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令和元年・2019|問25|行政法

上水道に関する次のア~エの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア.自然的条件において、取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である状況等があるとき、水道事業者としての市町村は、需要量が給水量を上回り水不足が生ずることのないように、もっぱら水の供給を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策をとることも、やむを得ない措置として許される。

イ.行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損なうことがない限り、違法ということはできないが、水道の給水契約の締結等の拒否を背景として、その遵守を余儀なくさせることは、違法である。

ウ.水道事業者である地方公共団体が、建築指導要綱に従わないことを理由に建築中のマンションの給水契約の拒否を行うことも、当該建築指導要綱を遵守させるために行政指導を継続する理由があるといった事情がある場合には、給水契約の拒否を行うについて水道法が定める「正当な理由」があるものとして適法なものとされる。

エ.建築基準法に違反し、建築確認を受けずになされた増築部分につき、水道事業者である地方公共団体の職員が給水装置新設工事の申込書を返戻した場合、それが、当該申込みの受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、同法違反の状態を是正し、建築確認を受けた上で申込みをするよう一応の勧告をしたものにすぎないものであったとしても、かかる措置は、違法な拒否に当たる。

  1. ア・イ
  2. ア・ウ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. ウ・エ

>解答と解説はこちら


【答え】:1
【解説】

ア.自然的条件において、取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である状況等があるとき、水道事業者としての市町村は、需要量が給水量を上回り水不足が生ずることのないように、もっぱら水の供給を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策をとることも、やむを得ない措置として許される。

ア・・・正しい

【事案】

水道事業を経営する町がマンション分譲業者からの420戸分の給水契約の申込みに対し契約の締結を拒んだ。その理由は下記のような事情があったからである。

  1. 当該町が、全国有数の人口過密都市であり今後も人口の集積が見込まれ、認可を受けた水源のみでは現在必要とされる給水量を賄うことができず、認可外の水源から取水して給水量を補っているが当該取水は不安定である
  2. 多額の財政的負担をして種々の施策を執ってきているが容易に上記の状況が改善されることは見込めない
  3. このまま漫然と新規の給水申込みに応じていると近い将来需要に応じきれなくなり深刻な水不足を生ずるこが予測される

【判例】

判例によると
「水の供給量が既にひっ迫しているにもかかわらず、自然的条件においては取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、

社会的条件としては著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、水道事業者である市町村としては、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講じなければならず、その方策としては、困難な自然的条件を克服して給水量をできる限り増やすことが第一に執られるべきであるが、それによってもなお深刻な水不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも、やむを得ない措置として許されるものというべきである。」としています(最判平11.1.21)。

よって、本肢は正しいです。

ちなみに、上記の事案において、給水契約の締結を拒否することは、
「急激な水道水の需要の増加を抑制するためのやむを得ない措置」であって、右の措置には水道法15条1項にいう「正当の理由」があるものというべきである。

>>「最判平11.1.21:水道給水拒否事件」の詳細解説はこちら

イ.行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損なうことがない限り、違法ということはできないが、水道の給水契約の締結等の拒否を背景として、その遵守を余儀なくさせることは、違法である。

イ・・・正しい

【事案】

武蔵野市は、市民の生活環境が宅地開発やマンション建設によって破壊されて行くのを防止することを目的として、武蔵野市宅地開発等に関する指導要綱を制定した。その指導要綱の中に、教育施設負担金の寄付を求める規定があり、これに従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容とするものであった。

【判例】

「寄付金の納付」について、強制することは違法であるが、任意性を損うことがない場合は合法

よって、正しい記述です。

判例の内容は下記の通りです。
「行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して
寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損うことが
ない限り、違法ということはできない。・・・(中略)・・・事業主が指導要綱に基づく行政指導に従わなかった場合に採ることがあるとされる給水契約の締結の拒否という制裁措置は、水道法上許されないものであり」違法としています(最判平5.2.18)。

よって、本肢は、正しいです。

>>「最判平5.2.18:教育施設負担金事件」の解説はこちら

ウ.水道事業者である地方公共団体が、建築指導要綱に従わないことを理由に建築中のマンションの給水契約の拒否を行うことも、当該建築指導要綱を遵守させるために行政指導を継続する理由があるといった事情がある場合には、給水契約の拒否を行うについて水道法が定める「正当な理由」があるものとして適法なものとされる。

ウ・・・誤り

【事案】

武蔵野市では、昭和40年代からマンション建設が急増し、日照権やプライバシー権をめぐって住民と事業者間で紛争が生じるなどの問題が深刻化していた。そこで、同市では、宅地開発指導要綱を施行した。その指導要綱の中に、「指導要綱に従わない場合、市の上下水道などの利用について必要な協力を行わない旨(給水拒否もあり得る旨)」を定めた。

ところが、建設業者Aは、指導要綱に基づく行政指導に従わないで、マンション建設をし、水道の供給を申し入れた。これに対し、武蔵野市長Xは、水道供給を拒否した。

【判例】

上記事案では、市長Xは、指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものである。

だから、給水契約の締結を拒む正当の理由がなかった。

よって、違法。

したがって、本肢は誤りです。

判例の内容は下記の通りです。
「被告人らは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。

そうすると、原判決が、このような場合には、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、被告人らには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。」としています(最判平元.11.8

>>「最判平元.11.8:宅地開発指導要綱と給水拒否」の解説はこちら

エ.建築基準法に違反し、建築確認を受けずになされた増築部分につき、水道事業者である地方公共団体の職員が給水装置新設工事の申込書を返戻した場合、それが、当該申込みの受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、同法違反の状態を是正し、建築確認を受けた上で申込みをするよう一応の勧告をしたものにすぎないものであったとしても、かかる措置は、違法な拒否に当たる。

エ・・・誤り

【事案】

違法建築物についての給水装置新設工事申込があり
市の水道局給水課長が、建築基準法に違反することを指摘して、申込の受理を事実上拒絶し、申込書をその申込者に返戻した。

【判例】

「申込書の返戻」が、
①当該申込みの受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、
②同法違反の状態を是正し、建築確認を受けた上で申込みをするよう一応の勧告をしたものにすぎないものであった場合、
「申込書の返戻」は、違法ではない。

よって、誤りです。

判例によると
「被上告人市の水道局給水課長が上告人の本件建物についての給水装置新設工事申込の受理を事実上拒絶し、申込書を返戻した措置は、右申込の受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、上告人に対し、右建物につき存する建築基準法違反の状態を是正して建築確認を受けたうえ申込をするよう一応の勧告をしたものにすぎないと認められるところ、これに対し上告人は、その後一年半余を経過したのち改めて右工事の申込をして受理されるまでの間右工事申込に関してなんらの措置を講じないままこれを放置していたのであるから、右の事実関係の下においては、前記被上告人市の水道局給水課長の当初の措置のみによっては、未だ、被上告人市の職員が上告人の給水装置工事申込の受理を違法に拒否したものとして、被上告人市において上告人に対し不法行為法上の損害賠償の責任を負うものとするには当たらないと解するのが相当である」としています(最判昭56.7.16)。

つまり、水道事業者である地方公共団体の職員が給水装置新設工事の申込書を返戻した場合、それが、当該申込みの受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、同法違反の状態を是正し、建築確認を受けた上で申込みをするよう一応の勧告をしたものにすぎないものである場合、違法な拒否には当たりません。

>>「最判昭56.7.16:違法建築物の給水装置新設工事申込の拒否」の解説はこちら


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 憲法・議員 問33 民法:債権
問4 法の下の平等 問34 民法:債権
問5 選挙権・選挙制度 問35 民法:親族
問6 教科書検定制度 問36 商法
問7 憲法・その他 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 問題非掲載のため省略 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・政治
問23 地方自治法 問53 一般知識・経済
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

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