平成30年度(2018年度)過去問

平成30年・2018|問38|会社法:譲渡制限株式

譲渡制限株式に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 株式会社は、定款において、その発行する全部の株式の内容として、または種類株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨を定めることができる。
  2. 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を当該株式会社以外の他人に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認するか否かを決定することを請求することができる。
  3. 譲渡制限株式を取得した者は、当該株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認するか否かの決定をすることを請求することができるが、この請求は、利害関係人の利益を害するおそれがない一定の場合を除き、その取得した譲渡制限株式の株主として株主名簿に記載もしくは記録された者またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
  4. 株式会社が譲渡制限株式の譲渡の承認をするには、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の特別決議によらなければならない。
  5. 株式会社は、相続その他の一般承継によって当該株式会社の発行した譲渡制限株式を取得した者に対し、当該譲渡制限株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

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【答え】:4

【解説】

1.株式会社は、定款において、その発行する全部の株式の内容として、または種類株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨を定めることができる。

1・・・正しい

●株式の譲渡制限 → 定款で定める(全部の株式、種類株式どちらでも発行できる)

株式会社は、その発行する①全部の株式の内容として、または②種類株式の内容として、「譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨(=譲渡制限)」を定めることができます(会社法107条1項1号、108条1項4号) 。よって、本肢は正しいです。

家族で経営している会社等のように、株式が自由に譲渡され、好ましくない者が株主なることを排除したい場合もあります。そのような場合に、会社が、定款に「株式の譲渡による取得は会社の承認を要する」と定めて、株式の譲渡制限をすることができます。

【 ①全部の株式の内容として定めることができるもの】

発行する全部の株式に共通する内容として特別な定めを設けることができるのは、下記3つです(107条1項)。

下記3つが特別な定めのある株式です。

  1. 譲渡制限株式
  2. 取得請求権付株式
  3. 取得条項付株式
【 ②種類株式の内容として定めることができるもの】

株式会社は定款で定めることにより、内容の異なる2種類以上の株式を発行することができます(108条1項)。

つまり、普通株式のみを発行している会社が、発行済株式の一部を下記の内容の株式に変更する場合、「普通株式」と「他の種類株式」の2種類となります。

  1. 剰余金配当に関する種類株式
  2. 残余財産の分配に関する種類株式
  3. 議決権の制限に関する種類株式
  4. 譲渡制限付種類株式(全部の株式に共通する株式にもできる)
  5. 取得請求権付種類株式(全部の株式に共通する株式にもできる)
  6. 取得条項付種類株式(全部の株式に共通する株式にもできる)
  7. 全部取得条項付種類株式
  8. 拒否権付種類株式
  9. 種類株主総会において取締役または監査役を選任する株式
2.譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を当該株式会社以外の他人に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認するか否かを決定することを請求することができる。

2・・・正しい

(1)株主Aが、譲渡制限株式を他人Bに譲り渡そうとする → 株主Aは会社に対して譲渡承認請求ができる(本肢)
(2)株主Aが譲渡制限株式を他人Bに譲り渡した → 取得者Bは会社に対して譲渡承認請求ができる(株主と共同して請求する)

(1)株主Aが譲渡制限株式を他人Bに譲り渡そうとするときは、株主Aは会社に対し、当該譲渡を承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法136条)。よって、本肢は正しいです。

(2)また、譲渡制限株式を取得した株式取得者Bは、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

(1)は譲渡前で、(2)は譲渡後の内容です。

3.譲渡制限株式を取得した者は、当該株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認するか否かの決定をすることを請求することができるが、この請求は、利害関係人の利益を害するおそれがない一定の場合を除き、その取得した譲渡制限株式の株主として株主名簿に記載もしくは記録された者またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
3・・・正しい
(1)株主Aが、譲渡制限株式を他人Bに譲り渡そうとする → 株主Aは会社に対して譲渡承認請求ができる(2)株主Aが譲渡制限株式を他人Bに譲り渡した → 取得者Bは会社に対して譲渡承認請求ができる(株主と共同して請求する)・・・本肢

譲渡制限株式を取得した株式取得者は、会社に対し、当該株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(137条1項)。
上記「株式取得者からの承認の請求」は、株主名簿上の株主又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければなりません(同条2項)。

4.株式会社が譲渡制限株式の譲渡の承認をするには、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の特別決議によらなければならない。
4・・・誤り
●譲渡承認の決定 → 株主総会の普通決議(取締役会設置会社にあっては、取締役会決議)株式会社が、譲渡制限株式の譲渡の承認をするか否かの決定をする場合、
定款に定めがあれば、その内容に従い、
定款に定めがなければ、株主総会の普通決議(取締役会設置会社にあっては、取締役会決議)によらなければなりません(139条1項)。
よって、「特別決議」が誤りです。

 
→譲渡制限株式を、会社が買い取るということは、「特定の株主から」「自己株式を」取得することと同じです。 つまり、「特別決議」が必要となります。
自己株式を取得する場合、すべての株主に譲渡の機会を与えるのが原則(この場合、普通決議)。そのため、他の株主との間に不公平とならないように特に配慮する必要があるから
※ 会社が自己株式を取得することになるので、財源規制(分配可能額を超えてはいけない)が適用される
※ 子会社から自己株式を取得する場合は、例外として、「普通決議」でよい!
※ 発行株式の全部を譲渡制限株式にする定款変更 → 株主の半数以上 かつ 議決権の2/3以上特殊決議
5.株式会社は、相続その他の一般承継によって当該株式会社の発行した譲渡制限株式を取得した者に対し、当該譲渡制限株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
5・・・正しい
●相続などの一般承継により譲渡制限株式を取得 → 会社は売渡請求できる旨を定款で定めることができる選択肢1~4は、「譲渡(売買や贈与)」によって譲渡制限株式を取得された場合、会社の承認が必要と定款で定めて、好ましくない者への株式譲渡を阻止する内容です。一方、本問は「相続等の一般承継」によって譲渡制限株式を取得された場合の内容です。この場合でも、会社に取って好ましくない者が取得する可能性もあります。そこで、会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法174条)。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問36|商法:商行為

商人または商行為に関する次のア~オの記述のうち、商法の規定に照らし、誤っているものの組合せはどれか。

ア.商行為の委任による代理権は、本人の死亡によって消滅する。

イ.商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

ウ.数人の者がその一人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。

エ.保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるときは、その債務は当該債務者および保証人が連帯して負担する。

オ.自己の営業の範囲内で、無報酬で寄託を受けた商人は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

  1. ア・ウ
  2. ア・オ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. エ・オ

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【答え】:2

【解説】

ア.商行為の委任による代理権は、本人の死亡によって消滅する。

ア・・・誤り
●商行為の委任による代理権 → 本人死亡、消滅しない

本人が死亡したとしても、商行為の委任による代理権は消滅しません(商法506条)。

例えば、商行為を行う個人A(本人)がいて、支配人Bを用いて商行為を代理させていたとき、Aが死亡しても、支配人Bの代理権は消滅せず、そのまま営業を続けられます。

イ.商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

イ・・・正しい

●営業の範囲内の商人の行為 → 商人は相当な報酬を請求することができる

商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができます(商法512条)。

【注意点】 「報酬の契約」をしていなくても、相当の報酬を請求できます。

ウ.数人の者がその一人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。
ウ・・・正しい
●数人の者が「一人又は全員」のために商行為を行う → 連帯債務となる

数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担します(商法511条1項)。例えば、A社とB社が共同して、建設の仕事を受けたとします。その仕事を、下請業者C社に任せて、C社が建設工事を行う場合、工事代金は、A社とB社どちらに対して請求してもよいです(A社とB社の連帯債務となる)。

エ.保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるときは、その債務は当該債務者および保証人が連帯して負担する。
エ・・・正しい
●債務が「主たる債務者の商行為」によって生じたもの → 保証人は連帯保証人となる

保証人がある場合において、「①債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき」又は「②保証が商行為であるとき」は、主たる債務者及び保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担します(商法511条2項)。

①については、主たる債務者Aが商行為を行って、債務を負担し、一般人であるBが保証人となった場合、Bの保証は、自動的に連帯保証になるということです。例えば、子Aが飲食店を営んでおり、業務用冷蔵庫を購入する契約をして、親Bが、それを保証した場合、親Bは、連帯保証人となるということです。

②については、会社員がマイホーム購入のために住宅ローンを組むこと(借り入れをすること)は、商行為ではありませんが、保証人が保証会社の場合、その保証は連帯保証になります(保証会社は連帯保証人となる)。

オ.自己の営業の範囲内で、無報酬で寄託を受けた商人は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

オ・・・誤り
●商人がその営業の範囲内において寄託を受けたとき → 報酬の有無にかかわらず、善管注意義務を負う

商人がその営業の範囲内において寄託を受けたときは、報酬を受けなくとも善良な管理者の注意をしなければなりません(商法595条)。寄託とは、モノを預かることを言いますが、商法の対象となってくるのは、他人のためにモノを倉庫に保管することを業(仕事)する者の取引です。例えば、倉庫業者の倉庫寄託契約です。倉庫業者は、もし、お金をもらってなくても商売の範囲内で物を預かったなら、モノの保管のプロとして善管注意義務を負うということです。

■「自己の財産に対するのと同一の注意義務」と「善良な管理者の注意義務(他人の物を扱う場合の注意義務)」とでは、後者の方が、より細かい注意義務が求められます。
前者は、「自分の財産と同じくらいの注意義務」でよいので、後者ほどの注意義務は求められません。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問35|民法:後見

改正民法に対応済
後見に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 未成年後見は、未成年者に対して親権を行う者がないときに限り、開始する。
  2. 未成年後見人は自然人でなければならず、家庭裁判所は法人を未成年後見人に選任することはできない。
  3. 成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について、家庭裁判所の審判によって開始する。
  4. 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産管理に関する事務を行う義務のほか、成年被後見人が他人に損害を加えた場合において当然に法定の監督義務者として責任を負う。
  5. 後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。

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改正民法に対応済
【答え】:5

【解説】

1.未成年後見は、未成年者に対して親権を行う者がないときに限り、開始する。

1・・・妥当でない

●未成年後見:①未成年者に対して親権を行う者がないとき、又親権を行う者が管理権を有しないときに開始す

未成年後見人とは、未成年者について親権者がないとき等、この未成年者の監護養育や財産の保護を行うものを言います。そして、未成年後見は、①未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は②親権を行う者が管理権を有しないときに開始します(民法838条)。

よって「未成年後見は、①未成年者に対して親権を行う者がないときに限り、開始する」というのは誤りです。

②親権を行う者が管理権を有しないときも未成年後見は開始します。

「親権」とは、未成年者の子どもを監護・養育し、その財産を管理し、その子どもの代理人として法律行為をする権利や義務のことをいいます。

「親権を行う者がないとき」とは、①親権者が亡くなったとき、②親権者が失踪宣告を受けたとき、

「親権を行う者が管理権を有しないとき」とは、「親権喪失の審判を受けたとき」などです。
例えば、親権者が、子の財産を使い込んでいる場合や親権者が制限行為能力者の場合に、管理権を喪失します。

2.未成年後見人は自然人でなければならず、家庭裁判所は法人を未成年後見人に選任することはできない。

2・・・妥当でない

●未成年後見人 → 法人もなることができる

後見人には本人の親族や弁護士、司法書士などのイチ個人がなることが多いのですが、福祉協議会・福祉公社や司法書士法人・弁護士法人などの法人も後見人になることが可能です(民法840条3項)。

法人が成年後見人になることのメリットは、①個人ではなく、組織として動くことができるので、効率よく後見人の仕事を進めていくことが可能です。また、②個人の場合だと、その個人の健康上の理由などで責任を果たせなくなると職務が滞ってしまい、後見を受けている人(被後見人)の生活に支障が出ることもあります。法人が未成年後見人であれば、それを防ぐことが可能です。

3.成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について、家庭裁判所の審判によって開始する。

3・・・妥当でない

●事理を弁識する能力を欠く常況にある → 後見開始

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができます(民法7条)。「事理を弁識する能力を欠く常況にある」とは、常に、物事の判断ができない状況にあるということです。

4.成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産管理に関する事務を行う義務のほか、成年被後見人が他人に損害を加えた場合において当然に法定の監督義務者として責任を負う。

4・・・妥当でない

●法定監督義務者は、原則、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う
●成年後見人であるというだけでは、法定監督義務者には当たらない

■ 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。つまり、成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産管理に関する事務を行う義務があるので、前半部分は正しいです。

■ 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について、当該未成年者は賠償責任を負いません(712条)。そして、当該未成年者が責任を負わない場合、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(法定監督義務者)は、原則、その責任無能力者(未成年者)が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(714条)。そして、判例では、成年後見人であるというだけでは、法定監督義務者には当たらないとしています。つまり、「当然に法定の監督義務者として責任を負う」という記述は誤りです

5.後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。

5・・・妥当

●後見監督人 → 後見人の配偶者」、「直系血族」及び「兄弟姉妹」は、後見監督人となることができない

後見監督人の仕事は、「後見人の事務を監督すること」、「後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること」、「急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること」、「後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること」です(民法851条)。
後見人に近しい者が後見監督人であると、公平に後見人を監督できないかのうせいがあるので、後見監督人になることはできないことになっています。
したがって、妥当である。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問34|民法:離婚

改正民法に対応済
離婚に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア.離婚における財産分与は、離婚に伴う精神的苦痛に対する損害の賠償も当然に含む趣旨であるから、離婚に際し財産分与があった場合においては、別途、離婚を理由とする慰謝料の請求をすることは許されない。

イ.離婚に際して親権者とならず子の監護教育を行わない親には、子と面会・交流するためのいわゆる面接交渉権があり、この権利は親子という身分関係から当然に認められる自然権であるから、裁判所がこれを認めない判断をすることは憲法13条の定める幸福追求権の侵害に当たる。

ウ.父母が協議上の離婚をする場合に、その協議でその一方を親権者として定めなかったにもかかわらず、誤って離婚届が受理されたときであっても、当該離婚は有効に成立する。

エ.民法の定める離婚原因がある場合には、当事者の一方は、その事実を主張して直ちに家庭裁判所に対して離婚の訴えを提起することができ、訴えが提起されたときは、家庭裁判所は直ちに訴訟手続を開始しなければならない。

オ.夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び、その夫婦の間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により極めて苛酷な状態に置かれる等著しく社会的正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって離婚が許されないとすることはできない。

  1. ア・イ
  2. ア・ウ
  3. イ・エ
  4. ウ・オ
  5. エ・オ

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改正民法に対応済
【答え】:4(ウとオが妥当)

【解説】

ア.離婚における財産分与は、離婚に伴う精神的苦痛に対する損害の賠償も当然に含む趣旨であるから、離婚に際し財産分与があった場合においては、別途、離婚を理由とする慰謝料の請求をすることは許されない。

ア・・・妥当でない

●離婚の財産分与に「精神的苦痛に対する損害賠償」が含まれない場合、財産分与とは別に、慰謝料を請求できる

判例によると
「すでに財産分与がなされた場合においても、・・・その額および方法において分与請求者の精神的苦痛を慰籍するに足りないと認められるものであるときは、右請求者は、別個に、相手方の不法行為を理由として離婚による慰籍料を請求することができる」としています(最判昭46.7.23)。
つまり、
離婚の財産分与には、「精神的苦痛に対する損害賠償」が含まれない場合もあり、
「精神的苦痛に対する損害賠償」が含まれない場合、財産分与とは別に、慰謝料を請求できます。よって、本肢は妥当ではありません。

イ.離婚に際して親権者とならず子の監護教育を行わない親には、子と面会・交流するためのいわゆる面接交渉権があり、この権利は親子という身分関係から当然に認められる自然権であるから、裁判所がこれを認めない判断をすることは憲法13条の定める幸福追求権の侵害に当たる。
イ・・・妥当でない

●協議離婚をした際に親権者とされなかった親が、子どもと面会交渉することについて、裁判所が、親の面接交渉権を認めない判断をすること→幸福追求権の侵害に当たらない

協議離婚をした際に親権者とされなかった親が、子どもと面会交渉することについて
裁判所が、親の面接交渉権を認めない判断をすることは、憲法13条に違反するかどうかの問題ではないとしています(最判昭59.7.6)。
つまり、本肢の「幸福追求権の侵害に当たる」というのは妥当ではありません。

これはそのまま覚えればよいでしょう!

ウ.父母が協議上の離婚をする場合に、その協議でその一方を親権者として定めなかったにもかかわらず、誤って離婚届が受理されたときであっても、当該離婚は有効に成立する。
ウ・・・妥当

●父母が協議上の離婚をする場合に、その協議でその一方を親権者として定めなかった + 誤って離婚届が受理された → 離婚は有効に成立

父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりません(民法819条1項)。
そして、離婚の届出は、上記規定等の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができません(民法765条1項)。だたし、離婚の届出が、上記に違反して受理された場合、離婚は、有効に成立してしまいます(同条3項)。つまり、父母が協議上の離婚をする場合に、その協議でその一方を親権者として定めなかった場合であっても、誤って離婚届が受理されたときは、当該離婚は有効に成立します。したがって、本肢は妥当です。

エ.民法の定める離婚原因がある場合には、当事者の一方は、その事実を主張して直ちに家庭裁判所に対して離婚の訴えを提起することができ、訴えが提起されたときは、家庭裁判所は直ちに訴訟手続を開始しなければならない。
エ・・・妥当でない
離婚の裁判をしようとする場合、事前に離婚調停をしなければなりません家事事件手続法257条:調停前置主義)。
よって、本肢は妥当ではありません。
オ.夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び、その夫婦の間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により極めて苛酷な状態に置かれる等著しく社会的正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって離婚が許されないとすることはできない。
オ・・・妥当
「有責配偶者」とは、離婚の原因を作った側を指します。そして、判例では、
「有責配偶者からされた離婚請求であっても、
夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、
その間に未成熟子がいない場合には、
相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない」としています(最大判昭62.9.2)。つまり、特段の事情がない限り、有責配偶者からでも、離婚請求ができるということです。よって、本肢は妥当です。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問33|民法:不法行為

改正民法に対応済
Aに雇われているBの運転する車が、Aの事業の執行中に、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。なお、Aには使用者責任、BおよびCには共同不法行為責任が成立するものとする。

  1. AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、Bに故意または重大な過失があったときに限ってBに対して求償することができる。
  2. AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる。
  3. CがDに対して損害を全額賠償した場合、Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができるが、共同不法行為者でないAに対しては求償することができない。
  4. Cにも使用者Eがおり、その事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、AとEがそれぞれ指揮監督するBとCの過失の割合によるCの負担部分についてEに対して求償することができる。
  5. BがAのほかFの指揮監督にも服しており、BがAとFの事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってFに対して求償することができる。

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改正民法に対応済
【答え】:4

【解説】

1.AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、Bに故意または重大な過失があったときに限ってBに対して求償することができる。

1・・・妥当でない

●使用者が賠償した場合、損害の公平な分担という見地から信義則上「相当と認められる限度」で従業員に求償できる

上図では、質問内容に関係のないCは省略しています。そして、使用者Aが被害者Dに損害賠償金を支払った場合(=Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合)、使用者Aは被用者B(加害者)に対して求償することができますが、使用者が被用者に無制限に求償することはできず、判例では、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、使用者Aは被用者Bに対して求償することができるとしています。

被用者Bに故意または重大な過失があったときに限らず、賠償した使用者Aは、Bに求償できます。

※ 「相当と認められる限度」のイメージとしては、使用者Aの管理がしっかりしていないことで不法行為(例えば、過失による事故)が生じた場合は、従業員Bに対して求償できる金額は小さくなり、逆に従業員個人Bの責任が大きい場合は、従業員Bに対して求償できる額は大きくなるといった感じです。

【関連ポイント】
もし、被用者Bが賠償した場合、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、被用者Bは、使用者Aに対して求償することができる(賠償した者が使用者Aであっても被用者Bであっても、考え方は同じということ)

2.AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる。

2・・・妥当でない

●使用者Aが「自己の負担部分を超えて」賠償した場合、その超える部分に対し、他の使用者Cに対し求償することができる

判例によると、「共同不法行為者たる被用者B及び使用者A、そして他の共同不法行為者Cは、被害者Dに対して、各自、被害者Dが蒙った全損害を賠賞する義務を負うものというべきであり、また、当該債務の弁済をした使用者Aは、他の共同不法行為者Cに対し、他の共同不法行為者Cと被用者Bとの過失の割合にしたがって定められるべき他の共同不法行為者Cの負担部分について求償権を行使することができるものと解する」としています(最判昭41.11.18)。

具体例

被害額100万円、BとCの過失割合が3:7だったとします。この場合、Bの負担部分は30万円、Cの負担部分は70万円です。ここで、使用者Aが100万円を弁済した場合、AはCに対して70万円を求償できます。

3.CがDに対して損害を全額賠償した場合、Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができるが、共同不法行為者でないAに対しては求償することができない。

3・・・妥当でない

●共同不法行為を行った者が、過失割合で決められた自分の負担部分を超えて賠償したときは、他の共同不法行為者Bの負担部分(Cの負担部分を超えた部分)について、使用者に対して求償できる

本問では、加害者Cが全額賠償(負担部分を超えて賠償)しています。この場合、Cは、被用者Bに対しては、過失割合に応じて求償でき、使用者Aに対しては、自己の負担部分を超えた部分について求償できます。よって「共同不法行為者でないAに対しては求償することができない」は誤りです。

4.Cにも使用者Eがおり、その事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、AとEがそれぞれ指揮監督するBとCの過失の割合によるCの負担部分についてEに対して求償することができる。

4・・・妥当

●使用者Aが「自己の負担部分を超えて」賠償した場合、その超える部分に対し、他の使用者Eに対し求償することができる

状況は上図の通りです。例えば、BとCの加害割合を6:4として10万円の損害賠償債務を負ったとすると、B及び使用者Aの負担部分が6万円、C及び使用者Eの負担部分が4万円となります。もちろん被害者DはAにもBにも、また、CにもEにも10万円を請求できます。ここで、Aが10万円を被害者Dに賠償した場合、4万円(A・Bの負担部分6万円を超える部分)までEに対して求償することができます。

5.BがAのほかFの指揮監督にも服しており、BがAとFの事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってFに対して求償することができる。

5・・・妥当でない

●使用者が複数いる場合 → 加害者の過失割合に従って定められる負担部分のうち、使用者の責任の割合に応じて債務を負担し、自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、使用者の他方に対し、求償することができる。

具体例 BC間の過失割合が6:4でBが悪いとします。そして、AとFについて1:2の割合で責任がある(Fの方が責任が重い)とします。ここで、10万円の損害賠償債務を負ったとして、Aが10万円を賠償した場合、「加害者Bの過失割合にしたがって定められる負担部分」は6万円です。そして、AとFの責任の割合は1:2なので、この6万円のうち、Aの負担部分は2万円です。

そのため、2万円を超える部分=4万円をAはFに求償できます。

本問は「損害の公平な分担という見地から均等の割合に限って」が誤りです。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問32|民法:使用貸借・賃貸借

改正民法に対応済
物の貸借に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定に照らし、それが、使用貸借の場合にも賃貸借の場合にも当てはまるものの組合せはどれか。

ア.借主は、契約またはその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用および収益をしなければならない。

イ.借主は、目的物の使用および収益に必要な修繕費を負担しなければならない。

ウ.借主は、目的物を返還するときに、これに附属させた物を収去することはできない。

エ.貸借契約は、借主の死亡によって、その効力を失う。

オ.契約の本旨に反する使用または収益によって生じた損害の賠償および借主が支出した費用の償還は、貸主が借主から目的物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。

  1. ア・イ
  2. ア・オ
  3. イ・ウ
  4. ウ・エ
  5. エ・オ

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改正民法に対応済
【答え】:2

【解説】

ア.借主は、契約またはその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用および収益をしなければならない。

ア・・・両方当てはまる
使用貸借借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければなりません(民法594条)。
上記ルールは「賃貸借」でも準用されます(民法616条)。
よって、本肢の内容は、使用貸借にも賃貸借にも当てはまります。
イ.借主は、目的物の使用および収益に必要な修繕費を負担しなければならない。
イ・・・使用貸借に当てはまるが、賃貸借に当てはまらない
使用貸借の場合
借主は、借用物の通常の必要費を負担します(民法595条)。一方、賃貸借の場合、
賃貸人が、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います民法606条1項本文)。
よって、本肢の内容は、使用貸借には当てはまるが、賃貸借には当てはまりません。
ウ.借主は、目的物を返還するときに、これに附属させた物を収去することはできない。
ウ・・・両方当てはまらない
使用貸借の場合
借主は、借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負います。
そして、借用物の返還の際借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができます民法599条2項)。
上記ルールは「賃貸借」でも準用されます(民法622条)。
よって、本肢の内容は、使用貸借にも賃貸借にも当てはまりません。
エ.貸借契約は、借主の死亡によって、その効力を失う。
エ・・・使用貸借に当てはまるが、賃貸借に当てはまらない
使用貸借は、借主の死亡によって終了します(民法597条3項)。
一方、賃貸借の場合、借主が死亡したら、賃貸借契約は相続されます(大判大13.3.13)。
よって、本肢の内容は、使用貸借には当てはまるが、賃貸借には当てはまりません。
オ.契約の本旨に反する使用または収益によって生じた損害の賠償および借主が支出した費用の償還は、貸主が借主から目的物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
オ・・・両方当てはまる
使用貸借の場合、
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません(民法600条1項)。
上記ルールは「賃貸借」でも準用されます(民法622条)。
よって、本肢の内容は、使用貸借にも賃貸借にも当てはまります。※使用貸借の場合、通常の必要費は、借主負担ですが、有益費については、貸主負担となります。
600条の「借主が支出した費用」については「有益費」を指すので、この費用は、貸主に償還請求が可能です。

  • 有益費とは、「目的物の価値を上げるための費用」で、例えば、トイレをぼっとん便所から水洗便所に変更する費用等です。
  • 通常の費用は、「目的物のもともとの価値を維持するための費用」で、例えば、台風で屋根が壊れた場合の屋根の修理費用です。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問31|民法:弁済

改正民法に対応済
弁済に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 債務者が元本のほか利息および費用を支払うべき場合において、弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに足りないときは、債務者による充当の指定がない限り、これを順次に費用、利息および元本に充当しなければならない。
  2. 同一の債権者に対して数個の金銭債務を負担する債務者が、弁済として給付した金銭の額が全ての債務を消滅させるのに足りない場合であって、債務者が充当の指定をしないときは、債権者が弁済を受領する時に充当の指定をすることができるが、債務者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
  3. 金銭債務を負担した債務者が、債権者の承諾を得て金銭の支払に代えて不動産を給付する場合において、代物弁済が成立するためには、債権者に所有権を移転させる旨の意思表示をするだけでは足りず、所有権移転登記がされなければならない。
  4. 債権者があらかじめ弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をすれば債務不履行責任を免れるが、債権者において契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、口頭の提供をしなくても同責任を免れる。
  5. 債権者があらかじめ金銭債務の弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができる。

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改正民法に対応済
【答え】:1

【解説】

1.債務者が元本のほか利息および費用を支払うべき場合において、弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに足りないときは、債務者による充当の指定がない限り、これを順次に費用、利息および元本に充当しなければならない。
1・・・妥当ではない

●債務者が元本のほか利息および費用を支払うべき場合 : 原則、①費用→②利息→③元本の順に充当される

債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない(民法489条)。

つまり、一部を弁済した場合、「費用」→「利息」→「元本」の順に充てられます。

本肢は「債務者による充当の指定がない限り」が誤りです。

債務者や債権者が一方的に充当の順番を決めることはできません。

当事者間で合意があれば、その合意した順序で充当します。

具体例 例えば、AがBに100万円を貸し、その際の費用(例えば、契約書に貼る印紙税等)が1万円、利息が5万円だった。そして、債務者が、100万円しか支払わなかった場合、先に費用1万円に充てられ(充当し)、その後、利息5万円に充てられ、残り94万円が元本に充てられます。つまり、元本6万円が残るということです。

上記事例は、「弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに6万円足りないとき」に当たります。

2.同一の債権者に対して数個の金銭債務を負担する債務者が、弁済として給付した金銭の額が全ての債務を消滅させるのに足りない場合であって、債務者が充当の指定をしないときは、債権者が弁済を受領する時に充当の指定をすることができるが、債務者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
2・・・妥当

●弁済者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる

債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができます。弁済をする者が上記規定による指定をしないときは、弁済を受領する者(債権者)は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができます。ただし、弁済者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。

具体例 例えば、AがBに対して、「①100万円の貸金債権」と「②50万円の代金債権」を有していたとします。そして、弁済者Bが50万円を弁済する場合、①の貸金債権について弁済するのか、②の代金債権について弁済するのかを指定することができます。もし、債務者Bが指定をしない場合、債権者Aが指定をすることができるのですが、もし、債権者Aが指定して充当した後、直ちに異議を述べた場合は、この異議が優先し、その後、Bが指定した方に充当されます。

3.金銭債務を負担した債務者が、債権者の承諾を得て金銭の支払に代えて不動産を給付する場合において、代物弁済が成立するためには、債権者に所有権を移転させる旨の意思表示をするだけでは足りず、所有権移転登記がされなければならない。
3・・・妥当

●代物弁済による所有権移転の効果 → 代物弁済契約の成立時に生ずる
●代物弁済による債務消滅の効果 → 所有権移転登記手続を完了した時に生ずる

お金を借りたらお金で返すのが筋ですが、民法ではお金以外のモノ(例えば不動産)で弁済しても有効としています。これを「代物弁済」と言います。漢字のとおり「代わりに物で弁済する」ということです。

そして、不動産を用いて代物弁済をした場合、「いつ所有権が移転するのか?」「いつ債務が消滅するのか?(いつ代物弁済が成立するか?)」が問題となります。

いつ所有権が移転するのか → 原則、当事者間の代物弁済契約の成立した時に、所有権が移転します。

■いつ債務が消滅するのか?(いつ、代物弁済が成立するか?) → 特段の事情のない限り、単に代物弁済契約の意思表示をするだけでは生ぜず、所有権移転登記手続を完了した時に生ずるとしています。

4.債権者があらかじめ弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をすれば債務不履行責任を免れるが、債権者において契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、口頭の提供をしなくても同責任を免れる。
4・・・妥当

●債権者があらかじめ弁済の受領を拒んでいる場合 → 口頭の提供をすることで、債務不履行責任を免れる
●債権者が契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められる場合 → 口頭の提供をしなくとも債務不履行責任を免れる

弁済とは 弁済は、債務者が弁済を提供して、債権者が受領することで行われます。例えば、お金の貸し借りについて考えれば、債務者が借りたお金を持参して、債権者がそのお金を受領することで弁済が完成します。このように一般的に弁済を完成させるには、「債権者が受領」するという債権者の協力が必要です。このような場合に、弁済の実現に必要な準備をして債権者の協力を求めることを「弁済の提供」といいます。弁済の提供をすることで、債務者は債務不履行の責任(遅延損害金等)を免れることができます。

■そして、弁済の提供は、原則として「現実の提供」が必要です。現実の提供とは、例えば、借りたお金を返す場合、お金を現実に債権者の住所地に持参することです。

ただし、①債権者が事前に受領しないと言っている場合や、②債務の履行につき債権者の行為を要するときは、「口頭の提供」で足ります(民法493条)。

■さらに、判例では、「債権者が契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められる場合には、債務者は口頭の提供をしなくとも債務不履行の責任を免れる」として、口頭の提供すら必要がない場合もあります。

5.債権者があらかじめ金銭債務の弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができる。
5・・・妥当

●債権者(受領する側)が弁済の受領を拒んだとき → 供託することで、債務を消滅させることができる

弁済者は、下記1~3の場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができ、供託した時に、その債権は、消滅します(民法494条)。

1.債権者(受領する側)が弁済の受領を拒んだとき

2.債権者が弁済を受領することができないとき

3.弁済者(債務者)が「過失なく債権者が誰か分からない時(債権者を確知できない時)」

よって、本問は「1」に該当するので、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができます。

※ 供託とは、債権者に代わって「国の機関(法務局)」に弁済することを言います。例えば、債権者A、債務者Bで、債権額が100万円とし、Bが供託所に100万円を供託した場合、債権者Aは、法務局から100万円を還付してもらう流れになります。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問30|民法:抵当権

改正民法に対応済

抵当権の効力に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。
  2. 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。
  3. 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。
  4. 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対して物上代位権を行使することができる。
  5. 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。

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改正民法に対応済
【答え】:3

【解説】

1.抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。

1・・・妥当ではない

●抵当権設定時に存在していた従物には抵当権の効力が及ぶ → 主物(不動産)に抵当権の登記がされていれば、従物には抵当権を設定しなくても抵当権の効力は生じる

「付合物」は、別個の物が、くっ付いて1個の物になる物を指し、例えば、「立木」や「取り外しの困難な庭石」は、土地にくっついているので「付合物」です。

「従物」は別の物(主物)とは独立しているが、主物に付属して、主物の利用価値を高めるものです。例えば、「取り外しが簡単な庭石」は土地(主物)に設置して土地の見た目などよくする働きがあり、取り外しが簡単なため「従物」です。

下表の「雨戸・ドア」と「畳やふすま」について説明します。

建物は、雨風をしのぐためのものです。そのために、建物には、屋根や玄関のドア、ガラス戸・雨戸があるわけです。つまり、建物の機能を果たすためのもので建物と一体となっているので、「付合物」です。

一方、「畳やふすま」は建物になくても問題ないものなので、建物(主物)に設置することで建物の利用価値を高めるために備え付けられる物です。そのため、「従物」として扱います。

そして、従物抵当権設定前に取り付けた従物には抵当権の効力が及びますが、抵当権設定の従物には抵当権の効力が及びません(判例)。例えば、ガソリンスタンド店舗の地下タンク・洗車機です。

質問内容

問題文からは、従物を取り付けた時期が、抵当権設定前か後かが分かりませんが、質問内容が「別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない」○か×か?なので、

  • 別個に従物について対抗要件を具備しなければ第三者に対して対抗することができない場合は○
  • 別個に従物について対抗要件を具備しなくても第三者に対抗できる場合があれば×です。

上記の通り、従物抵当権設定前に取り付けていた場合、従物について対抗要件を備えていなくても、不動産の抵当権の効力が従物にも及ぶため、第三者に対抗できます。よって、×となります。

2.借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。

2・・・妥当ではない

●土地賃借人が建物に抵当権設定 → 原則、抵当権の効力は当該土地の賃借権に及ぶ(判例)

具体例 土地所有者A、土地の賃借人Bという状況で、Bが、銀行Cからお金を借りて、借地上に建物を建築した。そして

Bは、抵当権者Cとして、建物に抵当権を設定した。この場合、抵当権を設定した建物だけでなく、敷地の賃借権にも抵当権の効力は及びます(判例)。

理由 建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって一つの財産的価値を形成しているから。

3.買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。

3・・・妥当

●抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻し債権を差し押さえることができる

具体例 土地の売主Aが買主Bに対して「買戻特約付」で売却した。「買戻特約」とは、「売主Aが代金額および契約の費用を買主Bに返還することによって売買契約を解除し、目的物を取り戻すことができる」とする特約を言います。

そして、買主Bは、当該土地を購入するにあたって、銀行Cからお金を借りていた。そして、BはCを抵当権者として、購入した土地に抵当権を設定した。

その後、売主Aが買戻権を行使した場合、つまり、売主Aが買主Bに対して「代金等を返還させてください!そして土地を返してください!」と主張した場合、買主Bは、売主Aに対して、代金を返してもらう権利(買戻代金債権)を有します。

【質問内容】 買戻代金債権につき、抵当権者Cは物上代位権を行使することができる○か×か?です。

「物上代位」とは、簡単に言えば、「権利を差し押さえること(奪い取ること)」です。

判例では、「抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻し権の行使により買主が取得した買戻し債権を差し押さえることができる」 としているので、本問は○です。つまり、抵当権者である銀行Cは、売主AがBに返還する代金を差し押さえて、Bに貸したお金を回収できるということです。

4.抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対して物上代位権を行使することができる。

4・・・妥当でない

●抵当権設定者Bが取得する賃料に対しては抵当権の効力を及ぼすことができるが、賃借人Cが取得する転貸賃料についてまでは抵当権の効力を及ぼすことはできない

具体例 ①AがBにお金を貸し、Bが建物を建築し、当該建物に抵当権を設定した。その後、建物所有者B(抵当権設定者でもある)が、建物をCに賃貸し、③さらに、CがDに建物を転貸した(又貸しをした)。

ここで、建物所有者(賃貸人B)は「賃料債権(Cから賃料をもらう権利)」を持ち、賃借人Cは「転貸料債権(Dから転貸料をもらう権利)」を持ちます。

質問内容 抵当権者Aは、原則、転貸料債権に対し物上代位権を行使することができる(転貸料債権を差押さえできる)○か×かです。

結論からいうと、賃料に対する物上代位について、抵当権設定者Bが取得する賃料に対しては抵当権の効力を及ぼすことができるが、賃借人Cが取得する転貸賃料についてまでは抵当権の効力を及ぼすことはできません判例

Bがお金を返さないからBがCからもらえるべき賃料(賃料債権)を、Aが物上代位することはできるのは予想がつきます。
一方、CがDからもらえる転貸料についてAが物上代位できるとなると、Bの責任に全く関係ないCには酷になります。
したがって、Aは、CのDに対する転貸料債権に当然に物上代位することはできません。

5.抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。

5・・・妥当でない

●抵当権 → 原則、満期となった最後の2年分の利息のみ担保(保証)される

具体例 会社員Aが、銀行Bからお金を借りてマイホームを建築し、マイホームに銀行Bを抵当権者として抵当権を設定した。この場合、利息についても、この抵当権により保証されています。ただし、抵当権により保証されるのは、原則、満期となった最後の2年分です。よって、本問は誤りです。

例外として、他に債権者がいない場合は、利息の全てについて、担保(保証)され、回収できます。

※「満期」とは「競売になった場合の配当日」です。この配当日の2年前から配当日までが「満期となった最後の2年分」です。

つまり、万一Aが期限内にお金を返してくれない場合、原則、銀行Bは抵当権を実行して(Aのマイホームを競売にかけて)、競売の落札代金から、「貸したお金+2年分の利息」を回収することができるということです。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問29|民法:対抗関係

改正民法に対応済

Aが登記簿上の所有名義人である甲土地をBが買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)をA・B間で締結した場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア.甲土地は実際にはCの所有に属していたが、CがAに無断で甲土地の所有名義人をAとしていた場合において、Aがその事情を知らないBとの間で本件売買契約を締結したときであっても、BはCに対して甲土地の引渡しを求めることができない。

イ.甲土地はAの所有に属していたところ、Aの父であるDが、Aに無断でAの代理人と称して本件売買契約を締結し、その後Dが死亡してAがDを単独で相続したときは、Aは、Dの法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。

ウ.甲土地が相続によりAおよびEの共有に属していたところ、AがEに無断でAの単独所有名義の登記をしてBとの間で本件売買契約を締結し、Bが所有権移転登記をした場合において、Bがその事情を知らず、かつ、過失がないときは、Bは甲土地の全部について所有権を取得する。

エ.甲土地はAの所有に属していたところ、本件売買契約が締結され、B名義での所有権移転の仮登記がされた場合において、Aが甲土地をその事情を知らないFに売却し所有権移転登記をしたときは、Bは本登記をしない限りFに対して所有権の取得を対抗することができない。

オ.甲土地はAの所有に属していたところ、GがAに無断で甲土地上に建物を築造し、その建物の所有権保存登記をした場合において、本件売買契約により甲土地の所有者となったBは、Gが当該建物の所有権を他に譲渡していたとしても、登記名義がGにある限り、Gに対して当該建物の収去および土地の明渡しを求めることができる。

  1. ア・ウ
  2. ア・オ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. エ・オ

>解答と解説はこちら


改正民法に対応済
【答え】:5

【解説】

Aが登記簿上の所有名義人である甲土地をBが買い受ける旨の契約をA・B間で締結した。
ア.甲土地は実際にはCの所有に属していたが、CがAに無断で甲土地の所有名義人をAとしていた場合において、Aがその事情を知らないBとの間で本件売買契約を締結したときであっても、BはCに対して甲土地の引渡しを求めることができない。

ア・・・妥当ではない

●「虚偽表示による第三者」は、善意であれば保護される(所有権を主張できる)

【問題文の状況理解】 『「Aが登記簿上の所有名義人である甲土地」をBが買い受ける旨の契約をA・B間で締結した』となっているので、Bが買主で、購入した物は「名義人がAとなっている甲土地」です。売主はAです。

「虚偽表示」とは、嘘の意思表示をすることです。本問の「CがAに無断で甲土地の所有名義人をAとしていた」「甲土地は実際にはCの所有に属していた」というのは、甲土地の真の所有者はCであるにも関わらず、何か理由があって、甲土地の所有権をAに移した(移転させた)状況です。これは、嘘の所有権移転を行っているわけなので、「虚偽表示」に当たります。

そして、本問の「Aがその事情を知らないBとの間で本件売買契約を締結した」とは、「AがBと売買契約を締結し、虚偽表示の事情をBが知らない(善意)」という状況です。そして、第三者Bが善意の場合、第三者が保護され、契約は有効となります。

つまり、善意のBは、Cに対して所有権を主張することができるので「BはCに対して甲土地の引渡しを求めることができない」は誤りです。

■上記において、第三者Bがいない場合どうなるか?(=ACのみの場合)

虚偽表示による当事者間(AC間)の意思表示は無効なので、CはAに所有権を主張できます。

「当事者間の関係」と「第三者との関係」では扱い方が異なるので注意しましょう!

Aが登記簿上の所有名義人である甲土地をBが買い受ける旨の契約をA・B間で締結した。
イ.甲土地はAの所有に属していたところ、Aの父であるDが、Aに無断でAの代理人と称して本件売買契約を締結し、その後Dが死亡してAがDを単独で相続したときは、Aは、Dの法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。

イ・・・妥当ではない

●本人が無権代理人を単独相続 → 本人は追認拒絶できる しかし、損害賠償責任を免れることはできない

無権代理とは 代理権をもたない者(無権代理人)が、代理人と称して法律行為(売買等)をすることを「無権代理」と言います。無権代理が行われると、本人は困ってしまうので、下記のような権利を持ちます。

【問題文の状況】 ①無権代理人Dが、本人Aに無断でA所有の甲土地をBに売却します。②その後、無権代理人Dが死亡し、③本人Aが単独相続します。

本人Aが無権代理人Dを単独相続したとき、本人の有する追認拒絶権を行使することはできるが、無権代理人Dの債務も承継するため、無権代理人の責任を免れることはできない=損害賠償債務は負います。よって、本問は誤りです。

Aが登記簿上の所有名義人である甲土地をBが買い受ける旨の契約をA・B間で締結した。
ウ.甲土地が相続によりAおよびEの共有に属していたところ、AがEに無断でAの単独所有名義の登記をしてBとの間で本件売買契約を締結し、Bが所有権移転登記をした場合において、Bがその事情を知らず、かつ、過失がないときは、Bは甲土地の全部について所有権を取得する。

ウ・・・妥当ではない

●相続人は自己の相続分(持分)については、登記をしなくても保護される

誰かが死亡して相続が発生すると、「遺産分割協議」を行い、その後、協議で合意されたとおりに財産を分けます。そして、本問には「甲土地が相続によりAおよびEの共有に属していた」と記載されているので、遺産分割前と考えることができます。なぜなら、相続財産は、遺産分割前は、共有に属するからです。そして、各相続人は、個々の遺産上に共有持分権を有し、遺産分割の前でも、他の相続人の同意を得ずに、共有持分権(自己の持分)を処分(売買契約)することができます。

しかし、各相続人の有する共有持分権の範囲を超えた分についての移転登記無効です。つまり、Aの単独名義の所有権移転登記のうち、Aの持分については有効ですが、Eの持分については、無権利の登記で無効となります。この場合、相続人Eは自己の相続分登記なくして第三者に対抗できます

よって、「Bは甲土地の全部について所有権を取得する」は誤りで、「Bは、Aの持分についてのみ取得する」が正しいです。

※ 共有持分権の範囲を超えた分について、「売買契約は有効」ですが、「移転登記は無効」となります。売買契約自体は有効なので、Aが第三者Bに対して、契約通り「Eの持分権」について移転登記ができない場合、Aの債務不履行(契約不適合)となり、Bは、Aに対して、責任追求(「追完請求」「損害賠償請求」「代金減額請求」「契約解除」)ができます。

Aが登記簿上の所有名義人である甲土地をBが買い受ける旨の契約をA・B間で締結した。
エ.甲土地はAの所有に属していたところ、本件売買契約が締結され、B名義での所有権移転の仮登記がされた場合において、Aが甲土地をその事情を知らないFに売却し所有権移転登記をしたときは、Bは本登記をしない限りFに対して所有権の取得を対抗することができない。

エ・・・妥当

●仮登記 → 本登記をすることで始めて対抗要件を備える

仮登記は、あくまでも、登記の順位を保全する(確保する)効力しか持ちません(対抗力はない)。第三者に対抗するためには、仮登記を本登記することが必要です。よって、「Bは本登記をしない限りFに対して所有権の取得を対抗することができない」は正しいです。

A→B(仮登記)

Aが登記簿上の所有名義人である甲土地をBが買い受ける旨の契約をA・B間で締結した。
オ.甲土地はAの所有に属していたところ、GがAに無断で甲土地上に建物を築造し、その建物の所有権保存登記をした場合において、本件売買契約により甲土地の所有者となったBは、Gが当該建物の所有権を他に譲渡していたとしても、登記名義がGにある限り、Gに対して当該建物の収去および土地の明渡しを求めることができる。

オ・・・妥当

●「他人の土地上の建物について、自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合の建物取得者」は、
建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対して建物収去・土地明渡しの義務を負う

状況

A:甲土地の前所有者(売主)

B:甲土地の新所有者(買主)

G:甲土地上の建物所有者(保存登記済み)
(土地所有者Aに無断で建物を建築)

上記以外に、Gから建物を購入した「建物の買主」

もいます。仮に「H」とします。

質問内容

Bは、Gに対して、建物収去・土地の明渡し請求できる、○か×か?です。

判例

判例では、「他人の土地上の建物の所有権を取得した者(G)が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他(H)に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者(新所有者B)に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」としています。

つまり、Bは、Gに対して、建物収去・土地の明渡請求ができるので○です。

関連知識

原則として、建物収去・土地の明渡し請求できる相手は、「現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者」なので、Hに対しても建物収去・土地の明渡請求ができます。

「建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合」、その建物所有名義人に建物収去・土地の明渡し請求できない。

例えば、建物名義人がXだが、Xは建物を使用したことがなく、実際にはYが使用している場合、Xに対して建物収去・土地の明渡し請求できません。この場合、実際に使用しているYに対して建物収去・土地の明渡し請求できます。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問28|民法:停止条件

改正民法に対応済

A・B間で締結された契約(以下「本件契約」という。)に附款がある場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア.本件契約に、経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項が定められている場合、効力の喪失時期は当該変動の発生時が原則であるが、A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能である。

イ.本件契約が売買契約であり、買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている場合、この条項はその条件の成就が代金債務者であるBの意思のみに係る随意条件であるから無効である。

ウ.本件契約が和解契約であり、Bは一定の行為をしないこと、もしBが当該禁止行為をした場合にはAに対して違約金を支払う旨の条項が定められている場合、Aが、第三者Cを介してBの当該禁止行為を誘発したときであっても、BはAに対して違約金支払の義務を負う。

エ.本件契約が農地の売買契約であり、所有権移転に必要な行政の許可を得られたときに効力を生じる旨の条項が定められている場合において、売主Aが当該許可を得ることを故意に妨げたときであっても、条件が成就したとみなされることはない。

オ.本件契約が金銭消費貸借契約であり、借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(いわゆる出世払い約款)が定められている場合、この条項は停止条件を定めたものであるから、Bは社会的な成功を収めない限り返済義務を負うものではない。

  1. ア・イ
  2. ア・エ
  3. イ・ウ
  4. ウ・オ
  5. エ・オ

>解答と解説はこちら


改正民法に対応済
【答え】:2(ア・エが妥当)

【解説】

ア.本件契約に、経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項が定められている場合、効力の喪失時期は当該変動の発生時が原則であるが、A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能である。

ア・・・妥当

●停止条件・解除条件 → 条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思表示も有効

「経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項」とは、「解除条件」です。

「経済情勢に一定の変動があったとき」が条件で、この条件が成就した時に「効力が消滅する」ものを解除条件と言います(民法127条2項)。したがって、本問の「効力の喪失時期は当該変動の発生時(経済情勢に一定の変動があったとき)が原則である」は正しいです。そして、条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる合意をしたときは、その合意に従います(3項)。つまり、 A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能です。

具体例 大学生Aが親Bと「大学生の期間中、毎月1万円を贈与(仕送りを)し、万一、大学4年間で就職先が決まらなかったら贈与契約を解除する(仕送りをやめる)」契約をした場合、これは解除条件付きの贈与契約です。

そして、さらにAB間で「大学4年間で就職先が決まらなかったら、契約時にさかのぼって贈与契約の効力を消滅させ、4年分の仕送り分を返還しなければならない」との合意もできるということです。

※ 上記は解除条件ですが、停止条件も同じようにA・Bの合意により、効力の発生時期を契約時に遡らせることも可能です。

イ.本件契約が売買契約であり、買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている場合、この条項はその条件の成就が代金債務者であるBの意思のみに係る随意条件であるから無効である。

イ・・・妥当ではない

●停止条件付法律行為 → その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする
●「買主が品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている停止条件」 → 無効ではない

民法134条では、「停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする」と規定しています。

具体例 CD間の贈与契約で、「Cの気が向いたら、Dに10万円贈与する」という停止条件が付いていたとします。

この場合、Cの気が向くか向かないかで、条件が成就するか否かが決まります。このように債務者Cの意思に依存する条件は、法的な拘束力があるとはいえず、無効となります。

本問 本問の「買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払う」というのが、「債務者の意思のみにかかる停止条件付法律行為」に当たるかが問題となります。この点について、判例(最判昭31.4.6)では、「鉱業権の売買契約において、買主が排水探鉱(石炭等の鉱物の埋蔵量の調査)の結果、品質良好と認めたときは代金を支払い品質不良と認めたときは代金を支払わない旨を約しても、右売買契約は、民法第134条の条件が単に債務者の意思のみにかかる停止条件附法律行為とはいえない。」としています。つまり、「買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている停止条件」も無効ではありません。

ウ.本件契約が和解契約であり、Bは一定の行為をしないこと、もしBが当該禁止行為をした場合にはAに対して違約金を支払う旨の条項が定められている場合、Aが、第三者Cを介してBの当該禁止行為を誘発したときであっても、BはAに対して違約金支払の義務を負う。

ウ・・・妥当ではない

●不正に条件を成就させた → 相手方は、条件は成就しなかったとみなすことができる

民法130条2項には「条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる」と規定されています。この具体例が本問です。

具体例 AB間で争いごとがあり、和解する契約をした。その契約の中に「Bがやってはいけない禁止行為があり、もしその禁止行為をBが行ったら、BはAに違約金を払う」旨の条項があった。

この場合、「禁止行為を行ったならば=停止条件」です。

Aとしては、もしBが禁止行為をすれば違約金をもらえるので、Aが悪だくみをして、Cを利用して、Bが当該禁止行為を行うように仕向けて(誘発して)Bがその禁止行為を行ってしまった。

この場合、Aは「不正にその条件を成就させたとき」にあたるので、相手方Bは、その条件が成就しなかったものとみなすことができます。つまり、Bは違約金を支払う義務はありません。

関連ポイント 上記とは逆の事例で、民法130条1項には「条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる」と規定しています。

具体例 「Aは、Bが行政書士の試験に合格したら甲土地を贈与する」旨の契約をした。

この場合、「Bが行政書士試験に合格したならば=停止条件」です。

そして、契約はしたものの、Aが甲土地をあげたくないことから、Bが行政書士試験に合格しないよう、夜中に電話をかけるなどして、勉強をできないようにすると、「条件の成就を妨げた」とみなすことができます。この場合、Bは試験に合格したものとみなし、Aに土地を引渡すよう請求することができます。

エ.本件契約が農地の売買契約であり、所有権移転に必要な行政の許可を得られたときに効力を生じる旨の条項が定められている場合において、売主Aが当該許可を得ることを故意に妨げたときであっても、条件が成就したとみなされることはない。

エ・・・妥当

●農地法の知事の許可(行政学上の認可) → 条件には当たらない
●農地売買において、農地の売主が故意に知事の許可を得ることを妨げたとしても、条件が成就したとみなすことはできない

前提知識 日本の農業を守るために、農地法では、「農地の売買契約をする場合、原則、知事の許可が必要」「許可のない農地の売買契約は効力が生じない」と定めています。これは、農地の購入者が農業のノウハウを持っているかを審査するためです。

判例 判例(最判昭36.5.26)では、「農地の所有権移転を目的とする法律行為は都道府県知事の許可を受けない以上 法律上の効力を生じないものであり、この場合、知事の許可は右法律行為の効力発生要件であるから、農地の売買契約を締結した当事者が知事の許可を得ることを条件としたとしても、それは法律上当然必要なことを約定したに止まり、売買契約にいわゆる停止条件を附したものということはできない」としています。つまり、知事の許可は法律上当然に必要なことで、条件には当たらないということです。そのため、条件に関するルールは適用されないので、条件の成就を妨げる行為があったとしても、条件が成就したとみなすことはできません。

オ.本件契約が金銭消費貸借契約であり、借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(いわゆる出世払い約款)が定められている場合、この条項は停止条件を定めたものであるから、Bは社会的な成功を収めない限り返済義務を負うものではない。

オ・・・妥当ではない

●出世払い → 「不確定期限」であり、「停止条件」ではない =「条件」ではなく、「期限」にあたる

「金銭消費貸借契約」とは、お金の貸し借りの契約です。そして、

判例(大判大正4.3.24)によると、『借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(=出世払いの約束)は、「条件」に当たらず、「期限」に当たるとしています。厳密には、「不確定期限」であり、出世できないことが明らかになったときは、貸主は借金の返済を請求できる』としています。

■「期限」とは、いつか必ず到来するものに使い、「条件」は、必ず到来するわけではなく、到来するか否か未定であるものに使います。そして、判例では、出世できるかどうかは不確実な事実(条件)ではなく、出世できるかできないかはいずれ確実に決まる事実(期限)であると判断しました。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略