判例

最判平21.10.15:場外車券発売施設設置許可処分

論点

  1. 場外車券発売施設の周辺において「①居住する者、②事業者、③医療施設の利用者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?
  2. 場外車券発売施設の周辺において、「医療施設を開設する者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

事案

経済産業大臣は自転車競技法4条2項に基づき、株式会社Aに対し、場外車券販売施設(競輪の賭けができる施設)の設置の許可をした。

これに対して、本件施設から1000m以内において病院や診療所を開設する医師Xらが、本件許可は、場外車券発売施設の設置要件をみたさないと主張して、国Yを被告として、許可の取消訴訟を提起した。

(競輪場)
自転車競技法第4条
競輪の用に供する競走場を設置し又は移転しようとする者は、経済産業省令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
2 経済産業大臣は、前項の許可をしようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、あらかじめ、関係都道府県知事の意見を聴かなければならない。
(許可の基準)
自転車競技法施行規則第15条
法第5条第2項の経済産業省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設の基準を除く。)は、次のとおりとする。
一 位置は、文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがない場所であること

判決

場外車券発売施設の周辺において「①居住する者、②事業者、③医療施設の利用者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有さない

一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。

そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない。

位置基準は、場外施設が医療施設等から相当の距離を有し、当該場外施設において車券の発売等の営業が行われた場合に文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないことを、その設置許可要件の一つとして定めるものである。

場外施設が設置、運営されることに伴う上記の支障は、基本的には、その周辺に所在する医療施設等を利用する児童、生徒、患者等の不特定多数者に生じ得るものであって、かつ、それらの支障を除去することは、心身共に健康な青少年の育成や公衆衛生の向上及び増進といった公益的な理念ないし要請と強くかかわるものである。

そして、当該場外施設の設置、運営に伴う上記の支障が著しいものといえるか否かは、単に個々の医療施設等に着目して判断されるべきものではなく、総合的に判断されるべき事柄である。

規則が、場外施設の設置許可申請書に、敷地の周辺から1000m以内の地域にある医療施設等の位置及び名称を記載した見取図のほか、場外施設を中心とする交通の状況図及び場外施設の配置図を添付することを義務付けたのも、このような公益的見地からする総合的判断を行う上での基礎資料を提出させることにより、上記の判断をより的確に行うことができるようにするところに重要な意義があるものと解される。

このように、法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは、第一次的には、上記のような不特定多数者の利益であるところ、それは、性質上、一般的公益に属する利益であって、原告適格を基礎付けるには足りないものであるといわざるを得ない。

したがって、場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や、医療施設等の利用者は、位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される。

場外車券発売施設の周辺において、「医療施設を開設する者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

場外施設は、多数の来場者が参集することによってその周辺に享楽的な雰囲気等といった環境をもたらすものであるから、位置基準は、そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかかわる業務上の支障について、特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして、その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。

したがって、仮に当該場外施設が設置、運営されることに伴い、その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には、当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。

このように、位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて、上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を、個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきである。

したがって、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は、位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される。

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最判平4.9.22:原子炉設置許可処分と原告適格

論点

  1. 原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有するか?

事案

動力炉・核燃料開発事業団は、福井県敦賀市(つるが)に高速増殖炉原子炉「もんじゅ」の建設・運転を計画し、内閣総理大臣Yは、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(規制法)に基づき原子炉設置許可処分を行った。

このため、付近の住民XらがYを被告として、原子炉設置許可処分に際しての安全審査に重大かつ明白な瑕疵があるとして、原子炉設置許可処分の無効確認の訴えを提起した。

判決

原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

そして、行政事件訴訟法36条は、無効等確認の訴えの原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の意義についても、右の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である。

そして、原子炉設置許可の基準の趣旨は、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、原子炉施設の位置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り、主務大臣は原子炉設置許可処分をしてはならないとした点にある。

そして、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」に過誤、欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのである。

このような原子炉の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。

原子炉設置許可の基準の趣旨、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」が考慮している被害の性質等にかんがみると、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

そして、本件原子炉から約29kmないし約58kmの範囲内の地域に居住している者は、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」に過誤、欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住する者というべきであるから、本件設置許可処分の無効確認を求める本訴請求において、行政事件訴訟法36条所定の「法律上の利益を有する者」に該当するものと認めるのが相当である。(原告適格を有する

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関連する判決

最判平4.9.22:民事差止訴訟と無効確認訴訟(もんじゅ訴訟)

最判平元.4.13:特急料金改定の認可処分

論点

  1. 特急料金改定の認可処分の取消しを求める訴訟において、特急利用者に原告適格が認められるか?

事案

鉄道会社である株式会社Aは、陸運局長Yから特別急行料金(特急料金)を値上げする旨の認可処分を受けた。そこで、A社の通勤定期乗車券を購入して日常的にA社の特急に乗車していたXらが、同認可処分の取消しを求めて提訴した。

判決

特急料金改定の認可処分の取消しを求める訴訟において、特急利用者に原告適格が認められるか?

認められない

地方鉄道法21条は、地方鉄道における運賃、料金の定め、変更につき監督官庁の認可を受けさせることとしている。

そして、同条に基づく認可処分そのものは、本来、当該地方鉄道の利用者の契約上の地位に直接影響を及ぼすものではなく、このことは、その利用形態のいかんにより差異を生ずるものではない。

また、同条の趣旨は、もっぱら公共の利益を確保することにあるのであって、当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することにあるのではなく、他に同条が当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することを目的として認可権の行使に制約を課していると解すべき根拠はない

そうすると、たとえXらがA鉄道株式会社の路線の周辺に居住する者であって通勤定期券を購入するなどしたうえ、日常同社が運行している特別急行旅客列車を利用しているとしても、Xらは、本件特別急行料金の改定(変更)の認可処分によつて自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということができず、右認可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

したがって、本件訴え(認可処分取消しの訴え)は不適法である。

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最判平元.2.17:航空法に基づく定期航空運送事業免許処分

論点

  1. 定期航空運送事業免許に基づき路線を航行する航空機の騒音被害に苦しめられる周辺住民は、当該免許処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

事案

新潟空港について、昭和54年12月に運輸大臣(現、国土交通大臣)Yが新潟―小松―ソウル間の定期航空運送事業免許をAに与えた。

その結果、空港周辺に居住する住民Xらが、騒音により健康または生活上の利益が侵害されると主張し、その取消しを求めた。

判決

定期航空運送事業免許に基づき路線を航行する航空機の騒音被害に苦しめられる周辺住民は、当該免許処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

→有する

取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法九条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである。

本件についてみると、航空法は、「国際民間航空条約の規定」並びに「同条約の附属書」として採択された標準、方式及び手続に準拠しているものであるが、航空機の航行に起因する障害の防止を図ることをその直接の目的の一つとしている(法一条)。

また、航空運送事業の免許権限を有する運輸大臣は、他方において、公共用飛行場の周辺における航空機の騒音による障害の防止等を目的とする公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律三条に基づき、公共用飛行場周辺における航空機の騒音による障害の防止・軽減のために必要があるときは、航空機の航行方法の指定をする権限を有しているのであるが、同一の行政機関である運輸大臣が行う定期航空運送事業免許の審査は、関連法規である同法の航空機の騒音による障害の防止の趣旨をも踏まえて行われることが求められるといわなければならない。

以上のような航空機騒音障害の防止の観点からの定期航空運送事業に対する規制に関する法体系をみると、法は、前記の目的を達成する一つの方法として、あらかじめ定期航空運送事業免許の審査の段階において、当該路線の使用飛行場、使用航空機の型式、運航回数及び発着日時など申請に係る事業計画の内容が、航空機の騒音による障害の防止の観点からも適切なものであるか否かを審査すべきものとしているといわなければならない。

つまり、航空法は、単に飛行場周辺の環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によつて著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むものと解することができるのである。

したがって、新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住していて、当該免許に係る事業が行われる結果、当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして、当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。

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最判昭53.3.14:主婦連ジュース事件

論点

  1. 景表法に基づく不服申立について、一般消費者に不服申立人適格が認められるか?

事案

公正取引委員会Yは、社団法人日本果汁協会らの申請に基づき、昭和46年3月、果実飲料等の表示に関する公正競争規約を認定した。

これに対して、主婦連合会Xは、この規約の認定は「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」の要件に該当していないとして、Yに不服申し立てをした。

判決

景表法に基づく不服申立について、一般消費者に不服申立人適格が認められるか?

→認められない

一般消費者も国民を消費者としての側面からとらえたものというべきであり、景表法の規定により一般消費者が受ける利益は、公正取引委員会による同法の適正な運用によって実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的、平均的、一般的な利益である。

言い方をかえると、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であって、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえないものである。

もとより、一般消費者といっても、個々の消費者を離れて存在するものではないが、景表法上かかる個々の消費者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護を通じその結果として保護されるべきものである。

言い方をかえると、公益に完全に包摂されるような性質のものにすぎないと解すべきである。

したがって、仮に、公正取引委員会による公正競争規約の認定が正当にされなかったとしても、一般消費者としては、景表法の規定の適正な運用によて得られるべき反射的な利益ないし事実上の利益が得られなかったにとどまり、その本来有する法律上の地位には、なんら消長はない(変化はない)といわなければならない。

そこで、単に一般消費者であるというだけでは、公正取引委員会による公正競争規約の認定につき景表法による不服申立をする法律上の利益をもつ者であるということはできず、不服申立人適格は認められない

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最判昭37.1.19:公衆浴場既存経営者の原告適格

論点

  1. 既存の公衆浴場営業者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴えの利益を有するか?

事案

Xは、京都市内に公衆浴場を経営していた。

そして、京都府知事YがAに対して新たに営業許可を与えたが、Aの公衆浴場は、Xの公衆浴場から最短距離208mにすぎないところにあった。

そのため、Xは、YがAに与えた営業許可は、条例に定められた適正配置基準に違反するとして、処分の無効確認を求めて出訴した。

判決

既存の公衆浴場営業者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴えの利益を有するか?

訴えの利益を有する

公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、第2条において、「設置の場所が配置の適正を欠く」と認められるときは許可を拒み得る旨を定めている。

その立法趣旨は、以下の通りである

  • 公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くことのできない、多分に公共性を伴う厚生施設である。
  • そして、もしその設立を業者の自由に委せて、何等その偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用しようとする場合に不便を来たすおそれがある。
  • また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理となり、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれがある。
  • このようなことは、上記公衆浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望ましいことである。
  • 従って、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在・濫立を来たすことは、公共の福祉に反するものであって、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設けた。

これら規定の趣旨から考えると公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として「国民保健及び環境衛生」という公共の福祉の見地から出たものである。

同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところである。

したがって、適正な許可制度の運用によって保護されるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によって保護される法的利益と解するを相当とする。

そして、本件処分によって侵害されたというXの利益は、事実上のものに過ぎないとはいえ、具体的な個人的利益であり、またその利益の侵害が直接的で、しかもこれによりXが重大な損害を蒙る(こうむる)ことは見易いところであるから、Xは本件訴訟の原告適格を有するものといわなければならない。

【結論をまとめると】

適正な許可制度の運用によって保護されるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず、公衆浴場法によって保護される法的利益である。

だから、近隣に新規の浴場が許可された場合、既存業者には、無効確認訴訟によって争うことができる。

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最判平15.9.4:労災就学援護費の支給決定

論点

  1. 労働基準監督署長が行う労災就学援護費の支給決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

Xは、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金受給者であり、その子Aのために労災就学援護費の支給を受けていた。

そして、Aが外国のB大学に進学したため、Xは、中央労働基準監督署長Yに、Aの学資にかかる労災就学援護費の支給申請をした。

これに対して、Yは、B大学が学校教育法1条所定の学校でないとの理由で、援護費を支給しない旨の決定をした。

そこで、Xは、当該決定の取消訴訟を提起した。

判決

労働基準監督署長が行う労災就学援護費の支給決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたる

働者災害補償保険法23条1項2号は、政府は、労働福祉事業として、遺族の就学の援護等、被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業を行うことができると規定し、同条2項は、労働福祉事業の実施に関して必要な基準は労働省令で定めると規定している。

これを受けて、労働者災害補償保険法施行規則1条3項は、労災就学援護費の支給に関する事務は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うと規定している。

そして、「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達は、労災就学援護費は法23条の労働福祉事業として設けられたものであることを明らかにした上、その別添「労災就学等援護費支給要綱」において、労災就学援護費の支給対象者、支給額、支給期間、欠格事由、支給手続等を定めており、所定の要件を具備する者に対し、所定額の労災就学援護費を支給すること、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず、同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならないこととされている。

このような労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば、法は、労働者が業務災害等を被った場合に、政府が、保険給付を補完するために、労働福祉事業として、保険給付と同様の手続により、被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。

そして、被災労働者又はその遺族は、具体的に支給を受けるためには、労働基準監督署長に申請し、所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず、労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならない。

そうすると、労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。(処分性を有する)

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最判平4.11.26:第二種市街地再開発事業計画の決定

論点

  1. 第二種市街地再開発事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

株式会社Xは、大阪市内の第二種市街地再開発事業の対象である地区内に土地建物を所有していた。

大阪市Yは、都市再開発法54条1項に基づき、当該事業の決定をし、公告をした。

そこで、X社は、本件事業計画決定の取消訴訟を提起した。

※第二種再開発事業では、土地や建物の所有権等は、施行者(Y)によって個別に買収または収用されてしまう、という効果が発生する。

判決

第二種市街地再開発事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたる

都市再開発法51条1項、54条1項は、市町村が、第二種市街地再開発事業を施行しようとするときは、設計の概要について都道府県知事の認可を受けて事業計画(以下「再開発事業計画」という。)を決定し、これを公告しなければならないものとしている。

そして、再開発事業計画の決定の公告をもって土地収用法26条1項の規定による事業の認定の告示とみなすものとしている。

したがって、再開発事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法26条4項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされることとなる。

しかも、この場合、都市再開発法上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して30日以内に、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである。

そうであるとすると、公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。(処分性を有する)

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最判昭57.4.22:工業地域指定の決定

論点

  1. 工業地域指定の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

工業地域とは?

工業地域とは、用途地域の一種です。用途地域とは、住居、商業、工業など市街地の大枠として、各地域をどのような地域にしていくのかを定めるものです。その中の一つに「工業地域」があります。工業地域に指定されると、病院や大学などの建設ができなくなるという一定の建築制限が発生します。

——-

そして、Xは、岩手県内に精神病院を経営し、将来その施設の拡張を予定していた。しかし、岩手県知事Yが都市計画法8条1項に基づいて、Xの経営する病院を含む地区を工業地域に指定した。

これにより、Xは、病院の拡張が困難になること、また病院としての環境が破壊されることなどを危惧し、上記「工業地域指定の決定」の無効確認あるいは取消しを求めて提訴した。

判決

工業地域指定の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたらない

都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法8条1項1号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用される。

このことにより、上記基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。

しかし、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。(個別具体的な処分とは言えないので、処分性を有しない

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最判平20.9.10:土地区画整理事業計画の決定

論点

  1. 都市計画事業の事業計画の決定に処分性は認められるか?

事案

Y市は、A鉄道の立体交差事業の一環として、上島駅の高架化と併せて、駅周辺の公共施設の整備改善等を図るため、土地区画整理事業を計画した。

そして、Y市は、知事Bに対して、事業計画の認可申請をし、Bからその認可を受けた。
(市町村が土地区画整理事業を行う場合、知事の認可が必要)

そして、Y市は、本件事業計画が決定した旨の公告を行った。

本件事業の施行地区内に土地を所有するXらは、本件事業は公共施設の整備改善および宅地の増進という土地区画法の事業目的を欠くものであると主張して、当該事業計画の決定の取消しを求めて提訴した。

判決

都市計画事業の事業計画の決定に処分性は認められるか?

→認められる

事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。

そして、土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。

そうすると、施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない。

また、換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができる。

しかし、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。

それゆえ、換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い

そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。

以上によれば、市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。

したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。(処分性を有する

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