改正民法に対応済
AのBに対する不当利得返還請求等に関する次のア~オの記述のうち、判例に照らし、誤っているものはいくつあるか。
ア.Aは、Bに対する未払い賃料はないことを知りつつ、Bから賃料不払いを理由とした賃貸建物明渡請求訴訟を提起された場合における防禦方法として支払いをなすものであることを特に表示したうえで、Bに弁済を行った。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得として給付した弁済額の返還を請求することができる。
イ.Aは、賭博に負けたことによる債務の弁済として、Bに高価な骨董品を引き渡したが、その後、A・B間でBがこの骨董品をAに返還する旨の契約をした。この場合に、Aは、Bに対し、この骨董品の返還を請求することができる。
ウ.Cは、BからB所有の家屋を賃借した際に、CがBに対して権利金を支払わない代わりに、Cが当該家屋の修繕業務を負うこととする旨を合意したため、後日、当該家屋の修繕工事が必要となった際、CはAに対してこれを依頼し、Aが同工事を完了したが、CはAに修繕代金を支払う前に無資力となってしまった。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得として修繕代金相当額の返還を請求することはできない。
エ.Aは、Bとの愛人関係を維持するために、自己の有する未登記建物をBに贈与し、これを引き渡した。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得としてこの建物の返還を請求することができる。
オ.Bは、Cから強迫を受け、同人の言うままに、Aと金銭消費貸借契約を締結し、Aに指示してBとは何らの法律上または事実上の関係のないDに貸付金を交付させたところ、Bが強迫を理由にAとの当該金銭消費貸借契約を取り消した。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得として貸付金相当額の返還を請求することができる。
- 一つ
- 二つ
- 三つ
- 四つ
- 五つ
改正民法に対応済
【答え】:2
【解説】
ア・・・正しい
●債務不存在を知って弁済 → 原則:返還請求できない
●例外:訴訟を提起される等やむを得ない事情があって弁済した場合は、返還請求できる
債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができません(民法705条)。
しかし、判例によると、
「居住家屋の賃料の支払義務のない者が、当該家屋の所有者から賃料支払の催告を受けたため、これを支払うべき筋合はないが賃料不払等とこじつけて家屋明渡訴訟を提起された場合の防禦方法として支払う旨とくに留保の表示をしたうえ、請求額を支払った等判示実関係のように、債務の不存在を知って弁済したことも無理からぬような客観的事情がある場合には、民法第705条の適用はない」としています(最大判昭40.12.21)。
つまり、Aは、Bに対し、不当利得として給付した弁済額の返還を請求することができるので正しいです。
イ・・・正しい
●不法原因給付 → 原則:返還請求できない
●例外:当事者間で、不法原因による給付を返還する旨の特約は有効となるので、その場合、返還請求できる
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができません (民法708条本文)。
【具体例】 賭博(とばく)は、違法です。このような反社会的な行為を理由にお金等を渡すことを「不法原因給付」と言います。
これによりお金等を渡すと、原則、渡したお金は返還できません。
【理由】 「返還請求できる」というルールにすると、不法原因を作った者(賭博をした者)を保護してしまうことになるからです。
【判例】 上記のように原則、不法原因給付は、返還請求できないのですが、判例では「当事者間で、不法原因による給付を返還する旨の特約をした場合、それは有効」としています。つまり、本問の場合、これに当たるため、賭博の弁済として引渡した骨董品を返還してもらうことができます。
【理由】 不法原因を理由に給付したものを返還できる契約をすることは、反社会的行為ではなく、公序良俗に反しないから
ウ・・・正しい
●不当利得があったかどうかは、契約全体からみて、第三者が対価を受けずに利益を得たかどうかで判断する
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負います(民法703条:不当利得)。
【争点】 建物所有者Bが、利益を受けたか?
【判例】 判例によると、「第三者が利益を受けたというには、契約全体から見て、当該第三者が対価関係なしに利益を受けたときに限られる」としています。つまり、契約全体から見て、第三者が対価を受けずに利益を得た場合、不当利得として返還しなければならないということです。
【本問】 本問は、「①賃借人Cは、賃貸人Bに対して権利金を支払わない」というのは、賃貸人Bにとっては不利益です。一方で、「②賃借人Cが、建物の修繕義務を負う」というのは、賃貸人Bにとっては利益です。つまり、利益を受けた分、不利益も受けているので、不当利得とは言えません。したがって、建物修繕をした者A(請負業者)は、賃貸人Bに対して、不当利得に基づく返還請求はできません。
エ・・・誤り
●不法原因給付 : 未登記の建物は「引き渡し」があれば「給付」したことになる → 返還請求できない
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができません (民法708条本文)。
本問の「愛人関係を維持するために建物を贈与する」とは、不法(反社会的)な原因(理由)で、建物を贈与しています。
ここで、不法原因であることは確かですが、「給付」したかどうかについては、判例では、未登記の建物の場合、引き渡しがあれば、「給付」があったとしています。つまり、本問は、引き渡しまで完了しているので、不法原因給付にあたり、建物の返還請求はできません。
【関連ポイント】 「登記された建物(既登記建物)」の場合、「給付」とみなされるのは、「引渡し」と「移転登記」が完了したときとしています。「引渡し」だけでは「給付」には当たりません。
オ・・・誤り
●法律上の原因なく利益(不当利得)を受けていれば、返還しなければならない
●利益を受けていないのであれば、不当利得に当たらない
【問題文の状況】 CがBを強迫して、
①AB間で金銭消費貸借契約(貸金契約)を締結させ、
②Aが借りるお金を、Bは、Dに渡した。
その後、AB間の貸金契約は強迫に基づき解除された。
【質問内容】 上記の場合、 Aは、Bに対し、不当利得として貸付金相当額の返還を請求することができる。〇か×か?
【判例】 そもそも、Bは貸金契約の当事者(借主)ではあるものの、お金を受け取っていません。そのため何らの利益も受けていません。そのため、不当利得には当たらず、Aは、Bに対し、不当利得として貸付金相当額の返還を請求することができません。
※ もし、仮にBがDに借金をしていて、Aと貸金契約をして、その借りたお金をAから直接Dに渡して、借金を返済していたというのであれば、Bは利益を受けているので、AB間の貸金契約解除により、不当利得となり、BはAにお金を返還しないといけないです。
平成22年度(2010年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 基本的人権 | 問33 | 民法・債権 |
| 問4 | 法の下の平等 | 問34 | 民法:親族 |
| 問5 | 精神的自由 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 財政 | 問36 | 会社法 |
| 問7 | 国会 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 法改正により削除 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政事件訴訟法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 国家賠償法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 地方自治法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・情報通信 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |

