判例

最大判昭27.10.8:警察予備隊訴訟

論点

  1. 裁判所は、将来的に論争が起こり得る抽象的なことについて、判断する権限を有するか?

事案

昭和25年、自衛隊の前身である警察予備隊が設置された。これに対し、原告X(日本社会党の鈴木茂三郎氏)は、警察予備隊の設置並びに維持に関して国Yがなした一切の行為の無効を求めて、党を代表して、直接、最高裁判所に出訴した。

判決

裁判所は、将来的に論争が起こり得る抽象的なことについて、判断する権限を有するか?

→抽象的な事柄について判断する権限は有さない

裁判所は、司法権を行う権限を有しており、裁判所が司法権を発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする

具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下す権限を行うことはできない。

また、裁判所が、かような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない

上記内容を分かりやすく言うと

裁判所が違憲立法審査権を行使するには、実際に起こった具体的な争訟事件が必要ということです。

言い換えると、わが国は、「付随的違憲審査制」を採用している、と判旨しています。

結局のところ、今回の訴えについては、具体的な争訟に当たらないとして、却下されました。

最判昭56.4.7:板まんだら事件

論点

  1. 裁判所が司法権を行使できる裁判所法3条1項の「法律上の争訟」とは?
  2. 宗教上の教義の判断を前提とする請求が「法律上の争訟」にあたるか?

裁判所法3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

事案

創価学会Yの元会員であるXらは、創価学会の本尊である「板曼荼羅(いたまんだら)」を安置するための「正本堂」建築のために、Yに対して金員を寄付した。

Xらは「板まんだらは偽物だ」として、寄付金の贈与の錯誤無効を主張し、不当利得に基づく寄付金の返還を請求する訴えを提起した。

判決

裁判所が司法権を行使できる裁判所法3条1項の「法律上の争訟」とは?

→「法律上の争訟」とは、①当事者間の具体的な「権利義務ないし法律関係」の存否に関する紛争であってかつ、②それが法令の適用に終局的に解決することができるものをいう。

宗教上の教義の判断を前提とする請求が「法律上の争訟」にあたるか?

→あたらない

本件訴訟は、上記①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争である。

しかし、宗教上の教義に関する判断は、本件を判断する上で必要不可欠なものと認められ、本件訴訟の争点および当事者の主張立証もこの判断に関するものがその核心となっていると認められる。

このことを踏まえると、結局、本件の訴訟は、その実質において②法令の適用による終局的な解決の不可能なものである。

したがって裁判所法3条にいう「法律上の争訟」にあたらない

最判昭63.12.20:共産党袴田事件

論点

  1. 政党内部の行為について、原則、司法審査は及ぶか?

事案

共産党Xが所有する家屋を、党幹部であった袴田里見氏Yに住居として使用させていた。しかし、その後、XはYを共産党から除名し、Yに対して家屋の明け渡しを求めた。

しかし、Yがこれに応じなかったため、XがYに対して家屋の明渡しを求めて出訴した。

Yは、下記3点について主張した。

  1. 本件家屋は、これまで党のために活動してきたYの終生の住居として提供されたものであること
  2. 政党の内部的処分決定も法律上の争訟であり、除名時処分の適否も司法審査の対象となること
  3. 仮に政党の内部的自律権を尊重し、その自治的措置に委ねるべき事項があるとしても、本件除名処分のように被処分者にとって著しく不利益かつ重大な事項については、司法審査の対象になること

判決

政党内部の行為について、原則、司法審査は及ぶか?

原則、及ばない例外として、一般市民法秩序と直接の関係を有する場合は、司法審査が及ぶ

政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない。

政党の性質、目的からすると、自由な意思によって政党を結成し、あるいはそれに加入した以上、党員が政党の存立及び組織の秩序維持のために、自己の権利や自由に一定の制約を受けることがあることもまた当然である。

そして、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名処分等の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当である。

したがって、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない

最判昭52.3.15:富山大学事件

論点

  1. 大学での単位授与の認定に司法審査が及ぶか?
  2. 大学の専攻科修了の認定に司法審査が及ぶか?

事案

富山大学経済学部の学生Xは、A教官の講義の履修届を提出した上で、受講していた。

しかし、A教官が成績原簿を偽造した疑いが生じ、それにより、経済学部長Yは、「A教官の授業担当停止の措置」および「学生に対する代替科目の受講の指示」を行った。

ところが、A教官は講義を続行し、Xもまた講義を受講し続け、A教官の試験を受験し、合格判定の成績を受けた。

しかし、Yは、Xの単位取得を認めなかった。

そこで、XはYを相手に単位不授与の決定の違法確認および単位取得認定の義務付けを求めて訴えを提起した。

判決

大学での単位授与の認定に司法審査が及ぶか?

及ばない

自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の争訟は、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限りその自主的、自律的な解決に委ねるのを適当である。

そのため、特殊な部分社会である大学における法律上の係争について、当然に司法審査が及ぶわけではない

そして、単位授与は当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものではないことは明らかである。

したがって、単位授与(認定)行為は、特段の事情のない限り、裁判所の司法審査の対象にはならない

【判例理解】

大学というのは、一般社会の秩序と離れて、大学として一つの社会秩序を形成している。

よって、大学の内部的な問題に限り、大学が自主的、自律的に解決する裁量を持っていると考えるのが適当である。

そのため、「特殊な部分社会である大学」における「法律上の係争(争い)」について、当然に司法審査が及ぶわけではない(当然に裁判所が判断できるわけではない)。

そして、「単位授与」は、一般社会の秩序と直接の関係を有するものではないことは明らかである。

したがって、「単位授与(認定)行為」は、原則、裁判所の司法審査の対象にはならない(=大学内部で処理すべき問題)。

大学での専攻科修了の認定に司法審査が及ぶか?

及ぶ

学生が専攻科修 了の要件を充足したにもかかわらず大学が専攻科修了の認定をしないときは、入学した目的を達成できません。

実質的にみて、一般市民としての学生の国公立大学の利用を拒否することにほ かならないものというべきであり
その意味において、
学生が一般市民として有する公の 施設を利用する権利を侵害するから
司法審査が及ぶ。

としています。

少しイメージしにくいですが、
国公立大学に入学して卒業するまでの一連の流れが
一般市民としての学生の国公立大学の利用として考え
「専攻科修了」の不認定は、
学生が一般市民として有する公の 施設を利用する権利を侵害しているから
司法審査が及ぶ。

というイメージです。

「単位授与」と「専攻科修了」の違い

①単位不認定と
②専攻科修了不認定

は別扱いなので注意しましょう!

「単位」というのは、1つの科目について
「専攻科修了」とは、卒業について

の話です。

「単位」については、大学の内部事項と考え、裁判所の司法審査は及びません。

一方
「専攻科修了」については、国公立大学に入学して卒業するまでの一連の流れが一般市民としての学生の国公立大学の利用として考え
「専攻科修了」の不認定は、
学生が一般市民として有する公の 施設を利用する権利を侵害しているから司法審査が及ぶ。

というイメージです。

最大判令2.11.25:地方議会議員出席停止事件

論点

  1. 地方議会議員に対する出席停止の懲罰決議について、「法律上の争訟」に当たるか?
  2. 地方議会議員に対する出席停止の懲罰決議について、「司法審査」が及ぶか?

事案

地方議会の議員であったⅩが、市議会から科された23日間の出席停止の懲罰が違憲、違法であるとして、その取消しを求めた。

地方議会議員に対する出席停止の懲罰決議について、「法律上の争訟」に当たるか?

法律上の争訟に当たる

法律上の争訟は、①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する
紛争であって、かつ、②それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。

地方議会議員に対する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えが,①②の要件を満たす以上,法律上の争訟に当たることは明らかである

地方議会議員に対する出席停止の懲罰決議について「司法審査」が及ぶか?

司法審査が及ぶ(司法審査の対象となる)

地方議会が議員を懲罰する権能は、自律的な権能の一内容を構成する。

議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、議会が行う各事項等
について、議事に参与し、議決に加わるなどして住民の代表としてその意思
を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負う。
(議員は、住民の代表として、住民の意思を地方公共団体に反映させる活動をする責任を負う)

出席停止の懲罰が科されると、当該議員は議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。

出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、その適否がもっぱら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。
(出席停止処分(懲罰)について、議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきではない)

出席停止の懲罰は、議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は、常にその適否を判断することができる。
(出席停止処分は、議会に一定の裁量があるが、裁判所は、その処分が適法がどうかを判断することができる)

したがって、普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる。 =地方議会議員に対する出席停止の懲罰は、司法審査が及ぶ

>>判決文はこちら

最大判昭37.3.7:警察法改正無効事件

論点

  1. 国会の両院の議事手続について、司法審査が及ぶか?
  2. 市町村警察を廃止したことは憲法92条に違反するか?

憲法第92条(地方自治の基本原則)
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

事案

旧警察法では、市町村警察の制度があった。しかし、昭和29年の法改正(新警察法)により、従来の市町村警察は廃止され、都道府県警察に組織変更された。その組織変更の結果、大阪府は、組織変更に伴う予算を議会で可決した。それに対して、住民Xは、新警察法は、市町村の警察権限を奪うもので憲法92条、94条に違反するとして、新警察法の無効を主張した。

憲法第94条(地方公共団体の権能)
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

判決

国会の両院の議事手続について、司法審査が及ぶか?

及ばない

裁判所は、両院の自主性を尊重するべきである。

そのため、裁判所は、両院の議事手続きに関する事実を審理して、その有効無効を判断すべきでない。

市町村警察を廃止したことは憲法92条に違反するか?

違反しない

新警察法が、市町村警察を廃止し、その事務を都道府県警察に移したからといって、そのことが地方自治の本旨に反するものと解されない。

したがって、同法は、その内容が憲法92条(地方自治の基本原則)に反するものとして無効な法律ということはできない。

最大判昭27.2.20:国民審査投票方法違憲訴訟

論点

  1. 国民審査の法的性質とは?
  2. 国民審査の方式(判断を留保したい裁判官に対しても投票することを余儀なくしている点)は思想・良心の自由を侵害しないか?

事案

昭和24年、最高裁発足後初めて行われた最高裁判所の裁判官の国民審査が行われた。これに対して、審査人Xは、最高裁判所裁判官国民審査法36条に基づき、国民審査は無効であるとの判決を求める訴えを提起した。

最裁審査法第36条(審査無効の訴訟)
審査の効力に関し異議があるときは、審査人又は罷免を可とされた裁判官は、中央選挙管理会を被告として、審査の結果の報告及び告示のあつた日から30日内に東京高等裁判所に訴えを提起することができる。

判決

国民審査の法的性質とは?

解職制度である

憲法第79条
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

上記憲法79条2項の字句だけでを見ると、国民審査は、解職制度でないように見える。

しかし、3項の字句と併せてみると、国民審査制度の趣旨は、国民が裁判官を「罷免すべきか否か」を決定する点にある。

したがって、国民審査制度は、解職の制度である。

国民審査の方式(判断を留保したい裁判官に対しても投票することを余儀なくしている点)は思想・良心の自由を侵害しないか?

→侵害しない

まず、最高裁判所裁判官国民審査の投票については、審査を受ける裁判官の氏名が投票用紙に印刷されています。そして、裁判官ごとに、この裁判官は辞めさせたいという意思(罷免を可とする意思)があれば「×」を記載し、辞めさせたいという意思がなければ何も記載せずに投票します。

ここまでが、前提となる内容です。以下が判決の内容です。

国民審査は、解職の制度であり、「積極的に罷免を可とする者(罷免させようと思う者)」が「そうでない者」より多数であるか否かを知ろうとするためのものである。

そして、判断を留保したい者は、罷免する方がいいか悪いかが分からない者なので、「積極的に罷免を可とする者」に属さない。

そうすると、記載のない投票に、「罷免を可としない投票」として効果を与えても、なんら意思に反する効果を生じさせているわけではないため、思想・良心の自由を制限するものではない

最大判平7.2.22:ロッキード事件

論点

  1. 内閣総理大臣の職務権限の範囲は?

事案

昭和47年、アメリカの航空機メーカーであるロッキード社の副会長Aの意向を受けた販売代理店の丸紅社長X1らは、当時の内閣総理大臣である田中角栄氏X2に対し、「①運輸大臣に働きかけ、行政指導をさせること」、また「②直接全日空に働きかけることで、ロッキード社製の大型ジェット機の購入を全日空に推奨すること」を依頼し、成功報酬として現金5億円の供与を約束して、その承諾を得た。

そして、X1らは、全日空が当該大型ジェット機を購入した後、約束通り、X2に対し、現金5億円を供与した。

その後、東京地検は、X1、X2らを逮捕し、贈収賄罪等で起訴した。

判決

内閣総理大臣の職務権限の範囲は?

内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する

X2が行った運輸大臣への働きかけが、その職務権限に属するといえるためには、

  1. 運輸大臣が全日空へ勧奨する行為がその職務権限に属し、かつ
  2. 内閣総理大臣が運輸大臣に上記勧奨をするよう働きかけることがその職務権限に属していること

この2つが必要である。

本件では、①は肯定できるが、②内閣総理大臣の職務権限について検討すると、内閣総理大臣が行政各部に対し、指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要する。

しかし、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。

したがって、当該内閣総理大臣が行った運輸大臣への働きかけは、内閣総理大臣の指示として、その職務権限に属する。

【分かりやすくいうと】

内閣総理大臣が行政各部を指揮監督するためには、原則として閣議決定が必要だが、
閣議決定がない場合においても、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する

 

最大判昭34.12.16:砂川事件

論点

  1. 安全保障条約に司法審査が及ぶか?

事案

国は、米軍立川飛行場の拡張計画を考えていたが、当該計画に反対した砂川町の住民が反対運動をした。それにもかかわらず、国が拡張のための測量を開始したので、1000名以上の集団が境界柵の外側に集合し、その中の一部の者が境界柵を破壊した。破壊された境界柵から立ち入り禁止場所に入ったところ、この行為が法律に違反するとして、起訴された。

判決

安全保障条約に司法審査が及ぶか?

→及ばない

本件安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであって、安全保障条約の内容が違憲か否かの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす。

れ故、右違憲か否かの法的判断は、司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである

そして、本件安全保障条約は、違憲無効であることが一見きわめて明白であるとは到底認められないため、司法審査は及ばない。

最大判昭51.4.14:衆議院議員定員不均衡訴訟

論点

  1. 4.99対1の較差が生じ、8年間是正されなかった議員定数配分の規定は違憲か?
  2. 違憲となる場合、定数配分規定全体が違憲となるか?
  3. 違憲となる場合、選挙自体無効となるか?

事案

昭和47年の衆議院議員選挙につき、千葉県第1区の選挙人Xは、

衆議院議員選挙当時、各選挙区の議員1人あたりの有権者数の最大値と最小値との比率に4.99対1の明白かつ多大な較差があり、この較差は平等選挙において当然許される程度を超えているため、

選挙区別議員定数を定めた公職選挙法の各規定は、憲法14条(法の下の平等)に反し無効であり、本件選挙も無効であると主張した。

判決

4.99対1の較差が生じ、8年間是正されなかった議員定数配分の規定は違憲か?

違憲である

一般に、制定当時憲法に適合していた法律が、その後における事情の変化により、その合憲性の要件を欠くに至つたときは、原則として憲法違反の瑕疵を帯びることになるというべきである。

しかし、右の要件の欠如が漸次的な事情の変化によるものである場合には、いかなる時点において当該法律が憲法に違反するに至ったものと断ずべきかについて慎重な考慮が払われなければならない。

本件の場合についていえば、人口の異動は不断に生じ、したがって選挙区における人口数と議員定数との比率も絶えず変動するのに対し、選挙区割と議員定数の配分を頻繁に変更することは、必ずしも実際的ではなく、また、相当でもないことを考えると、右事情によって具体的な比率の偏差が選挙権の平等の要求に反する程度となったとしても、これによって直ちに当該議員定数配分規定を憲法違反とすべきものではない。

人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解するのが、相当である。
そして、本件事案については、憲法の要求するところに合致しない状態になっていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるをえない。

それ故、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲と断ぜられるべきものであったというべきである。

違憲となる場合、定数配分規定全体が違憲となるか?

定数配分規定全体が違憲となる

選挙区割及び議員定数の配分は、議員総数と関連させながら、複雑、微妙な考慮の下で決定される。

一旦このようにして決定されたものは、一定の議員総数の各選挙区への配分として、相互に有機的に関連し、一の部分における変動は他の部分にも波動的に影響を及ぼすべき性質を有する。

その意味において不可分の一体をなすと考えられるから、定数配分規定は、単に憲法に違反する不平等を招いている部分のみでなく、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである。

違憲となる場合、選挙自体無効となるか?

事情判決の法理により、選挙を無効とはしない

定数配分規定及びこれに基づく選挙を当然に無効であると解した場合、当該選挙により選出された議員がすべて当初から議員としての資格を有しなかったこととなる結果、すでにこれらの議員によって組織された衆議院の議決を経た上で成立した法律等の効力にも問題が生ずる。

また、今後における衆議院の活動が不可能となり、明らかに憲法の所期しない結果を生ずる。

そのため、事情判決の法理により、選挙は無効とはならない。