テキスト

最判平21.11.26:保育所廃止条例の制定行為

論点

  1. 市の設置する特定の保育所で保育を受けている児童・保護者は、保育を受けることを期待しうる法的地位を有するか?
  2. 上記保育所を廃止する条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

横浜市Yは、自らが設置する保育所のうち4つの保育所を平成16年3月31日かぎりで廃止する旨の条例を制定した。

本件改正条例の施行によって、当該保育所は廃止され、社会福祉法人が当該保育所の運営を引き継いだ。

これに対して保育所で保育を受けていた児童およびその保護者であるXらは、当該改正条例の制定行為は、「自らが選択した保育所において保育を受ける権利」を違法に侵害すると主張して、本件制定行為の取消訴訟を提起した。

判例

市の設置する特定の保育所で保育を受けている児童・保護者は、保育を受けることを期待しうる法的地位を有するか?

→有する

市町村は、児童の保護者から入所を希望する保育所等を記載した申込書を提出しての申込みがあったときは、やむを得ない事由がある場合を除いて、その児童を当該保育所において保育しなければならないとされている(児童福祉法24条1項~3項)。

こうした仕組みを採用したのは、女性の社会進出や就労形態の多様化に伴って、その保育所の受入れ能力がある限り、希望どおりの入所を図らなければならないこととして、保護者の選択を制度上保障したものと解される。

そして、Xらにおいては、保育所への入所承諾の際に、保育の実施期間が指定されることになっている。

したがって、特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有するものということができる。

上記保育所を廃止する条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたる

条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから、一般的には、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもない。

しかし本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものである。

そのため、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視することができる

また、市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が、当該保育所を廃止する条例の効力を争って、当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し、勝訴判決や保全命令を得たとしても、これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから、これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなる。

他方、処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある

以上によれば、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

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最判平18.7.14:水道料金を改訂する条例制定行為

論点

  1. 水道料金を規定する条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

Xらは、山梨県旧高根町Yに別荘を所有しており、Yとの間で給水契約を締結していた。

その後、旧高根町簡易水道事業給水条例が改訂されると、住民基本台帳に登録していないXらの水道料金が大幅に値上げされ、基本料金について別荘所有者以外の給水契約者との間に差が生じた。

つまり、基本料金について、地元住民は安く、別荘所有者は高いということ。

これに対して、Xらは、本件水道料金の定めが別荘給水契約者を不当に差別するものであると主張し、本件定めについて、行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えを提起した。

判決

水道料金を規定する条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→当たらない

抗告訴訟の対象となる行政処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいうものである。

本件改正条例は、旧高根町が営む簡易水道事業の水道料金を一般的に改定するものであって、そもそも限られた特定の者に対してのみ適用されるものではない(その地域の全員に適用されるものである=一般抽象的)

したがって、本件改正条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらなというべきである。

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行政書士におけるポイント

  • 抗告訴訟の対象となる行政処分とは、①公権力であること、②個別・具体的な法的地位の変動(特定の者に対して権利義務が生じる)の2つを満たす必要がある。
    本件、「限られた特定の者を対象としていない」ことから、②個別・具体的という要件を満たさないので、抗告訴訟訴訟の対象となる行政処分には当たらない
    つまり、水道料金の改定条例の制定行為は、処分性を有さない、ということ。

最判平17.7.15:病院開設の中止勧告

論点

  1. 病院開設中止の勧告は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

Xは病院の開設を計画し、Y知事に対して、医療法7条1項の許可(病院開設の許可)の申請をした。

Yは、Xに対し、医療法30条の7の規定に基づき、「当該病院開設予定の地域内の必要病床数が達していること」を理由に、病院の開設の中止を勧告したが、Xはこの勧告を拒否した。

これを受けてYは、Xあてに「中止勧告にも関わらず、病院を開設した場合、保険医療機関の指定の拒否をする」旨の文書を送付した(通告)。

そこで、Xは、Yに対して、勧告の取消し、または本件通告処分の取消しを求めて出訴した。

判決

病院開設中止の勧告は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたる

病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められている。

しかし、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。

そして、いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては、健康保険、国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる

このような医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。(つまり、処分性を有する

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最判昭54.12.25:輸入禁止の製品に該当する旨の通知

論点

  1. 輸入禁制品の該当通知に処分性が認められるか?

事案

輸入業者である株式会社Xは、女性ヌード写真集392冊を輸入するために、税関長Yに対して、当該書籍の輸入申告をした。

しかし、Yは、Xに対して、関税定率法21条1項3号の輸入禁制品(輸入禁止の製品)に該当する旨の通知をした。

そこで、Xが当該通知について異議を申し出たものの、Yは棄却し、Xは、当該通知、および棄却決定の取消訴訟を提起した。

判決

輸入禁制品の該当通知に処分性が認められるか?

認められる

関税定率法の規定による通知が、行政庁のいわゆる観念の通知とみるべきものであることは、原判決の判示するとおりである。

そして、輸入禁制品について税関長がその輸入を許可するものでないことは、明らかである。

そして、税関長Yにおいて、輸入申告者に対し、通知をした場合においては、当該貨物につき輸入の許可を得ることができなくなったことが明らかとなったものということができる。

また、輸入申告者Xは輸入の許可を受けないで貨物を輸入することを法律上禁止されているのであるから、輸入申告者は、当該貨物を適法に輸入する道を閉ざされるに至ったものといわなければならない。

そして、輸入申告者Xの被るこのような制約は、関税定率法の規定による通知によって生ずるに至った法律上の効果である、とみるのが相当である

そうすると、Yの関税定率法による通知は、その法律上の性質においてYの判断の結果の表明、すなわち観念の通知であるとはいうものの、もともと法律の規定に準拠してされたものであり、かつ、これにより上告人に対し申告にかかる本件貨物を適法に輸入することができなくなるという法律上の効果を及ぼすものというべきであるから、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するもの、と解するのが相当である。

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最判昭57.7.15:反則金納付通告の処分性

論点

  1. 道路交通法に基づく違反行為に対する反則金の納付通知について不服がある場合、どのような方法を選ぶ必要があるか?
  2. 道路交通法に基づく反則金納付通告に処分性は認められるか?

事案

Xは、駐車違反の被疑事実で現行犯逮捕された。その翌日、Xは、反則金納付による処理手続を受けることを希望し、反則金相当額を仮納付して釈放された。

その後、県警本部長Yは、反則金の仮納付を本納付とみなす効果もつ反則金納付通告を行った。

そこで、Xは、駐車違反者の誤認があるとして、反則金納付通告処分の取消訴訟を提起した。

判決

1.道路交通法に基づく違反行為に対する反則金の納付通知について不服がある場合、どのような方法を選ぶ必要があるか?

反則金を納付せずに、その後の刑事手続きで無罪を主張する方法を選ぶ必要がある

道路交通法に基づく違反行為に対する反則金の納付通知について不服がある場合は、反則金を納付せずに、その後の刑事手続きで無罪を主張する方法を選ばなければなりません。

つまり、道路交通法違反に対する反則金の納付通知について不服がある場合、「納付通知の取消訴訟を提起する」方法は選択できません。(下記の青文字部分参照)

2.道路交通法に基づく反則金納付通告に処分性は認められるか?

認められない

交通反則通告制度は、車両等の運転者がした道路交通法違反行為のうち、比較的軽微であって、警察官が現認する明白で定型的なものを反則行為とし、反則行為をした者に対しては、警察本部長が定額の反則金の納付を通告し、その通告を受けた者が任意に反則金を納付したときは、その反則行為について刑事訴追をされず、一定の期間内に反則金の納付がなかったときは、本来の刑事手続が進行するというものである。

そして、道路交通法127条1項の規定による警察本部長の反則金の納付の通告があっても、これにより通告を受けた者は通告に係る反則金を納付すべき法律上の義務が生ずるわけではなく、ただその者が任意に右反則金を納付したときは公訴が提起されないというにとどまり納付しないときは、検察官の公訴の提起によつて刑事手続が開始され、その手続において通告の理由となつた反則行為となるべき事実の有無等が審判されることとなるものとされているが、これは上記の趣旨を示すものにほかならない。(通告を受けても納付の義務は発生しないので、通告は処分性がないことになる

道路交通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る反則金を納付し、これによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由となった反則行為の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗告訴訟によってその効果の覆滅を図る(くつがえす)ことは許されない

右のような主張をしようとするのであれば(くつがえしたいのであれば)、反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこれによって開始された刑事手続の中でこれを争い、これについて裁判所の審判を求める途を選ぶべきであるとしているものと解するのが相当である。

もしそうでなく、抗告訴訟が許されるものとすると、本来刑事手続における審判対象として予定されている事項を行政訴訟手続で審判することとなり、また、刑事手続と行政訴訟手続との関係について複雑困難な問題を生ずるため、同法がこのような結果を予想し、これを容認しているものとは到底考えられない。

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最判昭35.7.12:普通財産の払下行為は行政処分にあたるか

論点

  1. 国有の普通財産の払下行為は、行政処分にあたるか?

事案

本件土地は、もともとAが所有していたところ、Aが税金を納付することができなくなり、当該土地を使って納税をした。(Aは土地を国に渡した)

その後、Yは、本件土地をBに払い下げ、所有権移転登記を完了した。(土地をBに売った)

これにつき、XはYによる上記売払行為は違法な処分であるとして、Yを被告として、上記売払行為の取消訴訟を提起した。

Xは、普通財産の払い下げを受ける優先順位は、借地権者であったXにあると主張した。

判決

国有の普通財産の払下行為は、行政処分にあたるか?

→あたらない

国有普通財産の払下げ(売払い)を私法上の売買と解すべきことは、原判決の説明することおりである。

払下が売渡申請書の提出、これに対する許可の形式をとっているからといって、右払下行為の法律上の性質に影響を及ぼすものではない。

 

最判昭39.10.29:ごみ焼却場設置行為と行政庁の処分

論点

  1. 行政庁の処分とは?
  2. 本件ごみ焼却場の設置行為は行政庁の処分にあたるか?

事案

東京都Yは、ごみ焼却場設置のために土地を購入し、都議会のごみ焼却場設置計画案を提出した。都議会が計画案を可決したので、Yは、その旨を東京都の広報に記載した上で、建設会社とごみ焼却場の建設にかかる請負契約を締結した。

これに対し、本件土地の近隣住民Xらは、ごみ焼却場の設置の選定が環境衛生上もっとも不適当な土地になされている等を理由に、ごみ焼却場の設置行為の無効確認を求めて出訴した。

判決

行政庁の処分とは?

「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいう

行政事件訴訟特例法1条にいう「行政庁の処分」とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは、当裁判所の判例とするところである。

本件ごみ焼却場の設置行為は行政庁の処分にあたるか?

→あたらない

本件ごみ焼却場は、東京都Yが先に私人から買収した都所有の土地の上に、私人との間に対等の立場に立って締結した私法上の契約により設置されたものである。

Yが、本件ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都議会に提出した行為はY自身の内部的手続行為にとどまる。

そのため、右設置行為によってXらが、不利益を被ることがあるとしても、右設置行為は、Yが公権力の行使により直接Xらの権利義務を形成し、またはその範囲を確定することを法律上認められている場合に該当するとは言えない

したがって、行政事件訴訟特例法にいう「行政庁の処分」にあたらないからその無効確認を求める上告人らの本訴請求を不適法である。

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最大判昭56.12.16:大阪空港公害訴訟

論点

  1. 民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?

事案

大阪国際空港(伊丹空港)は、国営の空港であった。

周辺住民Xらは、空港を発着する航空機の騒音等により被害を受け、人格権および環境権を著しく侵害されたことを理由として、空港の管理者である国Yに対して、民事訴訟を提起し、毎日午後9時~翌朝午前7時までの間、航空機の発着に使用させることの差止めを求めた。

判決

民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?

→不適法である(民事訴訟で訴えることはできない

国際航空路線又は主要な国内航空路線に必要なものなど基幹となる公共用飛行場については、「運輸大臣みずから」が、又は「特殊法人である新東京国際空港公団」が、これを国営又は同公団営の空港として設置、管理し、公共の利益のためにその運営に当たるべきものとしている。

その理由は、これら基幹となる公共用飛行場にあっては、その設置、管理のあり方がわが国の政治、外交、経済、文化等と深いかかわりを持ち、国民生活に及ぼす影響も大きく、したがつて、どの地域にどのような規模でこれを設置し、どのように管理するかについては航空行政の全般にわたる政策的判断を不可欠とするからにほかならないものと考えられる。

このような空港国営化の趣旨、すなわち国営空港の特質を参酌して考えると、本件空港の管理に関する事項のうち、少なくとも航空機の離着陸の規制そのもの等、本件空港の本来の機能の達成実現に直接にかかわる事項自体については、「空港管理権に基づく管理」と「航空行政権に基づく規制」とが、「空港管理権者としての運輸大臣」と「航空行政権の主管者としての運輸大臣」のそれぞれ別個の判断に基づいて分離独立的に行われ、両者の間に矛盾乖離を生じ、本件空港を国営空港とした本旨を没却し又はこれに支障を与える結果を生ずることがないよう、いわば両者が不即不離、不可分一体的に行使実現されているものと解するのが相当である。

言い換えれば、本件空港における航空機の離着陸の規制等は、これを法律的にみると、単に本件空港についての営造物管理権の行使という立場のみにおいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきではなく航空行政権の行使という立場をも加えた、複合的観点に立つた総合的判断に基づいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきものである。

ここで、Xらの前記のような請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することとなるものといわなければならない。

したがって、Xらが行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかくとして、上告人に対し、いわゆる通常の民事上の請求として前記のような私法上の給付請求権を有するとの主張の成立すべきいわれはない(民事上の請求で主張はできない)というほかはない。

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関連判例

最大判昭56.12.16:「空港騒音」と「設置又は管理の瑕疵」(大阪国際空港公害訴訟)

最判昭50.5.29:群馬中央バス事件

論点

  1. バス事業の免許に関し諮問を受けた運輸審議会の公聴会における審理手続の瑕疵が行政処分の取消事由となるか?

事案

株式会社Xは、運輸大臣Yに対して、道路運輸法4条に基づく一般乗合旅客自動車運送事業(バス事業)の免許を申請した。

そこで、Yは陸運局長の指示し、聴聞を行わせた後、運輸審議会に諮問した。

運輸審議会は、公聴会を開催してX社や利害関係人を聴取した上、申請を却下すべき旨を答申した(回答した)。

これを受けて、Yは、同答申に基づき、Xの申請を却下する処分をしたため、Xはその取消訴訟を提起した。

判決

バス事業の免許に関し諮問を受けた運輸審議会の公聴会における審理手続の瑕疵が行政処分の取消事由となるか?

①行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、②これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、取消事由となる

これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれない(取消事由となる)

一般に、行政庁が行政処分をするにあたって、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保するが目的である。

したがって、①行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、②これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、(①②のような手続き上の瑕疵がある場合)

これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれない(取消事由となる)

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最判昭46.10.28:個人タクシー事件

論点

  1. 個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことが、却下処分の取消事由となるか?

事案

Xは、陸運局長Yに対し、個人タクシーの免許を申請したところ、申請件数が膨大だったため、Yは、内部的な17の基準を設け、この基準をクリアしない場合は、却下することとした。

しかし、この審査基準が公表されたり、Xに告知されたりすることはなかった。

そのためXは、十分な主張・立証の機会を与えられなかった。

その結果、具体的な17の基準のうち、2つの項目に該当しなかったとして申請は却下された。

そのため、Xは本件却下処分の取消訴訟を提起した。

判決

個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことが、却下処分の取消事由となるか?

適正な手続きによって、初めに下した処分(判断)と異なる処分(判断)に到達する可能性がなかったとは言えない場合、取消事由となる

多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁(Y)としては、事実の認定につき行政庁の独断が疑われるような不公正な手続をとってはならない

当該、「内部的な17の基準」は、抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用しなければならない

とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。

そして、免許の申請人(X)はこのような公正な手続によって免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものといえる。

したがって、これに反する審査手続(主張・証拠の提出の機会を与えない審査手続)によって免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

本件事案では、これらの点に関する事実を聴聞し、Xにこれに対する主張と証拠の提出の機会を与えその結果をしんしやくしたとすれば、Yがさきにした判断と異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえない。(却下ではなく、許可処分の可能性もあった)

したがって、この手続によってされた本件却下処分は違法たるを免れない。

【簡潔に言うと】

もともと、機会を与えずに、却下処分をしました。

しかし、もし、機会を与えていたら許可処分の可能性があったので
もともとの却下処分は違法となります。

■逆に、機会を与えた結果、異なる判断にならない
=機会を与えても、却下処分が妥当なのであれば
もともともの却下処分は妥当なので、却下処分は違法とはなりません。

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