テキスト

法律の留保

法律の留保とは、行政機関が一定の行政活動を行う場合、あらかじめ法律によってその権限が定められていなければならない(法律の根拠・授権が必要)という原則です。

例えば、不動産を所有している人は、「固定資産税」が課せられます。これも、法律によって定められているから課せられるのです。

行政機関が勝手に、時計を持っている人には「時計税」を課します!といっても法律にそのようなルールは定められていないので、それはできません。

法律の留保の範囲

行政のすべての活動に「法律の留保の原則」が当てはまるかというと、色々な考え方があります。

それが、①侵害留保説、②全部留保説、③権力留保説、④重要事項留保説

①侵害留保説

行政書士試験では、この侵害留保説を覚えておきましょう!

侵害留保説とは、「国民の自由」や「財産」を侵害する行政活動のみ、法律の根拠が必要ということです。

上記事例の、税金を課す行為については、国民の財産を侵害する行政活動と言えます。そのため、法律に「〇〇税は課していいですよ!」と規定されていなければ、〇〇税を課すことができないということです。

つまり、上記「時計税」は法律に規定されていないので課すことができないということです。

②全部留保説

全ての行政活動について法律の根拠が必要という考え方です。

「国民の自由」や「財産」を侵害する行為だけでなく、侵害しない行為であっても法律の根拠が必要ということです。

この考えによると、警察官が、道案内をする場合も法律の根拠が必要ということになります。

そして、行政書士試験のレベルであれば、③権力留保説、④重要事項留保説は勉強しなくてもよいでしょう!

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律の優位の原則

法律の優位の原則とは、行政活動は法律に反して行われてはならないという原則です。これは、「法律」の方が「行政活動」より「優位」な位置にあるからです。
行政活動は法律に従いなさい!ということです。
行政活動が、法律に従わずに、好き勝手やってしまったら、国民の権利を侵害してしまい、困りますよね。

そして、違法な行政活動は、取消しされたり、無効になります。

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

法律の法規創造力の原則

法律の法規創造力の原則とは、「国会で制定する法律だけが、国民の権利義務に関する規律である法規を創造できる」という原則です。

これは、憲法41条「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定されている通りです。

言い換えると、
国民の権利義務に関するルールは、法律でのみ定めることができ、行政が勝手に定めることができないということです。

行政が国民の権利義務に関するルールを定める場合、法律の授権が必要ということです。

「法律の授権」とは、例えば、法律の条文内に「別途、規則で定める」と書かれている場合に限って、規則で定めることができるということです。

法律による行政の原理

法律の法規創造力 国民の権利義務に関するルールは法律のみ定めることができ、行政機関は、法律の授権なく法規を作れない
法律の優位 行政活動は法律に違反してはならず、違反したら、取消されたり、無効となる
法律の留保 一定の行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要

行政法の一般原則

信義誠実の原則
権利濫用の禁止
比例原則
平等原則
適正手続の原則

行政調査

行政調査とは、行政機関が情報収集をして調査活動を行うことを言います。

行政調査の部分は、行政書士試験ではあまり出題されませんが、行政調査は、行政手続法には規定されていないという点は覚えておくとよいでしょう!

そして、行政調査には①強制調査、②間接強制調査、③任意調査の3つがあります。

強制調査

強制調査とは、国民が拒否しても、行政機関が実力行使(物理的強制:差押え等)して調査をすることを言います。

この行政調査は、実力の行使を行うため、法律の根拠が必要です。

ちなみに、物理的な実力の行使によって行政調査を行う場合には令状主義が適用されます。
よって、裁判所の令状がなければ直接強制調査をすることができません。

例えば、国税犯則取締法2条です。

収税官吏は犯則事件を調査する為必要あるときは其の所属官署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官の許可を得て臨検、捜索又は差押を為す事ができる

間接強制調査

間接強制調査は、強制調査のようにモノを差押えるなどの物理的強制をすることはできませんが、もし調査を拒否すると、罰則が科されます

例えば、国税通則法第74条の2です。国税通則法は第127条で、下記調査等を拒否すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金の規定を設けています。

(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
第74条の2 国税庁等は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、一定の者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件又はその帳簿書類その他の物件とする。)を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる。

任意調査

任意調査とは、相手方の人の協力に基づいて行われる調査です。強制力はないので、法律の根拠は不要です。そのため、拒否しても大丈夫です。

(給水装置の検査)
第17条 水道事業者は、日出後日没前に限り、その職員をして、当該水道によつて水の供給を受ける者の土地又は建物に立ち入り、給水装置を検査させることができる。

行政調査に関する判例

  • 旧所得税法63条、70条10号に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、憲法35条の法意に反するものではない。(最判昭47.11.22:川崎民商事件)
  • 質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。(最判昭48.7.10:荒川民商事件)
  • 警職法2条1項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべぎである。(最判昭53.9.7:警察官職務執行法の職務質問に付随して行う所持品検査)
  • 警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。(最判昭55.9.22:自動車の一斉検問)
  • 法人税法に規定する質問又は検査の権限は,犯罪の証拠資料を取得収集し,保全するためなど,犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら,上記質問又は検査の権限の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないというべきである。(最判平16.1.20:税務調査と犯罪捜査)

行政上の強制手段

行政の目的を達成するために、国民に任意にしてもらいたい場合や、義務として行ってもらいたい場合があります。それにも関わらず、国民が思うように行ってくれないときに、行政機関は行政上の強制手段を発動して、行政の目的を達成させることができます。

例えば、お酒の飲みすぎで、路上で寝ている人がいた場合、このまま放ってい置いては、車を運転する人の迷惑になります。そのために、警察官が、路上で寝ている人を、強制的に安全な場所に運びます。これも行政上の強制手段です。その他にも色々あるので、その点を解説していきます。

行政上の強制手段には、大きく分けて「行政強制」と「行政罰」の2つに分けることができます。

行政強制と行政罰

行政強制とは、将来に向けて、行政目的を達成するための行為です。

一方、
行政罰は、過去の義務違反に対する制裁です。

行政強制はさらに、行政上の強制執行(①代執行・②執行罰・③直接強制・④行政上の強制徴収)と即時強制に分けることができます。

行政上の強制執行と即時強制の違い

行政上の強制執行は、義務が課されているにもかかわらず、その義務を履行しない場合に、行政庁が実力行使して義務を履行させます。

一方、
即時強制は、義務が課されていないけど、相手方の身体や財産に実力行使することです。上の例にもある、路上で寝ている人がいた場合に、警察官が安全な場所に移動させる行為が即時強制です。

行政上の強制執行

行政上の強制執行は、①代執行・②執行罰・③直接強制・④行政上の強制徴収の4種類あるのですが、どれも、義務が課されているにもかかわらず、その義務を履行しない場合の話です。そして、上記4つすべてについて言えることは、法律の根拠がなければ行うことができないということです。それでは、具体例を使いながら解説していきます。

代執行

代執行とは、代替的作為義務が履行されない場合に、「行政庁もしくは第三者」が自ら、義務者に代わって義務を履行し、その費用を義務者から徴収することを言います。

例えば、Aが所有する建物が建築基準法違反で、いつ倒壊してもおかしくない状況にあったとします。

この場合、市長は、Aに対して「建物を除去しなさい!」と除去命令が下すことができます。

この除去命令を受けたAは、除去する義務が発生します。それでも、Aが、建物を除去しない場合、

(Ⅰ)市長(行政庁)は「1か月以内に除去しないのであれば、代執行(市が強制的に除去)をします!」と文書で戒告(お知らせ)をします。

(Ⅱ)それでもAが除去しない場合、「それでは、代執行を行います!」と代執行令書を使って、Aに通知します。

(Ⅲ)市は、代執行を行います(強制的に、建物の取り壊しを行う)。

(Ⅳ)かかった費用については、Aから徴収します。

ここで行政書士試験で出題される内容は、上記の細かい流れです。

(Ⅰ)文書で戒告・(Ⅱ)代執行令書による通知

行政庁は、相当期間を定めて、文書で戒告します。ただし、例外として、非常の場合、または、危険切迫の場合は、(Ⅰ)戒告と(Ⅱ)代執行令書による通知を省略できます。

(Ⅲ)代執行

代執行を実際に行う執行責任者は、証票を携帯し、要求があるときは、いつでもこれを呈示しなければなりません。

(Ⅳ)費用の徴収

代執行に実際に要した費用を、納期日を定め、義務者に対して、文書をもって納付を命じます。期限内に納付がない場合は、国税滞納処分の例により、義務者から強制徴収をすることができます。

※国税滞納処分の例とは、「国税徴収法に規定されている、納税義務者が納税しない場合の手続きに従って」という意味です。

執行罰

執行罰とは、義務の不履行に対して、過料を科すことを予告し、その予告によって、義務者に心理的圧迫を加えて間接的に義務の履行を強制することを言います。

「罰」という漢字が含まれていますが、「罰」ではありません。もし、義務を履行すれば、過料を取られることはないからです。ただし、義務を履行しないと、何度も過料を科されることがあるので注意が必要です。イメージとしては、DVDの延滞料です。DVDを期限までに返却すれば延滞料を取られませんが、延滞すると、毎日、延滞料がずっと科されます。

実際、執行罰は、砂防法36条しかありません。

砂防法36条 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ国土交通大臣若ハ都道府県知事ハ一定ノ期限ヲ示シ若シ期限内ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ五百円以内ニ於テ指定シタル過料ニ処スルコトヲ予告シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得

砂防法等の命令による義務を怠ると、国土交通大臣もしくは知事は、一定期限を示す等して、500円以内の過料に処することを予告して、履行を命ずることができる

執行罰は、行政刑罰と併科しても二重処罰の禁止規定(憲法39条後段)には違反しません

直接強制

直接強制とは、行政上の義務を義務者が履行しない場合に、行政庁が、義務者の身体又は財産に実力を加えて、義務の履行があったとみなす行為を言います。有名な事例は、成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条です。

1項 国土交通大臣は、規制区域内に所在する建築物その他の工作物について、その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者、管理者又は占有者に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができる。
一 多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用
二 暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用
三 成田国際空港又はその周辺における航空機の航行に対する暴力主義的破壊活動者による妨害の用

6項 国土交通大臣は、第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されていると認めるときは、当該工作物について封鎖その他その用に供させないために必要な措置(建物の実力封鎖)を講ずることができる

行政上の強制徴収

行政上の強制徴収とは、国民が、行政上の金銭納付義務を履行しない場合に、行政庁が、自ら強制的に徴収し、当該国民は義務を果たしたことにすることを言います。

例えば、税金を滞納している人がいた場合、滞納者の財産を差押えて、競売にかけて得られた代金で納税することが強制徴収です。

行政上の金銭納付義務とは

道路占有料河川占有料放置違反金等があります。

水道料金は民事上の話なので、民事上の強制執行の対象となるので注意しましょう!

また、行政上の金銭納付義務については、行政上の強制徴収の手段によって行う必要があり、民事上の強制執行によって行うことはできません

即時強制

即時強制とは、義務を命じる余裕のない緊急の必要がある場合に、行政機関が、国民に義務を課することなく、国民の身体や財産に実力行使することを言います。

上記の通り、国民の身体や財産に実力行使するので、即時強制を行うには「法律の根拠」もしくは「条例で定めていること」が必要です。

例えば、路上で寝ている人がいた場合に、「起きて路上から離れてください!」と義務を命じていては、それまでに車にひかれてしまうかもしれません。緊急で路上から離れさせる必要があります。実際、警察官職務執行法の3条に上記内容が規定されています。

第三条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して左の各号の一に該当することが明らかであり、且つ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、とりあえず警察署、病院、精神病者収容施設、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
一 精神錯乱又はでい酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす虞(おそれ)のある者
二 迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)

行政罰

行政罰とは、過去の義務違反に対する制裁です。そして、行政罰には「行政刑罰」と「行政上の秩序罰」の2つがあります。

※公務員に対する懲戒解雇などは「懲戒罰」なので、行政罰ではありません。

執行罰と行政罰の違い

執行罰は、行政強制の一つなので、将来に向けて、行政目的を達成するための行為です。簡単にいえば、将来、義務を履行しないと罰を加えますよ!という内容です。

一方、
行政罰は、過去の義務違反に対する制裁です。もうすでに、義務違反をしたから、それに対して罰を加えます!という内容です。

行政刑罰

行政刑罰とは、刑法に定めのある刑罰を科すものを言います。具体的には、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料です。そして、行政刑罰は、刑法総則の規定が適用され、刑事訴訟法の定める手続きによって科されることになります。ただし、例外的に、大量に生じる軽微な違反事件(例えば、国税犯則取締法に基づく通告処分等)は刑事訴訟法によらない簡易的な手続きが定められています。

また、行政刑罰の特徴として、違反行為者のほか、その使用主や事業主も科刑される「両罰規定」が置かれていることが多いです。例えば、宅建業法84条です。

第84条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第79条又は第79条の2 一億円以下の罰金刑

第79条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 不正の手段によって免許を受けた場合
二 無免許で宅建業を営んだ場合
三 自己の名義をもって他人に宅建業を営ませた場合
四 業務の停止命令に違反して業務を営んだ場合

第79条の2 重要事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げた者は、二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

行政上の秩序罰

行政上の秩序罰とは、形式的で軽微な行政上の義務違反に対して課される過料のことです。例えば、届出義務や登録義務、通知義務に違反した場合です。

そして、科料は刑罰ですが、過料は刑罰ではありません。そのため、
法令に基づく過料は、非訟事件手続法によって地方裁判所が科します。

一方、地方公共団体の条例や規則に違反した場合、地方自治法の定めに基づいて、地方公共団体の長が行政処分として科します。

そして、「秩序罰による過料」と「行政刑罰」は、目的や要件が異なるため併科してもよいです。

行政計画

行政計画とは、文字通り、行政機関が定める計画です。そして、行政計画には、「国民を拘束する行政計画」と「国民を拘束しない行政計画」の2つがあります。

拘束的計画と非拘束的計画

拘束的計画とは、特定の個人に対して、一定の権利を制限してしまう計画です。例えば、土地区画整理事業計画です。この計画内の土地所有者は、区画整理事業を行うため、一定期間、自分の土地であっても、使うことができなくなってしまいます。つまり、「自分の土地を使用できる権利」に制限がかかってしまうので、拘束的計画と言えます。このように、国民の権利を制限してしまうため、行政機関が勝手に計画することはできません。拘束的計画の策定には、法律の根拠が必要です。つまり、法律に従って、拘束的計画を策定しないといけないです。

非拘束的計画とは、国民の権利を制限しない計画です。非拘束的計画は、国民の権利を制限しないので、法律の根拠は不要です。例えば、池田内閣が打ち出した「国民所得倍増計画」です。国民総生産(GNP)を「10年以内に26兆円に倍増」させて、国民の生活水準を西欧先進国並みに到達させるという経済成長目標を設定し、内政と外交を結びつけることで、完全雇用の達成と福祉国家の実現、国民各層間の所得格差の是正をはかることを目指した計画です。これは、国民の権利を制限するのではなく、むしろ、公共事業に投資していきました。

池田内閣が「国民所得倍増計画」を打ち出したことは、行政書士試験の「一般知識」でも出題される部分なので、覚えておきましょう!

行政計画に関する判例

  • 地方公共団体が定めた一定内容の継続的な施策(行政計画)が、特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、その特定内容の活動が相当長期にわたる右施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合において、右勧告等に動機づけられて右活動又はその準備活動に入った者が右施策(行政計画)の変更により社会観念上看過することができない程度の積極的損害を被ることとなるときは、これにつき補償等の措置を講ずることなく右施策を変更した地方公共団体は、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、右の者に対する不法行為責任を免れない(=不法行為責任を負う)。(最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件

行政指導

行政指導とは、法的拘束力はないが、一定の行政目的を達成させるために、特定の者に指導、勧告、助言をすることです。

例えば、Aが所有する建物が、倒壊しそうで危険だとします。そのような場合に、知事はAに対して、必要な措置をとることを勧告することができます。

イメージとしては、「できれば、倒壊しないように工事してくれませんか?もしくは解体してくれませんか?」とお願いするイメージです。

行政指導法的拘束力はないので、Aは工事や解体をする義務はありません

行政手続法における行政指導の定義

行政手続法では、下記のように規定されています。

行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

上記条文で、行政書士試験で出題されるポイントは下記の通りです。

  • 行政機関は、任務又は所掌事務の範囲内において行う行為であり、任務または所掌事務の範囲外の行為は行政指導でない
  • 特定の者に対して行う行為であり、不特定の者に対して行う行為は行政指導ではない
  • 処分に該当する行為は行政指導ではない

上記条文の内容ではないが、行政書士試験で出題されるポイントは下記の通りです。

  • 行政指導は法律の根拠がなくても行える→なぜなら、法的拘束力がないから
  • 行政指導は、非権力的な事実行為なので、原則、抗告訴訟の対象となる「処分」には該当しない。ただし、判例(病院開設中止勧告事件)で該当する場合もある。

行政指導に関する判例

  • 病院開設中止の勧告は,医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導であるけれども,当該勧告を受けた者に対し,これに従わない場合には,病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす。我が国においては,健康保険,国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどいないため、保険医療機関の指定を受けることができない場合には,実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。そのように考えると、この勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たると解するのが相当である。(最判平17.7.15:病院開設中止勧告事件)
  • 市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた場合において、右指導要綱が、これに従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容とするものであつて、右行為が行われた当時、これに従うことのできない事業主は事実上建築等を断念せざるを得なくなつており、現に指導要綱に従わない事業主が建築したマンションについて水道の給水等を拒否していたなど判示の事実関係の下においては、右行為は、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使に当たる。(最判平5.2.18:教育施設負担金事件
  • 最判平元.11.8:宅地開発指導要綱と給水拒否

 

行政契約

行政契約とは、行政主体が、「他の行政主体や私人(国民や法人等)」と対等な立場で締結する契約を言います。

「対等な立場で行う」というのがポイントで、行政行為のように、行政庁が上から公権力を行使するのとは違うということです。

そのため、行政契約の締結には、当事者の意思の合致があれば契約が成立し、法律の根拠は不要です。

※「法律の根拠が不要」とは、法律に規定されてなくても、自由に契約ができるということです。

例1:高速道路を建築するために、建設会社と請負契約を行う場合、請負契約が行政契約となります。

例2:公共施設の利用契約も行政契約です。

行政契約については、上記「対等な立場」で行うことが頭に入っていれば十分です。

あとは、下記判例を頭に入れておきましょう!

行政契約に関する判例

  • 普通地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約は、
    「当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り」、私法上無効となる。(最判昭62.5.19)
  • 町とその区域内に産業廃棄物処理施設を設置している産業廃棄物処分業者とが締結した公害防止協定における,上記施設の使用期限の定め及びその期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない旨の定めは,これらの定めにより,廃棄物処理法に基づき上記業者が受けた知事の許可が効力を有する期間内にその事業又は施設が廃止されることがあったとしても,同法の趣旨に反しない。(最判平21.7.10:公害防止協定)
  • 村の発注する公共工事の指名競争入札に長年指名を受けて継続的に参加していた建設業者を、村外業者に当たることのみを理由として,入札に参加させなかった村の措置は、裁量権の逸脱または濫用にあたり違法である(最判平18.10.26:村外業者を指名競争入札に参加させなかった)

 

付款・附款(条件、期限、負担、撤回権の留保、法律効果の一部除外)

主たる行政行為の内容を「制限」したり、「特別の義務」を課したりすることを「付款(附款)」と言います。

例えば、運転免許の交付にあたり、免許の条件として「眼鏡等」と記載されている場合があります。これは、運転するときに眼鏡を付けなさい!という特別の義務を課しているので「付款」です。

そして、付款には「①条件」「②期限」「③負担」「④取消権(撤回権)の留保」「⑤法律効果の一部除外」の5パターンがあります。

条件

条件とは、民法でもある「停止条件」「解除条件」の2種類と同じです。行政行為の効果の発生・消滅を将来発生するかどうかが不確実な事実にかからせる意思表示です。

これも停止条件と解除条件の具体例が分かれば難しくありません。

停止条件とは?

停止条件とは、条件が成就することで(満たされることで)、行政行為の効果が発生する条件を言います。

例えば、「会社が成立したら免許を与える」といった場合、会社が成立することで、「免許を与える」という行政行為の効果が発生します。

解除条件とは?

解除条件とは、条件が成就することで(満たされることで)、行政行為の効果が消滅する条件を言います。

例えば、「定められた期間内に事業報告をしないと免許を取り消す」といった場合、事業報告をしないことで、「免許付与」の効果が消滅することになります。

期限

期限とは、行政行為の効果の発生・消滅を将来、到来することが確実な事実にかからせる意思表示です。

行政行為の効果が期限の到来によって発生する場合を「始期」といい、
行政行為の効果が期限の到来によって消滅する場合を「終期」と言います。簡単に言えば、期限の始まりと終わりです。

例えば、「宅建業の免許の有効期間:2021年4月1日から2026年3月31日まで」といった場合、2021年4月1日が始期で、2026年3月31日が終期です。

負担

行政書士試験では、この「負担」が一番重要です。一番上の事例でもある通り、運転免許に際して、免許の条件として記載されている「眼鏡等」は、負担です。「免許の条件」と書かれているにも関わらず負担です。

負担とは、主たる行政行為に付随して特別な義務を命ずる意思表示を言います。そして、負担は、「許可や認可」等に付けられます。

条件と負担の違い

負担は、その負担に従わなくても、主たる行政行為の効果に影響しません。つまり、眼鏡着用という負担を無視して、眼鏡を付けずに運転しても、運転免許の効力に何の影響も与えない=それが理由で免許取消しとはならないです。

一方、条件は、条件が成就したら、必ず、効力が発生したり消滅したりして、主たる行政行為に直接影響します。上記例の通り「会社が成立したら免許を与える」といった場合、会社成立という条件が成就すれば、必ず、「免許付与」という主たる行政行為が発動するわけです。

例えば、「道路の占有許可の際に、占有料は毎月10万円」と定められた場合、占有料は「負担」です。占有料10万円を払わなかったとしても、いきなり許可取消しとはなりません。

もっと分かりやすい例は、運転免許証の「免許の条件」の欄に「眼鏡等」と記載があったりします。
これは、「条件」と書いてありますが「負担」です。
つまり、眼鏡をかけていなかったとしても、運転免許の取消しにはなりません。

取消権の留保・撤回権の留保

「取消権の留保」も「撤回権の留保」も同じことで、特定の場合に、行政行為を取り消す(撤回する)ことを、あらかじめ予定しておく(=留保する)意思表示を言います。

例えば、公共の体育館の使用許可に「公益上必要があるときは許可を取り消す」旨を付け加えることで、「公益上の必要があるとき」を予定して、許可を取消しできるようにしています。

ただし、この撤回権の留保は、行政庁が無制限に行えるわけではなく、合理的な理由が必要です。言い換えると、合理的な理由のない撤回権の留保は許されないということです。

法律効果の一部除外

「法律効果の一部除外」とは、文字通り、行政行為の効果を一部発生させないことを言います。

例えば、「公務員の出張について、支給されるのですが、通常必要としない旅費は支給されない」と法律で規定されています。

この「通常必要としない旅費は支給されない」という部分が法律効果の一部除外です。

そして、法律効果の一部除外は、法律に規定されている場合に限って付加することができます。つまり、法律に規定されていないことを行政庁の判断で一部除外することは許されないということです。

行政行為の裁量(行政裁量)

行政行為を行う場合、行政庁は、法律に規定されていることしかできません。しかし、法律で、一定の判断の余地を認めています。この判断の余地を「裁量(さいりょう)」と言います。

そもそも、法律で、きっちり決めておけば裁量は必要ありません。しかし、ガチガチに法律で縛ってしまうと、複雑で多様な行政上の問題に対応できないこともあります。

そのため一定の幅を利かせているわけです。

裁量行為

裁量行為とは、行政庁の裁量にゆだねられた行為を言います。そして、裁量行為については、裁量の逸脱・濫用がある場合に違法となります。

裁量の逸脱と濫用

上記でも記述した通り、行政庁には判断の余地があるのですが、与えられた権限を超えてはいけませんし、また、権限の範囲内ではあるけど、妥当性に欠ける場合もいけません。

この「与えられた権限を超えること」を「裁量の逸脱」
「権限の範囲内ではあるけど、妥当性に欠ける場合」を「裁量の濫用」と言います。

要件裁量と効果裁量

まず、行政裁量を行うプロセスを解説します。

  1. 事実認定
  2. 法律の要件に該当するか?(要件裁量)
  3. どのような処分をするか?(効果裁量)

要件と効果(法律要件と法律効果)

一般的に法律の規定は、「一定の条件」を満たした場合には、「一定の効果」が生ずるという形式で定められています。

「一定の条件」=法律要件
「一定の効果」=法律効果

です。

■例えば、宅建業法に、「懲役刑を受けると宅建業の免許を受けることができない」という規定(ルール)があります。

ここでいう、
懲役刑を受ける=法律要件で
宅建業の免許を受けることができる=法律効果です。

■例えば、「不動産を取得すると、不動産取得税が課せられる」の場合、

不動産を取得する=法律要件
不動産取得税が課せられる=法律効果

ここまでが前提知識で、ここから、要件裁量と効果裁量を解説します。

要件裁量

法律の要件に当てはまるかどうかについて裁量がある場合を「要件裁量」と言います。

■例えば、「宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき、知事は、当該宅地建物取引士に対し、必要な指示をすることができる。」という法律があります。

宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をした=法律要件ですが、この「不正又は著しく不当な行為」とはどんな行為なのかは、知事の裁量が認められています。

つまり、宅建士のどんな行為について不正なのか不当なのかを知事の判断で決めることができるということです。

効果裁量

要件を満たす場合に、どんな処分を下すかについて裁量がある場合を「効果裁量」と言います。

上記、宅地建物取引士の指示処分の事例を見てください。

「指示をすることができる」となっています。「指示をしなければならない」とはなっていません。

つまり、知事は、指示(指示処分)をしてもいいし、指示(指示処分)をしなくてもよいです。

つまり、効果裁量があるということです。

そして、行政書士の試験では、この行政裁量についてよく問われます。しかし、このページで解説するような概念的な内容ではなく、判例と絡めて出題してくるので、過去問で出題された判例で「裁量」に関する内容があれば、都度それを覚えていくとよいでしょう!

裁量に関する判例

  • 外国人の在留期間中の政治活動として直ちに憲法の保障が及ばないものであるとはいえないが、そのなかにわが国の出入国管理政策に対する非難行動あるいはわが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものが含まれており、法務大臣が外国人の政治活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断したとしても、裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものということはできない。(最判昭53.10.4:要件裁量の判例:マクリーン事件
  • 勤務時間内の職場集会、繁忙期における怠業、超過勤務の一斉(いっせい)拒否等の争議行為に参加しあるいはこれをあおりそそのかしたことが国家公務員法の争議行為等の禁止規定に違反するなどの理由でされた税関職員に対する懲戒免職処分は、右職場集会が公共性の極めて強い税関におけるもので職場離脱が職場全体で行われ当局の再三の警告、執務命令を無視して強行されたこと、右怠業が業務処理の妨害行為を伴いその遅延により業者に迷惑を及ぼしたこと、右超過勤務の一斉(いっせい)拒否が職場全体に及び業者からも抗議が出ていたこと、職員に処分の前歴があることなど判示のような事情のもとでは、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない。(最判昭52.12.20:効果裁量の判例:神戸税関事件)
  • 児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進することを目的とする施設であるから、営業の規制を主たる動機、目的とする児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用に相当し、公権力の違法な行使に当たる。(最判昭53.26:法律の目的違反による裁量権の濫用:余目町個室付浴場事件)
  • 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられており,学校教育上支障がない場合であっても,行政財産である学校施設の目的及び用途と当該使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により許可をしないこともできる。(最判平18.2.27:公立学校施設の目的外使用の許否の判断と管理者の裁量権)