占有改定等に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。
ア.即時取得が成立するためには占有の取得が必要であるが、この占有の取得には、外観上従来の占有事実の状態に変更を来たさない、占有改定による占有の取得は含まれない。
イ.留置権が成立するためには他人の物を占有することが必要であるが、この占有には、債務者を占有代理人とした占有は含まれない。
ウ.先取特権の目的動産が売買契約に基づいて第三取得者に引き渡されると、その後は先取特権を当該動産に対して行使できないこととなるが、この引渡しには、現実の移転を伴わない占有改定による引渡しは含まれない。
エ.質権が成立するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、設定者を以後、質権者の代理人として占有させる、占有改定による引渡しは含まれない。
オ.動産の譲渡担保権を第三者に対抗するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、公示性の乏しい占有改定による引渡しは含まれない。
- ア・イ
- ア・ウ
- イ・エ
- ウ・オ
- エ・オ
ア・・・妥当
【占有改定とは?】
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得します(民法183条)。これが「占有改定」です。
【即時取得とは?】
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得します(民法192条)。
これが「即時取得」です。
上記192条にある「占有」について、判例(最判昭35.2.11)では、
「無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条(即時取得)によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさない いわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らない」
と判示しています。
つまり、占有改定で占有を取得したとしても、即時取得は成立しないということです。
【判決文の理解】
無権利者から動産を譲り受けて、その動産を即時取得するためには、外から見て、占有が「無権利者」から「譲受人」に変更していないといけません。占有改定の場合は、占有は、「無権利者」から移動しません。そのため、即時取得は成立しない、ということです。
イ・・・妥当
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができます(民法295条1項本文)。
そして、この占有は、第三者による代理占有でもOKです。
しかし、債務者は第三者ではないため、債務者を占有代理人とした占有は含まれません。
【具体例】
Aが時計を修理するために、時計屋Bに時計を渡した。Bは時計を修理したが、Aが修理代金を払わないので、Bは時計を留置した。この場合、Bだけでなく、Bの従業員Cを占有代理人として時計を占有しても、留置権は残ります。
しかし、債務者であるAに時計を渡して、Aを占有代理人とすることはできません。
なぜなら、債務者に時計を渡してしまっては、債権者Bは「弁済するまで物は返さないよ」と留置権を主張することができなくなるからです。
ウ・・・妥当ではない
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができません(民法333条)。
この「引渡し」について、判例(大判大6.7.26)によると
「現実の移転を伴わない占有改定による引渡しも含む」
と判示しています。
よって、本肢は妥当ではないです。
これは覚えた方が早いです。
【具体例】 Aが自己所有の自転車(甲)をBに売却した。Bが代金を払わない場合、Aの代金債権を担保(保証)するために、甲に先取特権が付着します。つまり、Aは、先取特権に基づいて、甲を競売にかけて、その代金からお金を回収することができます。しかし、Bが甲を第三者Cに売却し、引き渡しをしてしまうと、Aは先取特権を行使することができなくなります。これが通常の先取特権です。
続いて、Bが、甲をCに売却した時に「今後、甲はCのために占有します」と言って甲をCに引き渡さなかった(=占有改定)。この場合も、占有改定により引渡されたとして、Aは先取特権を行使することができなくなります。
エ・・・妥当
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生じます(民法344条)。
そして、質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができません(民法345条)。
つまり、質権設定者による代理占有は禁止されています。
言い換えると、質権設定者を以後、質権者の代理人として占有させる「占有改定」による引渡しは含まれないので妥当です。
オ・・・妥当ではない
動産に関する物権(例えば、動産の譲渡担保権)の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができません(民法178条)。
そして、判例(最判昭30.6.2)によると、
「債務者が動産を売渡担保に供し、引き続きこれを占有する場合においては、債権者は、契約の成立と同時に、占有改定によりその物の占有権を取得し、その所有権取得をもって第三者に対抗することができる」
と判示しています。
つまり、占有改定による引渡しがあれば、動産の譲渡担保権を第三者に対抗できる、ということであり、
動産の譲渡担保権を第三者に対抗するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、占有改定による引渡しは含まれます。
よって、本肢は妥当ではないです。
これも結論を覚えてしまった方がよいでしょう。
【具体例】 Aは、Bからお金を借り、その担保として、A所有の機械を譲渡担保とした。譲渡担保は、債権者Bへの引渡しが対抗要件ですが、Aは機械を使用する必要性があることから、今回、「占有改定による引渡し」を行った。これによって、Aは、Bの代わりに機械を占有することになります。この場合、占有改定により引渡されたとして、Bは第三者に対抗することができます。
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 基礎法学 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 憲法 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 憲法 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・社会 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・経済 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・経済 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・社会 |
| 問25 | 情報公開法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政法 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:物権 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |


