不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 精神障害者と同居する配偶者は法定の監督義務者に該当しないが、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行い、その態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、当該配偶者は法定の監督義務者に準ずべき者として責任無能力者の監督者責任を負う。
- 兄が自己所有の自動車を弟に運転させて迎えに来させた上、弟に自動車の運転を継続させ、これに同乗して自宅に戻る途中に、弟の過失により追突事故が惹起された。その際、兄の同乗後は運転経験の長い兄が助手席に座って、運転経験の浅い弟の運転に気を配り、事故発生の直前にも弟に対して発進の指示をしていたときには、一時的にせよ兄と弟との間に使用関係が肯定され、兄は使用者責任を負う。
- 宅地の崖地部分に設けられたコンクリートの擁壁の設置または保存による瑕疵が前所有者の所有していた際に生じていた場合に、現所有者が当該擁壁には瑕疵がないと過失なく信じて当該宅地を買い受けて占有していたとしても、現所有者は土地の工作物責任を負う。
- 犬の飼主がその雇人に犬の散歩をさせていたところ、当該犬が幼児に噛みついて負傷させた場合には、雇人が占有補助者であるときでも、当該雇人は、現実に犬の散歩を行っていた以上、動物占有者の責任を負う。
- 交通事故によりそのまま放置すれば死亡に至る傷害を負った被害者が、搬入された病院において通常期待されるべき適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもって救命されていたときには、当該交通事故と当該医療事故とのいずれもが、その者の死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係がある。したがって、当該交通事故における運転行為と当該医療事故における医療行為とは共同不法行為に当たり、各不法行為者は共同不法行為の責任を負う。
【答え】:4
【解説】
1・・・正しい
判例によると「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。
しかし、法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,法定の監督義務者に準ずべき者として,民法714条1項(責任無能力者の監督義務者等の責任)が類推適用される。」としています(最判平28.3.1)。
よって、本肢は正しいです。
【判例解説】
↓
精神障害者と同居する配偶者だからといって、その人は民法714条1項の「法定の監督義務者」には該当しない。
↓
どういった場合に「法定の監督義務者」には該当するかというと、
Bが、第三者に対する加害行為の防止に向けて、Aの監督を現に行い、その状況が単なる事実上の監督を超えているなど、Bが監督義務を引き受けたというような特段の事情が認められる場合に限って、Bは「法定の監督義務者」には該当する
2・・・正しい
兄が弟に兄所有の自動車を運転させこれに同乗して自宅に帰る途中で発生した交通事故の事例において
判例によると「兄が、その出先から自宅に連絡して弟に兄所有の自動車で迎えに来させたうえ、弟に右自動車の運転を継続させ、これに同乗して自宅に帰る途中で交通事故が発生した場合において、兄が右同乗中助手席で運転上の指示をしていた等判示の事情があるときは、兄と弟との間には右事故当時兄を自動車により自宅に送り届けるという仕事につき、民法七一五条一項にいう使用者・被用者の関係が成立していたと解するのが相当である」としています(最判昭56.11.27)。
よって、本肢は正しいです。
【判例解説】
↓
兄Aが助手席で弟Bに運転の指示をしていた等の事情があるときは、
兄Aは一時的にせよBを指揮監督して、自動車で兄Aを自宅に送り届けるという仕事(事業)に従事させていたものとする(要件2)。
↓
そのため、AB間の使用関係を認められため(要件1)、弟Bの運転により事故が発生した場合(要件3)、兄Aには使用者責任が生じる。
■使用者責任が認められる要件(下記3つをすべて満たす場合に使用責任が生じる)
- 被用者と使用者の使用関係がある
- 事業の執行について被用者の行為がなされること(事業執行性)
- 被用者の行為により第三者に損害が生じること
3・・・正しい
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います(民法717条)。
所有者は無過失でも責任を負うため、現所有者が当該擁壁には瑕疵がないと過失なく信じて当該宅地を買い受けて占有していたとしても、現所有者は土地の工作物責任を負います。
よって、正しいです。
本問は「占有者」=「所有者」となっているので、所有者は、無過失でも責任を負います。
▼本肢は工作物責任の内容ですが、工作物責任は考え方があり、
その考え方をすれば、ほとんどの問題が解けます!
4・・・誤り
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います(民法718条本文)。
そして、雇人(雇われている人)はこの動物の占有者にあたるのか?
判例によると「運送会社がその使用人(=雇人・雇われている人)に荷馬車を引かせていた場合、本来の占有者は運送会社であり、占有補助者たる使用人は、占有者でも保管者でもない」としています。(大判大10.12.15)。
つまり、当該雇人は、動物の占有者に当たらず、現実に犬の散歩を行っていたとしても責任を負いません。
よって、誤りです。
5・・・正しい
判例によると「本件交通事故により,Eは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの,事故後搬入された被上告人病院において,Eに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば,高度の蓋然性をもってEを救命できたということができる。そのため、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが,Eの死亡という不可分の一個の結果を招来し,この結果について相当因果関係を有する関係にある。
したがって,本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。」としています(最判平13.3.13)。
よって、本肢は正しいです。
【判例解説】
(適切な治療が施されなかったこと=医療事故)
↓
死亡という結果(不可分の一個の結果)になったのは、「交通事故」も「医療事故」もどちらもが原因である。(=「2つの事故」と「死亡」との間には、相当の因果関係がある)
↓
つまり、「運転行為」と「医療行為」とが共同不法行為に当たる。
↓
この場合、各不法行為者は連帯責任(両者損害の全額について責任)を負うべきである
↓
言い換えると、結果発生に対する寄与の割合(過失割合)によって損害額を案分し、その分だけ責任を負うというように、損害額を限定することはできない。
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 憲法・議員 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 法の下の平等 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 選挙権・選挙制度 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 教科書検定制度 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法・その他 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 問題非掲載のため省略 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・政治 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・経済 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
