次の文章は、都市計画における建設大臣(当時)の裁量権の範囲に関する原審の判断を覆した最高裁判所判決の一節である。空欄[ Ⅰ ]~[ Ⅳ ]には、それぞれあとのア~エのいずれかの文が入る。原審の判断を覆すための論理の展開を示すものとして妥当なものの組合せはどれか。
都市施設は、その性質上、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めなければならないものであるから、都市施設の区域は、当該都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべきものである。この場合において、民有地に代えて公有地を利用することができるときには、そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得ると解すべきである。
[ Ⅰ ]。しかし、[ Ⅱ ]。
そして、[ Ⅲ ]のであり、[ Ⅳ ]。
以上によれば、南門の位置を変更することにより林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか等について十分に審理することなく、本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(最二小判平成18年9月4日判例時報1948号26頁)
ア.原審は、南門の位置を変更し、本件民有地ではなく本件国有地を本件公園の用地として利用することにより、林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか、悪影響が生ずるとして、これを樹木の植え替えなどによって回避するのは困難であるかなど、樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって、原審の確定した事実のみから、南門の位置を現状のとおりとする必要があることを肯定し、建設大臣がそのような前提の下に本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性に欠けるものではないとすることはできないといわざるを得ない
イ.本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるときには、その建設大臣の判断は、他に特段の事情のない限り、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとなるのであって、本件都市計画決定は、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのである
ウ.樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができる場合には、更に、本件民有地及び本件国有地の利用等の現状及び将来の見通しなどを勘案して、本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるかどうかを判断しなければならない
エ.原審は、建設大臣が林業試験場には貴重な樹木が多いことからその保全のため南門の位置は現状のとおりとすることになるという前提の下に本件民有地を本件公園の区域と定めたことは合理性に欠けるものではないとして、本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとする
Ⅰ:ア Ⅱ:ウ Ⅲ:エ Ⅳ:イ
Ⅰ:イ Ⅱ:エ Ⅲ:ア Ⅳ:ウ
Ⅰ:イ Ⅱ:エ Ⅲ:ウ Ⅳ:ア
Ⅰ:ウ Ⅱ:イ Ⅲ:エ Ⅳ:ア
Ⅰ:エ Ⅱ:ア Ⅲ:ウ Ⅳ:イ
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【解説】
都市施設は、その性質上、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めなければならないものであるから、都市施設の区域は、当該都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべきものである。この場合において、民有地に代えて公有地を利用することができるときには、そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得ると解すべきである。
[Ⅰ:エ 原審は、建設大臣が林業試験場には貴重な樹木が多いことからその保全のため南門の位置は現状のとおりとすることになるという前提の下に本件民有地を本件公園の区域と定めたことは合理性に欠けるものではないとして、本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとする]。しかし、[Ⅱ:ア 原審は、南門の位置を変更し、本件民有地ではなく本件国有地を本件公園の用地として利用することにより、林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか、悪影響が生ずるとして、これを樹木の植え替えなどによって回避するのは困難であるかなど、樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって、原審の確定した事実のみから、南門の位置を現状のとおりとする必要があることを肯定し、建設大臣がそのような前提の下に本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性に欠けるものではないとすることはできないといわざるを得ない]。
そして、[Ⅲ:ウ 樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができる場合には、更に、本件民有地及び本件国有地の利用等の現状及び将来の見通しなどを勘案して、本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるかどうかを判断しなければならない]のであり、[Ⅳ:イ 本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるときには、その建設大臣の判断は、他に特段の事情のない限り、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとなるのであって、本件都市計画決定は、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのである]。
以上によれば、南門の位置を変更することにより林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか等について十分に審理することなく、本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
まず、「次の文章は、都市計画における建設大臣(当時)の裁量権の範囲に関する原審の判断を覆した最高裁判所判決の一節」「原審の判断を覆すための論理の展開を示すものとして妥当なもの」と記述してあるので、最高裁の判断は原審(地裁や高裁の判断)とは違うとうことが分かります。つまり、論理展開としては、「原審の判断」があって、その後、「最高裁の判断」という流れになります。
ここで、原審に関する記述と分かるのは、「原審は、・・」となっている「アとエ」です。なので、始めの方に、アとエが来ることはわかります。この時点で、「ⅠとⅡ」に「アとエ」が入っている選択肢は「5」だけなので、答えは「5」と判断できます。
一応、次に、この判決の内容を見ていきます。
【1段落目の要約】→主語述語をしっかりとり、細かい修飾語は、省略する
都市施設は、(・・・色々な要素)を勘案して(考えあわせて)、・・・配置することにより、・・・・、良好な都市環境を保持するように定めなければならない。
だから、都市施設の区域は、当該都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべき。
この場合において、民有地ではなく公有地を利用することができるときには、そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得る。
ここまで読んで、アとエを確認します。
ア 原審は、南門の位置を変更し、本件民有地ではなく本件国有地を本件公園の用地として利用することにより、林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか、悪影響が生ずるとして、これを樹木の植え替えなどによって回避するのは困難であるかなど、樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって、原審の確定した事実のみから、南門の位置を現状のとおりとする必要があることを肯定し、建設大臣がそのような前提の下に本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性に欠けるものではないとすることはできないといわざるを得ない
原審は、・・・・樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していない。
だから、原審の確定した事実のみから、南門の位置を現状のとおりとする必要があることを「肯定し」、また、・・・本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて「合理性に欠けるものではない」とすることはできないといわざるを得ない。
※合理性にかけるものでない=合理性がある。つまり、「合理性がある」とすることができない=合理性がない
→ 原審では、南門の位置を変更したりしたことは、肯定できないないし、民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性がないと判断しています。
エ 原審は、建設大臣が林業試験場には貴重な樹木が多いことからその保全のため南門の位置は現状のとおりとすることになるという前提の下に本件民有地を本件公園の区域と定めたことは合理性に欠けるものではないとして、本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとする
原審は、・・・・本件民有地を本件公園の区域と定めたことは合理性に欠けるものではないとして、本件都市計画決定について裁量権の逸脱・濫用ではないと判断しています。
ここで、判決文を見ると、 [ Ⅰ ]。しかし、[ Ⅱ ]。となっているので、Ⅰの判断に対して、Ⅱで逆の判断をしているとわかります。しかし、どちらがⅠかまでは、この段階で判断するのは難しいです。
イ 本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるときには、その建設大臣の判断は、他に特段の事情のない限り、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとなるのであって、本件都市計画決定は、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのである
本件民有地を本件公園の区域と定めた「建設大臣の判断が合理性を欠く」と言えるのは、社会通念に照らし(普通に考えて)著しく妥当性を欠く場合であって、そのとき、本件都市計画決定は、裁量権の逸脱・濫用があったものとして違法となる。と結論づけています。結論なので、これが最後と判断できます。
別の考え方
■まず文章の流れを把握しましょう。
問題文の構成は以下のようになっています。
1.冒頭の原則的な判断
→ 都市施設は「合理性」をもって定められるべきという基準
2.[Ⅰ]。しかし、[Ⅱ]。
→ 原審の判断の紹介とその批判
3.そして、[Ⅲ]のであり、[Ⅳ]。
→ 裁量判断における審査基準の整理と、それに基づく結論
4.最後に原審の判断には法令違反があると結論づける。
■各選択肢の内容の要点と文脈上の位置
【Ⅰ】:エ
内容:原審がどのように判断したか(原審の結論)
→ 原審が「建設大臣の判断は合理性がある」として裁量権の逸脱・濫用を否定したことを紹介
「原審は、建設大臣が林業試験場には貴重な樹木が多いことからその保全のため南門の位置は現状のとおりとすることになるという前提の下に…」
→ つまり、原審の結論をここで示しているので、「エ」は冒頭の[Ⅰ]にふさわしい。
【Ⅱ】:ア
内容:原審が具体的な事実を審理していないことを批判している
→ 原審は南門の変更による影響などの検討が不十分だという批判的な内容
「原審は…判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって…」
→ 「しかし」と続くことから、原審に対する否定(転換)を述べる「ア」がここに適切。
【Ⅲ】:ウ
内容:判断枠組みの整理・ステップの提示
→ 「仮に」樹木保全の判断が合理性を欠くとしても、次に考慮すべき要素(民有地/国有地の現状等)を検討しないといけないという理論の補強
→ したがって、「そして、…のであり」という文脈で使われる。
【Ⅳ】:イ
内容:最終的な違法判断の基準提示
→ 「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」と言えるならば「違法」となるという、結論に近い基準を述べている
→ 締めの判断として非常に適切。
■まとめ:論理展開の構造
都市施設の区域は合理性をもって定められるべき → 基準提示
↓
[Ⅰ]原審の判断を紹介(エ)
↓
[Ⅱ]原審に対する批判(ア)
↓
[Ⅲ]判断枠組みの整理(ウ)
↓
[Ⅳ]最終的な違法判断基準(イ)
↓
原審の判断には法令違反があると結論
よって、正解は、Ⅰ:エ Ⅱ:ア Ⅲ:ウ Ⅳ:イ
平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説