根抵当権に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。
- 被担保債権の範囲は、確定した元本および元本確定後の利息その他の定期金の2年分である。
- 元本確定前においては、被担保債権の範囲を変更することができるが、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得た上で、その旨の登記をしなければ、変更がなかったものとみなされる。
- 元本確定期日は、当事者の合意のみで変更後の期日を5年以内の期日とする限りで変更することができるが、変更前の期日より前に変更の登記をしなければ、変更前の期日に元本が確定する。
- 元本確定前に根抵当権者から被担保債権を譲り受けた者は、その債権について根抵当権を行使することができないが、元本確定前に被担保債務の免責的債務引受があった場合には、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができる。
- 根抵当権設定者は、元本確定後においては、根抵当権の極度額の一切の減額を請求することはできない。
【答え】:3【解説】
1・・・誤り
根抵当権の被担保債権の範囲について、
根抵当権者は、「確定した元本」並びに「利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償」の「全部」について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができます(民法398条の3)。
つまり、2年分に限らず、「全部」です。
また、「債務不履行によって生じた損害の賠償」も根抵当権の被担保債権となります。
ここで、抵当権や根抵当権のもととなった債権は、Aの有する「100万円の貸金債権」です。
つまり、Aの有する「100万円の貸金債権」が「被担保債権」となります。
抵当権や根抵当権で「保証してもらう債権」ともいえます。
2・・・誤り
元本の確定前においては、「根抵当権の担保すべき債権の範囲」および「債務者の変更」を変更することができます(民法398条の4第1項)。
そして、この変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得る必要はありません(民法398条の4第2項)。
また、1項の変更について元本の確定前に「登記」をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなします(民法398条の4第3項)。
【「根抵当権の担保すべき債権の範囲」および「債務者の変更」を変更するにあたって、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾が不要な理由】
極度額については、登記されており、「後順位の抵当権者その他の第三者」は、極度額を知ることができます。
極度額が変わらない(上がらない)のであれば、たとえ、債権の範囲を変更したり、債務者を変更したとしても、「後順位の抵当権者その他の第三者」に不利益はないからです。
3・・・正しい
【根抵当権の元本確定期日の定め】
根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を「定め」又は「変更する」ことができます(民法398条の6第1項)。
そして、上記期日は、これを定め又は変更した日から5年以内でなければなりません(民法398条の6第3項)。
1項の期日の変更について、その変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定します(民法398条の6第4項)。
よって、本肢は正しいです。
【詳細解説】
1項について、確定期日を「定めるか否か」また「変更するか否か」は、当事者の自由です。
そして、確定期日を「定めたり」「変更したり」するときは、その時から5年以内の期間で定めなければなりません。
例えば、2021年5月1日に元本確定日を定める場合、「元本を確定する期日を2026年4月30日とする」という風に定めます。(2026年4月30日より前の日であればいつで定めてもよいです)
また、元本確定日を変更する場合、変更登記をすることで効力が発生するので、2021年10月10日に元本確定する事となっていて、この日を過ぎてしまったら、2021年10月10日に元本が確定してしまいます。
4・・・誤り
元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができません(民法398条の7第1項)。
そして、元本の確定前に債務の引受け(免責的債務引受を含む)があったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができません(民法398条の7第2項)。
よって、後半部分が誤りです。
【理由】 抵当権の場合、「抵当権と被担保債権はセット」なので、被担保債権が譲渡される(移転する)と、抵当権も移転します。
一方、根抵当権の場合、「根抵当権と被担保債権は別々」です。今回免責的債務引受により、債務者が変更します。例えば、債務者A、根抵当権者Bとして、Bは被担保債権甲を持っていて、その担保としてA所有の土地に根抵当権を設定していたととします。
ここで、被担保債権甲の債務者がCに変更となった場合、根抵当権者Bは、債権甲についてCに対して取立ができるのですが、被担保債権甲と根抵当権は別々なので、債務引受により、被担保債権甲は、根抵当権による保証(担保)からはずれます。したがって、根抵当権者Bは、根抵当権を行使できません。
5・・・誤り
元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、「現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額」に減額することを請求することができます(民法398条の21第1項:根抵当権の極度額の減額請求)。
よって、誤りです。
■「根抵当権の極度額の一切の減額を請求することはできない」とは、「元本が確定したら、極度額を1円も減額することができない」ということです。
しかし、これは違います。
元本確定した時の「債務+2年間の利息+債務不履行に伴う損害賠償額(遅延損害金)等」まで減額することは可能です。
【民法398条の21の具体例】 極度額が1億円で、元本確定時の債務の額が6000万円だったとします。その後、2年間の利息や遅延損害金等が500万円だったとすれば、根抵当権設定者は、極度額を1億円から6500万円まで減額することができます。
【理由】 根抵当権者としては、極度額1億円あれば、まだまだ何年にもわたって利息を担保することができるのですが、一方で、根抵当権設定者としては、元本が確定しているにもかかわらず、1億円の根抵当権がついていたら、他からお金を借りようとしても借りづらくなります。そのため、元本確定をしたのであれば、その後の2年分の利息と遅延損害金までの保証にしてください!と請求できるようにして、根抵当権設定者Aと根抵当権者Bの利害の調整を図っています。
また、「元本確定した根抵当権」は「抵当権」とほぼ同じものとなるので、そこからもイメージできると思います。
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 基礎法学 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・社会 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・経済 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・経済 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・社会 |
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| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:物権 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
