。このようなBの行為は、Aのための事務管理にあたるから、これによりCは、Aに対して工事代金の支払いを直接に請求することができる。
- Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、工務店を営むCに修繕を請け負わせたが、実はAがCによる修繕を望んでいないことが後になって判明した。このような場合、甲にとって必要不可欠な修繕であっても、Bは、Aに対してその費用の支払いを請求することができない。
改正民法に対応済
【答え】:1
【解説】
Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(甲)の屋根が損傷したため修繕を行った。
1.Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、強風に煽られて屋根から落下してしまい、受傷した。この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができない。
1・・・妥当
●事務管理 → 管理者に過失なく損害を受けたとしても、本人に対し、損害賠償請求はできない
【事務管理とは】 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(管理者)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(事務管理)をしなければなりません。これを事務管理と言います(民法697条)。
つまり、「管理者は、本人から管理を頼まれていない」ことが事務管理の要件の一つです。
そして、事務管理において、管理者が自己に過失なく損害を受けたとしても、本人に対し、その賠償を請求することができません。
【本問】 そして、本問は、「Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行った」と記載されているので、Bは事務管理を行った「管理者」です。よって、 Bが強風に煽られて屋根から落下してしまい、受傷したとしても、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができません。
【対比】 委任の場合、受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができます(650条3項)。
Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(甲)の屋根が損傷したため修繕を行った。
2.Bは、Aから不在中における甲の管理を頼まれていたために修繕を行ったが、屋根から下りる際にBの不注意により足を滑らせて転倒し受傷した。この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができる。
2・・・妥当ではない
●準委任契約 → 委任契約の規定が適用 → 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、損害賠償請求することができる
【委任契約と準委任契約の違い】 ある事務を、任せる点では同じですが、委任契約の場合、「法律行為に関する事務」を受任者に依頼し、「準委任契約」の場合「法律行為に関すること以外」の事務を受注者に依頼します。
【委任契約の具体例】 土地の売買契約を委任する場合 → 売買契約を締結すること(「意思表示」をすること)で、「引渡し義務や引渡し請求権」「代金支払義務や代金支払請求権」という「効果」が発生するため、売買契約は法律行為です。
【準委任契約の具体例】 不在中に建物の管理を任せる場合 → 管理すること自体、法律行為ではないです。管理すること自体に、何ら意思表示をすることもないからです。
【準委任契約について】 準委任契約は、委任契約の規定が準用されます(民法656条)。そして、委任の場合、受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができます(650条3項)。
【本問】 本問は、「Bの不注意により足を滑らせて転倒し受傷した」わけなので、受任者Bに過失があります。そのため、受任者Bは、委任者Aに対して損害賠償を請求することができません。
Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(甲)の屋根が損傷したため修繕を行った。
3.Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、それがAにとって有益であるときは、Bは、Aに対して報酬を請求することができる。
3・・・妥当ではない
●事務管理 → 管理者が有益費・必要費を支出した場合、本人に対して「その費用」を償還請求できる
●事務管理 → 報酬は請求はできない
【事務管理とは】 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(管理者)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(事務管理)をしなければなりません。これを事務管理と言います(民法697条)。
つまり、「管理者は、本人から管理を頼まれていない」ことが事務管理の要件の一つです。
【管理者による費用の償還請求】 管理者は、本人のために有益な費用(必要費も含む)を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます(民法702条)。
【具体例】 Aの隣人であるBが、Aの不在の間に台風によって、A所有の甲建物の屋根が損傷したため、修繕した場合、修繕費用(材料費)が上記「有益な費用」に当たります。よって、この修繕費用は請求できます。
【注意点】 事務を行った対価としての「報酬」は請求できません。よって、本問は誤りです。
Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(甲)の屋根が損傷したため修繕を行った。
4.Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、工務店を営むCに修繕を請け負わせた。このようなBの行為は、Aのための事務管理にあたるから、これによりCは、Aに対して工事代金の支払いを直接に請求することができる。
4・・・妥当ではない
●事務管理 → 管理者が「本人の名」で第三者との間で契約しても、その効果は、本人は及ばない
本人Aと管理者Bとした事務管理において、判例によると、「管理者Bが本人Aの名でした法律行為の効果は、当然には本人Aに及ぶものではない」としています。つまり、本問のように、管理者Bが、工務店Cとの間で請負契約を締結した場合(管理者Bが、Aの名で請負契約を締結したとしても)、本人Aには請負契約の効果は生じず、CはAに対して報酬を請求することはできません。Cは、管理者Bに対して請求することになります。(その後、BがAが請求する流れになる)
Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(甲)の屋根が損傷したため修繕を行った。
5.Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、工務店を営むCに修繕を請け負わせたが、実はAがCによる修繕を望んでいないことが後になって判明した。このような場合、甲にとって必要不可欠な修繕であっても、Bは、Aに対してその費用の支払いを請求することができない。
5・・・妥当ではない
●本人の意思に反した事務管理 → 管理者は本人に対して「本人が現に利益を受けている限度」においてのみ、償還請求できる
管理者Bが本人Aの意思に反して事務管理をしたときは、本人Aが現に利益を受けている限度においてのみ、償還請求できます(702条3項)。つまり、 本人Aが工務店Cによる修繕を望んでいなかったとしても、この修繕によって、Aが現に利益を受けた限度で、管理者Bは、本人Aに対してその費用の支払いを請求することができます。よって、誤りです。
本問は「必要費」なので、本人は少なからず利益を受けていると考えることができます。
平成23年度(2011年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 新しい人権 | 問33 | 民法・債権 |
| 問4 | 参政権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 精神的自由 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 国会 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 法改正により削除 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・経済 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 行政法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |


