判例

最判昭46.10.28:個人タクシー事件

論点

  1. 個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことが、却下処分の取消事由となるか?

事案

Xは、陸運局長Yに対し、個人タクシーの免許を申請したところ、申請件数が膨大だったため、Yは、内部的な17の基準を設け、この基準をクリアしない場合は、却下することとした。

しかし、この審査基準が公表されたり、Xに告知されたりすることはなかった。

そのためXは、十分な主張・立証の機会を与えられなかった。

その結果、具体的な17の基準のうち、2つの項目に該当しなかったとして申請は却下された。

そのため、Xは本件却下処分の取消訴訟を提起した。

判決

個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことが、却下処分の取消事由となるか?

適正な手続きによって、初めに下した処分(判断)と異なる処分(判断)に到達する可能性がなかったとは言えない場合、取消事由となる

多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁(Y)としては、事実の認定につき行政庁の独断が疑われるような不公正な手続をとってはならない

当該、「内部的な17の基準」は、抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用しなければならない

とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。

そして、免許の申請人(X)はこのような公正な手続によって免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものといえる。

したがって、これに反する審査手続(主張・証拠の提出の機会を与えない審査手続)によって免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

本件事案では、これらの点に関する事実を聴聞し、Xにこれに対する主張と証拠の提出の機会を与えその結果をしんしやくしたとすれば、Yがさきにした判断と異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない。(却下ではなく、許可処分の可能性もあった)

したがって、この手続によってされた本件却下処分は違法たるを免れない。

【簡潔に言うと】

もともと、機会を与えずに、却下処分をしました。

しかし、もし、機会を与えていたら許可処分の可能性があったので
もともとの却下処分は違法となります。

■逆に、機会を与えた結果、異なる判断にならない
=機会を与えても、却下処分が妥当なのであれば
もともともの却下処分は妥当なので、却下処分は違法とはなりません。

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最判平4.7.1:成田新法事件(行政手続と憲法31条)

論点

  1. 成田新法3条1項1号が憲法31条に違反しないか?

事案

昭和53年、成田国際空港の安全を確保するため、「過激派集団の出撃拠点となっていた近くの小屋の使用禁止を命ずることができる」旨のいわゆる成田新法が制定され、即日施行された。

運輸大臣Yは、昭和54年以降毎年2月に、過激派集団Xに対し、成田新法3条1項(上記規定)に基づき、空港の規制区域内に所在するX所有の通称「横堀要塞(ようさい):小屋」を1年の期間を定めて使用を禁止した。

そこでXは、上記規定が憲法31条等に違反し、違憲無効であり、本件使用禁止命令も違憲無効であるとして、Yに対して、本件使用命令禁止の取消訴訟を提起した。

判決

成田新法3条1項1号が憲法31条に違反しないか?

→違反しない

憲法第31条(適正手続の保障)
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

憲法31条の定める法定手続の保障(適正手続の保障)は、直接には刑事手続に関するものである。

しかし、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障(適正手続の保障)の枠外にあると判断することは相当ではない。(行政手続においても適正手続の保障の範囲内にあるといえる)

しかしながら、同条による保障(適正手続の保障)が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。

 成田新法3条1項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない(憲法31条に違反しない)

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最判平14.7.9:宝塚市パチンコ条例事件

論点

  1. 国または地方公共団体が行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か?

事案

宝塚市Xの条例に「パチンコ店等の建築物を建築するためには市長の同意を必要とし、この規定に違反して建築しようとする者に対し、市長は建築の中止、原状回復その他必要な措置を講じるよう命じることができる」旨の規定があった。

宝塚市長は、上記規定に違反してパチンコ店を建築しようとするYに対して、その建築工事の中止を命じた。

しかし、Yがこれに従わなかったため、宝塚市Xは、Yに対して、建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。

判決

国または地方公共団体が行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か?

不適法である

行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる

そうだとすると、国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきである。

一方、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。

そして、行政代執行法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法としては、同法2条の規定による代執行のみを認めている。

また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。

したがって、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである

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最判昭60.7.16:行政指導を理由とする建築確認の留保

論点

  1. 行政指導が行われていることを理由に、建築確認を留保することは違法か?

事案

法人Xは、東京都Yにおいて、マンション建築を計画し、Yの建築主事に建築確認申請書を提出した。

しかし、住民の反対があったことから、Yの職員は、Xに対し周辺住民と話し合うよう行政指導を行い、建築確認申請を受理した建築主事は、その間、建築確認処分を保留した。

これに対して、Xは建築審査会に対して、建築確認申請に対する不作為の違法を理由として審査請求をした。

そして、申請から約5か月後に、Xが周辺住民に金銭補償をすることで和解が成立し、ようやく建築確認の処分が行われた。

そこで、XはYに対して建築確認処分の違法な留保を理由として、国家賠償法に基づく損害賠償請求を提起した。

判決

行政指導が行われていることを理由に、建築確認を留保することは違法か?

原則、違法となる

建築基準法6条4項で「申請を受理した日から7日以内に審査をし、適合することを確認したときは、確認済証を交付しなければならない」と規定している趣旨からすると、建築主事が行う確認処分自体は基本的に裁量の余地のない確認的行為の性格を有するものである。

したがって、審査の結果、処分要件を具備するに至った場合には、建築主事としては速やかに確認処分を行う義務があるものといわなければならない。

しかしながら、建築主事の右義務は、いかなる場合にも例外を許さない絶対的な義務であるとまでは解することができない(例外もある)。

①建築主が確認処分の留保につき任意に同意をしているものと認められる場合のほか、

②応答を留保することが法の趣旨目的に照らし社会通念上合理的と認められるときは、その間確認申請に対する応答を留保することをもって、確認処分を違法に遅滞するものということはできないというべきである。(①②の場合は例外として確認処分を保留することができる)

ところで、建築確認申請に係る建築物の建築計画をめぐり建築主と付近住民との間に紛争が生じ、建築主が任意に行政指導に応じて付近住民と協議をしている場合においても、そのことから常に当然に建築主が建築主事に対し確認処分を留保することについてまで任意に同意をしているものとみるのは相当でない(本件事案では、Xが確認処分の留保に同意しているとはいえない)。

しかしながら、地方自治法や建築基準法の趣旨目的に照らせば、建築主が任意にこれに応じているものと認められる場合においては、社会通念上合理的と認められる期間建築主事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保し、行政指導の結果に期待することがあつたとしても、これをもって直ちに違法な措置であるとまではいえない。

もっとも、右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない。

したがって、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である

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最判平元.11.8:宅地開発指導要綱と給水拒否

論点

  1. 宅地開発指導要綱を順守させるために、給水契約の締結を拒否することはできるか?

事案

武蔵野市では、昭和40年代からマンション建設が急増し、日照権やプライバシー権をめぐって住民と事業者間で紛争が生じるなどの問題が深刻化していた。

そこで、同市では、宅地開発指導要綱を施行した。その指導要綱の中に、「指導要綱に従わない場合、市の上下水道などの利用について必要な協力を行わない旨(給水拒否もあり得る旨)」を定めた。

ところが、建設業者Aは、指導要綱に基づく行政指導に従わないで、マンション建設をし、水道の供給を申し入れた。これに対し、武蔵野市長Xは、水道供給を拒否した。

この拒否は、水道法15条1項に違反するとしてXは起訴された。

判決

宅地開発指導要綱を順守させるために、給水契約の締結を拒否することはできるか?

→できない。

水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主(A)との給水契約の締結を留保(保留)することは許されない。

給水契約の締結を留保(保留)した被告人Xの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たる

また、原判決の認定によると、被告人Xは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。

そうすると、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきである。

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最判平21.7.10:公害防止協定と廃棄物処理法

論点

  1. 産業廃棄物最終処分場の使用期限を定めた公害防止協定の条項は、廃棄物処理法の趣旨に反し、法的拘束力が否定されるか?

事案

Yは産業廃棄物処理業を営む事業者である。

Yは、福岡県X町において、産業廃棄物の最終処分場の建設・使用していたが、施設を拡張することにより、Xとの間で公害防止協定を締結した。

当該協定の中には、使用期限が設定されており、この使用期限を超えて当該最終処分場を利用してはならないとなっていた。

しかし、Yは前記条項を無視して、最終処分場を使用していたため、XはYに対して、最終処分場の使用の差止めを求めて民事訴訟を提起した。

判決

産業廃棄物最終処分場の使用期限を定めた公害防止協定の条項は、廃棄物処理法の趣旨に反し、法的拘束力が否定されるか?

法的拘束力は否定されない(法的拘束力はある)

廃棄物処理法は、廃棄物の排出の抑制、適正な再生、処分等を行い、生活環境を清潔にすることによって、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(1条)、その目的を達成するために廃棄物の処理に関する規制等を定めるものである。

そして、廃棄物処理法の規定は、知事が、処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものである。

したがって、知事の許可が、処分業者に対し、許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。(知事が期間を定めて許可したからと言って、業者が、知事が許可した有効期間まで、ずっと使用継続する義務を負うわけではない

また、処分業者(Y)が、公害防止協定において、協定の相手方(X)に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えることであり(民法における契約自由の原則、私法上の契約)、その結果、許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても、同法に何ら抵触するものではない。

したがって、当該期限の条項が廃棄物処理法の趣旨に反するということはできないし、本件期限条項が本件協定が締結された当時の廃棄物処理法の趣旨に反するということもできない。

よって、本件期限条項の法的拘束力を否定することはできない(法的拘束力はある)

分かりやすくまとめると

産廃処理事業を行う場合、知事の営業許可が必要なんですね。
例えば、令和7年までが有効期間だったとします。

一方、公害防止協定の中には、上記とは別に、産廃施設の使用期限が設定されていました
例えば、令和5年までという期限だったとします。

この場合、この使用期限を超えて当該最終処分場を利用してはいけません。

なぜなら、「公害防止協定」は私法上の契約と同じだから、契約したのであれば守らないといけない(法的拘束力がある)ということです。

たとえ、産廃処理事業の営業許可が、令和7年までであっても、上記公害防止協定の約束は有効なので、そこで産廃処理業は行えません。

ということです。

※この事案では、産廃業者は、令和7年までが有効期間があるから、最終処分場も使えるでしょ!と訴えたのですが、それは認められなかった、という内容です。

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最判昭47.12.5:理由付記の不備と瑕疵の治癒

論点

  1. 理由付記の不備(瑕疵)は、審査請求の裁決で処分理由が明らかにされた場合、治癒されるか?

事案

株式会社Xは、法人税の申告について青色申告の承認を受けていた。

Xは、事業年度の(法人)の確定申告をしたところ、税務署長Yから増額更正を受けた。

その際、更正通知書には付記理由(記載された理由)として、加算項目(何について増額されるか?)と加算額(いくら税金が増額されるか?)が簡単に記載されているに過ぎなかった。

これを不服としたXが、国税局長に審査請求をしたところ、、国税局長は、前記更正処分の一部取消しをしたうえで、より詳細な理由を審査裁決書に付記した(付け加えた)。

Xは、この裁決にも不服であったため、理由付記の不備を主張して取消訴訟を提起した。

これに対して、Yは、更正処分の理由付記に不備はなく、仮に不備があったとしても、審査裁決書に十分な理由が付記されていることから、瑕疵は治癒された(不備はないこととなる)と反論した。

判決

理由付記の不備(瑕疵)は、審査請求の裁決で処分理由が明らかにされた場合、治癒されるか?

→瑕疵は治癒されない

処分庁(Y)と異なる機関(国税局長)の行為により付記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方(X)としても、審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない(不利益を受ける)

そして、更正が付記理由不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限により(その期間中も時間は過ぎてしまうことから)あらたな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方(X)の利害に影響を及ぼすのである。

したがって、審査裁決に理由が付記されたからといって、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。

よって、更正における付記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである。

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最判昭48.4.26:課税処分と当然無効

論点

  1. 課税処分が当然無効となるのは、どのような場合か?

事案

Aは、債権者からの差押えを回避するなどの目的のため、親戚であるXに無断で、自己所有の土地建物のうち、Xへの所有権移転登記を行った。

その後、Aは、自己の事業経営の不振から借金が膨らみ、返済に充てるために、本件土地を売却することを思い立ち、登記をXからAに戻し、本件土地を第三者に売り渡した。

税務署長Yは、調査の上、X→Aと売られているので、Xに譲渡による所得があったものとして課税処分を行った。

これに対して、Xは、不服申立てをしたが、却下されたため、Xは当該課税処分の無効確認を求めて出訴した。

判決

課税処分が当然無効となるのは、どのような場合か?

処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生(争えなくなること)を理由として被課税者(X)に右処分による不利益を甘受させる(与える)ことが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合

課税処分が法定の処分要件を欠く場合には、まず行政上の不服申立てをし、これが容れられなかったときにはじめて当該処分の取消しを訴求すべきものとされており、不服申立ての所定期間が経過した後においては、もはや当該処分の内容上の過誤を理由としてその効力を争うことはできないものとされている。

課税処分に対する不服申立てについての右の原則は、もとより、比較的短期間に大量的になされるところの課税処分を可及的速やかに確定させることにより、徴税行政の安定とその円滑な運営を確保しようとする要請によるものである。

しかし、この一般的な原則は、いわば通常予測される事態を制度上予定したものであって、例外的な場合が存在することを否定していない。(上記所有期間が経過した後も処分の内容上の過誤を理由としてその効力を争うことができる場合もある。)

もっとも、課税処分につき当然無効の場合を認めるとしても、このような処分については、上記出訴期間の制限を受けることなく、何時まででも争うことができることとなるわけであるから、更正についての期間の制限等を考慮すれば、かかる例外の場合を肯定するについて慎重でなければならないことは当然である。

したがって、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生(争えなくなること)を理由として被課税者(X)に右処分による不利益を甘受させる(与える)ことが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効とする。

最判昭52.12.20:神戸税関事件

論点

  1. 公務員に対する懲戒処分について、裁判所はどのような方法で審査すべきか?

事案

神戸税関職員であり、全国税関・労働組合・神戸支部の役員であったXらは、昭和36年に、同僚職員に対する懲戒処分について、抗議活動を行ったり、勤務時間中にも関わらず、職員増員要求運動など行い、これらの運動の中心的な役割を果たしていた。

神戸税関長Yは、Xらの行った行為が、国家公務員法の定める「職命令遵守義務・争議行為等の禁止・職務専念義務」違反、人事院規則に定める「勤務時間中の組合活動の禁止」違反に該当するとして、Xらに対して懲戒処分を行った。

これに対して、Xらは、当該処分の取消しを求めて提訴した。

判決

公務員に対する懲戒処分について、裁判所はどのような方法で審査すべきか?

懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべき

国家公務員法(国公法)は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、具体的な基準を設けていない。

したがって、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができる。

そして、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、部下の職員(Xら)の指揮監督者(Y)の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。

それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。

そして、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならない

したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたっては懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、

その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。

【分かりやすくいうと】

裁判所が、公務員に対する懲戒処分を審査するときは、

裁判所が懲戒権者と同じ立場になって判断するのではなく

行政庁がした懲戒処分が、裁量権を濫用したかどうかで判断し、濫用したと認められるときだけ違法と判断する、ということです。

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最判平18.2.7:公立学校施設の目的外使用と管理者の裁量権

論点

  1. 公立学校施設の目的外使用の許可・不許可の判断はどのような場合に違法となるか?

事案

広島県教職員組合Xが、毎年開催している県教育研究集会の会場として、広島県呉市立A中学校の学校施設を使用の申出をしたところ、呉市教育委員会Bは、「Xによる集会が原因で、右翼団体による妨害活動の恐れがあり、周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障をきたすことが予想される」として、不許可とした。

このため、Xは別の公共施設を会場として開催することとなった。

そこで、Xは、Bに不当に学校施設の使用を拒否されたとして、呉市Yに対し、国家賠償法に基づく損害賠償請求を求めた。

判決

公立学校施設の目的外使用の許可・不許可の判断はどのような場合に違法となるか?

裁量権行使の判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる

学校施設は、一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設とは異なり、本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている。

したがって、学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。

すなわち、学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。

そして、管理者の裁量判断は、諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる。

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