判例

最大判平17.1.26:外国人の管理職選考受験の拒否事件

論点

  1. 地方公共団体の管理職任用制度において、「日本国民に限って管理職に昇任できる」とすることは、憲法14条1項に違反しないか?

事案

韓国籍のXは、保健師として、東京都Yに採用され、課長級の職に就くために管理職選考を受験しようとした。ところが、Yは、外国人であるXには、その管理職選考を受験する資格自体ないとして、受験申込書の受取りを拒否し、Xは受験をすることができなかった。

これに対し、Xは、Yに対して、受験拒否により受けた精神的損害の賠償を求める訴えを提起した。

判決

1.地方公共団体の管理職任用制度において、「日本国民に限って管理職に昇任できる」とすることは、憲法14条1項に違反しないか?

→違反しない

憲法14条1項では「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」としている。

この点について、合理的な理由に基づくものであれば、憲法14条1項に違反するものではない、としている。

そして、公権力の行使等、地方公務員の職務の遂行は、「住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上の大きな影響を及ぼす」など、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである

そのため、「国民主権の原理に基づいて、国・地方公共団体による統治のあり方は、国民が最終的な責任を負うべきものである」ことに照らして、原則、日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されている

したがって、日本国民である職員に限って、管理職に昇任することができるとする制度は、合理的な理由に基づく区別であるため、憲法14条1項に違反しない。

※この判例は、「外国人に公務就任権が認められるか」が問題になったのではなく、

「管理職登用試験の受験資格を、日本国籍を有する者と限定すること」の適法性が争われた事案です。

最判平7.2.28:外国人の地方選挙の参政権

論点

  1. 外国人に、憲法15条1項の権利(参政権)の保障が及ぶか?
  2. 憲法93条2項は、在留外国人の地方公共団体における選挙権を保障したものといえるか?
  3. 法律によって、在留外国人に地方公共団体の選挙権を与えることができるか?

事案

永住権をもつ韓国籍のXらは、選挙人名簿に登録されていなかったため、選挙管理委員会Yに対して、選挙人名簿に登録するよう申出をした。

Yは、この申出を却下する決定をしたため、Xらはこの却下決定の取り消しを求めて、訴えを提訴した。

※選挙人名簿に登録がない者は、投票権がない。

判決

外国人に、憲法15条1項の権利(参政権)の保障が及ぶか?

→及ばない

憲法15条1項には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定されており、この「国民」は日本国民を意味することは明らかである。

そのたえ、参政権の保障について、外国人には及ばない

憲法93条2項は、在留外国人の地方公共団体における選挙権を保障したものといえるか?

→言えない

憲法93条2項には「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定しています。

ここの「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当なので、外国人は含まない。

したがって、地方選挙における選挙権について外国人は憲法で保障されていない

法律によって、在留外国人に地方公共団体の選挙権を与えることができるか?

→できる(憲法上禁止されていない)

上記の通り、地方選挙権(投票権)について、外国人には憲法で保障はされていないが、

憲法第8章の地方自治に関する規定は、地方自治体の事務については、その地方の住民の意思に基づいて、その区域の地方公共団体が処理することを憲法上の制度として保障しようとする趣旨です。

そのため、わが国の在留外国人の中でも永住者等で、居住する区域の地方公共団体と、特段緊密な関係を持つに至ったと認められる者については、法律によって、投票権(地方公共団体の長・議会議員への投票権)を与える措置を講ずることは、憲法上禁止されていないと解するのが相当。

ただし、上記措置を講ずるか否かは、もっぱら国の立法政策にかかわる事柄なので、このような措置を講じないからといって、違憲となるわけではない。

最判平7.12.15:指紋押捺拒否事件

論点

  1. 指紋押捺を強制されない自由は、憲法13条で保障されるか?
  2. 指紋押捺制度が、憲法13条に違反しないか?

事案

アメリカ人宣教師Xが、新規の外国人登録を申請した際に、指紋すべき部分に指紋の押印をしなかった。

このことが原因で、Xは、指紋押捺制度(外国人登録法に規定されている制度)に違反したとして起訴された。

それに対して、Xは、指紋押捺制度自体、憲法13条に違反していると主張した。

憲法第13条(幸福追求権)
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法第13条(幸福追求権)はこちら>>

判決

指紋押捺を強制されない自由は、憲法13条で保障されるか?

→保障される

指紋は、誰一人同じものはなく、一生涯変わらない。搾取された指紋の利用方法次第では、プライバシーの侵害の危険性もある。

そのため、何人もみだりに「指紋押捺を強制されない自由」を有しているといえる

したがって、国家機関が正当な理由なく指紋押捺を強制することは、憲法13条の趣旨に反して許されない。

そして、指紋押捺を強制されない自由は、外国人にも等しく及ぶ

※正当な理由があれば、指紋押捺を強制することができ、これが下記「指紋押捺制度」に当たります。

指紋押捺制度が、憲法13条に違反しないか?

→違反しない

外国人登録法が定める指紋押捺制度の目的は、外国人の居住関係および身分関係を明確にすることで在留外国人の公正な管理をすることです。

この指紋押捺制度には、十分な合理性があり、かつ必要性も肯定できる

したがって、指紋押捺制度は、憲法13条に違反しない

最大判昭53.10.4:マクリーン事件

論点

  1. 外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められるか?
  2. 外国人にも人権の保障が及ぶか?
  3. 外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶか?

事案

外国籍のマクリーン(X)は、在留期間を1年とする許可を得て、日本に入国した。

その後、Xは、法務大臣Yに対して、在留期間延長の申請をした。

しかし、「無断転職」および「政治活動(※)」を理由に、120日の更新しか認められず、その後、更新は不許可となった。

※ベトナム戦争の反対運動、日米安保条約の反対運動などを行っていた。

そこで、XはYの更新不許可処分を不服として、その取消しを求めて出訴した。

判決

1.外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められるか?

認められる

出入国管理令では、「在留期間の更新については、法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可できる」としています。

そのため、更新事由の判断を、法務大臣の裁量に任せて、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨であると解されます。

したがって、外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められます。

ただし、その裁量について、裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合、違法となります

そして、今回、法務大臣が、外国人の政治活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断し、更新不許可の処分を下したわけですが、

今回の事案では、「裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない」として、違法ではないとした。

※ 斟酌(しんしゃく)相手の事情や心情をよくくみとること

2.外国人にも人権の保障が及ぶか?

原則、外国人にも人権の保障は及ぶ

例外として、外国人在留制度の枠を超える部分は、人権保障が及ばない

判例では、「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべき」としているので、原則、外国人にも人権保障が及びます。

しかし、外国人の人権保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎず、外国人在留制度の枠を超える部分は、人権保障が及ばないとしています。

「外国人在留制度の枠」とは、例えば、「留学」の在留資格であれば、勉強をすることが、枠内にあたります。
そのため、仕事をする場合、出入国在留管理局長の許可が必要となります。
つまり、「経済的自由(人権)」までは保障されていないことを意味します。
政治活動の自由も同様に認められていません。

3.外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶか?

原則、外国人にも政治活動の自由を認めている

例外として、わが国の政治的意思決定または、その実施に影響を及ぼす活動などは、政治活動の自由の保障は及ばない

政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定または、その実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位にかんがみて、これを認めることが相当でないと解されるものを除いて、その保障が及びます

そして、今回の事案では、外国人Xの事実に対する法務大臣の不許可処分は、「明白に合理性に欠き、その判断が社会通念上著しく妥当性に欠くことが明らかである」とはいえないので、在留中の政治活動を理由に更新を不許可としたことは違憲ではない、とした。

※ かんがみる(鑑みる):先例や規範に照らし合わせる。他を参考にして考える